第十三話 蠢く影、覆い尽くす災疫
ミカラの町の北方、魔物の生息地にやって来た。海岸沿いではあるものの、漁民などの住む集落の気配はない。賊徒達もここがどういう場所かわかって避けているようだ。
レガト達の前には見るからに大きな岩があった。荒れた平地に、異質な岩山群と巨石は探し求めていたものがあっさりと見つかった証なのかもしれない。
「これはドヴェルガー達の墓標のようなものだな。この地まで逃れて来て最後まで戦ったんだろう」
レガトはカルミアと共にいるノヴェルを見る。もうずっと昔にフレミールのかけた記憶の封印は解けていて、カルミアにより消えているはずだった。
それでも瞳に涙を滲ませるのは同胞の記憶がいまだに彼女の中に刻まれているのだろう。
強い娘だとレガトは思う。そして彼女を保護したのがフレミールで良かった。
「どういう状況なのかわかったのかね」
「だいたいね」
ノヴェルを慰めるカルミアにかわり、アストリアが尋ねてきた。彼女の母親も、逃げ込んだ可能性が高いので決着を願っているようにみえた。
アストリアの母、ロブルタ元王妃がこのミドニキア大陸に逃げ込んだとするならば、ロブルタから海路をまっすぐ取らず、リビューア帝国を経由するはずだ。
元王妃がいるとするならば、ミドニキア大陸の南方になる。アストリアもそれに気がついている。親友のノヴェルのために自分の私情は後回しにする気丈な振る舞いに、レガトは王者の風格を見た。
「このままこの地を拠点にしてミドニキア大陸の橋頭堡としよう。おそらくこの大陸の北東部の半分は都市国家群に近いはずだ」
都市国家同士のギルドの連携は取れているようだ。あの野盗達は、ミカラで売られた情報をもとに集まって来たのだとレガトは判断した。
「アミュラやセレント族の船が入れるように僕が水路と港の整備を行う。ノヴェル、君は母さん達と協力して大地の力を上げ、城壁を築くんだ」
「おら、やるだよ」
「ブリオネが離れてる間、ノヴェルにはリヴァラハがついていてくれるか」
「はいよ」
拠点の中心を大岩にする。アリルが大岩一帯の浄化を行い、レーナが魔力の網で覆う。ルーネとブリオネが魔力草と魔力花で大地の力を高める。
ノヴェルはレガトの掘った土を利用して、フレミールと城壁の基礎を築いた。
「防衛にはセレント族以外にもゴブリンスターク戦隊にネレイド戦隊なとを置くとしよう」
「随分簡単に要塞化するわね。わたし達結構苦労したのに」
カルミアがブーブー文句を言いながらネレイド用の武器を供出する。メニーニが戦艇共々強化して港の防衛用に配置した。
「この拠点を守る人選はヨグル達に任せるとしよう。星船アルゴーとここで力を蓄えれば、周辺から攻撃されても挟撃出来るだろう」
残りのものは防御兵器の設置や、巡回偵察を行う。荒れ地に来てからは賊徒はいなくなったけれど、魔力の集まる方面への道づくりもあるからだ。
ホープやアナートにティアマト、アプス達が偵察に向かった。不毛の大地の中にも、召喚によるものではない力の失い方をしている力の消失点がある。これを追っていけば、この地に眠る太古の蛇神のような存在に行き着くはずだ。
今回は時間をかけられない。あまりレガト達が暴れ過ぎると、死を司るものに力を与えるようなものだからだ。
「逃げ出したものが、しっかり戦力比を把握して大人しくしてくれるといいわね」
賊徒達が脳筋でも領主なりリーダーは違うと信じたいと、シャリアーナがレガトの思惑を察して言った。
拠点づくりの完成と、偵察による進行ルートが完了する。ロムゥリに残した邪竜神型聖霊人形のように、蠢く巨大な死の影をホープ達が発見した。
「大きさはフレミールと同じくらいだけど、真っ黒な影でもにょもにょ気味が悪かったよ」
闇に属する竜の一種で、疫影竜と呼ばれる大型の魔物だ。竜と呼ばれるのは飛んでいるからで、ホープの言うように、蠢く影、覆う病魔とも呼ぶことも。
おそらくその数十倍は災疫を撒き散らす厄介な魔物だった。
「死黒竜、腐界竜、呪滅竜も実体があるだけマシだよ」
身体を蝕む黒霧と精神を狂わす魔力に纏わりつかれ、生き残れるとしても発狂して死に至ると言われている。
「この地の人間の戦意の高さは、すでに疫影竜のもたらす毒素に冒され続け、中毒になっているのかもしれない」
免疫でもある。ただ結局闘争により死者が積み重なるので、早いか遅いかの違いしかない。
「アリルさんの浄化と、ファウダーの結界を強めるしかないな。メニー、カルミアと戦車や武装の浄化力を上げてくれ。エルミィ、君はシャリアーナとイルミアに浄化薬の精製を教えストックを」
あとのものはセレント族が来るまで見張りと、作業の手伝いや戦備を整えることになった。
これだけ広い土地に死の影持つ魔物が一体なわけがない。レガト達は充分に戦備を高めてから行軍することにした。




