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第七話 貴重か危険かの二択

 休憩を終えたレガト達は、ナルジク川の上流へ向けて歩き始めた。探索者(シーカー)追跡者(ハンター)がいれば足跡など簡単に手繰れてしまうので、気にせず進む事にした。

 ガウツおじいちゃんが切り開いた山林は、通路になる部分を岩で固めていたので今も荒れずに通りやすくなっていた。


「もしレガトのおじいさんのガウツさんが何かを作っていたのなら、歩きやすくしておくのって変じゃない?」


 リモニカが疑問を浮かべてレガトに訊ねて来た。その疑問は確かにある。ただし、あえて通りやすい道を作る事で目的の場所から逸らす事もあるはずだ。実際、いま目的とする場所はナルジク川上流域の奥地になる。

 道はナルジク川を使って材木をサラスナへ運ぶためね作業小屋に向かっていたので、途中から反対方向になる。


「ガウツのおじいちゃんが知っていてやったんだとして、レーナさんは気づかなかったの?」


 ホープも警戒しながら疑問をぶつける。配置はロズク村へ来た時と同じなのだが、道がなくなり険しい樹木の枝や根に阻まれて、進行速度は落ちていた。


「母さんは気づいていたよ。見には行かなかったみたいだ」


 心当たりもあるようだった。ひょっとすると冒険者を楽しみたい息子の為に、探検を譲ってくれたのかもしれない。道を切り開くために枝を払って、足場を踏み固めて、じっくりゆっくりって面倒臭いと言っていたから。


「僕たちも好きではないんだよ」


 一番重労働なハープの講義する声がした。他所見をした瞬間に、繁みの中から突撃して来た繁みの猪首(ブッシュヘッド)に驚いたのを誤魔化し、スーリヤに怒られていた。


「ここの猪は旨いんだ。解体は僕がやろう」


 レガトはリモニカに残ってもらい、解体を行う。手早く皮を剥ぎ、臓器は纏めて捨てる。餌を求めて他の魔物がやって来るだろうけど、先に楽に食えるものを狙うだろう。

 肉を確保し血抜きを済ませると、水で一旦洗い浄化作業を行う。それをリモニカが食糧保存用の収納にしまう。


「スーリヤ、火をくれるか」


 食べる分は別に切り分けておき、スーリヤに頼んで火炙りし、燻製箱にしまう。焼く事で雑菌と燻す煙で虫を排除し、これはレガトが保存した。

 手の空いてるものには一塊ずつ渡して食べさせた。中々好評で、ハープはみんなより働いたんだからと三塊も食べていた。


 ナルジク川の上流には清浄な泉が湧いていて、グローデン山脈側に向って洞窟が茂みに隠れて見つかった。 


「見て。入り口付近は造りが違う」


 人口の洞窟は山に向って斜めに掘られていて、洞窟というより通路のようで片側は削られ丸見えだった。そしてそれを隠すかのように別の者の手が入っていて、通路の入り口に見えたのだ。


「天井が崩れないように、この岩壁は柱の役割をしているんだね」


 所々岩で隠しているのは、支柱がわりにあえて残したのがわかった。しっかりと壁も天井も固めてあるので大丈夫だけどね、レガトは壁の厚みを見て思った。


 通路は次第に山の内部へ向かう。魔力は高いけれど、あくまでグローデン山脈の地質であって、まだダンジョンではない感じだった。

 しかし、レガト達パーティーメンバー全員が寝転がっても余裕がありそうな広間の先から異質な気配が感じられた。


「この部屋を拠点にダンジョン探索をしていた跡だよね、これは」


 山賊のねぐらだったとしても、相当古い。残されていたのは食糧など入れていたと思われるボロボロの木のかごや、水桶に使用していたらしき水瓶。柄杓のようなもの、錆びてやはりつかいものにならないナイフなど壁の一画に散乱していた。


 時間が経ちすぎて、布や皮などは風化し塵になって消えたのか見当たらない。ダンジョンと思わしき入り口も岩の重たい衝立が扉がわりになっていて、ゴブリン程度の筋力では動かないようだ。

 いちいち開けるのに馬鹿力を必要とするのも大変だろう。どこかにスイッチがないか探る。


「この玩具の石ころみたいなのと、岩の扉って似てないか」


 ノーラが水瓶ノ中に石ころがあるのに気がついた。壁に窪みのような部分があって、石ころの形にハマりそうだった。雑な鍵。それも石ころに魔力なしでは扉が開かないので、使用していた当時は他に目が散って気づかなかったんじゃないかと思う。

 試しにホープが魔力をこめた石ころを置く。重くてびくともしなかった扉が床に沈んで入り口が見えた。


「魔力強化したオーガー並みの筋力でないと開かないなんておかしいと思ったよ」


 コノークとタンキを入れて三人でも動かせなかったハープが、悔しそうに言った。


「だから言ったじゃない。ハープはいつも迂闊なのよ」


 コンビを組むことが多いスーリヤが、呆れたように言う。いや、スーリヤが煽っていた気がしたが?

 ハープも同じ事を思ったようでレガトと目が合う。期待はされているようだから頑張って欲しいと、レガトは目で諭した。


「小休止してから挑んでみよう」


 わざわざ外構部を作ってまで隠したのだ。貴重か危険かの二択な気がレガトの心を踊らせた。怪力だったガウツおじいちゃんは、軽々扉を開けて中に入ったのだろうかと、今更疑問に思った。



 ダンジョン内は暗い。情報不明のダンジョンの初探索になるので、僕は編成を変えることにした。

 先頭にハープとホープに変わる。スーリヤとノーラが後に続く。コノーク達は真ん中で四人固めた。ノーラはここまでの道中はハッキリ言ってお荷物のお嬢さんだったけれど、ダンジョン内は戦闘能力が活かせる。

 逆にコノーク達四人は実戦はまだ弱そうなので互いを守らせる意味で固めた。

 ファウダーとリモニカ、そして僕が最後尾につく。後方から魔法や弓の支援も出来るし、背後からの攻撃には僕が対応出来るだろう。


 歩くと音が鳴り響く石床に、壁は細かな砂のようなザラついたもので固めてあった。遺跡でもなく、変わった造りの通路なのだけど、魔物の気配はあった。


「形はオーク? だけどなんか変だよ」


 砂のような石のような粘土のようなゴブリン達が壁から生えてきた。遭遇ではないところを見ると、彫像の魔物(ガーゴイル)に近いのかな。もしくは土人形(ゴーレム)か。


「斬っても切れないみたい」


 ハープとホープを壁にして斬り込んだスーリヤが、首を飛ばしても倒れない事を確認した。


「叩き潰すか、核を壊すか、魔力を奪うかだね」


 言わなくてもハープ達ならわかっている。僕に指示を求めるのは、むしろノーラ達に伝える為でもある。強い相手なら即対応していただろうからね。

 ノーラが斬り込んだ時にはホープがカバーに入り、コノークやタンキがエメロやヤメネが攻撃に入るときにはハープがフォローした。


 新入りを鍛えながら、得意な武器や連携を見極めていく。探索慣れしたメンバーも、久しぶりに緊張しているのがわかる。未知のダンジョンで慣れない新人と一緒に戦うと言うのは大変だけど冒険者感がありふれていいよね。


「シャリアーナ達が入ったばかりの頃の、手探り状態を思い出すね」


 リモニカが僕のかわりに背後を警戒しながら、思い出して微笑む。後ろを向いているのに全体の流れや戦闘の様子を、背中で感じ取っているのは凄いなと感心してしまった。


「あの猪砂人形(サンド・オーク)からは奇妙な魔力が感じる」


 僕とリモニカとはまた別な方向を警戒していたファウダーが、ダンジョン内に流れる異質な魔力に気づいた。ダンジョンに誰かが細工した痕跡なのだろう。


「過去にここを調査していたものが細工したにしては、弱いよね」


 不意を突かれたとしても動きが遅い砂人形(ゴーレム)なので、慣れてしまえば対処も簡単だ。オーク同様に力はあるけれど、核の位置さえわかればタフさがないのだ。


「侵入者が判明すれば良いだけなのかもよ」


 ダンジョンに防衛装置を設置しているくらいなので、隠している何かが残されている可能性はあった。ただ罠に魔力をかけない辺り、別のものに魔力を利用していると思う。

 進む度にワラワラ生まれる砂人形(ゴーレム)を倒しながら、僕はファウダーと魔力の源を追った。

 


 レガト達は襲い掛かる砂人形(ゴーレム)地帯を抜けてダンジョンの奥へと進む。新人いりとは言っても、もっと厄介な魔物の出現する地域を守っていたコノーク達はすぐに落ち着いて、消耗を避けた戦いに切り替えていた。

 そしてレガト達はひと際大きな部屋に出て、巨大な大型猪人形(ビッグオークゴーレム)の入った棺のようなものを見つけた。


 侵入者に対してそれは反応し、大きいとはいえ限定された部屋の中で砂塵の嵐を巻き起こした。

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