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第四話 集う英傑

 ガウートのクランの拠点まで戻ると、ハープ達がダンジョンから戻って来ていた。非公式の【星竜の翼】 だけの知るダンジョンは、高台を築く岩山の壁に囲まれ、ダンジョンの入り口に入るには、一度クランの拠点の中から行く事になっていた。


 ただ、岩壁の中には大きな隠し通路もあって、メニーニの鍛冶師工房の倉庫に直接獲物やら資材やらを運びこめる。また同じく鍛冶職人のガンズの工房は、新設したギルドに近い所に移っていた。

 これはメニーニの優遇ではなくて、適性の問題だ。研究職人肌のメニーニは籠もらせておく方が向いている。異国の地の素材を扱い慣れているガンズには、ギルドの御用職人として後進の育成も行ってもらうためだった。


 ハープ達は大量の鉱石を隠し通路から、メニーニの工房に運び入れている最中だった。双子兄弟のハープとホープ、剣士スーリヤに、結界師の魔女ファウダーまで付いていったようだ。暇してると決めつけて、スーリヤが無理矢理連れて行ったみたいだけども。

 表情には出てない、でも楽しそうで何よりだとレガトは思った。


 レガトは一休みしたら会議室へと集まるように告げ、リモニカと他の仲間の所へ行く。シャリアーナはラクトスを置いて一度インベキアへ戻ってしまった。

 本当にただ文句を言いに来ただけのようで呆れる所だが、それがシャリアーナだ。昔から行動力の塊みたいな女性だと改めて思う。


 レガトとリモニカは先にクランの拠点の会議室へ入り、地図や書類の準備をする。席は三十名分ある。メンバー全員集まる事が少ないので、椅子が足りるのが現状だ。ラクベクト辺境伯領やガウートに関しては、街の警護をゴブリンスターク戦隊に任せられるのでマシかもしれない。 


 サボる口実を嗅ぎつけたヒルテが真っ先にやって来て、お茶の準備をする。ニーシャ達を呼び人を増やすにしても、それはそれで受け入れの準備をしなければならない。仕事の割り振りや居住の用意など、手配や準備だけで一時仕事は増えるはずだ。


「ここにいていいのか、ヒルテ。手伝いのアルプ達から悲鳴の波動が届くんだけど」


 ヒルテはにっこり微笑むだけで席に座り、自分で淹れたお茶を啜る。いたずら小悪魔達は雑務処理が得意とわかってから、ミラが仕事を振るようになった。いたずらが生き甲斐の彼らにとって、真面目にしっかり働くのは拷問に近いのだが、人が増えるまで限定でレガトが許可した。


 許可した手前、怨嗟の声が届くと可哀想になる。本来の主のヒルテが涼しい顔をして堂々とサボっているあたり、図太い神経では、この【星竜の翼】 一番かもしれない。

 夜魔というか魔族は気まぐれで抜けた性質のものが多い。ヒルテはそのなかでも特別かもしれないが、気にしたら負けだ。関わるとレガト自身もミラに怒られそうなので、気づかなかった事にした。リモニカなど、最初からそうした空気間を出しているから凄いなと彼も感心した。


 ダンジョンから戻ったばかりのスーリヤが真っ先に入って来た。ジロっとくつろぐヒルテに目をやる。でも、一瞬で何かを理解して目線を外した。

 勘の良い彼女はリモニカ並に知らんぷりを決め込む。


「もう少し休憩する時間あったでしょうに」


 リモニカが呆れて言う。この二人は、ラグーンの孤児院にいた頃からの付き合いだ。年齢は同じでも、リモニカの方が孤児院歴は先輩で、まとめ役でもあった。

 元騎士の娘であるスーリヤとは、よく意見が衝突していた。これでも二人は打ち解けて話しているつもりなのが面白い。


「あいかわらずお節介ね。私はレガトの方針に倣うだけだから、ここでも休憩出来るわ」


 盲信するわけじゃなく、考えるのが面倒だからレガトに丸投げ宣言する。リモニカがハァ、と可愛らしくため息をつくが、これもいつもの事だった。仲の良かったアミュラが抜けて、少し寂しいのかもしれない。


 スーリヤはヒルテのお茶を強奪すると、その隣の席に座り、お代わりを要求した。ヒルテが騒ぐが、スーリヤはお構いなしだ。リモニカの深いため息はまだまだ続きそうだ。


 顔色の悪い召喚師のカルジアと、顔色は分かりづらいが機嫌は良さそうなファウダーが連れ立ってやって来た。どっちもブツブツ独り言を言っているだけで、仲良く会話をしているわけではなさそうだ。


「······巨人が加わるなんて聞いてない」


 カルジアはずっとブツブツと巨人がどうこう呟いている。召喚師としての彼女は【星竜の翼】 内ではアリル、シャリアーナに次ぐ実力者として知れ渡っている。古龍だけでも二体、グリフォンやオーガのようなゴブリンまで使役する【神謀の竜喚師】 と恐れられていた。女商人リエラまで、召喚獣扱いなのは知られていないと思う。


「カルジア、巨人がどうかしたのか」


 金級冒険者の召喚師。しかし、実際はレーナによる強制契約で召喚主となっている魔物もいた。当人もそれはわかっていて震えているばかりだが、契約した者たちは、命令は聞かないけれどカルジアに害は与えない。むしろ契約で魔力を増やし、カルジアを守ってさえいた。


「レーナ様を止めて。無理、絶対に無理だから」


 いつもの無茶振りだった。隣の大陸で、何かが起きているのは確実だ。それに応じて、サーラズ王国に動きがあるとベルク商会から連絡が入った。迷惑な隣国は嫌な思い出を最後に残した、レガトの故郷でもある。


「残滓、ううん、あいつの信徒がいる可能性がある」


 ファウダーが断言した。動乱の度に動きを示すサーラズ王国。前回は帝国の内乱に乗じて、ロズベクト公爵領周辺に侵攻しようとしていた。

 ファウダーがその時にいたのなら、何か掴めたかもしれない。


「サーラズにダンジョンがないのは、召喚陣に費やしているから。たぶんかつての【異界の勇者】 より厄介」


 混沌の神になるはずだったファウダーが言うのなら確実だろう。それを確認するためにも調査隊を送らねばならない。


 ハープとホープ、それとメニーニがノーラ達と一緒に入って来た。ダンジョン戻りの疲れもなく双子はノーラ達に先輩風を効かせて話しかけていた。コノーク達は苦笑いをしている。

 過去にトラブルもあったけれど、トロールの駐屯地開拓で共に苦労したので気にしないのが嬉しい様子だった。


「パーニャさん達は?」


 パーニャ、カリン、サロナの三人は元は女商人リエラの専属護衛だった冒険者だ。彼女と一緒に海賊に囚われレガト達が救った。今はクランのメンバーに加わり、ガウートの街の警護を行っている。


「留守番するから、ラクトスと防衛計画を別に練るってさ」


 話しが早くて助かるとレガトは三人の事ははラクトスに任せた。


「あとは母さん達か」


 そう言ってる側からアリルが姿を見せる。レーナは一度インベキアへ戻ったシャリアーナ、リグ、イルミアの三人と、何故か【龍帝の旗】 の銀級冒険者「影使い」 召喚剣士ミュリオに、同じく銀級冒険者「癒やしの弓」 ティティルがいた。


「ライナとカルナのかわりに、ティティルを連れて来たわ。ミュリオはおまけね」


 レーナにかわりシャリアーナがクランメンバー達の疑問顔に答えた。【龍帝の旗】 とは、ラグーンで敵として戦った相手でもある。当時はカルジアも【龍帝の旗】 の一員だった。


「えっと結構危険なんだけど、いいの?」


 レガトがレーナを見る。戦力が足りないので、頭数が揃うのは助かる。


「その点はノーラ達も同じよね。この際だから、燻っている二人を鍛えてくれってゼルアスから指名されたのよ」


 シャリアーナがまたかわりに答えた。


「さっ、会議に出れるメンバー全員揃ったし始めましょうか」


 レーナは魔力の拳骨をヒルテの魔力で作って彼女の頭に落とす。グギャっと奇妙な声をあげてヒルテが椅子から転げ落ちると、かわりにそこに座った。


 レガト達は慣れていたけれど、ノーラ達やミュリオ達新顔には何が起きたのかわからなかったようだ。このクランに加わる以上、色々と気にしたら負ける事に出くわすので、是非ともスルースキルを身に着けて欲しいと、レガトは呆ける新たな仲間たちに告げた。


 ヒルテは泣きながらみんなの為にお茶の用意をしに行った。

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