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第二話 邪竜神型聖霊人形 アスタロート

 ――――――――馬鹿デカい、それが一同の感想だった。


「元の邪竜神より大きくなってるよね」


 元の邪竜神アイナトが八十Mくらいあっただろうか。それを優に上回る百二十Mの巨大な竜の聖霊人形(ニューマ・ノイド)になっていた。


「わたしのせいじゃないわよ。どっかの魔力バカと魔女さんが悪ノリしたから」


 アストリアがチラッとレガト、レーナ、カルミアに目をやると三人は犯人のなすりつけ合いを、視線で始めた。


「これはこれで防衛の為になるとして、肝心の僕の分身(ダミー)とヤムゥリの分はどうしたんだい」


「これはいいんだ……」


 アストリアがあっさり受け入れるのを見て、ハープが思わず突っ込みを入れた。


 もっとバカでかい山のような巨人型ダンジョンの話しを聞き、カルジアが泣きそうな顔になる。そんなものを召喚したら、国が滅ぶ。


 娘のような存在のカルミアと違い、カルジアの頭は未だにまともだった。


「とてもあの冒険者(チンピラ)達の召喚主に見えないわね」


 血の繋がりを説明されても、カルミアは変わらない。半歩だけ、自分より幼く見える少女に近寄ってみせただけだった。そして得意気に指を差した。


「先輩の分身(ダミー)は、あれよ」


 巨大な邪竜神型が、アストリアと同じ人型になった。


「ヌッフッフ〜、魔力があるって素晴らしいわね。変身であのサイズに成れるんだもの」


 御機嫌な様子の錬生術師だったが、彼女は制御について考えている様子はなかった。


「アストリアさんの思考を持つのに、大丈夫なの?」


 ホープが心配そうに二人のアストリアを見た。狂った錬生術師(マッドアルケミスト)ばかり目が行くけれど、この女王アストリアはその錬金術師を見出した人物だ。拗じ曲がり方も育ち半分天性半分な所がある。

 バアルト達と同じ魂の持ち主だけの事はあると、レガト達は感じていた。


「先輩はこう見えて施政者としては優秀だから問題ないわ。アミュラさん達もいることだし、フレミールのかわりに鎮座してもらわないとね」


 やり過ぎな気もしたけれど、太古の蛇神アイナトのような存在が留守を狙って来ない確証はない。


「ヤムゥリ女王の分はどうしたんだ」


 こう見えてという言い方に即座に反応したアストリアに首を狩られてジタバタするカルミア。


「私のは普通に火竜の兎武装(ドラゴンバニースーツ)を基本にした聖霊人形(ニューマ・ノイド)を作ってもらったわ」


 バスティラの女王様が兎耳の戦闘服を着たままなのは、普通ではないと思うが、この連中は冒険者(チンピラ)達とは別の意味でおかしいんだろうと納得するほかなかった。


「エドラにはセルケトもいるし、蠍人戦士人形(スコルピオゴーレム)のアクラブ達も戻すのでしょう。」


 冒険者ギルドにはタニアがいて、王宮にはモーラもいる。吸血魔戦隊(ヴァンプパーティー)を率いるヴェガテに、本国から蠍人の戦士もやって来れる。


「私の代役のエムゥリに、ガレスとガルフがついているから、困った時は呼びにいけるわ」


 リビューアの牛人型・聖霊人形( アマテル・ノイド)ナンナルの所には、馬人族のスキュティア、吸血魔戦隊(ヴァンプパーティー)のミューゼや聖霊人形・魔戦鬼型(メジェド)忠狼聖霊人形(アプワート)がいる。


 海辺はリドルカ女傑やネイト、リヴァラハなどが【星竜の翼】の戦船団と連動して守る事になったので、こちらも緊急事態に陥れば連絡が入る。


「リドルカさんの事なんですが」


 眼鏡エルフのエルミィが言いづらそうに声を発した。


「何かあったのかい?」


「何もないから困ってるんです。その、婚約破棄されてからドタバタ続きで完全に婚期を逃してしまって」


 聞かなければ良かったと、レガト達は後悔した。戦禍続きで侯爵となったリドルカ女傑と釣り合う男性など国内にはいない。


「リドルカ侯爵はいくつだっけ」


「まだ三十前後のはずです」


「わかった。僕たちの本拠に釣り合いの取れる男爵がいる。彼をサーラズに据えて、リドルカ侯爵には友好の架け橋になってもらおう」


「レガト、勝手に決めていいの?」


 レガトの背に立つリモニカがボソッと呟く。


「ラクベクト辺境伯もロズベクト公爵もサーラズに身内の公国が出来る分には納得する。ラクトスには悪いけど仕方ないよね」


 彼は貴族だ。貴族の子息として、政略結婚もあり得る事は考えていたと思う。立ち位置は属国扱いでも、一国の王になれば、辺境伯の父や、叔母のシャリアーナに引け目を感じる事もなくなるだろう。


 サーラズは殆ど放置していたけれど、再制圧に動いたとしても、抵抗出来る力はないと思っている。公爵に軍を出してもらう事になるとしても、公爵は喜んで兵を出すはずだ。


「そっちはそっちで面倒事になっているのね」


 カルミアが気絶から回復した。


「スパーデスとゴブリンスターク戦隊、それに牛鬼豊穣型器械兵(ミノスタロス)を改良してもらった牛鬼戦闘型器械兵(ミノスヤクトタロス)を送り込む」


 素材はローディス帝国で大量に得る事が出来た。そういえばリエラの姿をしばらく見ていない、レガトはレーナを見た。なぜ自分を見たのか、レーナは気づいていない。


「死なないと思うけど、出しておこうか」


 レガトはそう思ったけれど、刺激が強い可能性があるので止めた。放り込んだのはレーナなので回収は当人に任せる方が良さそうだ。


「いまの間は何?」


 勘の良い娘だと改めて思う。


「気にしないでいいよ。別の意味で君とは相性良くないから」


 それで伝わる。カルミアも変態を想像したのか、不問にした。残る問題はヘケトとラナとネフティス、それに戻って来る咲夜達だ。咲夜のパーティーは都市国家群へ赴いてもらうつもりでいる。その補佐にはハープとスーリヤが付く事になっていた。


 ホープも行きたがったけれど、こちらが手薄になりすぎてしまうので断念した。


「ヘケトとラナは先輩やノヴェルやヤムゥリ様、それにアマテルと一緒にいればいいわ」


 戦闘が完全に苦手というか向いていないので彼女達はまとまっていた方が良いだろう。偉そうに指揮を執るカルミアも、基本的に弱いのでお荷物番をして欲しいと仲間が訴えている。


「ネフティスはファウダーとノーラ様と組ませる。ホープにミュリオとティティルが補佐役に回ってもらう」


 シャリアーナを置いて行くとうるさいので、残りのパーティーは彼女の合流を待って再編する事に決まった。


「さて、肝心の行先だけど、リビュア帝国の先にあるミドニキア大陸に行こうと思っている」


 ムーリア大陸では殆ど情報のない大陸だ。北と南はある程度行ったので、西か東どちらに行くかとなった。


 ノヴェルの一族の足取りを考えるならば、西が良いと全員の意見が一致した。


 西方へ出発の為に、カプラの港町へと寄る。ここから船で向かう事になったわけだがシャリアーナ、リグ、イルミアの他にも合流して来た人たちがいた。


「アナートはわかるけどさ、リヴァラハは駄目だろう。それにベネーレまで」


 海戦には役に立つにしても、上陸後どうするって話しだ。それに、この娘は聖霊人形ではない。


 決してシャリアーナにノーラに続きラクトスの事でも叱られたから、八つ当たりしているわけではないよ、そうレガトは前置きして言った。


「あ、あちしもお役に立ちたいんです」


 リヴァラハは魔力は高いし、水の魔法に強い。ノヴェルになついているので、彼女の護衛に付ける事にした。


「ワタシはあなた達に付いて行って守ってやれってネ」


 バアルトが、アストリア達を心配して寄こしたようだ。ティアマトもいるので、彼女に頼んだのだろう。以前のように冒険者として見守る事は難しくなった。


「アナートがいるなら心強いよ」


 見た目はともかくとして、アナートは頼れる戦士だ。レガトはバアルトの配慮に感謝した。


「それでベネーレを護衛なしで連れて来たのは何故?」


 ヘケトやラナと一緒にするしかないのだけど、戦えない人間を意味なく遠征に出したくない。


「このままシャリアーナに外へ行かれたら、私が皇帝代理に祀り上げられるじゃない」


 どうやらシャリアーナにかわり面倒事になるのを避けたかったようだ。シャリアーナの長期不在は、皇帝を暗殺され混乱しているインベンクド帝国の皇宮を冷静にさせる時間を与える事になる。


 そんな中にベネーレが残されれば、よからぬ企みに乗り出す貴族が群がるに決まっていた。


「まあ、実際は問題ないはずだよ。サーラズへの侵軍の指揮を執るのはロドスの冒険者ギルドのギルドマスター、ラングさんだろうし、陸路は時間がかかるから戦費が嵩み過ぎる」


 船で遡上するにも、ラグーンを中心に水利を開発し、多くの船舶を抱えている旧都側に対して、ノイジア皇妃達は船を急造で造る所から始める必要がある。


 それに、湯郷理想郷計画(ユートピア)の一環で、帝国の西と東の心象は大きく違う。かつて都市国家群から搾取し、荒らし回っていた東の貴族と違って、ラクベクト辺境伯やロズベクト公爵は支援の手を回してくれた。


 トールズの砦町の商業ギルドマスターのリエラが【星竜の翼】に籍を置く意味も大きかった。


 インベンクド帝国の中央貴族達だったものは、欲に溺れ好き勝手やっている間に詰んでいた。

 旧帝都のインベギアを抑えたままならまだ睨みを利かせ再編の道はあっただろう。


「そういうわけだから帰ろうか」


 レガトは本音を正直に言うと、皇妹としての立場も微妙なベネーレが自由に行動する事は良い事だと思ってる。


 ただ遠征は何があるかわからない。足手纏いが増えても、対応が難しくなるかもしれない。


「それなら、ヘレナやヤムゥリ様のように普段から火竜の兎武装(ドラゴンバニースーツ)を着てもらえばいいじゃない」


 条件を飲めないのなら帰らせる。カルミアの案にベネーレは、カルミア達の後ろに立つヘレナと、アストリアの隣のヤムゥリを見た。


「わかったわ。それを私にも作ってちょうだい」


 ベネーレがそう言うと、カルミアの目が輝いた。


「また、何か企んでいるね。どうせ作るのなら、ヘケト達のも作りたまえ」


 自業自得というのだろう。メニーニと遠征用の装備や、船や馬車の内装などやる事がいっぱいで、カルミアは毎日ぶっ倒れる事になった。


 当人はブツブツ文句を言いながらも、あれこれ試作出来て幸せそうであった。


 遠目にはカルミアのつくった聖霊人形(ニューマ・ノイド)の姿が見える。ロムゥリから巡回して空を飛ぶ邪竜神型聖霊人形(アスタロート)だ。


 ああして定期的に、巨体の姿をロムゥリ、エドラ、ムルクル、ロブルタなどの民に見せる事で、自国民には安堵感を、他所の国に対しては抑止力を働かせるようにしていた。

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