第三十五話 太古の蛇神
前半部分はカルミアになってます。
咲夜と聖奈がきっちり皇子にダメージを与えていた。リモニカさんの追撃で隙も出来て、七菜子という娘の憑依したネフティスとかいう皇女を連れ出して来れた。
「間に合うのかね」
先輩が心配する。怒った皇子が動き出すけれど、大丈夫よ。観察している目が届いたもの。
だからわたしは急いでネフティスと七菜子の魂を掌握し、まとわりつく悪しき怨念を浄化した。
攫われた形なので、裏切りに見えなかったのが幸いした。咲夜と聖奈には、皇子に取り憑く信吾という男をボコボコにする機会でもあったのに、たいした精神力だと思うわ。
「わたしを信用して、躊躇わず友達を助けるんだもの。わたしがこれで失敗するわけにいかないわよね」
格好つけてみたけれど、魔人と化した勇者は、速く強い。咲夜と聖奈が一歩進む間に五歩詰めてくる。
クズだけど、悪しきものが最後の力を振り絞っただけあって、悪意の判断が早い。妹でもあるネフティスを先に殺すつもりでいる。
咲夜も聖奈も、彼女を気にしていたのがわかったのだろう。あえて、先に殺して嘲笑いたいのだ。先輩の時と同じで、まったく成長してないわね。
「でも、もう遅いんだよね」
わたしの魂の掌握の方が早い。それに、勇者はそっちだけのものと思わないことね。
咲夜と聖奈に、下卑た笑みを浮かべるセティウス皇子が迫る。凶刃が皇女ネフティスの首を切り落とそうとした瞬間に、咲夜の身体が輝く。
(ガハハッ、ようやく封印解除じゃ。頭のおかしい小娘、わしの身体の用意忘れるでないぞ)
咲夜の身体のまま、威張った大きなオッサンの声が響き、凶刃を手甲で強引に弾く。
「その動き······咲夜ではないな、何者だ!?」
――――――――咲夜の動きがキレを増し、皇子の身体を再び地に這わせた。
「おのれ、下衆な女の分際で!」
セティウスと信吾、両方の怒りが咲夜へと向かう。
(ガハハッ、わしの体術技をお主の身体で再現したのだ。ゴブリンキングが見せていただろう)
あのデカゴブのような魔法、咲夜はなんであんな魔物と戦わされたのか、分かったようだった。
(わしの付与効果はあれの十倍はあるぞ)
あのオッサン、すぐ調子に乗る。魔王様が見てるわよ。
「痛ッ」
この状況下でも魔女さん並に魔法を使うのね。制御下手って聞いていたのに。
それにしても元皇帝のオッサンによる、身体強化魔法体はうまく言ったわね。オッサンの溜め込んだ魔力で、爆発的な戦闘力を咲夜へ付与する。
それでも皇子の方がまだ優勢だけど、切り札はまだある。
咲夜が時間を稼いだことで、聖奈がネフティスの身体を支えてわたし達の陣営に逃げ込む。
「先輩、パンツを下さい」
いっつも先輩からパンツを要求するわたし。そして予備の黒パンツを常に保持してる女王様の先輩。
丸出しよりマシだからと、嫌そうにパンツを履く聖女の聖奈。戦闘中に緊張感のかけらもないと、リモニカさんがため息を吐いていた。
「許さん、許さんぞぉぉ!」
皇子がキレた。
「聖奈にパンツ履かせたのを許さないとか、どういう変態よ」
「ち、違っうぐっ」
さすが咲夜ね。空気を読まず、さっそく強化を取り入れた一撃を皇子に入れた。的確に急所に。
「キミは最悪のタイミングで、心を揺さ振る天才だね」
悶絶して転がり逃げる皇子を咲夜は仕留めにかかる。ため息をついていたリモニカさんも、容赦なく追撃をいれる。そうしておかないと、いまだ戦力差はあちらが大幅に上なことを理解してるのよね。
まるで皇子を助けるかのように、戦場の天井が崩れ、邪竜の巨体が落ちて来た。ノヴェルが戦車から飛び出し仲間たちを大地の石柱で急遽守る。
「先輩、みんなを退がらせて。長くは持たない」
わたし達は押しつぶされる前に集合し、比較的敵の薄い所へと逃げた。
アナートが完全に孤立してしまう。ただ、邪竜を相手にしていた彼女の仲間たちがかわりに加わるので大丈夫だと思う。
「咲夜危ない!」
ドス黒く光る砲弾のようなものが、咲夜に剣を向けて飛んできた。
それに気づいた聖奈が咲夜へ体当たりをしてまともに剣撃を受け、切り裂かれた。
「聖奈!!」
わたし達の避難に乗じて、皇子達の側近も侵入してついて来ていたのだ。
先輩はヘレナとバステトがついて応戦、ノヴェルに向かう敵の刺客にはフレミールがついて守っていた。
「グハッ」
――――わたしの胸を貫く刃は、背中から現れたネフティスだった。
「あれ、おかしいわね。魂を砕いたはずだったのに――――」
◇ ◇
レガトとメニーニは、ロブルタの者たちのいる戦場へ急いでいた。ネルガルは神の格で言えば格下、バロールとさほど変わらない地位のものだった。
フィルナス世界に戻って来た尖兵に過ぎず、邪竜すらペット扱いにするような存在が、この戦いのどこかにいるとわかったのだ。
狙うとすれば、レガトや母レーナのいない戦場。つまりアストリアやカルミア達の所だ。
「まずいな。ダンジョンに閉じ込められてしまった」
隔離空間に切り離され、干渉させないようにしている。手の込んだやり口に、敵は慎重に罠を張り続けていたのがよくわかった。
「どうするの、レガト」
メニーニはなんで自分を連れて来たのか、その説明もまだだったので不安そうだ。
「君の馬鹿力で、ダンジョンを壊すためさ。干渉が絶たれたのなら、繫がりあるものごと壊せばいい」
レガトは叫声のする戦場につくと、巨大な邪竜の姿を見て、指をさした。
「あの邪竜の頭まで跳ぶよ。メニーは着地と同時に思い切り頭をぶっ叩けばいい」
「あいつらは巻き込まれない?」
「潰しても死なない連中だから気にしないでいい」
それは流石に嘘で、あとでうるさそうだけど、今は時間が惜しい。
メニーニは素直に手持ちの特製ハンマーを構えた。
邪竜相手に飛び回っている冒険者達は、異様な魔力を感じ飛び退く。
「いまから、こいつを落とす。手伝ってくれ」
レガトは一番近くにいたバアルトに声をかけた。
「正面を取る。その間にどうぞ」
バアルトは同じパーティーメンバーのティフェネトと結婚した。子供まで出来ているのに、何故か花嫁衣装のままだ。
「リエラの姿が見えないが、どうした」
冒険者パーティーを率いるのは本来なら女商人リエラのはずだ。
「あぁ、ボスならレーナ様のお仕置き中で解体作業中ですよ」
また何かやらかしたのだろう。というか、狩った魔物の素材がきちんと処置されて出てくる理由が、わかった。
「巻き込まれないよう、各自勝手に身は守れ」
レガトは、バアルトが邪竜の注意を引くとさらに跳ぶ。でかい頭にメニーニと到着すると、メニーニのハンマーへ魔力付加を乗せた。
「メニー、頼むよ」
レガトが少し離れるとハンマーを振りかぶるメニーニは渾身の一撃を邪竜の頭に放った。
凄まじい威力の攻撃を急にくらい、邪竜は頭を凹ませ気絶した。そして巨体ごと大地に墜落してゆく。
「メニーもう一度、今度は地面を叩くんだ」
メニーニは、同じように魔力付加を高めたハンマーを、横たわる邪竜の近くに叩き込んだ。
地面が揺れながら崩れ、邪竜の巨体ごと沈む。冒険者たちも邪竜に乗り、トドメの準備をしていた。
邪竜が墜ちた先では、ロブルタの面々とリモニカ、アナートの姿をが見えた。
そして崩落の混乱で、ローディス帝国の一団がアストリア達の陣内へ入り込み急襲した。
「バアルト、アナートの援護と邪竜は任せた」
レガトとメニーニは敵の皇女に背中から刺されて、魂を砕かれた少女のもとに向かう。
「メニー、リモニカとノーラと戦車を中心に布陣を。彼女らと協力してアストリア達を守るんだ」
レガトはそれだけ伝えると、ネフティスの排除へ向かう。
「そこにいたんだね。この娘を欺くなんて、さすがは太古の蛇神だよ」
「ふん、白々しい。その娘に出し抜かれたわらわを笑っているのだろうに」
カルミアという娘は弱い。ただし、異様にしぶといのは、魂を弄ぶ力があるからかもしれない。
ネフティスと七菜子と二つの魂を保護した彼女は、もう一つ異質な存在に気づいてスッとぼけていたのだ。
その証にレガトがカルミアの身体を奪い返すと、あっさり復活した。
「笑ってないで治療してくださるかしら。刺されて痛いのは消えないの」
自分の魂を首飾りの宝珠と虹色輝星石でつくった擬似星核に移し、彼女を慕う霊体の塊と入れ替えていた。
「わらわ以上に魂を操るものが、こんな小娘とは······面白いのう。それに、レガトと言ったか。どうやって気がついた」
レガトはカルミアの治療をしながら、擬似星核に魔力を注ぎ、魂の虹色結晶をつくる。
何してるの、この人。嘘、これって魂の虹色結晶になるの? 素晴らしいわ!
ボカッ!!
「――――痛ッ!」
せっかく治療したものの、うるさいのでカルミアには静かにしてもらった。太古の蛇神は静かに決着を待っている。レガトとの会話は時間稼ぎでしかないのだが、それでも付き合うのが冒険者の矜持だ。
戦車の屋根のリモニカが何か言っているけれど、レガトには聞こえない。
「そもそも貴女を信奉する眷属がやたら多いし、アナート以外、封印された者たちがあなたの支配領域の近くばかりだったからね」
アナートとが命がけで逃がしたアスタルトも、この蛇神により魂はこの地からは逃れきれなかった。
「空気を読まぬ蠍人と、オリンのやつとさして変わらぬ夜魔どもが邪魔しなければ、わらわの計画はうまくいったのじゃ」
蠍人はともかく、ヒルテのような夜魔族は自由神が諦めたように「自由に好きなように生きなさい」と、この地へ押し込めたとも言われる。
協力的ではあるけれど、あてにすると痛い目にあうのがこの種族なのだ。
クソ真面目な蛇神は、この連中を相手に時間を無駄に使いすぎたのだ。
バアルト達により、邪竜が倒され、咲夜がガウツおじいちゃんとサンドラさんを召喚して、セティウス皇子を倒す。トドメを刺したのは呪いの術師ホロンだったみたいだけど、あっちもよくわからない関係だ。
この混乱は、レガトの背中で気絶したまま眠るカルミアのせいなのは間違いない。目を覚ますと何かやらかしそうなので魂の虹色結晶を元の宝珠と虹色輝星石に入れ替えておいた。




