第三十一話 魔王様と叔母さん
◇ ◇
ヤムゥリ様とエルミィが緊張感あふれるを顔して戻って来た。先輩とわたしはそれにノヴェル達も魔本の中に戻って来ている。
「それで、気絶ふりしたのは分かっていたけれど、どうみたのよ」
ヤムゥリ様だけではなく、それなりに付き合いの長くなった仲間たちは、わたしと先輩のお芝居が分かったみたいだ。
「あれはまったく見えなかったわ。フレミールや魔女さんは化け物ってわかるレベルだけど、彼はわからないのよ」
冒険者達が手に負えないなんて、冗談よね。あいつらこそ、ヤバさを肌で感じてああなったんじゃないかしら。なんというか、仲間たちの成長の為に自分は動かない、力を出しきらないのがわかる。
「強さの底が、君でもわからないのかね」
そういう先輩もそう考えてこの場を設けようと思ったんでしょうに。
「そうね、招霊君が怯えて一列に整列してるくらいよ」
「見えないけど、本当なの?」
「嘘よ」
意外と素直なのよね、ヤムゥリ様。みんなの空気を察して真っ赤になってわたしの首を締め出した。
「冗談はともかく、逃げられないのだろう」
「えぇ。魔本とノヴェルの話しの意味、みんなも聞いていたでしょう?」
逃げ出すならノヴェルを見捨てる事になる。そんなのあり得ないから、あれは逃げられないぞと、脅しているようなものだ。
「違うと思うけれど、加護も呪縛と紙一重なのはわかったよ」
眼鏡エルフは理解が早いわね。逃さないかわりに、彼は先輩やノヴェルに向かう全てを引き受けると保証してくれた。
「もう少しワレに力があれば比較出来るのじゃがのぅ」
フレミールが残念そうに言う。でも多分あれはそう言う次元じゃないのよね。
「みんな、巨人型ダンジョンをおぼえてるわよね。例えるなら、あの超デカブツの中の砂粒一粒を百等分したくらいの因子が、それでわたしのフル装備分の魔力よ」
砂粒の例えも、視認というか知覚の限界ね。あれほど巨大なものでようやく大地を穿つ威力があった。フレミールなら石ころくらいあるかしら。
「巨人型ダンジョンがレガトの力なわけか」
力比べの話しになってティアマトが声を上げた。貴女の両親より彼は強いので興味津津という感じだ。
「あくまで抑えた力が、よ?」
全力を出したとするならば、軽く三つくらいは大陸を沈めるだのなんだの招霊君達が騒ぐ。招霊君を使って冗談を言ったのはわたしだけど、招霊君の冗談は笑えないからみんなには黙っていようね。
冒険者は聞こえないふりをするものとかいう謎の矜持でレガトは持っていると思うのよね。魔女さんと違って、彼は聞こえないふりをしてくれるので助かるわ。
「彼はカルミアと別の意味でおかしいってことね」
ヤムゥリ様のくせに物分りがよくて生意気ね。まあいいわ。ヘケトとラナンキュラと言う名の蛙人も預かったし。アマテルと仲良しで、バステトとは相性良くないみたいだけど、じゃれてるだけだからソッとしとく。
「咲夜って娘は会わせるの? 私らそれで貴女に話しを聞く事になったんだけど」
「メネス、咲夜を連れてレガトに会わせてあげて。自分の未来は自分で勝ち取りなさいな」
過保護で羨ましいわね。それくらい、ガウツって人やサンドラって人があの二人には大事なのだわ。あぁ、わたしも魔女さんに構われてるけれど、あの人達みたいな可愛がり方は勘弁願いたいものね。
一見みんな大人しめで、シャリアーナ皇女様なんか魅力全開だけど、冒険者と同類よね。わたしたちなら逃げの一手なのに、この人達はデカブツ相手に引かなそうだもの。抜けてるような双子とか、脳筋っぽい大男とかは見た目通りでいいわよね。
レガトをおっさんやお父さん扱いは駄目みたいだから、お兄さんと思えばいいのかしら。なんか、妹に対して拗らせた思いを持つ変態みたいで嫌ね。
流石にこの考えは見過ごせないらしく、わたしはヤムゥリ様ごと頭に金タライを落とされ気絶した。
◇ ◇
「まったく自由に思考を喋らせると、とんでもない事を言い出す娘だな」
悪意あるものを出し抜いたらしいし、レガトはあらためてカルミアと言う少女の厄介さを感じ取った。いまの時点でレガトはもう魔王の如き存在にされていて、彼女達を捉えて離さない酷い奴になっている。それに加えて妹至高の変態の兄にしようとするのだから恐ろしい。
真性の変人のアストリアは、それを絶対に面白がって放置している。立場を考えると寛大と言えると思う。でも、あれはバアルト達の妹、アスタルトの魂を受け継ぐもので間違いなかった。ヘケト達が懐くので、アストリアとアマテルに二人を任せた。
ノーラ、コノーク、タンキ、ヤメネ、エメロも彼女達に預け、戦車型の稼働要員にしてもらう。あとでノーラ達には任務についてもらうとしよう。
転移するものが来る可能性はある。ただ、何名か対処出来るものもいたので任せられそうだった。
そして本題は目の前の少女だ。メネスとシェリハという娘達に守られるような形で姿を見せた。
背の高さはレガトと同じくらい。黒髪で青い目をしている。サンドラさんに良く似ているなと言う印象だった。
「あたしに用があるのって、アンタ? てか、誰よ」
咲夜という少女に対して、余計な事は言ってないようなのでレガトは少し安心した。初対面の相手に無警戒というわけでもないらしい。ただ顔見知りの存念がついているようで、やたらと警告を加えていて、うるさそうだった。
「クサじいが、魔王じゃ、あやつこそ真の魔王じゃぁって騒ぐんだけど、魔王なの?」
レガトは取り憑く三つの魂のうち、二つが頭を同時に抱えたのが見えた。面と向かって何を口走ってるの、この娘はと言ってそうだ。
レガトは少々の事では揺らがず、物怖じしない娘だと思った。躊躇わず動くように鍛えられていたけれど、素直な優しい性格は変わらないようだった。
「魔法を使うものが魔王と呼ぶのならそうだね。でもこの世界において魔法を使わず、魔法に関わりなく生きるものは少ない。人と違うからといって、君は差別するのかい」
少し分かりづらいかも、レガトは咲夜の様子を見て思った。なんでクサじいなのか気になったけれど、英霊の導きをうまくつかいこなしている感じはした。
もう少し人選は考えてあげてほしかったけれど、カルミアという娘はこの三人が最適と考えた以上、文句は出せなかった。
「見た目で判断はしないよ。それでこうなったからさ」
装備品の大半は、アストリア女王のものに近いようだ。見えないけれど、彼女と同じ高品質の黒パンと黒ブラ。その上に火竜の鱗で作られたハーフボディスーツのようなものを着てから抗菌防虫の施された衣服を着ていた。
腰には拳銃嚢を巻き、女王の魔銃と似たものを二丁挿している。手袋は封印解除が施されていた。ガウツおじいちゃんやサンドラは力持ちの人達で、咲夜も何らかの力を受け継いでいたのだろう。
右手の手甲部分には仕込みナイフ、左手には手甲盾のようなものも付けていた。
「君にまとわりついてきたのは、悪意あるものの影だ。素養を持つものを育てこちらに呼び出すために、巻き込まれたようなものだね」
「あたしが、じゃないの?」
「違う。まあ、血筋なのかな。ガウツおじいちゃんも巻き込まれ、こちらの世界へやって来たというから」
「ガウツって······あたしのお父さんの事?」
「正確には違うけど、そうだという事にしておこうか。戻った時に、両親からもう一度話しを聞くといいさ」
「お父さんとお母さんの所に戻れるの?」
「あぁ。ただし追って来られないように、君をこちらへ呼び込むことになった因果を断つ必要がある。出来るかい」
やるやらないは自由だ。今後のためにも咲夜には自分で解決してもらいたい。
「あたし、やるよ。キモゴブももうへっちゃらだよ」
レガトはキモゴブが何なのかはよくわからなかったが、彼女がヤル気に満ちているようなので任せることにした。
「ノーラ達をサポートにつけるから、君たちからも支援要因を出してもらいたい」
レガトがメネス達に伝言をつけた。メネスとシェリハが頷き、一度戦車型内へ戻っていった。
因縁を自分から断てば、しばらくは平穏な生活に戻るはずだ。その後どういう選択を取るにしても、こちらで得た経験が役に立つはずだ。レガトは騒がしい英霊達を見ながら、少し不安になった。あれ、そのままついて行っちゃうんじゃないだろうか、と。




