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第十五話 冥府の死神、再臨

 レガトの予測通りに、押し寄せる魔物達の後から疫影竜(エピデミックシャドウ)が現れた。死を宿す瞳からは急激な生命の乱入があったように映っているようだ。


「────入れ食いだよね」


「……笑えない」


 レガトが楽しそうに言うと、ファウダーが冷めた返事をした。少しでも結界に解れが出来れば蝕まれるとあって、ファウダーの無表情な顔がいつもより青冷めて見えた。


 

 疫影竜(エピデミックシャドウ)が群れるようにやって来て、それらを更に死の影が闇で包むように、レガト達を拠点丸ごと呑み込んだのだ。


 想定していた通りに死を司るものの世界へと呑み込まれた形になったが、生きるものにとって、耐え難い恐怖と心痛が襲いかかって来た。


「心配なのはヤムゥリ班か。彼女と、アナートの心の強さが頼りだが、我々のメンバーの中ではまともな良識の持ち主ばかりだからね」


 そのために戦力としてブロドールを付けたけれど、彼女はまだ経験が浅い。


「あの……人数とか戦うとなるなら、私達が一番危ないのでは?」


 レガト班にはファウダーにべったりくっつくヘケトとラナ。そしてネフティスがいた。元ローディス帝国の皇女は以前に自国で見たような光景に絶望していた。


「ああ、ここは問題ないのさ。死の領域って、結局は魔の領域……虚無の空間なわけだからね」


 異界であっても、本質は変わらない。レガトはすぐにそれを理解した。レガトが示した事を証明するかのように疫影竜(エピデミックシャドウ)が襲いかかる。黒い靄に触れただけでも悶え苦しむ狂気と、死の呪いが降りかかる。


「結界が溶かされる」


 ファウダーの心配は、ここより仲間達に向けられている。補修力が弱まれば、ファウダーのかけた結界は消えて呑まれてしまうだろうから。


「二人共落ち着け。焦ってもここでは時間さえ死んでいく。呑み込まれた時点で心配する時間はすでに消えてるんだよ」


 それがこの世界だと言われて、ファウダーもネフティスも理解が追いつかなかった。何より何故レガトはそれがわかるのかも不思議だった。


「あなたはいったい何者なの?」


 何事も気にしないヘケトとラナを挟んでネフティスは震えた。


「それは僕が何者かと言うよりも、僕の力の根源が何かに関わることだね」


 レガトは答えをぼかした。古参の仲間達はとっくに気づいているようだし、カルミア達も察して『魔王』などと揶揄してくる。普通に考えると、彼らのほうが思考がどうかしている。


 ネフティスやアプス達はまだ付き合いが短いのでレガトの力の本質に素直に恐怖を感じていた。ネフティスはいま目の前を包む恐怖よりも、レガトという青年に恐ろしさを感じているくらいだ。


「種明かしは最後のとっておきの時間まで、隠しておくものだよ」


 レガトはこんな状況でも変わらない。冒険者の流儀にこだわり、疫影竜(エピデミックシャドウ)をファウダーの結界に閉じ込め滅していく。


「……繋がった」


 ファウダーが少し表情を明るくして言った。何体か疫影竜(エピデミックシャドウ)を排除したことで仲間の位置が把握出来たようだ。


「これは不味いね。死を司るものが死んでその本質のままにこの世界は広がっているみたいだ」


 ひとつの世界の終わりにあらゆるものを呑み込むのに等しい。とっくにこの世界は制御を失っていたようだ。他ならぬ悪しきものによって。


「どうすれば倒せる」


 ファウダーとネフティスがレガトを見る。


「まずは仲間達を引き寄せよう。ファウダー、やれるかい」


「わかった」


「ネフティスはヘケト達を頼むよ」



 ファウダーの動きに合わせて、レガトは死の影に埋め尽くされた瘴気の渦を吹き飛ばす。レガト達の魔力の綱に引っ張られるようにアストリア班、ヤムゥリ班、シャリアーナ班が現れた。


「母さん達は呑まれなかったみたいだね」


 レーナやアリル達は海上にいたせいか、巻き込まれなかったらしい。


「全員浮揚式生命装置(ライフテラリウム)の補充と、防御を優先するんだ」


「結界まで侵食されて食われてるのよ」


 仲間達から激昂した声が上がる。結界を侵食されながらも疫影竜(エピデミックシャドウ)をきっちり仕留めて来てるのだから頼もしい仲間だとレガトは微笑む。


「イルミア、フレミール、ブロドールは結界の補強に専念してくれ」


 三人から了承の声が届く。ファウダーの力が届くので魔力での補修も出来るようになった。触れるだけで死に至るような瘴気の渦に、流石に騒がしいアストリア班も静かだと思っていたら違った。


「なにか囲まれてるんだが、オークのデカブツかね」


 冥府の死神オルクスが四体もアストリア達にまとわりついていた。防御を優先させておいて良かった。ただ囲まれているので長くもたない。


「ワレは結界を保つので手一杯じゃぞ」


 フレミールから泣きが入る。


「シャリアーナ、オルクス達を頼む。ヤムゥリ、君達はこちらに合流だ」


「えっ、なんでハードな方が私なのよ。シャリアーナ樣達の方が強いじゃない」


 びっくりした声でヤムゥリから抗議される。しかし、オルクス達が四体で嫌な記憶を思い出した。シャリアーナやリモニカもわかっているから素直に従う。


「あれはまだ別のものになる可能性が高い」


 冒険者のお約束があるように、難敵にも約束事があるものだとレガトはわかっている。


「そういうわけだからね、僕らの相手はあの底知れぬ死をもたらすベテルギウスだ」


 自我のない死の神を前に、レガトは浮揚式生命装置(ライフテラリウム)から生命の実をもぎ魔力で拡大してぶつけた。


 喰らえば亡者は渇きが満たされ浄化する実があっさり呑まれてゆく。死んだ星核に魔力を満たせば復活するものだが、死をもたらすベテルギウスの星核は狂ったように死の瘴気を蒔き散らし生きとし生けるものを吸い込んでいった。

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