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閑話 ロブルタ王家の最期

「母上はやはり逃げていたか」


 ロブルタ王都の王宮には、憔悴しきった父上と、幼い弟がいた。


「どうします、先輩。禍根を断つなら情のない今のうちですよ」


 僕が困惑し、悩む姿を見て愉しむかのように微笑む悪魔のような宮廷錬生術師。彼女なりに元気づけようとしているのだろうが、ニヤつく顔が不愉快なので、無防備な首を狩る。


「ぐぇッ」


 おや、気管を潰し過ぎたようだ。やはり僕は少し期待していたらしい。


 母上がかつてやらかした時のように土下座して迎える姿を。しかし、今回は無理だと悟ったようだ。

 首を狩られてジタバタするカルミアが魔王様と呼ぶ冒険者のレガトがいるから。


「あいつから手紙を預かっておる」


 父上が僕に母上の手紙を渡してくれた。


「先輩、泣きそうなら御一人で読んで来てもいいんですよ」


 煽るカルミアの首をキュッと絞めて黙らせる。僕と彼女のやり取りは毎度の事なので、誰も止めない。カルミアも懲りないので、そうやって、僕の心をいつも奮い立たせてくれるのだ。


 ――――まったく良い親友を持って幸せだよ、僕は。きっと僕はもう、この少女の首を離せない。何やら騒いでいるが、それがまた落ち着く。

 胸に居着くアルラウネのルーネやぺったりくっつくノヴェル。

 僕は孤独から解放された。仲間達が出来た事で弱くなったと言われても、この子達を守りたいと思うようになった。


 邪神だろうが魔王だろうが、僕を止められるなら止めてみたまえ。


「なんだ、つまんないの。先輩に怨みつらみを書き殴っていたら良かったのに」


 本当に変わらないな、カルミアは。とりあえずグイッと首を巻く。


「ぐへッ先輩、無駄に膨らんだ胸で息が止まっ……」


 母上からの手紙を勝手に読むカルミア。手紙には悔恨の言葉よりも、僕への詫びと、それでも愛していたとほざく薄ら寒い文字だった。


 半分は本当だろう。常に情報を流し、僕の才覚で切り抜けられる機会を与えてくれた。


 不思議な関係性だったけれど、一番簡単な方法――――――僕を宮廷で直接殺すような真似はしなかった。 


 母上はカルミアの施術によって、呪いの解呪されたのを知ったはずだ。だから僕はローディス帝国の侵攻に間に合った。


 母上があちら側のままならば、先にアガルタ山は制圧されていたか、ロブルタに戻った時に帝国軍と挟撃されていたはずだからだ。


「それで、裏切るかもしれない弟君を生かすのですか」


 ずかずかと遠慮のない後輩だ。僕は狂人(マッド)ではないが、君の頭の中がどうなっているのか常々興味を持っている事を忘れないでくれたまえよ。


「うむ、生きて使う事にするさ。咲夜が戻るなら、彼女のパーティに入れてもらうとしよう」


「あぁ、あのハーレムパーティね」


「君が男性型の記録を取るために、彼女達の性別を変えたように思ったが」


 この狂った錬生術師(マッドアルケミスト)は、もうそんな事など忘れていそうだ。

 恋人の裏切りと惨殺という試練を乗り越えて、聖女として生まれ変わるはずだった少女も、このカルミアがおかしな介入をしたせいで勇者候補の咲夜に五度も殺される羽目になった。


 それでも諦めない聖女もタフだと僕は感心したものだ。魔王(レガト)よりも、我が宮廷錬生術師(カルミア)の方が、かなり悪質な感じなのは気のせいではないだろうな。


「ロブルタはこのままで、父上を公爵に据えて任せれば良いだろう」


 始めからそのつもりでいた。母上がいなくても、父上なら大丈夫だ。


「わしは引退したいのだが」


 最愛の王妃に逃げられて気力のなくなった父上の寂しい頭を見る。我が父ながら、髪の量でやる気が変わるなんてありえないか、そう思いカルミアに何とかするように促す。


「おじいちゃん先生もそうだったけど、頭が薄くなると活力なくなるっておかしくない?」


 ブツブツ文句を言いながらも快適スマイリー君を取り出して、父上の頭に貼り付けた。


「今更髪などどうでも良いわ」


 父上は本当に気持ちが沈んでいるようだ。冒険者ギルドのギルドマスターをけしかけてまで、フサフサに拘った熱意はもう見られないのか。


「ぬっふっふ〜、このスマイリー君には今、精力活性薬を含ませてるわ。頭皮からも浸透するのか丁度良い実験になるわね」


 ブレない娘だ。国王であった父上の立場などお構いなしに、試薬を使うのだから。


「ふっ、ふぅフォ〜ヮ〜なんじゃ、この溢れんばかりに滾る力は」


 みるみると、父上の顔色が良くなる。スマイリー君により頭髪がなくなったのに、艶艶しく輝く。


「枯れ野原に栄養素ってよく染みるのよね。それなら強精剤もいけるわけよ」


 カルミアがそう言った後、流石に僕もびっくりするくらいの頭髪が、もっさり生えた。


「いっそユルゥム王女を後妻にするかね」


 放っておいた、ヤムゥリの姉がいたことを思い出した。王族ではないもののロブルタを公国として公妃として迎え入れれば、ヤムゥリの助けになりそうだ。


「決まりね。良かったね、おっさんのはけ口を用意しておかないとメイドさん達に被害出るもの」


「ヤムゥリが聞くと発狂する。この件は黙っておきたまえ」


「大丈夫よ。その時は置いて行くから」


 レガトのクラン、いや新ギルドに加入した事で、遠征メンバーが組まれる事になった。ヤムゥリはエドラに戻って欲しいのだが、しがみついてでも付いて来そうだった。


「先輩こそ残って大王として仕事が山程あるんですけど」


 ローディス帝国を降した事で、僕は大王と呼ばれる事になった。どんどん勝手に領地が広がり、名声も高まる。でも、僕は望んだわけじゃない。功績の大半はこのもげそうな華奢な首を持つ錬生術師のおかげだ。


 いつもお金がなくて呻いているくせに、名誉的なものを得て稼ぐ事はこれっぽっちも考えていない。


 本当にこの頭の中身がどうなっているのか、割って調べてみたい衝動にかられる。


 改めて父上と約定を交わし、ロブルタは正式に王国から公爵家になり、ユルゥム元シンマ王女を迎えた際に公国となる事を宣言した。


 王都をはじめロブルタの人々は、英雄女王アストリアが上に立つなら気にしなかった。


 こうしてロブルタ王家は、その一員であったアストリアにより歴史の幕を降ろすことになった。

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