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第十六話 戦後処理と、大陸間連合

 取り込まれて死んでゆく世界を前に、生命をどれだけ費やそうと無意味だった。死をもたらすベテルギウスの星核の滅びの力は、冥府の神オルクスへと流れてエンダーオルクスへと進化し、より深い絶望をレガト達に与えていた。


「レガトちゃん、このままだと呑まれてしまうんじゃないかしラ」


 ヤムゥリ班のメンバーがレガト達の船へと移って来た。エンダーオルクスへの援軍はファウダーの強化結界を受けたエルミィとバステトとバルスが魔本から向かった。


 アナート達はレガトの船に残り、ファウダーやヘケト達を守る形になった。


「吐き出すまで喰らわせてみるかね」


 レガトは浮揚式生命装置(ライフテラリウム)から多数の実を取り出す。


「投げると膨らむようにしてある。全員で投げつけるぞ」


 レガトがそう言って投げつけると先ほどよりもかなり大きく膨らんだ。魔力と生命の実に食いつく死の影。レガトの真似をして、ヤムゥリやティアマト達も生命の実を次々と投げつけた。


 小さな生命の実をひとつ齧れば、それだけで寿命が十年延びると言われる。レガトの魔力でバカでかくなった生命の実は、それひとつで数千万から数億の寿命があるんじゃないかと思われた。


 星ひとつどころではない魔力の塊を喰わされ続けて、死んだ星核と死を司るものは────もう一度死んだ。


 悪しきものにより死の暴走を行っていた瘴気が止む。力の根源を失ったエンダーオルクスは、アストリアやカルミアにより浮揚式生命装置(ライフテラリウム)の粘着爆弾と、手の空いたフレミールの浄化の星炎により消滅さした。


「ずいぶんあっけない幕切れね。レガトの事だからもっと派手にバーンってやるのかと思ったわ」


 軽エンダーオルクスに囲まれて青い顔をしたカルミアが、強気に軽口を叩く。いま倒れると、瘴気がなくともそのまま永眠しかねない世界なのだと良く理解しているようだ。


「あっけなくはないだろうさ。まあ脱け殻相手に張り切っても、何も残らないからね」


 もう十数年やって来るのが遅れていたのなら、ミドニキア大陸だけではなく、一番近い黒の大陸など死の瘴気に呑まれて消滅していただろう。


 悪しきもの、偽神(オリン)らしい嫌がらせの方法だった。ムーリア大陸や黒の大陸でのんびり統治に勤しんでいれば、気づいた頃には死を宿す瘴気の渦に呑み込まれていだろうから。

 

 フィルナス世界は広い。偽神(オリン)の集めた異教徒達がパゲディアン大陸を中心に活動していたのを考えると、近隣の大陸はとっくに侵食されていると見るべきだろう。


「……また一からやり直しかな」


 それはそれで楽しめる。だから嘆きはしない。ひとまずムーリア大陸と黒の大陸はシャリアーナやアストリアがいる限り安泰だろうから。


 カルミアが不満そうな顔をする。ノヴェルの親族の末路が憐れだからだろうか、レガトは首をかしげる。


「違うわよ。ノヴェルも半分わかっているから泣いてないでしょ。ねぇ、星核が脱け殻ってことはさ────その力はどこにいったわけ?」


 質問したカルミア、それにアストリア。リモニカとシャリアーナも星核の脱け殻の意味する事に気づいている。


「ベテルギウスはおそらく制御をしない初期の頃に召喚で使われ失ったんじゃないかと思うよ」


 制御があるとするなら、大陸から離れると力の源から離れ過ぎて弱くなるくらいだろう。


 逆に言うと異界の勇者の比ではない強者が、この地に争いをもたらし続けているのだと言えるのだろう。蠢くもの達、死を宿すもの達による妨害がなくなった今、再びこの地には戦乱の災禍が訪れることになる。


 レガトとしても売られた喧嘩は冒険者として買う。しかし相手が異界の勇者だとしても、自分から人の争いにまで介入する気はない。


 生命が正しくこのフィルナス世界を巡るのならば、レガトがどうしても介入して討ち滅ぼす理由などないからだ。


「私はあなたについて行くわよ?」


 シャリアーナが話しに割って入って来た。


「いや、無理だって。帝国を治める女帝を連れ出すわけにはいかないって」


 いまはまだ立場があやふやだったが、皇帝不在の混乱を収めるにはシャリアーナが立つしかない。ベネーレを無理矢理インベキアに帰して時間稼ぎしていたけれど、【星竜の翼】のためにもムーリア大陸を鎮めてほしかった。


「それなら先輩もですね。ローディスからリビューア東端まで、一大帝国を築いたんだからもう帰って王様して下さいよ」


 アストリアも身代わりを置いて来ているけれど、これから本人抜きに色んな決め事をするわけにはいかなくなる状況が待っている。


「まだ母上を討ってないじゃないか」


 それなりに愛情はあるが、けじめを取ってしっかりと自分の手で滅ぼしたいらしい。


「歪んでるわね。この大陸の様子だと、後ろ盾がいつまでも没落せずにいられるのか疑問だわ。リドルカさんがサーラズに来るなら、ついでに貴女がインベキアまで接収して良いのよ」


 シャリアーナとアストリアの目がバチっとぶつかる。冒険心に溢れているのは良いのだけれど、彼女達は立場がある。


「ねぇ、レガト。ラクトスをサーラズの代王に置くなら、いっそのことバアルト達一緒に両帝国の面倒を任せれば?」


 姦しい二人の女帝に挟まれ辟易するレガトの背中をリモニカが突付いて言った。ノーラと二人いるので兄を生贄に彼女も付いて行く気が満々だ。


「ちょうど中央になるわね」


「ふむ、僕らがそこにいる事に、見せかけやすいわけか」


 都合の良い案が出た瞬間に、シャリアーナとアストリアの争論がピタリと止む。


「ついて来るのは構わないが、普通に冒険者生活を楽しみに行くだけだぞ?」


 別に他所の見知らぬ土地に行ってまで冒険者生活をしなくても、ムーリア大陸や黒の大陸にはダンジョンはある。


 未知の土地に挑むからこそ楽しいのだけど、王族や貴族の彼女らが今更泥まみれの探索など楽しいのか疑問だった。


「何を言ってるのよ。公女と知りながら、さんざんこきつかっておいて」


「うむ。僕はそういう冒険こそまだ未体験だから、むしろ大歓迎さ」


 さっきまで喧嘩していたのが嘘のように話しがまとまった。


「とりあえず呑まれた拠点は無事のようだし、母さん達の所へ戻ろう」


 ギルドメンバーを集めて会議をするにしても、やるべき事を先に済ませておきたい。


 レガト達が無事に戻ると、レーナはすぐに状況を察してくれた。別な大陸へと旅立つにしても、この拠点は確保して航路の安全性を高めたい。


「それなら私とアリルがしばらく残るわ。アナート、あなたはギルドへ戻ってヘケトとラナを守ってあげてね」


「いいわヨ。バアルトの方の補佐も込みネ」


 見た目は筋肉お化けのアナートだったが、察しが良い。レーナとアリルが残るのでカルジア、ミュリオ、ティティル、リヴァラハもそのまま滞在する事になった。


 後の事はレーナとアリルに任せて、レガト達はロムゥリまで戻った。アストリアやカルミア達は、いったん国の状況を確認した後でガウートへ集まる事になったからだ。


 どのみちレガト達も都市国家群へ赴いたハープ達や、シャリアーナやアストリアの今後をラクトスとリドルカを交えて検討せねばならなかった。

 後の事はラクトスに任せるにしても、全て丸投げというわけにはいかないのだった。


 戦後処理は戦禍に呑まれた旧ローディス帝国の方が早く支援体制を整えられ、実質被害の軽微な旧サーラズ王国の方が面倒だった。


 地方の貴族など、国がすでに戦争となって敗北した事すら知らない状態だったからだ。


 シャリアーナのインベキアの皇女軍ラクベクト辺境伯軍、ロズベクト公爵軍が共同でサーラズの王都までの主要地を抑えたため、抵抗したのは散々手こずらせてくれたサーロンド侯爵のみという有り様だ。


 レガトは事前に話しをつけておいたラクトスとリドルカの婚姻について、辺境伯と公爵とシャリアーナを交えて協議を行った。


 レガトはともかくシャリアーナが皇帝の座に興味がないので、今や帝国随一となった身内を説得するのに必死だった。


 シャリアーナ自身も、実際は戴冠を免れないだろうことははわかっていた。ローディス帝国を吸収したアストリア女王が新生ロムゥリ帝国の女帝になるのが決まっている。サーラズを吸収したインベンクド帝国西部地方は新生インベキア帝国の女帝になることで、旧勢力を追いやる事が出来る。


「その上で、サーラズの王にラクトスを置いて、ロムゥリの重臣リドルカ女傑と結ばせる。ノルデンを始め、躍動するミドニキア大陸の勢力がやって来ても、二大陸の大帝国連合を崩すのは容易ではないと判断するはずよ」


 連合にはドワーフ洞窟王国や北方のノルデンやケルテ、都市国家群に加え、エルヴィオン大陸のエルデン王国や、黒の大陸の吸魔族達やリビューア帝国など、協力関係にる国々は多かった。


「ギルドを通じて友好国の間には、人の交流が盛んになると思うの。この流れを保つためにも、私はまだまだ外征に行くわ。宮殿に閉じ籠もって書類仕事なんて、お父様の年齢になってからでも出来るもの」


 若い時分は好きにさせろ、とシャリアーナは父親と歳の離れた兄を脅す。


「心配ならラングにロドスを、クォラとエルヴァにラグーンを任せて、ラクト兄様とお母様がインベキアに来ればいいわ」


 使える人材がいるのに、気楽に気ままにさせているから苦労が絶えないのだとシャリアーナは力説した。


「それは無理だろう。ラング兄さんはともかくエルヴァは逃げるぞ」


「いいのよ。権限だけ与えれば」


 シャリアーナは退屈そうにしているレガト達を見た。人が頑張ってるのだから援護しろと目で訴えた。


「ある意味シャリアーナと同様に、ラグーン内で好きにさせておけば、エルヴァさんならやってくれますよ。というか、そういうの好きそうですし」


 普段は冒険者ギルドの食堂のおばちゃんだが、実はラグーンの偉い人だった……なんてノリはエルヴァなら受けてくれる。


「エルヴァにはラクトスのかわりにガウートを与え、ラグーンは代理にすれば文句も言うまい」


 ラグーンはラクト辺境伯の長男が継げば問題ない。ロズベクト公爵も、レガトやシャリアーナの案は今後を考えると正しく思えた。何せ自分自身の残り時間はそう長くはない。公爵としては、自領に加えラクベクト辺境伯爵領まで自勢力に加えられただけで充分だった。


「【不死者殺し】と【双炎】の要請で、シャリアーナを送り出しはしたが……インベンクド帝国の皇帝の座に就くなどと、あの頃の誰が想定出来たのだろうか」


 シャリアーナを大事にしている公爵は要請を拒む事も出来た。無茶をやっている報告を何度となく受けて、寿命が縮まったのは間違いない。しかしそれ以上にシャリアーナは素晴らしい結果をもたらしてくれた。


「ロズベクト公爵としてバアルト様方の旧家再興も成した今、儂には心残りはない。ならば儂の目が衰えるまで、シャリアーナよ好きに冒険を楽しむが良い」


 すでにシャリアーナの方が主筋とは言え、今は近しい立場の身内しかいない。ロズベクト公爵は父親として家長として、シャリアーナの自由を自分の目が黒い内まで認めると断言した。


「父上はシャリアーナに甘すぎですよ。レガト、シャリアーナの事は任せた。ラクトスは文句を言うだろうが、本来なら文句を言うべき事ではないくらいの栄誉なのだと思い出させておく」


 ラクベクト辺境伯も後の事は請け負ってくれた。愛娘のノーラが自分の元を離れたままなのは寂しいようだが、レガトにくっついている限り、嫁に出さずに済みそうだという邪な思いもあった。シャリアーナがいればレガトとくっつく事はないのも計算していた。


「防衛戦力は残していきます。旧インベンクド勢力は東へ後退し、マホビアあたりと合流するでしょう。ガウートにはユグドールが、インベキアにはブロドールを置くので、東の龍帝国が動かない限りは攻めて来ても凌げるでしょう」


 シャリアーナが帰還するまで、東征へ向かうより、あちらに越させた方が何かと消耗しなくて済むとレガトは考えていた。ガウートから浮揚城塞を動かす事も出来るので、ラクベクト辺境伯には伝えておく。


 後顧の憂いをなくせば、ラクベクト辺境伯も安心して中央へ出て来れるだろう。陸路と水路と空路それぞれの防衛体制も竜人が出てくるというのなら、対策を整えておかないといけないなと、レガトは頭に入れておいた。


 裏があるにしても快く引き受けてくれた公爵と辺境伯にも、慰労のための贈り物をしておくようにシャリアーナが手配していた。思い残す事のなくなった公爵は以前にまして活力を取り戻したように見える。

 冒険から帰った頃にシャリアーナは別の事で驚くのかもしれないが、それはまた別の話しになる事だろう。

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