第三十四話 綺麗に入る両膝
前半カルミア、後半は咲夜の時点で話しを進めてます。
ローディス帝国の皇帝モートを前にして、わたし達は苦戦していた。ここでも戦闘用フィールドと呼ばれるダンジョンが展開し、魔物がまるで魔物の大暴走のように湧いたからだ。
「ため込んだ歴史を今ここで吐き出さなくてもいいのに」
浮揚式陸戦車型の操縦席に座るわたしは思わずぼやいた。
苦戦の原因は魔物だけじゃない。ロブルタの魔法学園に留学生としてやって来た、傲慢皇子が暴れているせいだ。
人格は元々酷かったように思う。いまはさらに狂悪さが増している。
「あれは、異界の勇者の魂が乗り移ったのかね」
わたしの横で、先輩が傲慢皇子に目をやり険しい表情になる。ここへ来て、自分の素性や自国と帝国の関係を知らされて、かなり動揺しているはずなのに冷静さは失わない。
「もっと厄介ですよ。性質が合うのか融合して、力が相乗効果で上がってるもの」
わたしの目には、いままで見た異界の強者達よりも、一番この世界に馴染んでいるように見えた。
嫌な悪いやつが悪いことをするために気が合うとか、まさに最悪だ。犯罪者集団の結成の瞬間を見た気分だわ。
皇帝モートは、助っ人のアナートという女傑が抑えている。どっちも魔力量が高い。魔物達とはいえ、味方ごと平気で攻撃してくるモートに対して、アナートさんはやや不利な感じがした。
因縁があるのか、ただの姉弟喧嘩にも見える。殴り合いの余波が迷惑なレベルなのを除けばね。
浮揚式陸戦車型を中心にアナートさんがいるのが前方になる。アナートさんの間に、ティアマトとアクラブとミューゼが小型防塞貝に籠もるエルミィとヒュエギアを囲う。
ヒュエギアは戦闘用武装に換装しているけれど、基本はアナートさんへのフォローと、エルミィと前衛陣の仲間の支援を行ってる。
魔物の大半は鰐人や蜥蜴人を強くしたやつなので、突進攻撃もなく助かっている。
「エルミィ達の援護に行くよ」
ヘレナがノヴェルの妹ノエムと忠狼聖霊人形に乗るメジェドを連れて、浮揚式陸戦車型の左前に出る。
「シェリハ、私達は右に出るよ」
メネスとシェリハとバルスに乗るバステトが右前へと移動した。
「私達も小型防塞貝で背後を固めるよ」
ノーラさんがコノーク、タンキ、ヤメネ、エメロの四人の子分達を引き連れて背後を固めてくれた。
「リモニカさんは屋根でフレミールと、アマテルはわたしの後ろでヘケトとラナを守ってあげて」
アマテルと預かっているヘケトとラナンキュラはどのみち戦闘に向かない。なんだかぼへ〜っとしながら、モーモーちゃんと戯れてる。
緊張感がないと言われるわたし達だけど、この娘達は緊張って言葉を知らないんじゃないかしら。
「カルミア、おらとブリオネは右につくだよ」
ノヴェルと彼女を守るブリオネのタイニー戦隊が浮揚式陸戦車型の右に出した円形風樽火門に乗り込む。
「それならヤムゥリ、君は背後を守りたまえ。僕が左を守る」
そうなると正面はわたしになる。
「ねぇ、あたし達は?」
咲夜と聖奈がやる気満々で出てきた。貴女達はまだゴブリンキング倒したくらいしか経験ないから冷やかし要員よ。そのポジションにいたコノーク達はノーラさんが連れ出したし。
本当はこの中にいてくれた方が安全なんだけど、みんなの負担を考えてくれたのだ。
敵の数を捌くだけならば、これで良かったのよね。ただ、皇子が強過ぎる。咲夜の世界から召喚されたらしき男がもの凄い魔力を受けて暴れる。
ヘレナ、ティアマト、バステトが陣から抜けて抑えに向う。
でも皇子は、味方の魔物ごと剣の一振りで三人を吹き飛ばした。
「フハハハ!! 迎えに来たぞアストリア姫。ほぅ、咲夜もいるのか。それは都合が良い。まとめて俺が可愛がってやろう」
うわぁ、めちゃくちゃ気持ち悪い。体勢を立て直し、ティアマトが防御を高めて殴りかかる。
「フン。いつぞやは叶わなかったかもしれんが、いまは余の力が上。消えよ」
まずいわ。魔力の開きが想像以上にある。レガトほどではないけれど、フレミールより一点の魔力が強い。
「落ち着いて、観察して」
屋根の上からリモニカさんが声をかけてくる。彼女の放つ矢が皇子セティウスに向かう。
魔力的には敵うはずがないのに一瞬嫌がって、無理矢理叩き落とした。
ティアマトはその間に逃れることが出来て、真・火竜の兎武装を着たヘレナが受けたダメージを上乗せして割って入った。戦闘能力に優れた三人はリモニカさんの狙いをすぐに察した。
最低な人間同士が奇跡の融合をしたことでレガトが戦っていた魔人の勇者の力を発揮していた。でも、リモニカさんは一個の相手とせずに、脆弱な魂の結びつきを狙った。
「ようするに弱点はあるのだな」
「えぇ。勇者のくせにドス黒いので浄化が有効です」
先輩はノヴェルと位置を入れ替わり、牽制しながら一緒に観察をしていた。ちなみに先輩もノヴェルもタイニー状態、小人になって先輩型器械像に乗り込んでいる。
その小人も、招霊君により集めた偽装しているのよね。最終手段として、ルーネとブリオネが身を挺して二人を守るので三重の保護になるはず。だから、簡単に死なない。そして、二人の魂は何故かわたしが預かっていた。
わたしが死ぬと二人も巻き添えになるのに、なんで先輩もノヴェルも魂を預けるのよ。
業を煮やした皇子は一人愉悦にふけるのを止めて、部下を呼ぶ。あれは暗殺者集団の戦士達ね。他に冷めた目をした身分の高そうな女の子と、皇子付きの呪いの術師がいた。
新手の強者達の参戦で、わたし達は徐々に押し込まれはじめる。まだフレミールや先輩型器械像、ヘレナと同じ真・火竜の兎武装を着たヤムゥリ様。切り札となる戦力は一応まだ残している。
焦る必要はないけれど、向こうも奥の手を隠しているような嫌な空気を感じるのよね。
「バステト、ノエム、アクラブ、ミューゼ、予備兵を投入したまえ」
バステトは黒猫眷属隊を、ノエムはブリオネの子分のタイニーワスプ隊を、アクラブは蠍人戦士団を、ミューゼは吸血魔戦隊をそれぞれ魔本から呼び出した。
縮められた包囲網が、また押し戻される。
「部隊のものは寄って来る魔物を中心に倒せ。勇者達には敵わぬから逃げたまえ」
先輩が次々に指示を飛ばす。わたしに聞かなくても出来るようになったわよね。これでもうわたしも不要。お払い箱ってやつだわ。
「この状況下でも、馬鹿な妄想を口にするのね」
後部から咲夜が声をかけてきた。味方の側の戦況は依然として不利が続くのを、黙って見てられない性分なのかも。
「いや、あたし達には味方も何も最初はあなたしか知らないし」
おっと、そう言えばそうね。魔王様と対面を果たしても、この娘がどう判断しているのかは今はわからないものね。
「それなら先に伝えておくわ。あの気持ち悪い笑顔で暴れているのが貴女の世界から来た男の一人よ」
咲夜が影と化した猫の眷属や岩のように固い蠍人の戦士を難無く切り裂く姿を見て納得した。
聖奈は逆に震えている。自分を殺した男が目の前にいるからだ。
「その男の取り憑いた兄妹かしらね。後ろの美人もお友達じゃないかしら」
咲夜と聖奈はそれが誰なのか、佇まいですぐにわかったみたいね。
「この乱戦の中で、あっちもこっちも裏切りに合うと辛いのよね。どう扱われるかは知らないけれど、寝返るなら先に出て行ってもらいたいわね」
わたしの言葉に、二人はなんでって顔をする。
「魔女さんから保護は頼まれたけれど、意思を縛ることは決められてないのよ。だからお友達といたいなら行きなさい」
ただし、容赦なく殺すわよ。たとえ、魔女さんや魔王さまに殺されても。
「キミは相変わらずだな。魂を握っておいて、いまさら裏切るも何もないのだよ」
先輩は呆れたように言う。何か思うことがあるのか、咲夜と聖奈は、皇子の所へ向かった。皇子がそれに気づき、二人に対しての攻撃は止めた。あの皇子、わたしには容赦なく殴る蹴るしたのに、ムカつくわね。
◇ ◇
「降伏しに来たのか、咲夜。ははっ、なんだお前、聖奈か。生きてやがったのか」
見た目は外人さんみたいなのに、中身がゲスい信吾とか最悪に気持ち悪い。
聖奈がどうしてもぶん殴って、仕返ししたいというからついて来た。
七菜子らしき女性はなんか涙を流している。
あれ、やっぱり七菜子だ。今はこの男をなんとかしないとね。
「咲夜が許すなら、お前も俺様のハーレムに加えてやってもいいぞ。まあ、散々やって飽きたけどな、うわはっは〜」
キモッていうかマジクズじゃん。七菜子が、いつもの冷めた目というか、軽蔑の眼差しで見てる。
{その娘は魂を敵に縛られておるぞい}
だから動けないのかと、あたしは分かった。誰をぶっ飛ばせばいいんだろう。
(魂に関することなら、あの頭のおかしい錬生術師か、魔王の如き小僧しかおるまいよ)
あっ、だからあの女は平気な顔して送り出したんだ。
「ホントッ性格おかしい!」
「なんのことだ」
あっ、と声に出ちゃった。まずは聖奈に殴らせよう。
「あたし、あんたの気持ち悪い逆ハーなんかお断りよ」
「ああっ? 逆ハーってなんだよ。相変わらず頭が悪いな」
信吾のくせに、ひと言余計だっての。
「聖奈、見せてやりなさい」
「えっ? な、何を」
「その付いてる部分よ!」
あたしは聖奈の後ろに回り込み、服を、脱がした。
「なっ······」
聖奈にぶら下がるシンボルに信吾が驚愕していた。七菜子まで、少し驚いて顔を赤らめていた。
「他人の趣味をどうこう言うつもりはないけどさ、あたしはお断りよ」
聖奈のシンボルの下から、あたしは魔銃で信吾を撃ち込んだ。
――――――――バンバンッバンバンッ。
撃てたのは四回。全てエラじいの指示で浄化弾にした。
「うぉぉ!?」
あの女の思惑に乗るのはイヤなんだけど、信吾は敵だ。
{ダメージは薄いみたいじゃ}
キモゴブ達には通じたのに、信吾には弾丸があまり効かなかった。
ただ、あたしが撃った所に、後ろから弾丸より速い弓矢が飛んで来た。そして信吾の腕に刺さった。
(いまじゃ)
「いまよ、聖奈」
(なぬ?)
あたしは聖奈を、信吾に向けてぶん投げた。エラじいは魔銃での追撃かと思ったみたいだ。
もちろん聖奈も。
「ハァぁぁ!?」
綺麗に飛んだ聖奈の両膝が、弓矢を放った主を見る信吾の頬に見事にぶつかり、ぶっ倒す。
「戻るよ!」
あたしは聖奈と、驚きっ放しの七菜子の手を取って、走る。
(お主、この娘はまだ敵だぞ)
いいの。あたしに出来るのは手を取って走るだけ。悔しいけど、あの女が後はなんとかしてくれると思うから。




