第二十八話 ロブルタの戦力と邪竜
レガトが魔人の勇者と対峙していた頃より少し前。ロブルタから戦線を外れて逃げ出したカルミア達はアーストラズ山脈を抜けて、帝都ロズワースの裏、山側へと侵入していた。
◇
「先輩の名前って、この山から来ているんですかね」
比較的密な雪山の森の中、木々をなぎ倒さないよう注意しながら進む。
「僕の名前の由来は、昔いた美しいお姫様にあやかったと聞いたよ」
誕生時の当初は、お姫様扱いだったものね。
円盤君の操縦席に座るわたしの横で、先輩が面白そうに照準管をいじっている。逃避行でもあるし、魔境を走らせれば魔物に出くわす確率も上がる。
交代で操縦、索敵を行いながら進んでいるのに先輩は守られているだけでは退屈なのか、一応仕事は手伝ってくれる。
このアーストラズ山脈の地は、ドワーフの国を囲う山々よりも険しく標高がある。しかも万年雪が残り、かなり外は寒い。わたし達は浮揚式円盤君から水陸両用型円盤君に改造された円盤君の最新型、浮揚式陸戦車型に乗っている。可変式を採用して飛翔能力や戦闘能力を高めてあるのだ。
わたし達の移動中に関しては、あまり心配していない。主力メンバーも揃っているのもある。
気がかりなのは、逃走している間にロブルタの王妃さまが反乱を起こすかもしれないのよね。
すぐ近くのアガルタ山の農園はすでに何もない状態だった。全てノヴェルの魔本に収めて、ヒュエギアが持ってきたからね。攻め込まれても罠だらけな上に、奪うものは何もないもぬけの殻なのだ。
その他の地も万一に備えて留守番は万全にしている。ヘレナのお父さん、ヘルマン卿のいるルエリア領には、蠍人の呪術戦士サルガスとシャウラを新たに呼び覚まし、防衛についてもらっていた。
ロムゥリの新都やプロウトの港町にはアミュラさんやリドルカ女傑がいる。元シンマや対蠍人に使った防衛施設を改良して守りを固めてくれているはず。
吸血魔戦隊も、ルエリア、プロウト、ロムゥリに配備し、隊長達には魔晶石による対地上用風樽君を持たせている。ぬっふっふ〜、これは辛苦砲弾や火竜砲弾の弾薬を変換するだけで良いから、相手によって切り替えしやすいのよ。
「僕の魔銃の方が素晴らしいぞ」
はいはい。先輩の魔銃は、常に最先端の武装だものね。弾薬や魔力は自動補填式。利き手用には、ボタン一つで切り替え機能が付いている。わたしが作ったのに、何故か勝ち誇る先輩。
「先輩の武装の試作性能を実戦で試して来てくれた、あの預かり娘のおかげよね」
魔女さんに会わせるまで女王樣方並みに扱って、守らないといけない人物がまた増えた。まったく、どうして錬生術師のわたしが護衛やら都市の防衛やらを考えて配備しないといけないのよ。
「君が何でもかんでも関わって必要性を示すからだろう。せいぜい僕の為に頑張りたまえよ」
この先輩め、図太さが増しすぎよ。仲間以外には、英雄面をかますので誤解しがちだけど、本質はコレよ。全部丸投げ。アマテルが懐く訳よね。
浮揚式陸戦車型は空中浮揚しながら進むので、基本静かだ。魔力反応も微弱なので、ヘレナやヤムゥリ樣の兎耳のように特殊な探知能力でないと、小動物と誤認する。
そろそろ帝都の裏山にあたる部分に到着する。ひとまず侵入口を作って来てもらおうと思ったのだ。
「ヘレナ、フレミールを起こして来て頂戴」
火竜の兎武装に身を包むヘレナに寝室で惰眠をむさぼるフレミールを呼んでもらう。戦闘警戒中ではあるけれど、哨戒中の者以外は強制的に休ませていた。
戦車型とはいっても円盤君と中は変わらない。ノヴェルの魔本棚が常設されていて、いつでも飛び出してこれる。寝室は以前と違い、大浴場付きの高級宿屋みたいになっていた。
アガルタ農園を引き上げたので、バステトの眷属もいるからだ。十数名はロムゥリの農園へ向かわせ、警護と手伝いをしてもらっている。
よく働くので狂人より役に立っているのよね。
「そういう軽口を叩くと起きて来て面倒になるから黙っておきたまえよ」
そうなのよ。あの狂人は共感聴力でも持っているのってくらい音に敏感なのよね。
「ワレもオマエの悪口には敏感じゃからな」
わざわざ呼び起こしたので、何かあると察して機嫌の悪いフレミール。
「偵察と、あっちの様子を見がてら陽動をしてもらいたいだけよ」
偵察だけならルーネやブリオネに任せられるんだけど、陽動ならフレミールの火竜の大咆哮が必要だ。
「むっ、そういう事なら考えてもいいぞ」
頼るとデレてチョロくなる癖を、直させた方がいいわね。まあ今回は助かるからいいけど。
「邪竜が潜んでいる噂もあるから、一撃だけお願いするわね。城壁をぶっ壊して撤収して来ていいから」
わたしの言いたい事に、フレミールも納得した様子だった。情報源が魔女さんで確信はないのよね。主戦闘は【星竜の翼】に任せて、わたし達は陽動と嫌がらせに精を出せばいい。
もし情報の伝承が本当ならば火竜級の出現には反応すると思うのよね。
フレミールが勇ましい火竜の姿になって飛んでゆく。あの火竜、炎の属性なのに雪山の寒さは平気なのかしら。標高もあるので寒いのよね、ここ。
なんだかんだ火竜はドラゴンなんだなって思う。天然の耐熱ボディのお陰で見た目より寒暖差に強いみたいだ。
勇姿を見せてやるぞ、そう息巻いていたけれど山中から麓近くの帝都の裏まで、まだかなりの距離がある。森の木々も邪魔しているから、火竜の活躍なんて見えないし興味ないのよ。
そんな事よりも引き起こされるであろう結果を知りたい。無人の浮揚式鉢植君をフレミールに帯同させて、偵察を行う。邪竜をはじめ防衛がしっかりしていて、こちらに向かって来るようならば逃げるつもりもあったから、偵察部隊も出さなかった。
「あの言い方だと、自分が囮の釣り針の餌だと思わないのだな。つくづく君は鬼畜だよ」
あっ、先輩が引いた。そんな事言っても、フレミールしか適任者いないもの。あの娘は自分の活躍ぶりを忘れているみたいだけど、帝国側の首脳陣なら火竜がロブルタの守護竜って認識しているはずだからね。
城壁どうこうは、どう転がるのかわからないから、侵入口でもあり、脱出口にしておきたいだけ。やれるものなら数箇所壊したいものだわ。ただ、もし邪竜がいたのなら、フレミールが危ない。
無駄に魔力を消耗させないための宣戦布告の一撃をかませれば充分だった。
フレミールの火竜ブレスで、帝都民はさぞ肝を冷やしたことだろう。混乱の様子が浮揚式鉢植君の魔力映写器から伝わって来る。どうせなら最大火力で宮殿の皇帝ごと焼き尽くしてしまえば良かったけれど、流石に宮殿には魔法の防御結界が組まれていて一撃では壊すまでいかなそうだった。
「あっ、不味いわ。フレミール、急いで撤退!」
魔力の塊が、宮殿裏の広場らしき所から魔法の煙のように立ち昇るのが分かった。
「あれは収容型のダンジョンね。あんなデカいの見えなかったもの」
ノヴェルの魔本と原理が同じだ。あちらはデカいままでも出入りが可能なように邪竜の身体と門に転移の魔法がかけられていた。
四十Mを越えるフレミールの巨体より三回りは大きく、頭が七つあるヒドラと魔竜の混じったような魔物だった。
フレミールの美声君から泣き言が聞こえるけれど、速度は貴女の方が速いから早く戻って来なさいと伝えておいた。
邪竜の姿を見た時、先輩がブルッと震えた。何か悪寒と言うのか、よくない気配を感じたようだ。
わたしはヘレナとルーネとアマテルに先輩を囲ませて操縦席から離れさせた。あの邪竜はフレミールよりも、離れた所で乗り物に隠れていた先輩をみているのがわかった。




