第三十八話 荒野のお茶会
太古の蛇神アイナトとの戦いは終わった。白い髑髏の宮殿が崩れ去る。商人や傭兵や旅の者達など、ローディス帝国に直接縛られていなかった生き残りと、第一皇子ウシルスや第三皇子ジャルス、ビルス、セティウス付きの暗殺者達や宮廷にいた貴族や侍女達の姿が見られた。
「とりあえず拘束しといたよ」
スーリヤとバステトがバルスと猫人眷属達と速攻で捕縛していた。
「首を狩るねィ」
ウキウキしている少女の前には第三皇子ジャルスと第四皇子ビルスがいた。
「待ちたまえ。その二人はどこかおかしい」
拘束はそのままで、レガトは猿轡を外すように命じる。バステトは不満そうだ。
「動くとスパッといくねィ」
首を刈りたくて仕方ないのか、皇子達の首に鎌の刃をヒタヒタ当てて楽しんでいた。
「お、俺達は関係ないんだ!」
「そ、そうだ。信吾のやつが偉いやつに乗り移って無理やり戦わされそうになったんだ」
「あれ、信吾と七菜子はどこだ?」
震えながら、鎌を当てられていないビルスがあたりを見回す。
「······なんにもないし、どうなっているんだ、この世界は」
会話が情けない。恰好は他のものより豪華だけども、なんとなく小物臭が漂う。見た目以上にしょぼさを感じる。
「異界の······弱者?」
「魔人勇者に全て持ってかれた感じだよね」
ハープとホープが悲しい事実を告げる。皇子二人に入り込んだ異界のものは、咲夜のクラスメイトだった。モブ男達と呼ばれていたけれど、レガトもその意味を納得した。
冒険者でもたまにいる、隅っこにいる住人達だ。
スーリヤにあっさり捕まったのも彼女に見惚れていたせいだ。いまも、シャリアーナやアストリアなどを目にして興奮して、気持ち悪い。こういう時はリエラやカルミアが適任なのだが、リエラは作業が忙しく、カルミアは咲夜達の所だ。
ローディス帝国の宮廷に美しく咲き誇る花は皇女ネフティスという娘しかいなかったのだろうか。
「ハープ、事情を聞く役は君に任せるよ」
あとのメンバーだとバステトより我慢効かなそうだ。リモニカやカルジアやファウダーには触らせたくないから仕方ない。
「それなら当事者に任せればいいんじゃない」
ハープがあからさまに嫌そうだ。
「あの娘らの戦車へ、コレを入らせたくないんだよ」
「あぁ、確かにね」
ハープもホープもわかってくれたみたいだ。双子はバステトから二人を預かった。小さな声で早口なため聞き取るのに苦労していたようだ。
咲夜が行方不明の話しや、その後のことなど彼らの世界の話しで関係性はよくわかった。
この二人は完全に巻き込まれただけ。セティウス皇子に憑いた信吾という男からは、雑用係くらいでしかなかったらしい。
「咲夜達とは別口で、元の世界に帰してやることは出来る。皇子として残るのは構わないが、君たちは戦争を仕掛け敗戦した国の皇子達となる」
どういう判断を取るのか、後ろにいるアストリア次第になるにしても、このままいると処罰の対象になるに違いない。
咲夜と聖奈と違い、彼らがこの世界に来たのはレガト達がここへ来た時と同じタイミングだったようだ。ほとんど何もわからないまま戦闘が始まったのと、セティウス皇子のような親和性がなかったので、元の人物の情報がなかった。
レガトとしては放って置いてもよかったのだが、咲夜が気にするといけないので気に留めておくことにした。
自由に動かれると迷惑なので、レガトはスパーデスとゴブリン戦隊を呼びウシルス皇子達など問題となりそうな連中をまとめて見張ってもらった。
「この地は死の影が色濃い。再び都市を築くよりも浄化して廃都にして大地の回復を待つことになりそうだな」
すでに殆どの髑髏の残骸が灰のように崩れ白い砂浜のようになっていた。
「ねぇ、レガト。この帝都って戦いの
時のために築いたダンジョンとは別に、実りのダンジョンがあったはずだよね。あれはどうなったの」
消えたのは建物だけではない。ダンジョンや湖も消失していた。
「アケルナル達のような強者は別として、そのダンジョンか湖かあるいは両方から食糧や水を摂取し続ける事で、呪いのように血肉が太古の蛇神に縛られる仕組みだったんじゃないかな。これはあくまで僕の予測だよ」
ハープの質問にレガトもはっきりとした答えを持っていたわけではなかった。いまそのダンジョンも消えているのが答えだと思うだけだ。
いま生き残っているものの大半は他所の地からやって来たり、連れて来られたりしたものが多い。
ウシルス皇子やモブ男達皇子はこの戦いで呼ばれ集められたが、普段は別の地に住んでいたようだ。召喚の器の予備としての価値しか認められていないわりに、血色はいいので待遇はよかったと思う。
「ローディス帝国は、君たちの国が治める事になりそうだね」
レガトはレーナが、取り出したテーブルセットに座る。アストリアが提供してくれた、ロブルタ産のお茶を楽しもうとなったのだ。
会議にいるとうるさそうだけれど、ロブルタ側の主要メンバーのカルミアが来るのを待つ。その間に何もない荒野となったロズワールの帝都で、お茶会を愉しむレガトとアストリア達。
うるさいといいつつ、カルミアに丸投げする気の二人は意外と気が合うようだった。
ブツブツ独り言を言っているカルミアがやって来ると、レーナが席を外した。レーナはレーナで咲夜達が心配な様子なので任せる事にした。
レガトとしては尊敬はしていても、接点のないガウツおじいちゃんに特別な感情はない。どちらかと言うとサンドラの幸せな様子を知れただけで充分で、咲夜が望むなら支援は惜しまないつもりだ。
会議の席にはレガト、アリル、シャリアーナ、ファウダー、アストリア、カルミア、ノヴェル、ヤムゥリ、アマテルが座る。
神謀を期待されたカルジアは、レーナに連れて行かれた。多分、咲夜達を召喚人扱いするためだろう。レーナの中で決まっていることなので、レガトは関わらずに任せる事にする。
悪しきものの根源を徹底的に絶つならば、乗り込んだほうが早い。創世期に殴り込みをかけて、存在ごと抹消する気だ。
それはまた後の話しとして、彼女達の今後についてが先だ。
「率直な意見を言いたまえ」
アストリアの目はカルミアと、シャリアーナに向けられた。レガトが自分と同じスタンスだとわかると、意見を主張するのはカルミアとシャリアーナだけだと見抜いていた。
「先輩、絶対丸投げする気ですよね。滅ぼしたの【星竜の翼】のメンバーなんだから、サーラズもローディスもシャリアーナ様に任せます」
そう言ってカルミアは逃げようとしたが、アストリアに首を狩られ捕まる。
「うちの参謀が世迷い言を述べて場を明るくしたかったようだ」
ニッコリ笑顔のアストリアだが、カルミアという人物は短期間でレガト達にも伝わっていたのでスルーした。
「正直に言うと、サーラズとローディスはバアルト達に任せたいと思ってるわ」
レガトが何も言わないのでシャリアーナが仕方なく話し出す。
今は冒険者扱いされているけれど、花嫁姿でも王族は王族。アナートも助け出したので、任せるのなら彼らに任せたいのがシャリアーナ達の本音だった。
ただロブルタ王国側が望むのなら強く出る気はなかった。
「こちらとしてはそれで構わぬ。ティアマトも両親が治める国が隣国なら安心だろうし、ローディスに残る反抗分子を狩るのならば、武力のあるものがいたほうが都合良いだろうね」
アストリアの中にあるアスタルトの魂も賛成していそうだ。奪われ失ったものがようやく取り戻せたのだから。
「そうね、それならばこちらも助かるわ」
「本題は、僕の母のことだろう。とっくに逃げ出していると思うが、のほほんと王宮にいてもおかしくはない」
いろいろと画策し、アストリアからアスタルトの魂を目覚めさせ殺すつもりで育てたロブルタ王妃。
「最初から最後まで、あの腹黒い王妃様に弄ばれたのね」
会議に出ていたみんながカルミアを見る。全員が一致して思うのは、このおかしな娘のせいで散々いらぬ苦労する羽目になったのだろうと。
何も知らない国王にハゲを治す薬を作ったせいで、嫌でも再び国王の相手をする事になったのだが、それはカルミアも知らない。
「調査隊と討伐隊の編成が必要だな。探索の手の一つは咲夜達に任せるつもりだ」
望む流れになったのでレガトはロブルタのメンバーを組み入れたパーティをつくることを宣言した。
もちろん戦禍で荒れた国の再編もあるので、商人のリエラやアミュラと協力して復興も同時に行うことになる。
人材はここにいるメンバーから絞ることでカルミアが作り出せる。アケルナルの成分を見せると、騒ぎ立てるカルミアも大人しくなった。
そして煌めく人材から成分を抽出許可を出すと、カルミアは喜びのあまり失神した――――。
「久しぶりに未知の大陸への探索だ」
レガトは心をウキウキさせてそう呟いた。
第一章 太古の蛇神編は、ここで完結となります。
本日投稿した【転生しても女子高生だったあたし〜でもね、三人のおじじのおまけつきで毎日うるさいんだよ〜ぅ゙ぅ゙ゥ゙】も完結し、レガト達ギルドメンバーとして、集結することになります。
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