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第五話 入国と帰郷

「今日集まってもらったのは、隣の大陸に出向いているリエラ達から援軍要請が入ったのと、隣国サーラズが連動して侵攻を企んでいる可能性があるので、その調査に向かうためだ」


 レガトは戦闘になると思っているが、はっきりは言わなかった。


「まずローディス帝国にいるリエラ達への援軍だけど、母さん、アリルさんカルジア、ミュリオ、ティティルに向かってもらう」


 あのメンバーで援軍を呼ぶほど脅威か数が多い。そう考えてレーナ、アリルの二人を送り込む。カルジアは召喚主として、ミュリオとティティルは元メンバーのカルジアがいた方が良いと思っての配置だ。


「それで、残りはみんなサーラズにぞろぞろと偵察に行くの?」


 レガトに従うと言いつつ、あまり人数がいても活躍出来ないと感じたのか、スーリヤが意見を出した。


「アミュラのいるロムゥリの街にオルティナ達、ガウートにパーニャ達がいるように、シャリアーナ、リグ、イルミアそれにメニーニを加えてロドスで待機してもらう」


 レガトの発言でガタッとシャリアーナが席を立つ。留守番をさせられるなどと思ってなかったのだろう。


「残って指揮するものが必要なんだよ。シャリアーナ以外はリモニカかハープやホープもいる。ただ、帝国の民へとなると僕らでは駄目だ」


 ラクトスも残す理由は同じ。異変の際に指揮しやすい。剣聖アリルくらいに知名度があがれば別なのだが。

 むぅ、とむくれるシャリアーナ。本来ならレガトの意見はまっとうで正しいはずなのに、何故か宥める羽目になる。


「遊撃隊と思ってくれていればいい。メニー、君はこの設計図を下に、通常用に仕様変換して作製してもらえるか。それと出発前に新入りのメンバーの装備調整もだ」


 メニーニにはロドスで防衛の兵器を作製してもらう。レーナがアミュラから預かって来た城塞兵器だ。わずかしか魔力を持たない精霊の卵を使った妙な兵器。効率があまり良くなくて、魔晶石を山ほど消費する。

 

 メニーニならこれらを効率化して、作り直せるはずだ。もしくは同魔力消費で、高威力に変換出来るかもしれない。


「そういうことなら仕方ないわね」


 メニーニも戦闘は得意だが、自分の才能をもっとも活かせる事に割り振られて喜ぶ。


「ただ、これを作った人の発想がおかしいね。こんな魔道具を一つ一つ作っていたら、レガトみたいな魔力バカじゃないとキツいはずだよ」


 作るにも使うにも魔力を消費する。鹵獲されて反撃され難いようにする意図があったにしても、手間がかかり過ぎていた。

 メニーニは設計図をもとに汎用化を行って、ロドスに配備する。使用時に専用の魔晶石の鍵がなければ使えないように改造すると請け負ってくれた。


「そういう事ね。つまり、レガトはサーラズに偽神のような存在か何かがいると確信したのね」


 シャリアーナがようやく納得さした。皇女だろうが、レガトが使えるものはとことん使うとわかって安心したようだ。


「普通は大人しく待っててねって言って、安心させるものだと思うけど」


 ハープがボソッと呟く。シャリアーナに睨まれるので、声が小さい。レガトはもっと大きな声で主張してくれと思うが、やはり怖いので黙って頷いた。


「ファウダーの見解では、聖杯に似たものがあるようだね。その力がサーラズの大地の力を奪い貯め続けていたと思われる。王国にダンジョンがやたらと少ないのは、そのためなのかもしれないな」


 あるとしても周辺域や、魔力が高いグローデン山脈近辺だった。本来なら大地に還元されてゆくはずの魔力が奪われた結果を、レガト達は見て来ている。サーラズの内地にはメンバーの誰も行った事がないので、潜入して探るにも慎重にならざるを得なかった。


 会合がお開きになった後、準備を整えたメニーニを連れてシャリアーナ達は慌ただしく戻って行った。ロドスに冒険者として入り込んでいる可能性も高いので、シャリアーナ達もベネーレ達にも一人で行動しないように注意しておいた。


 以前会った異界の勇者達も、冒険者として活動していた。異界の者達は魔力はたしかに高いけれど、常軌を逸するほどのものではない。古龍でも若いアウドーラほどあれば良い感じだ。


 ただ呼び出された際、邪神などにより奪った魂の力を与えられたためか、刻印された特殊な力を発揮する。レガトは自分の持つ紋様が、彼らのような刻印と似たような力がある事に因縁を感じていた。悪しきもの達は結局撹乱、大地を荒らして終わったけれど、それは偽神(オリン)がそうしたかっただけだ。


 奪いにやって来る神々が彼女のように荒らすだけに終わるはずがないのは自明の理というものだろう。

 ロブルタ王国の顛末を報告書で見る限り、奪うだけでは済まない。魂を奪い、力をつけフィルナス世界の支配権を得ようとしているのではないだろうか、レガトはいにしえの神々の争いの予感に寒気を覚えた。


 サーラズに向かうメンバーはレガト、リモニカ、ハープ、ホープ、スーリヤ、ファウダーに、ノーラ達五人が加わる。ヒルテは万一の為にガウートへ残した。【星竜の翼】 の主力メンバーが留守だと知られて動くのは何もサーラズだけじゃない。東に帝都を移した元中央貴族達が、留守を利用して悪巧みを掛けてくる事も考慮しておく必要があった。


「だからシャリアーナは残すんだね」


 今頃になってハープが理解し感心したように呟いた。

 レガト達はラグーンからローディス川を南に下り、サーラズに入るつもりでいる。装いは完全に冒険者の格好で、レガトとスーリヤが銀級、ハープとホープが鋼級、その他のメンバーは鉄級だ。


 入国の名目は、グローデン山脈の調査だ。以前、調査失敗に終わったサーラズ側にあるダンジョンの探索話しを、ベルク商会のものから聞き興味を持った事になっている。サーロンド侯爵にとっては苦々しい失敗をほじくり出す話しになる。

 ベルク商会は介入していないので、利益を考えると許可は出るはずだった。


「それにしても、この川と隣の大陸の国って同じ名前なんだね」


 新人の緊張をほぐすためなのか、久しぶりに旅に出るためだからか、ハープのおしゃべりが止まらない。


「バアルトの話しだと、内海が出来る前は陸続きでだったようだ。この川の流れ付く先に、ローディス帝国の始まりの国があって、帝国はこの川から名前を取ったんじゃないかってね」


 消失した間の歴史は、ムーリア大陸には残っていないと言われている。長命のユグドール達は知っていても遠くの地の事に関心がなかったり、言わなかったりするので記録を残すものがいなければ伝承は失伝する。


 にぎやかなハープにつられて、ノーラの護衛として連れて来た四人もおしゃべりを始めた。ラグーン近隣から出たことのない彼らは大変な旅になるとわかっていても、ワクワクする心は止められなかったようだ。


 悪さをしたために、ずいぶん回り道をした。兄二人は留守番だけれども、かつて一緒にパーティーを組んでクランを築いて冒険しようと決めた約束が形を変えて果たされた。

 言葉にはしないけれど、リモニカが側で感慨深い目で見ているのでわかる。


 冷たい秋の風がレガトの頬を打つ。船上の風は水気を含んで、余計に冷たく感じる。

 レガトはレガトでサーラズに入る事は、嫌でも過去の事件を思い起こす。頑迷なロズク村の老人達とは幼かった事もあるので姿形から判断出来ないと思う。それに村にいた頃も殆ど顔を合わせていないので、互いに顔などわからないだろう。


 レーナを援軍側に回したのは、母の方が思い入れが強く残る土地なので、キレて暴れられても困るからだ。

 ロズク村へ入って余計な事を村の老人が口にした瞬間、村が綺麗さっぱりなくなっている可能性は高い。面倒事の処理を抱えて帰り、ミラに怒られるのはレガトなのだ。


 それにアリルにもこの地には辛い思い出がある。思うところを持つ二人をわざわざ連れて来るより、冒険者(チンピラ)達と暴れてくれた方がいい。


「サーラズの風はこの時期でも冷たい。みんな身体を冷やさないように、コートのボタンは止めておくんだよ」


 感傷を悟られないように、レガトはハープの話しの合間に優しく言葉を挟む。リモニカにはバレたようで、スッとレガトの側に身体を寄せて来た。何も語らない。


 そしてもう一人ファウダーも二人の間に身体を寄せて来た。こちらは単に肌寒かったようだ。リモニカが自分の収納から裏地がふかふかの暖かいマントを取り出してファウダーに掛けていた。


 ラグーン側と違って、ロズク村のグローデン山脈は冬の寒さが厳しい。いまからこれだと、本格的な冬はやっていけないだろうなと、ファウダーの鼻水を拭くリモニカを見てレガトは微笑んだ。



 船を降り、サーラズ側の小さな港町で仮の入国手続きを行う。ダンジョンが殆どないので、装備を整えた冒険者が訪れる事自体は珍しい。隊商護衛や警備を始め雑務は山ほどあるので、軽装の冒険者は比較的いた。


 サーラズ王国の様子は、なんだか以前よりさらに陰湿で暗かった。明るいというか、常に騒がしい連中が多いクランにいたので十年以上離れて、余計にそう感じたのかもしれない。


 領都サロンに入ると、正式な入国手続きを行う。ローディス川で簡易の手続きを済ませてあるので、基本的には照合を済ませて結構高い手数料を払うだけで完了するはずだった。


「ねぇ、なんかこっちを見てヒソヒソ話していない?」


 レガトの背中を突付いてホープが囁いた。帝国の冒険者として傭兵として、サーラズと戦った事はあるけれど、あれは戦時の事だ。生命を奪い合う事になろうと、冒険者の本分を果たしたまで。堅物なサーラズに通用しないかもしれないのを忘れていたわけじゃないけど、あの時と背格好も違うので見てすぐにわからないはずだった。


「偽名がバレたわけでもなさそうだな」


 レガトは名前をガウトに替えた。街の名前ガウートの短縮で、祖父ガウツから付けた名前でもある。

 少し警戒されたようだけれど、入国手続きはそれ以上問題なく終わった。



「入国理由で、引っかかったかもしれないね」


「バカね、あれは間違いなく警戒よ」


 お気楽にハープが言うとスーリヤはすぐに否定した。


「探りは入ると思う。ノーラ、コノーク達が敬語を使わないように注意してくれ」


 ノーラも念の為に名前を変えている。都市国家群ならよくある。サーラズくらいの大国になると、登録時の名前をコロコロ変えたのがわかると入国禁止や処罰対象になる。


「重犯罪者かもしれないから当たり前だけど、それも結構いい加減なんだよね」


 建前は規約を並べるけれど、なんだかんだそういう所は、袖の下を通すと黙るのもまた常識だった。貧乏クランとしては、ない袖を振りたくないのだ。それでも相場より多めに渡して、同僚の方と今夜の飲み代にどうぞ、そういった心付けが功を奏したのは言うまでもないだろう。

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