1999年10月平日1:バリ島ビデオ
VHSテープのラベルに「バリ島」とだけ手書きで記されていて、そのテープが短ければ。
エッチなビデオだと思ってしまうのも、無理は無いだろう。
店員にビデオの内容を訊くという選択肢は無い。原則、店員はビデオの内容について教えてくれない。しかも西岡に対して、エッチな内容のビデオである旨を説明したら、西岡にはビデオを貸せなくなる。店員は西岡を18歳以上だと錯誤してる体裁で、西岡にどんなビデオでも貸す。その均衡を破っては本末転倒だ。
「バリ島」はひどい内容だった。そのおかげで、その日の放課後に聞いた「瀬黒が小学生の時、ハムスターにダンゴ虫を食わせた。その所為で、複数名の女の子が泣いたり嘔吐した」というエゲつない話を忘れる事ができた。エゲつないといえば、瀬黒の脚も体毛だらけで、見るに堪えなかった。その話をしてくれた他校生の連れていた別の他校生の男の子2名から太ももの裏側を革靴で蹴られた瀬黒は、「なんかヒリヒリする、どうなってるか見てくれ」と言って、駅のホームで制服のズボンを脱いだ。瀬黒の太ももの裏側(ハムストリングと呼んでいた部位)には、紅い二日月のような痕がクッキリと付いていた。擦過傷だ。左右の脚を革靴の爪先で強く蹴られた所為だろう。ズボンを脱いだ瀬黒を、他校生たちはなぜか追撃せず、瀬黒たちの前から引き揚げて行った。
バリ島と銘打たれたビデオの内容についてだが、先ず、どこかの露地に外人っぽいのが3人、首だけ出して埋めてあった。首は1個のゴエモン風呂のような物に向いている。ゴエモン風呂のように設置された円筒形の大きい物体からは細く白い煙が上がっていたが、その煙に近寄った別の人が噎せてる様子もなく、煙ではなく湯気かもしれなかった。その人はカナテコのような物で、円筒形の上の方から丸い物を取り出した。あるいは、蓋だったのか。その丸い物が出てから、白い煙の太さと量が急に増した。カナテコの人と入れ替わりに別の人が、長い棒を持ってフェード・インする。画面から見て右の方へ、その人が棒の先端で円筒形を押す。次の瞬間、音声がハウリングした。そして、円筒形からもう1人、人が転げ出て来た。顔中の皮の赤くなった人が転げ出て来た。円筒形から出た大量の水を被った首も、赤くドロッと変化していた。不思議な光景だった。
ビデオの選択としては当ての外れた西岡だったが、15分ほどのビデオを3回ほど見返して(今風に言うと3周して)、満足して家路に就いた。