第三話 猫人強化服と重装戦車
錬生術師の少女がヘケト、ラナ、リヴァラハ、ベネーレ、ファウダーに用意したのは、フワモコの猫の着ぐるみだった。猫人強化服
ベネーレだけが気恥ずかしそうに着ていたけれど、あとの子はみんな満足そうな表情をしていた。
ヘケトやラナやリヴァラハはなんとなく暖かいのが良いみたいだ。ファウダーも寒がりだから満足なのだろう。
見た目は猫のフォルムだったが、火竜の鱗を基本に猫毛とフワモコなのに耐火性能が高い。リヴァラハが水竜の脱皮した皮を提供してくれたので、内側は除湿と保水が適度に保たれて快適らしい。
虫除けのパウダーを蒔いているので、森林でも虫刺されの心配は減る。
ただなんで猫なのかはみんなに突っ込まれた。
「だってしょうがないじゃない、バステトが自分の成分投げ込むんだもの」
無言のベネーレ達に、カルミアは自分のせいじゃないと主張した。自分の眷属にも装備を作れと煩いので不運の滴飴を渡したら飲んだそうだ。
カルミアはメンバーと同じ装備を作る羽目になり、不愉快そうにしながらもちゃんと全員分を用意し、疲れきっていた。
「あなた達、しょちゅうそんな事やっているから艶艶しいのね」
シャリアーナが呆れて言った。レガト達のように魔力で体調を整えているのではない。体内のあらゆる成分、不純物を薬で定期的に吐き出すせいか、加齢による劣化が常人より遅く見えた。
「ワレなどもう十度は騙されたぞ」
フレミールが悲しそうに言った。
「失礼ね。まだ八回よ」
火竜は魔晶石を絞り取るために、しょっちゅう騙されている。竜化しても人化しても異様に美しいのは、それだけ成分を絞られているのだと思うと可哀想に感じる。
ただ本人も癖になっているようなのでカルミアばかり責められなかった。レガトがいれば魔力の補助は得られても、魔晶石化は難しいので、火竜の受難はまだまだ続きそうである。
「最悪、ファウダーの結界を集中すれば守りはいけそうかな」
そろそろまた魔力切れでダウンしそうなカルミアを見て、レガトは装備に関しては良しとした。
「待って。まだ戦車の改良があるわ」
メニーニがカルミアの首をクイッと掴んだ。奇妙な呻き声が響く。
「あっ、ごめん。それよりこの浮揚式陸戦車型、耐久低すぎない?」
鍛冶師として、見過ごせない欠点があるらしい。特に身を任せる事になる乗り物の信頼度が低いのが気になったらしい。
「デカブツが踏み潰しても潰れない設計よ。錬成だからって手は抜いてないわ」
そこはカルミアも保証した。現に何度も戦い抜いて計算された耐久力はある。
「それは魔力あっての話しでしょ。レガトのような魔力バカや魔力奪うやつ相手にした時、どうするのよ」
メニーニの問いにカルミアは言いたかった。こんな化け物クラスを想定して作っても無意味だと。この世界だけじゃない、異界も含めた全てを超える魔力と同等の存在など、無理な話しだった。
「屁理屈はいらないから、私の言うやり方で、一から作り直すよ」
メニーニはカルミアを引きずるように魔本の工房へ入っていった。
「魔力が切れたら、どうなっていたと思うのかね」
アストリアがレガトに尋ねた。彼女は答えがわかっているだろうが、皆に聞かせる気だ。
「魔本の中はノヴェルの魔法でダンジョン化しているから大丈夫だろうね。ただ本体に乗っていたものはぺしゃんこになっていただろうね」
馭者というか、操縦者が一番リスクを負う。カルミアは自分で作ったものなので気づいていたはずだ。
「あの娘、馭者役よくやっていたわよね。まったく捻くれてるんだから」
会話を聞いていたヤムゥリが呆れたように扉の開いたままの魔本工房をみた。
「彼女なりに生命の優先順位を理解しているのさ。アストリアに対しては諦めていたようだけどね」
それは死ぬ時は一緒と腹を括り、信頼している証でもあり、アストリアは照れた。
「死を司るものは、そういうものだと思って動いて欲しい」
魔力も死ぬ。別動隊で動くハープとスーリヤには、魔力のない戦いを見せておいて良かった。
ロブルタからの合流組は、火竜も含めて魔力を利用した戦いをし過ぎているので認識を改めておきたかったのだ。
浮揚式陸戦車型は耐久性を考慮し、浮揚式重装陸戦車となり、魔力を奪われ踏み潰されても、超重耐性を誇る骨組みで耐える仕様に変えられていた。
遠征準備が整い、新生【星竜の翼】は出港した。ミドニキア大陸は情報がないに等しい国。だからこそ、レガトは楽しいと思っている。
癖の強い新メンバーを加えて、若干不安は残るものの戦力としては充分だった。
遠征とは言ったけれど未知への探検だ。そして黒の大陸を離れしばらくしたあたりで、さっそく海賊らしき船の姿が見えた。
「よぅし、久しぶりの海戦だ」
野郎共、気合入れろ〜と言いかけて、メンバーの女子率の高さに今頃気付いた。
「先輩やヤムゥリ様が王女だったからね。魔王様らしくハーレム出来て良かったですねぇ」
取り敢えずカルミアの頭に、魔力のたらいを落とし黙らせた。
近づく海賊船の指揮が異様に高いのは、きっと遠見の魔法か道具でこちらを覗き見たのかもしれない。
実に海賊らしくて良いけれど、もう少し人員については考えようとレガトは思った。
◆
ミドニキア大陸東方の大海は、複雑な海流が入り組む海の魔境と言われていた。
ミドニキアの海賊は、別名「海の掃除屋」とも呼ばれる。それは商船や客船をわざわざ襲うまでもなく、入り組海流に翻弄され、自滅するからだ。
ほんの少し追跡し、魔の海流域へと追い立てればいいだけ。
「俺達の海に感謝を。あれはお宝船だぞ」
偵察員が遠見の魔道具で、見知らぬ船の様子を伝えて来た。売れそうな若い連中ばかりの船、それも見てくれが、良い者ばかりらしい。
海賊達の船長は、旗を掲げさせる。あえて、海賊である事を誇示して、狙いの海域へと追い込むためだ。
作戦はうまくいき船が危険海域へと侵入した。あとは消耗を待ち「船喰い」が現れるのを待つだけだ。
ここは厄介なのは海流だけではなく、大型の魔物が出没する海域だった。経験豊富な船乗りなら、避ける航路。
「つまり、あの船はどこぞの国の船乗り気取りの海軍か商船だ」
上等な衣服の人間が多いのは、貴族の乗る船だろう。
船長はもう一度、恵みをもたらしてくれた海の神に感謝を捧げるのだった。




