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閑話 忍び寄る殺気

 ……物凄い殺気を受けて、わたしは飛び起きた。わたしの眠る簡素なベッドの側には、揺らめく炎の化身が立ち、剣の刃を突きつけていた。


 ティアマトもバステトもメジェドもルーネさえ反応していない。彼女達に気づかれず、殺気も刃を通してわたしにだけ伝わる……。


「アミュラの所に案内してもらう。断れば斬る。助けを呼んでも斬る」


 はい、詰んだ。だって、先輩が気づいちゃったもの。 わたしじゃないよ、呼んだの。魂の結びつきのせいね。


「構わないが、騒げは斬るだけだと伝えて。ルーネとやらも一緒でいい」


 寛大な暗殺者よね。先輩がわたしの所に来るのは良くあることなので、仲間達は気にしてなかった。

 この人が本気になれば、わたしと先輩とルーネごと斬るというよりも消し去る力を持っているって事よね。


 魔王様や魔女さんや皇女樣ばかりに目が行ったせいで、メンバーの中にヤバい人達が潜み過ぎだよ。冒険者(チンピラ)達より、も、このスーリヤさんって女剣士は強いもの。剣聖アリルの愛弟子って化け物級ばかりよね。


「この時間だとアミュラさんも休んでいると思うのだけど」


 日が暮れてずいぶん経つ。わたしはやる事が多いので、寝るのが遅い。そのわたしが寝て少し経ったくらいだからアミュラさんも寝てる、はずなの。


「行って寝ているようなら、死んで詫びるよ。魂をやる、の方が良いか」


 えっ、思わぬ所でお宝ゲットチャンス来ちゃったよ。この人が言い出したことだけど、死なせたらわたしも魔王様に殺されるからね。

 でも魂は別よ。でも待って、なんでそんな分の悪いかけをしてまで、アミュラさんに会おうとするのよ。


 ニヤリッって笑い方が魔王様にそっくりだ。生命に等しいものを差し出して、いったい何を要求されるのか。


 もしかしてこの人も、咲夜達みたいな性分なのかしら。


 ゴンッ!!


 ぐぅぉ゙ォ゙ォ剣の柄で頭頂部を叩かれた。速くて見えないから魔女さんの金ダライより鋭く痛い。

 最近やたらと頭を叩かれてる気がするわ。


「いったいキミたちは何をしているのかね」


 先輩とルーネが揃ってやって来た。一応まだ敵地なので、先輩をルーネが、ノヴェルにはブリオネがついてる。


「スーリヤさんと、少しロムゥリに行くだけですよ。先輩はしっかり休んでくださいね」


 面倒な事をいう前に、先輩を追い払う。もちろん見つかった時点で無理なんだけどさ。


「いい動きをしているようね」


 手慣れてるせいか、剣聖の愛弟子の目にも先輩の動きは良いらしい。あくまでも、わたしの首を狩るためだけに特化した動きなのが残念だわ。


「彼女は最初から僕に声をかけてくれたのだよ。キミの性分を見越した上でね」


 魔王様に追従するだけの脳筋剣士かと思ったのに、違った。なんなの魔王様の側近って。辺境伯の娘というノーラ様も実は頭は良いのよね。普段は物静かなふりをしている人達ほど怖い典型ね。


「そろそろ黙ったほうがよいわよ。レガトは魔法の()()が下手だから」


 公然の秘密っていうやつよね。加減の間違いが洒落にならないレベルなので、わたしも口を閉じた。


 結局先輩とルーネを連れて、魔本を開きロムゥリの宮廷へ向かう。アミュラさんはロムゥリの商業ギルドのギルドマスターと、ロムゥリの都の長官を務めている。要するに先輩の代わりにロムゥリの都を治める代官ね。


 立場上は兼務で激務のように思えるけれど、商業ギルドの発案を自分が決済するので仕事としては難しくないはずだった。補佐にわたしの分身とも言えるカルディアもいるので先輩の仕事もないくらいだ。


 だからこんな夜更けに訪れたのにも関わらず、アミュラさんが起きているのが意外だった。あれ、これって賭けに負けた……?


「やっぱり寝てない。朝まで私がいるから寝なさい。貴女達もね」


 先輩がわたしの首を狩るより十倍は速いんじゃないかって――――思う前に意識が飛んだ。


 気がつくと、殆ど使われていない先輩用の寝室の大きなベッドで、アミュラさんと先輩とルーネとわたしが寝かされていた。うん、とろけるくらいの寝心地の良さだわ。


 この最高品質のベッドを先輩は一回も使ってなかった。寂しんぼうの甘えたがりだから、一人で寝るのが嫌なのよね。アミュラさんもまさかそれかしら。


「違うわよ。アミュラのは死神の眷族と戦った時の、後遺症みたいなもの」


 死の恐怖にあてられて、眠ることを極度に恐れてしまう。


「昼間の喧騒の最中に仮眠はとっていたと思う。でも、それだと身体が持たない」


 あぁ、馬鹿だな、わたしは。アミュラさんの気概がもう一つある事を見落としていたなんて。

 商人として変態女商人(リエラ)に対抗心を燃やしているだけかと思っていた。


 そこを満たす環境をつくってアミュラさんを取り込んだ気でいた。


「ごめんなさい」


 これはわたしの失態だ。たとえ本人が克服しようと思って話しに乗っかったとしても、わたしは心理的外傷に気づいてなかったのだから。


「馬鹿だね、貴女は。アミュラは頑固だし、お金のためなら魂だって売るようなやつだから、魂を見たってわかるわけないって」


 嘘でしょ。いや、このアミュラさんはそういう人だ。招霊君や魂を見て、何でもわかるつもりだった。スーリヤさん達はアミュラさんと付き合いが長いからわかったのかもしれない。


「まあ――――ぶっちゃけ、お節介を言い出したのは私じゃなくて、リモニカなんだけどね」


 リモニカさんとは、ほんの僅かな共闘と言葉を交わしただけだ。あの短時間で敵だけじゃなく、わたし達まで見られていた。


「僕に剣士殿と長官の関係をさり気なく知らせてくれたのもリモニカ殿だ。キミは彼女の慧眼について学びたまえよ」


 先輩め、ここぞとばかり勝ち誇る。悔しいけれど、アミュラさんに倒れられても困る。


「わかってくれたのならいいよ。それで相談だ。私、アリルさん、リモニカ、シャリアーナ、イルミア、あとアケルナルの成分を貰った。二人くらい専属護衛戦士を作ってやれるかな」


 名だたる剣士、魔法使いの成分。充分凄い戦士が誕生するわよ。


「オルティナ達には悪いけど、あの娘らは対外的にも動くから、あてに出来ない」


 カルディアもその意味では同じだ。仕事を抱えているから、ずっといられない。


「残った分で、女王の替え玉を守る戦士もつくれるはずよ」


 ん、替え玉? なんの事かしら。わたしは先輩を見る。目を逸らしましたね先輩。スーリヤさんみたいな人が賭けのような話しをするからおかしいと思ったのよ。


 この人はティアマトと似たタイプで率直な話しをする。咲夜にも似ていて裏表がない。アミュラさんとは真反対な性分だから気が合うのかもね。


 護衛戦士の案件は最優先で行うと、わたしはスーリヤさんに約束した。これだけ近くで話している間もぐっすりと眠るアミュラさんを見れば急ぎたくもなる。


 何より先輩が今後もわたしに付いて回る事が確定したので、言われなくても急ぐ必要があった。


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