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第二十九話 金欠病は遺伝

 レガトとバロールの戦闘は、限定された空間の中で死闘を繰り広げていた。もっとも必死なのはバロールの方で、レガトは飄々と応じているだけだった。


 バロールの双剣が、レガトの剣と打ち合う度に魔力を掠め取るように奪う。この特殊結界の中において、彼が多くの勇士を屠ることが出来たのが、触れずとも魔力を削り、剣を合わせるだけで大きく奪うことが出来るからだ。


 話し込む事による時間稼ぎはバレたものの、レガトはまだ魔力を失い続けていることに気づいてはいない。

 それでも余裕を失わないのは、レガトの魔力がそれだけ膨大なのだろう。


 バロールは強かった。魔力量も魔人の勇者だけあって桁外れもいい所だ。【双炎の魔女】と呼ばれるレーナよりも魔力総量は上だろう。 


 経験の薄い、付け焼き刃の勇者と違って、長い年月をかけて磨いた魔力と剣技は見事の一言で、【不死者殺しの剣聖】アリルさえも、バロールの剣圧を前に、剣を折ることになったかもしれない。


 これ程の勇者が、一神官としてローディス帝国に存在する事実。この戦力を抱えて侵攻をしていれば、とっくに近隣の大陸まで支配下に収めていたのではないかと思うのだ。


「そうは行かぬから、いまこの有り様なわけじゃ」


 力あるもの達の、不和の均衡を守っていたものがいる。言うまでもない、偽神(オリン)だろう。

 ただ、このバロールやアケルナルなどは明らかに偽神(オリン)よりも力があった。星核の魔力を得ての事かもしれない。

 操られているわけでもなく、邪なるもの達として協力体勢を築き、この世界に悪意をもたらすのならば、レガトは討つつもりだ。


「ふっ、それは出来てからの話しじゃろうて」


 レガトの魔力を削り尽くした今、バロールは奪った魔力を練り、強力な魔法を行使する詠唱を行っていた。

 激しく剣を交わしながら、力の拮抗時に会話まで行っているのに心唱出来るのが、魔人の勇者たるものの実力だ。


 レガトの表情が違和感を感じて崩れる。バロールは今頃気づいたのかとほくそ笑む。


 気づいた所でもう遅い。バロールの心唱により完成した無数の魔爪の毒炎がレガトの周囲に突如として現れた。そのままレガトの全身を包むように燃やし噛み殺した。


「ふっふっふ、わぁはっは、あっけないのぅ【双炎】の息子ともあろうものが」


 同じ紋様持ちであっても、古くからこの地で戦い続けたバロールと、たかだか十数年のひよっ子冒険者では、経験の差がありすぎたようだった。

 魔力を奪い続けたのに気づくのが遅い。実力的に優位だったのは間違いなくレガトだ。


「わしを老いぼれと侮ったのが、お前の敗因よ」


 ドス黒く焦げたレガトの身体はすでに原形がなくボロボロと崩れだしていた。幻覚などではなく、完全に炭化し炎毒で再生も防がれ復活する事はないように見えた。

 それでも用心深いバロールは邪法の結界だけは維持していた。簡単過ぎる、それが理由だ。


 黒い灰となったレガトの遺体は塵となって漂い、復活の兆しは見えない。しかし、何か違う。そしてバロールは己自身が既に死の罠に囚われていた事に気がつく。


 目の前で戦っていたレガトは、既にバロール自身が望む虚像だった。膨大な魔力結界をさらに強大な魔力結界で包むように、バロールは彼の結界ごと圧縮されていた。


 掌の中で弄ぶのはどっちだたのかという話しだ。バロールは自らの尽きる事のない結界の魔力の檻で、永遠に虚像と戦い続ける事が決まった。


「エグい趣味ね。でも黒光りする怪しい素敵な輝きだわ」


 開口一番、錬生術師の少女が初対面の青年にかけた言葉がそれだ。


 レガトは預かっていた魔本の扉が開き、見覚えのある素材を使って作られた奇妙な乗り物が出てくるのを見ていた。遠く山の方から悲痛な叫び声が聞こえた後だ。予定より少し早かったので、バロールの珠を彼女に見つかってしまった。


 目を輝かせレガトの手に持つ珠に魅入られた少女の後ろには、威風堂々という言葉の似合う金髪の少女と、彼女に面影の似た三人の女性の姿があった。聖霊人形(ニューマ・ノイド)だったか、レガトは魔力の血脈を感じて感動した。とても土から作った土人形(ゴーレム)が基本だと誰も思いはしないだろう。


「初めまして、ロブルタのみなさん。僕はレガト。冒険者クラン【星竜の翼】のリーダーをやっている」


 どうして逃げた先に、レガトがいるのかを英雄王子と呼ばれ、今はロブルタの新女王となったアストリアはすぐに察した様子だった。素早く錬生術師の首を狩り、場を取り繕うのも忘れない。


「いや、その娘の奇行は聞いているから、好きにさせてやっていいさ。ただ、警戒は頼むよ」


 レガトにではなく、もちろん錬生術師少女に対してだ。


「僕はアストリアだ。コレがカルミア、後ろの三人が順にヘレナ、ルーネ、アマテルと言う」


 簡単に紹介をしてくれたが、マッドオルカの素材を流用した乗り物の中には、異空間と多くの存在を感じた。


「邪竜の悶える声が聞こえたけど、何をぶつけたんだい」


 邪竜なのに、鼻がぁ、鼻がぁ〜、と嘆く竜言語がまだ聞こえる。レガトは気を失った錬生術師のかわりに、アストリアを見た。


「強い臭気と刺激で嗅覚を、魔力酔いで魔力感知を鈍らせるものをぶつけたのだ。粘着するので剥がすまでは苦労する。考えついたのは彼女だ」


 兎耳服(バニースーツ)姿の少女が介抱している錬生術師を指す。邪竜も殺意もない、微弱な魔力の魔法酒など自分を傷つけることはないから無視したのだろう。


「話しには聞いていたけれど、本当に脆いんだね。こちらと君たちの他の仲間は後で紹介し合うとして、場所を変えよう」


 怒り狂った邪竜が来る前に、移動をしておく。邪竜が狙っているのは、眠る錬生術師の少女にかわり指揮を取るアストリアだ。


 レガトはジッと少女を見る。一見すると美しい女性なのだが、よく見るとアストリア女王と認識しづらい処置が施されていた。驚くことに魂までも。


「アストリア女王、その装備の数々もその娘が開発したのかな」


 レガトの問いに、どう答えていいのかアストリアが珍しく躊躇う。


「ああ、僕はその娘と同じで魂を見ることが出来る。君が隠そうとしている英霊の魂もね」


 錬生術師の少女は魂の輝きを見ることが出来る。その行いの善性や悪性、有用性や必要性、自分に対して有益か無益か害益かまで判断する。


 彼女に出来て、もとになった自分に出来ないわけはない。それがレガトがバロールを見極めた理由だった。

 端からバロールが何を言おうが聞く耳など持っていなかったのだ。


 そして、今目の前の少女も魂の輝きが実に巧妙に隠されていた。魂は一部が擬似的なもので覆われ、特定を妨げている。肌に吸い付く全身スーツのようなものや、下着類は目的の用途以外に、隠蔽や幻惑の効果がある。さらに衣服が認識を阻害し、口や耳や頭飾りにも魔道具による誤認処置が施されていた。


 どっちが言い出したのやら、多分どちらもか。見出したのはアストリアだろう。カルミアも本能を目覚めさせて、自分から応じた結果が今に至っている。


「責めてるわけじゃないから誤解しないでほしい。何より、その娘は僕の娘のようなものだからね」


「ずいぶんお若く見えるが、説明したまえ······よ」


「言葉遣いは、お互い素でいいよ。僕も女王様に対する言葉遣いは苦手だからね」


 お互い気さくに、というにはまだ早い。警戒心があって当然で、移動がてらレガトは簡単に経緯を説明した。


「宝魔!?」

「【神謀の竜喚師】の?!」

「金欠病は遺伝か。不憫な」


 レガトは移動中、浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)に乗せてもらった。中には、顔色の悪い偵察者(シーカー)のメネスと言う娘と、ドヴェルクの娘、ノヴェルと火竜族のフレミールがいた。アストリア達を心配して待機していたようだ。


 カルミアは、アストリアが絞め落としたので無効だ。彼女達の中では日常の光景のようで、それ(じゃれ愛)についてはスルーのようだった。

 起こすと面倒そうだから休ませることについても意見は一致した。カルミアには、別な役割もあるので、レガトもそうするように推めた。


 錬生術師の生い立ちへの反応は、レガトの仲間たちとほぼ同じだ。そして無茶苦茶なのは血筋かとレガトを見た。

 レガトとしては同じにしないでほしいが、リモニカやシャリアーナから苦言を受けているので否定は出来なかった。


 ちょうどそのレガトの仲間たちが、ロズワースの宮廷入り口で待っていた。浮揚する怪しい物体に一瞬殺意を向けたけれど、見慣れた素材と感じる魔力でレガトがいるのがわかったようだ。


 【星竜の翼】の主力メンバーと、ロブルタ王国の英雄女王は初めてここで邂逅を果たした。

 【逃げた神々と迎撃魔王】シリーズの外伝、【転生しても女子高生だったあたし〜でもね、三人のおじじのおまけつきで毎日うるさいんだよ〜ぅ゙ぅ゙ゥ゙】も短期連載として投稿中です。


 基本スマートホン向けに一話あたりは千〜二千文字と短め、改行も多くしています。


 おまけの話しとしてお楽しみください。

 

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