第六話 自作自演を告白する
タートラズに入ると住人が寄って来て、逃さないように密かに包囲していた。
「さて、君たちタートラズの住民に相談が、あるんだが」
にこやかに話しだすレガト。ならず者の達がニヤニヤしたまま、話しに乗る。レガトも口角を上げニヤッとなる。話し合うにしても、揉めるにしても大事な儀式は外せない。
それがわかっている相手がいるのは、たとえならず者でも嬉しく思うレガトだった。
「もうすぐ君たちの仲間が、暴れている連中を抑える助っ人を求めにくると思うんだ」
「ほぅ。暴れているのはそちらの仲間で助けてやって欲しいという相談か」
レガトの芝居に乗っかって来た強面の船乗りの大男は、見かけによらず理知的だ。話しに付き合うのは逃さないためだぞと、露骨に見せる当たりもレガトは流石だと思う。
「助けてあげてほしいのはそっちの仲間だよ。いや、この大きな亀の島に住む全員かな」
レガトの言葉を遮るように、タートラズの船乗りが駆け込んで来た。包囲の輪から十数人が抜け駆け出す。
「何人連れて行っても無駄だと思うんだよ。それと、僕としても彼女達のやらかす行動から、ならず者の君たちを救いたいという奇異な相談なんだ」
レガトの落ち着いた物言いに、大男の方が理解が追いつけなくなった。
「説明を聞く時間はあるんだろうな」
「そちらの仲間のおかげで、まだ大丈夫だろうね」
返り討ちは確定なのだけれど、ほんの少しの時間稼ぎにはなるだろう。
「心配なら僕らを囲んだままでも構わない」
ハッタリだ、そう思いたい所だったけれども、レガト達は身構えたまま、得物は手にしていない。男達も、武器を手に出来る形のまま、話しを聞く事を受け入れた。
「賢明な判断だ。まず説明の前に二つ確認したい。この大亀は休眠期なのかどうかと、海賊船に魔物が近寄らないのは、亀の糞か何かを使っていたのか、だ」
囲んでいた連中が殺気立つのを、大男が制した。
「よく物を知っている冒険者だ」
答えが正しいかどうかはあくまで秘密のようだが、正解と言っているようなものだ。
仲間が殺気だったのは、海賊船の話しから、レガト達がやり合ってここにいるとわかったからだろう。
「実は暴れている僕の仲間の娘は頭がおかしくてね。海賊船の秘密を知って、この巨大な亀から成分を絞ろうと考えているんだよ」
「はぁ?!」
ならず者達が意味がわからないという顔をした。
「まだやらかすと決まったわけじゃない。ただ、やらかした時にそちらが何も知らないままなのはよくないかなと思ってね」
レガト達はいわば彼らの獲物だ。獲物側から狩人を助けてあげたいなどと申し出れば、笑って終わりだ。
「まだ確認したわけじゃないが、この島の建物が小さいのは、亀が動き出した時に船になるからなんだよね」
休眠から目覚めれば、当然亀は動き出す。普通に住んでいると毎回家が沈むことになるはずだ。
「亀が強制的に目覚めても普段なら大丈夫なんだと思う。ゆっくり海の中に沈んで行くのだろうから」
ならず者達は再びレガト達へ強く殺意を向ける。亀を起こして混乱させ討ち取るつもりと思ったのだろう。
「そのつもりなら夜にでも侵入するさ。それに、今回はそんな緩い起き方しないと思うんだ」
レガトはフレミール達から、不運の滴飴の酷い惨状を聞いている。大暴れして怒り出す可能性があり、ならず者たちの家船では、亀により起きる大波に耐えられないと思えた。
「忠告はありがたいんだがな。こちらはともかく、そっちになんの得もないだろう」
大男だけじゃない。レガトの仲間達も、それは疑問に思った。
「あの亀は、いわば魔物の近寄らない聖域みたいなものだよね。亀は一度目覚めると、休眠するまでしばらくかかるはずだから、その間どうしているか気になってさ」
カルミアが港町の海軍力をやたらと気にしていた。理由を聞いてみると、招霊君達が、何年かに一度大挙して押し寄せ、金目の物も、食糧も、女子供まで何もかも奪いに来るらしい。
亀の活動期と関係あるんじゃないかと踏んでいたが、その通りだった。
レガトの出した条件は簡単だ。
生命を助けるかわりに、商業圏に手を出さないこと。
「さすがレガトね。あの娘らの所業は天災として片付けたわ」
シャリアーナがボソッと呟く。ならず者を言いくるめたレガトに、ヘケトやアマテルなどは目をキラキラにして見ていた。
「ひでぇ取引もあったものだな」
力づくの脅し、というか、災害を引き起こすから従えと言っているようなものだ。やっておいて、助けてやるってわざわざバラしては恩など売れないだろうに。
ただ力の差を見せつけられるのは、ならず者相手には有効だ。そもそも恩義など感じない相手だっているのだ。
「人質を拐って金を払えと言うのと大差ないだろ」
大男も気付いたようでぼやく。自分達の行いを振り返れば、今までやって来た事をやり返されたに過ぎない。
「ただ、それなら尚更おかしい。勝手に俺達が全滅した方が、そっちのためになるだろうに」
いちいち道理だ。意外にもまともな思考の持ち主らしい。ある程度知識がなければ、魔道具も扱えないのだと、レガトは推察していた。
「言っただろう。僕ら【星竜の翼】の旗を掲げたものは襲うなってだけさ。まあ、詐称して襲撃を逃れようとするものが出るだろうから識別用の魔道具は渡す」
レガトの言うことは、海賊の囲い込みと同じだ。いや、海賊を使っての競争相手潰しだ。
「金を積まれてこちらを裏切ることもあるだろうけど、そんなものはここじゃ当たり前なんだろうし構わないよ」
襲わないと誓わされるよりも、自由にしてよいと判断を求められ、大男だけではなく、ならず者がみな戸惑っていた。
レガトは本当に気にしていなかった。ここの海賊達が束になっても【星竜の翼】の商船団は負けないだろうからだ。
出来れば協力してもらい、アミュラの商会が利益を得られる手助けをしてやりたかっただけなのだ。
「ほんと、アミュラには甘いんだから」
シャリアーナはそう言う。反対しないと言うことは、彼女も賛同したようなものだ。
――――――――立て続けに起こる戦禍。この世界は死に過ぎている。悪しきものの仕業か? いや違うとレガトは思った。
死を司るものの力が増している。だから、人は否応なしに死を急ぐ。レガトはそれが気に食わなかった。




