第七話 災害ではなく人災なのに感謝される
地響き――――――――そして、急激な重圧。巨大島亀が目を醒ましたのだ。
「魔力の渦に呑まれるな」
◇
――――――海賊の頭領の大男ヨグルは、荷の積み込みを急がせた。
【星竜の翼】という冒険者達が乗り込んで来た時は数の差で勝てる、そう踏んでいた。なにせ相手は殆どが、女子供。リーダーらしき若者も、どこかの貴族のボンボンが冒険者ごっこ、船乗りごっこを楽しんでる風に見えた。
ただもう一方に上陸した、こいつらの仲間の側に当たったやつは災難だったようだ。仲間から頭のおかしいと言われるようなやつは、大概頭がイかれてる。俺達だって、そうだからわかるさ。程度の違いはあるにしても、な。ただし敵対状態の相手に知らせる時は、嘘が混じることもある。
脅しに使うために、あいつはヤバいやつだって、わざわざ教える。だが、こいつの言う具体的な予想行動が、俺に身の危険を感じさせた。
脅しかと思ったが、わざわざ助けるから決断をせまる。傘下に入れと言いながら、実質何かあったとしても自由だ。だから余計に信憑性が増して、俺はこいつらの言葉を信じた。
錬生術師とやらに向かった仲間たちが、口を揃えて「あいつらヤバい、主に何かしようとしている」そう言って咽び泣きながら逃げて来た。漂う異臭と酒気に、何があったか聞くのは怖かった。
レガトという青年は仲間たちを連れて町のある亀の背中の中心に向かう。そしてどうやったのかわからないが、十二隻もの船を出した。
「どうして、これを」
俺にはわかった。こいつこそヤバいやつだと。俺達が魔力生命体を操る者達だと見抜いて、それに適した船を出してくれたのだ。基本はただの帆船に見えるが、こいつは魔力の風を主動力にしている。精霊船と呼ぶやつもいるらしいが、理屈で語れる奴らはもうこの地にはいない。
「海賊に身を窶して、セレント族も落ちぶれたものだな」
つい、自虐気味な心情が漏れる。この冒険者達は転機の前触れかもしれない。死の運び手として生きるよりも、彼らの一族は大海の育む生命の喜びを歌いたい。
だから、賭けた。あの場にいた者たちと手分けをして簡単な説明を住民に行い、船へと荷物を運ばせた。
半信半疑の者たちには、好きにさせた。愛着ある家船を手放したくないものも、何事も起こらないなら無事だろうから。
◇
激しい揺れと共に、島全体を覆う魔力が強まって行く。
「やっぱりやったわね」
シャリアーナが大亀の頭の方向を見つめた。
「カルミアは成分を、母さんは巨大島亀を召喚に組み込むつもりだよ」
レーナならやりかねないと、レガトの仲間たちは主にされるカルジアの無事を祈るしかなかった。
荷運びをしていた連中を急いで船へと引き上げると、ファウダーが各船へと結界を張ってくれた。島に住み着くのは何も人族ばかりではない。
逃げ遅れた住民は、大男の頭領達の言葉を信じなかったようだ。統率力の問題というよりも、故郷の違い信頼性の問題のようだ。
「あいつらは、他所からやって来た、根っからのならず者さ」
レガト達が海へ放った連中も、大半がどこからか辿り着いた連中だった。魔道具を使える数人は、セレント族のものだったようだ。
頭領のヨグルの勘を信じたもの達は全員無事に収容出来たので、レガトはファウダーの結界を使って船を浮かせた。
巨大島亀が、海を割るような悲鳴とともに、もの凄い勢いで大海へと潜った。巨体が沈む際に海面を荒らし、大きな波を引き起こす。家船の多くは、発生した巨亀の防衛本能による磁場に潰れ、大波に呑まれ、海の藻屑と消えた。
「……逃げちゃったね」
ホープが荒れる海面を見ながら呟いた。
「あの娘たち大丈夫だったのかな。レーナさんいるから心配はいらないと思うけど」
小型艇もある。ただ、喰われてないと思うが、反応が薄いのでわからない。
「レガト、海底に巨大島亀のダンジョンがある」
カルミアの美声君による伝声が届く。正確には、産卵用の砂浜の島と亀の倍くらいの島があるだけのようだ。
「ファウダー、ホープ、イルミア。三人で、全船を気泡で強化してくれ」
海中の水圧に潰されないように、魔法による強化で船を包む。セレント族も知らなかったというより、失伝したダンジョンが、巨大亀の真下にあった。彼らも知る必要があると感じたので、一緒に連れて行く。
レガト達が海中を潜って行くと、カルミア達が待っていた。
「巨大島亀は中にいるのか」
ダンジョンの入り口は空気のドームが見えるのでわかりやすかった。全員無事に合流した所で、ダンジョンの中に入って行く。
「ここは、いったいなんだ?」
巨大島亀が横たわる砂浜に、レガト達と、ヨグル達の船をつける。巨亀は死んではいないようだが、グッタリしていて動きたくない様子だ。
「いったいいくつ飲み込ませたんだ」
亀が大人しいのは、召喚の儀式を終えたからだろう。カルジアの顔色が悪い。娘と言えるカルミアは逆にホクホク顔だ。
「薬は十五よ。一つでフレミール一人分だからね」
フレミールやヤムゥリが、泣きそうな顔になった。多分半分でも多かったはずだ。 不運の滴飴、不運というよりも不幸に変えた方がいいんじゃないかと、レガトは哀れな巨大亀を見て思った。
容赦ないカルミアは、巨亀の目から落ちる涙まで、快適スマイリー君でしっかりと回収していた。
レガトがあとで船喰いの触手を餌にやると、巨亀が懐いた。




