第四話 船上の汚物は洗浄します
海賊に追われレガト達の船は、知らないうちに魔の海域へと追い込まれていた。
「リモニカ、エルミィ、距離はどうだい?」
レガト達の船は戦艦型で、海賊船より早くて大きい。海賊達は必死で帆の向きを変えて、追いすがると言った方が正しいのかもしれない。
「この速度だと撒けちゃうよ」
「普通は速度を上げて引き離すものなんだけどね」
リモニカとエルミィの二人は見解を出し合い、結論を伝えた。戦わずに済むのなら避けようとエルミィは伝えたつもりだったのだが、レガトとカルミアが反対した。
「あんなに年季が入った船でこの速度、船に秘密があると思わないかい」
「遠見の魔道具を使っていたわよね。仕組みを調べる為にも鹵獲よ鹵獲」
リモニカとエルミィは、互いのリーダーの目の色を見て、フゥッとため息をついた。二人がこうなっては止まらない。
「海賊がお宝を積んで追って来てくれるんだからな、ありがたく受け取らないと」
「たまには良いこと言うわね、レガト様」
不気味に微笑み合うレガトとカルミアだったが、海賊が必死に追いすがりながらも、距離を詰めない理由に気がついていた。
「そろそろ茶番はやめて、皆に意図を伝えたまえよ」
「距離的に、厄介な魔物か何かかしら」
アストリアとシャリアーナが説明を求めて来た。
「ファウダー、ノヴェルと結界で船を守ってくれ。」
船喰いの触手と呼ばれる魔物が海の底から現れた。
「どうやって泳ぐのか不思議な形の魔物ね」
デカいイソギンチャクのような魔物の姿だ。海の魔物には詳しくないはずのカルミアは、複数の触手の生えた棘だらけの大穴へ向けて、風樽砲で何かを打ち込んだ。
ポンッポンッポンと、立て続けに死激辛玉と強酒を混ぜたものを撃ち込んだようだ。
「ちょっと、正気?」
シャリアーナが慌てた。初見の相手にまったく何も考えずに動くカルミアが、改めてヤバい奴と改めて認識させられた。
「あれはそういう娘だ。動きが目茶苦茶になる。気をつけろ」
酒に酔うのかはわからない。ただ、辛味は虫にもよく効く万能駆除剤だ。船喰いの触手が苦しみ暴れ出す。
「リモニカ、エルミィは触手を牽制。フレミール、君はアストリアとカルミアの補佐を」
レーナはすでに触手を打ち払い、ホープとカルジアと共に本体へ攻撃を仕掛けていた。
「複数いるぞ、シャリアーナ、リグとイルミアで船首のやつを。アリルさんはヘレナと左を頼みます」
レガトが言うのと同時に二組に分かれ迎え討ちに行く。
「ティアマト、バステト、メニーニ、、ノーラは船尾を。残りのものは中央でアストリアを中心に陣を組め」
他に三匹もどデカい船喰いの触手が船底から絡み合うように現れ船の仲間たちに襲いかかる。
「船を沈めて喰らうわけではないんだな」
この手の魔物は船ごと壊して海に落ちたものを喰らう。でも、泳ぎはあまり得意ではない船喰いの触手は、特定の海域に潜み罠を張る。
捕食相手は船の人間に限らない。大型の魔物や魚、なんでも喰らうのだ。
「カルミア、さっきの砲撃はどこまで届く?」
レガトは高見の見物している、海賊達の船を指した。何を言いたいのか意図を察したカルミアはニヤっと笑う。
「さすが新生ギルドのマスターね。わかってるじゃない。あなたの魔力で推力すればいけるわよ」
「よし、なら二、三発撃ち込んでやれ。トドメに煙幕も頼む」
「魔王様からは逃げられな――――痛ッ……臭ッ」
カルミアが馬鹿な事を口にするのでレガトは臭い成分を彼女の小さな鼻の中に再現した。
「バカ魔力でそういう事は母親に似て器用ね」
快適スマイリー君に匂いを回収させて、カルミアはぼやきながら、海賊船に砲撃を開始した。人間相手なら臭いものも有効だ。最後にレガトの言う通りに煙幕をぶち込む。海の怪物を撃退するとわかると逃げられるかもしれないからだ。
「これでお宝を確保ね――――グェッ」
ひと仕事したカルミアの首にアストリアが腕を絡めた。
「ずいぶんと仲良くなったじゃないか」
「あぁもう、面倒臭い先輩ね。あれは仲良くなったんじゃないわよ。ならず者相手に挨拶をしなさいって教わったのよ」
冒険者と同じだとカルミアは力説する。見かけたら駆除するのが清く正しく生きる者たちの務めだと。
「相変わらず緊張感のない娘達じゃ」
フレミールが呆れたような安心したような顔で、わちゃつく少女達を見守った。
船喰いの触手は全部で五体もいた。しかし、蛇のように這い寄る触手は見た目が気持ち悪いだけで、邪竜神のようにブレスを吐いたり、魔法を使わないので楽だった。
海上、海中での戦闘のハンデがあったので、それでもみんな慎重に戦っていたものだが。
「素材、使えるのかな」
戻って来たホープは、レーナが収納に魔物をしまっていたとレガトに伝えた。何やら罵る声が響いたようだけれど、気にしない事にしたようだ。
「触手や外皮は使えるよ。マッドオルカより厚そうだからね」
レガト達は戦いの報告をしながら、次の戦いに備えた。船はすでに海賊船に向かっている。
「ヤムゥリ、ノヴェル。動かせなくていいから、ごっつ君とやらを出せるだけだしてくれるか。アナート、君は敵の乗口を抑えてくれ」
「あなたのワタシの扱いについて、今夜じっくり相談しましょうネ」
バチンとウインクするアナート。冗談なのだが、レガトは背筋が震えた。
「もともと臭いからマスクした方がいいわよ」
刺激臭も含めて、海賊船の甲板上は大変な騒ぎになっていた。風に流れされて煙は晴れたものの、自分達より酷い匂いや辛味と酒気で、悪酔いしていた。
「アナート、イルミア。船上を洗えるか」
「いいわよ。海賊はまだ落としちゃ駄目なんだよね」
お宝を回収してから捨てるのが礼儀だ。長い付き合いで、イルミアも主人のシャリアーナ並に話しが早い。
二人の水の魔法で海賊達の汚れた身体ごと洗浄する。魔法の水圧で海賊達は船上を転がり一箇所に追いやられた。
「装備とお宝を回収、後は捨てて良し、と」
カルミアは自分自身で開発した自動掃除人形君を、メニーニとの共同改修し直し自動宝物回収人形君として誕生させていた。
必要な命令を入力すると、お宝だけ回収してくれる。
「船室は元気な海賊が残っているはずだ。探索班は注意するように」
アストリアがカルミアの首に絡んだままなので、そのまま彼女を抑えておいてもらう。
船内にもカルミアの撃ち込んだ臭気が漂っていて、海賊達の戦闘能力は落ちていた。
獲物である者達が乗り込んで来て、何人かは抵抗したが、大半は打ちのめされ、自動宝物回収人形君に運ばれ海に捨てられていった。
船を制圧した後は、使えるものを回収して、船内の浄化洗浄を行う。お宝は後で山分けにするつもりだけども、出航中だったためか、たいしたものは残っていなかった。
「食糧や、お酒の量からすると比較的近い所にアジトがあるはずだよ」
人数の規模からムーリア大陸の內海の海賊の街のような大きい島もあり得た。
海に落ちた海賊も、悪運が強ければ拾われるか、泳ぎつけるだろうからレガトは放っておいた。
「魔力頼りだと、こういう状況の時に困る、良い見本になったね」
「意味が違うと思うよ」
にこやかに告げるレガトの言葉に、リモニカが一番早く突っ込んでいた。




