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閑話 見捨てられた皇女樣

 ――――――――私は、裏切られた。いや正確には見捨てられ置いていかれたが正しい。私の中にはずっと、膨大な魔力を持ついにしえの女神様が眠っていた。


「すまぬが、潜ませてもらうぞ」


 アイナトと名乗る太古の蛇神樣は、この世界が出来る前から存在しているという。本来入るはずの訴えてを持つどこかの国の王女が行方不明となり、仕方なくこの地の巫女の血を引くものに宿っていたそうだ。


「わらわは友と定めたものと、最後まで在りようを変えることはせなんだ」


 それでこのザマじゃと太古の蛇神樣は笑う。そこに他者の意思など介在しない。たとえ友が狂い破滅に身を任せようと、この蛇神樣は共に戦い滅びようと決めたのだ。


 ――――そう、滅びると決まっているのだ。


 太古の蛇神樣は、その巨大な蛇眼で未来を視ると言われていた。友の築いた世界はもう持たない。そう視えたからこそ、この世界へ戻って来た。


 たとえ災禍を見過ごし逃げ出した者達であっても、運命神も自由神も、咎めない。その友は彼らのその寛容さが嫌いだったようだ。


「よければそなたもわらわの為、わらわの友の為に協力してほしいのじゃ」


 目覚めの時まで、魔力を貯めて欲しいと言われ私は協力を約束した。皇女という立場では、日常生活に不自由する事もない。

 騎士達や街の冒険者達のようなの、魔力を使うような場面も特になかったので、魔力は貯まる一方だった。


「いずれ力を振るわねばならぬ。その時は予兆が現れる故、大人しくしておるが良かろう」


 太古の蛇神樣の、カカカッと笑う声が聞こえるようだ。私はその時を待った。父は四人も皇子がいるため、私には何も期待していない。


 この父と、大公ネルガルはそもそも他人への期待などしていない気がした。


 ローディス帝国は、見た目とは裏腹にどこか禍々しい歪みを感じる。この世界に潜み色々と知っているはすの太古の蛇神樣も、この国がどうやって成り立っているのか何も教えてくれなかった。


 期待はされていない。それでも皇族としての義務はある。成人すれば私は隣国の王子に嫁ぎ、いまと変わらない人生を過ごすことになるのだと思う。


 有力候補は北のロブルタ王国だろう。あそこには王子二人がいる。第三王子は女の子かもしれないと噂もあるので除外する。

 どのみち私はシンマ王国の王女と世継ぎの座を争う王子二人に嫁ぐ事になりそうだからだ。


 第二皇子で兄のセティウスが、ロブルタの第三王子アストは女のはずだとうるさい。留学生として確かめてくると息巻いていたけれど、あれは連れて戻る気なのかもしれない。


 世継ぎ争いはローディス帝国でも当然ある。第一皇子ウシルスとセティウスは特に権勢欲が強い。兄のセティウスにとって、自身の見せ場だと思っているようだけれど、他国であるロブルタ王国は死地だと考えないのがセティウスだ。


 奇しくもウシルスの陰謀と、シンマの思惑によりセティウスはロブルタの魔法学園で惨事に巻き込まれ死にかけた。


 火竜が現れ学園の建物を容易く吹き飛ばしたという。悪運の強いセティウスは生命からがら逃げて来たようだ。


 しかしその悪運のおかげで、ロブルタ王国の二人の王子が死んだ。ロブルタ王国とシンマ王国の間で戦争が、起きてセティウスは援軍を率いる大将の座と、勝利により皇太子の座を得た。


「悪運の強い男じゃ。これは期待出来そうじゃのう」


 太古の蛇神樣がなぜか一番喜んでいた。私は婚約が白紙になりホッとした。ロブルタの王子達の容姿は、あまり好みではなかった。


 ロブルタ王国の動乱は続く。入って来る情報を元に、太古の蛇神樣はいちいち苛立ちを感じるようで、私は不安になった。


 太古の蛇神樣は、未来を視るのではなかったのだろうか。


 蛇神樣の計画を狂わす何かの力が働くのか、シンマ王国は滅び、ロブルタ王国とローディス帝国は戦争となった。


 そしていよいよ帝都までロブルタ王国のものが迫ってきた時に、私にも予兆が現れた。


 異界の少女の魂が私の中に入り込んで来て、はじめは私の意思ごと乗っ取ろうとした。でも七菜子という名の魂は、私の中に潜む蛇神樣に気がついた。


「彼女は貴女のことなど気にもかけていないよ。どうせこうして身体を奪われる、死ぬと決まっていたみたいね」


 ひどく辛辣だ。でも薄々わかっていた。気まぐれで話しかけては下さるものの、いつも一方的だった。


 禍々しい魔力も蛇神樣の魔力だと気がついた。この国を本当に支配しているのは蛇神樣に他ならない。


「しょせん貴女は生贄の巫女と行った所ね。私も母の実家がそういう風習を持つ一族だったから知っているのよ」


 七菜子は異界の神の知識を教えてくれた。生贄は単にその世界に顕在する為の糧。繋がりを得られる血族ならば誰でも良くて、あえて恐怖の感情を揺らがせておくためにかよわい娘を差し出させるとか。


「手を組まない?」


 唐突に七菜子が言った。なんでも親友が、この世界にやって来ている可能性があるようだ。


 自分自身のように誰かに乗り移る形ではなく、本人がそのまま来ていると断言していた。


 皇女ネフティスとして生まれて、初めてまともに会話して、頼られた気がした。


 私は十中八九、利用され捨てられるのだそう。そんな女の所に入る事になって、七菜子としても困惑していた。


 私と七菜子の世界の話しをすり合わせる。七菜子が私に憑いたのは、蛇神樣が原因かもしれない。


「蛇神は友がいるって言ったのなら、拠り所があったはず。多分私の母の実家の村がそうした集落だったんだよ」


 ロズワールの都でも戦いは激化していた。セティウスに付かされた私は、戦闘の場へ向かう事になる。


「最悪だ。セティウスに信吾(クズ)が憑いている」


 彼女の親友が消えた原因の男だそうだ。どうしてクズなのかというと、セティウスと同化して、クズっぷりがあがっていたから。


 この男はこんな状況下でも、妹の私を犯そうとした。セティウスが意思があるのに止めないのは、この男と同類だからだろう。自分の嗜虐心と、この状況が余計に興奮するとほざいた。


 気持ち悪い。呪いの術師のホロンが庇ってくれたので、ひとまずは助かった。蛇神樣の感じだと、セティウスも長くはない。


「クズだけど、生命の危険を直感して生殖行為の欲求が高まっているのかもね」


 冷めた目で七菜子が言った。その後の言動を見ると本当にそんな気がした。


 冷静な七菜子が、敵対する少女達を見て泣いた。捜していた親友が生きていて、私を見て何故か七菜子もいると認識したのだ。


 下卑た笑いを浮かべるセティウスは、彼女達の意表を突く攻撃で轟沈した。皇太子になっても品がない。


 ただ、強い。


「そろそろ出番のようじゃの」


 最悪のタイミングで、蛇神樣……いや邪神が目を覚ました。


 私達を助けてくれた少女の所で、七菜子の魂は無事に隔離された。何者なのだろう、この錬生術師の少女は。


「貴女はまだ役割があるようね。騙されていないのなら、わたしに魂を賭けてみないかしら」


 私は七菜子の様子を見て、初めて自分の意思で抗う決意をした。


「賢明な判断ね。わたしも生命がけなんだから」


 言っている意味はわからなかったけれども、すぐに知る事になる。


 邪神の目覚めで、私はアイナトに身体の自由を奪われた。激しい憎悪が身体中を巡る――――


 ――――隙だらけの背中を刺すのが、これほど簡単だとは思わなかった。


 助けてくれたのに、ごめんなさい。


 私は私を助けてくれた人達に向かって謝った。邪神を手こずらせた錬生術師を刺し殺す瞬間まで、私は意識を残された。


 それが、太古の蛇神の本性。最後に私の心を弄び、愉悦に浸る。


 信じていた神に裏切られた憐れな少女。でも残念ながら、私は信じる相手を最後に選び間違えなかった。


 私の自我は邪神により、容赦なく消されて空っぽの器を捨てるように、私の身体は倒れた。


 しかし復活した錬生術師が、私が賭けた魂を使い身体へと戻してくれた。

 奪われた身体が傷ついたり、臓器に後遺症が残らないように保護してくれたのはレガトという青年だ。


 太古の蛇神アイナトは、彼らにゆなって滅ぼされた。


「さて、せっかく手に入れたアイナトの力なんだけど魔力の大半と邪竜神体はアストリアが欲しいそうだ。君は王蛇親衛兵を呼ぶ力と不死性と魔力の残りでいいかい」


 使い方はともかく、元々がアストリア様に宿るアスタルト姫の魂の為のもの。なんというか、そもそも言っている意味がよくわからなかった。


「断ると死ぬわよ」


 生命がけで私を助けてくれた錬生術師が言うと、重みが違う。


 太古の蛇神よりも、目の前の存在が恐ろしい事に、今更ながら震えが来た。

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