1999年9月8日(水)
その日、西岡は高校の同級生の瀬黒くんと一緒に個室ビデオ店に来ていた。瀬黒くんは天理市の近くに住んでいて、通学路の途上に西岡の地元が位置しているのだ。しかし、個室ビデオ店の個室は1人用だ。瀬黒くんと西岡は、それぞれが別のビデオを借りた。
西岡が借りたビデオは、4年生か5年生ぐらいの女の子が主演のビデオだった。
先月、店員さんが「近いうちに撤去する」と言っていたビデオだ。
画面の中で、女の子は大きなベッドに上って飛び跳ねたり、ベッドから転げ落ちると、次はバタバタ走り回り、ブリッジの姿勢になったり、画面を所狭しとはしゃぎ回っている。
全裸で。
西岡も、画面の前ではしゃいでいた。ビニール袋に入れて持って来たティッシュと、ゴミ持ち帰り用の別のビニール袋を畳みの上に広げた。
そして「たまらんなぁーっ」と大きな口を開けて唸り、はしゃいでいた。はしゃぐのに一区切りが付くと、西岡はヘッドホンを頭に載せたまま、その片付けに勤しんだ。
不意に、西岡は天井を見上げる。仕切り板の上には、ただ、空間が広がっている。ビデオの残りを全部見終えても、まだ規定の1時間には足りない。西岡は腕時計を見ながら思案した。西岡はもう1度、ビデオを最初から見た。女の子が服を脱ぐ所までを早送りして、見たい所だけをしっかり見た西岡は、またヌイて、当然だがその片づけもした。
瀬黒くんと一緒に退店した西岡は、そのまま駅まで瀬黒くんと一緒に歩いた。
瀬黒くんは個室ビデオ店でクラブ音楽のビデオを観ていたようで、「ビーピーポー、ビーピピーポー、カゾクカゾクカゾクカゾク」と何度も口ずさんだ。コミカルなような、カッコいいような、不思議な魅力のある音楽だな、と西岡は思った。だけど、そもそもが当時の洋楽のクラブ音楽で、「家族(華族? 火属?)」という語が歌詞に使われるのか、間奏のギターか何かの音じゃないのかと西岡は言った。すると瀬黒くんは珍しく激高して「カゾクっつってっろ!」と怒鳴ったので、西岡はそれ以上、歌詞については言及しなかった。