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第九話 地底に潜む暴君

 偽の宝物庫から階下へと降って行くと輝光石の明かりが増す。見やすくて助かる反面、壁などに同化した魔物や幻視化した敵を見逃しやすい。

 不本意ながら、宝物庫までの罠が警戒心を高めて注意力をあげてくれていた。


「やはり時間の感覚がおかしい。僕らが来ることが決まってから動いた感じだ」


 レーナなら、あり得ない話しではない。ただ使われた連中は泣いただろう。封印されていた分、強い魔物が溜まっていたはずだ。入り口が封じられていたので、魔物の大暴走(スタンピード)もなかった。


「入り口を封じたのは、おじいちゃんだ」


 ラズク村に来た頃は一人で冒険者も引退していた。探索者の痕跡を見て、入り口を封印したんじゃないか、レガトは話しに聞く限りの祖父の様子からそう考えた。

 探索をややこしくしたのは、新しい手記を書いたもののせいだろう。変に仕掛けを上乗せしているせいで、調査の難度が上がった気がするのだ。


「初っ端のまともな魔物がこれだよ」


 岩のようにジッとしていた二体の亀首熊(タートルベア)がハープの盾に襲い掛かった。擬態していたまま亀の首をのように伸ばして噛みついて来た。身体は三M近くある熊の身体に甲羅、頭が亀の魔物だ。


「亀というか、蛇だよね」


 大盾に噛みつかれ、引き釣りこまれそうなところを重力の魔法でうまく潰して踏ん張るハープ。スーリヤがすかさず首を切り落とす。首を落としたのに、動きを止めない。頭部を失ったくらいでは死なない再生能力の高いタフな魔物だ。


「他のも動くよ」


 出っ張った壁から亀首熊(タートルベア)の三体が、タンキとエメロ、それにリモニカにそれぞれ襲う。リモニカは矢で首を射抜きがてら雷の魔法で、急所を同時に撃ち抜く。タンキは盾で防ぐと腕ごといかれてしまうからヤメネが槍で牽制した瞬間に頭を盾で殴りつけた。ノーラが一旦伸びた首を斬りつけて動きを鈍らせてから、三人でボコる。

 エメロもハープの大盾と違って、大きな口に呑まれそうだとわかると、盾だけを食らわせた。コノークが槍で伸びた首を刺す。ファウダーが空いた口に魔法の毒液を飲み込ませ仕留める。


「ぼくたち出番なかったね」


 ホープがレガトに言うが速いか、地面から首が生えてホープの足に食らいつこうとした。


「なんてね」


 空中へと舞いホープは風の刃で首を切り、レガトがリモニカの真似をして雷の魔法でトドメをさした。


 全体的に大型なら装備の変更を考えようと思うレガトだったが、連携は悪くなかったので、しばらくこのまま進む事にした。



 この名もなきダンジョンは魔物が少し変わっている。みんな亀っぽい複合生物(キメラ)のようだった。


 ダンジョンを進んだ先に見た巨大な魔物を見て、一同はそのことを確信した。そこに鎮座していたのは長い首の先に鋭い歯を持つ獅子の頭、背には錐のような剣山を生やした甲羅を持つ巨大な怪物。六本足に尻尾には針のような鉾先のようなものと、斧のようなものがついている。


 上階の改造された大きな部屋よりも巨大な空間。鍾乳洞のような天井も壁にも、尖った針山のような岩が覆い尽くすように見える。体長およそ三十M近くはある。こちらに気づくと獅子の頭が咆哮を上げた。


「ファウダー、全員に浮揚を。ハープはスーリヤと、ホープはノーラと展開。コノーク達はファウダーから離れないように、彼女の指示に従え」


 ファウダーに浮遊魔法をかけ直してもらうと、レガトもリモニカと正面へ向かう。地底に潜む暴君(タイラントスペランク)、そう名付けられた怪物は予想以上に重く、地団駄を踏むように六本脚で大地を踏んだ。


「この揺れ、天井にも気をつけろ」


 浮いてるおかげで揺れることの被害はないものの、振動で天井の岩が崩れて落ちてくる。大地の魔法も扱うのか、落ちてくる速度が速い。

 岩を避けた所に獅子の頭から毒のブレスと、強靭な尻尾が同時に襲い掛かかり、ホープとノーラがかわせず吹き飛ぶ。


「レガト、重力に引っ張られる」


 かわせた所に大地の魔法により、浮いた身体ごと巨体の方へと引き寄せられた。


「強いな」


 レガトは久しぶりに強力な魔物を見て呟いた。この巨大な空間丸ごとが敵みたいなものだ。魔法で天井や壁、それに床から岩が飛んで来る。躱す間もなく毒のブレスに強力な尻尾が迫る。


「レガト、魔力が持たない」


 ファウダーが音を上げた。結界による防御力をあてにしすぎてダメージを受け過ぎたようだ。


「スーリヤ、リモニカ。僕とハープで頭と尻尾を抑え込む」


 岩がぶつかり合う轟音の中、レガトは特攻をかけた。もうもうと立ち昇る埃で、こちらもあちらも視界を奪われていた。散々空中から仕掛けたので地底に潜む暴君(タイラントスペランク)は、空中にいるホープ達を魔力感知で捉えて狙い撃ちにする。


 ハープが大地の大盾で、無理矢理尻尾を重力で叩き落とした。魔力が高い上に魔法防御力もある魔物。そう長くは抑え込めない。


「レガト、後は頼むよ」


 ハープに声が届いたかどうかはわからない。ただファウダーのぼやく念話でレガトの意図を察して、動いたのは確かだ。レガトはハープの大地の魔法を利用して自分の魔力を乗せる。レガトの膨大な魔力は、地底に潜む暴君(タイラントスペランク)を簡単に上回り、獅子の頭ごと巨体の動きを止めた。


 ハープの魔力で道を作られたレガトの魔法は、巨大な魔物の魔力すら重力の支配下に収めた。動けぬ巨体をひっくり返して、甲羅のない無防備な腹をさらさせた。それを見るより早く、仲間達が地底に潜む暴君(タイラントスペランク)の急所へ集中攻撃を加えた。


 防御の一番弱い所を狙われて、地底に潜む暴君(タイラントスペランク)が激昂した。慌てて退避する仲間達を、巨体と同じくらいの大きな岩が襲った。魔物自身も巻き込まれるので自爆攻撃に近い。結界で防御しても重量で押しつぶされる。


 リモニカが魔力を増大させた弓矢を放ち、大岩を割る。半壊した岩の直撃で魔物の腹が潰れる。油断なく備えている辺りがリモニカらしいとレガトは頼もしく思った。取れる素材は回収しまくり、収納に納めていく。

 修復する前に倒してしまったので天井も壁も床もボコボコだった。


「見て、やっぱ部屋ごと魔物だったんだ」


 巨大な魔晶石を抜くと、地底に潜む暴君(タイラントスペランク)は塵になって消えた。するとボコボコの天井や床も一緒になって消える。残ったのは今まで通って来たのと同じような岩肌の部屋だ。


「門番だとすると、この先にまだいる事になるね」


 レガトの言葉に、新人のノーラ達が露骨に草臥れへたりこんだ。あれ以上のともう一戦やる気力は残ってないようだ。


「部屋から出て、休息を取ろう。新人であの巨体レベルの連戦は流石に厳しいよね」


「引き返さないんだ」


「引き返す?」


「なんで?」


 ノーラの問いに、ハープとホープが心底不思議そうに答えていた。攻撃がまったく通じない相手ならともかく、進めているのに下がるのはおかしいとの双子の言い分に、ノーラが話しにならないとリモニカの見解を求めた。

 レガトに言っても無駄な事を、この賢明な伯爵令嬢は理解していた。



「倒せる時に倒しちゃうほうがいいからだよ。この手のダンジョンは特にね」


 何かが囚われているダンジョンは学習する。支配下にある所も同じだ。昔のレガト達なら体勢を整えるために切り上げたかもしれない。あと、面倒だと避けた。


「母さんに任された以上、僕としても引けないんだよ」


 ノーラがガックリとうなだれ、諦めて休む事に専念した。切り替えは早い。


「駐屯地の頃は、わりと戻っていたんだね」


 コノークが懐かしむように言う。密林ダンジョンの頃は子供で体力もなく、収納がなかったのもある。今はレーナ製の収納があるので楽な分、進む事が可能になった。その分回収して持って帰らないと、メニーニに文句を言われるのだが。


 交代で見張りをつけ休息を十分に取り、レガト達はさらに奥へと進む。狭い通路の先は地底に潜む暴君(タイラントスペランク)の部屋よりもさらに巨大な空間が広がっていた。

 

 

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