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第二十五話 偶然の一致

「生き返らせてまでして、逃がしちゃって良かったの?」


 帝都ロズワースへ向かう街道からはずれて、水場のある小さな森で野営を行う。ずっと疑問だったのかハープが尋ねてきた。


「まあ、良くはないね。気が変わるかもしれないし。ただアケルナルの本質はエリダヌス神で、恨まれると偽神(オリン)より厄介な祟神になるかもしれないからね」


 恩を着せる形で生き返らせたのは、遺骸を回収していたのを見たからだ。冷酷に見えるけれど、本当に大切な者達だったのだろう。そうでなければ、わざわざ遺体まで集めない。ヘケト達が人質になり得ると思ったのも、その姿を見たためだった。


 本格的にやり合えば、勝つのはレガトだ。彼女は母レーナやユグドールより強いだろうけれど、レガトには及ばないと悟ったのだろう。


「対外的に見ても、人質を取られたから撤退せざるを得なくなった、と言う感じで通すはずだよ」


 滅ぶ国での立場など失っても構わないのだと思うけれど、関わった者として行方を見守りたいようだ。


「レガトの強さがおかしいのだけは良くわかったよ」


 仲間達のレガトへの感想は、ハープのその一言に詰まっていた。


「それにお土産も必要だからね」


 レガトは自分の収納から赤い色の液体と、何やら輝く靄の入った小瓶を取り出した。


「なにソレ? 血?」


「血と魂だね。結界はこのためにも必要だったのさ」


 合流する事になる娘は金塊と魂に成分とやらを見せると、素直になると聞いていた。アケルナルのものや、アッカドなどは特に欲しがるはずだ。


「それにヘケトとラナもいるからね」


 ある程度のものは造り出せるようなので、ヘケト達の能力は凄く欲しくなるはずだ。造れても造れるだけ。彼女の能力では足りないのはわかっていた。


「なんかとんでもない事になりそうだけど······」


 ハープはそれ以上は聞くのを止めておこうと思ったようだ。レガトがよからぬ悪巧みを考える時は、長い付き合いでわかるからだ。


 ロズワースの都が近づいて来ると、街道も馬車が通るために踏み固めただけの名ばかりの道と違い、砂利が敷かれたり、平たい石を敷いたり、道幅が広がったりしていた。

 宿場町も地方と違って、宿屋は高級宿に、娼館、娯楽施設や常設の露店も数が増える。

 地域の農村も都やこのあたりの街の人々を支えるためか、大きな農場も多かった。


 巡回する警備兵の小隊と何度かすれ違った。旅の冒険者を装う一行に誰何し、止めるものはいなかった。


「静か過ぎるわね」


 シャリアーナが街の喧騒を見ながらそう呟く。もちろん街中は騒がしい。物売りの張り上げる声、地方から来た旅人と、地元の当たり屋の喧嘩、ご近所の秘密の噂話しを大きな地声で喋る女達と、にぎやかな事この上ない。

 彼女の言う静か、というのは自分達に向けられるはずの騒動がない事を言っていた。


 レガトは魔法による監視の目に気づいていた。街の人々や農村の村人達には呪いは掛かっていない。反乱などの不穏な空気を感じない限りは、傷害沙汰があろうと放置しているように見えた。

 今はレガト達に注視している。レガトも戦いは避けつつ、山中を移動するロブルタの陽動隊に注意がいかないようにあえて気配は隠さず目立っていた。


「さすがにお出迎えが来たようだね」


 帝都ロズワースから戦闘馬に乗る軍団が出撃して来る。さすがに帝都の中心地まで入れる気はないらしい。


「ちょうど、近隣の街や村と、帝都の城塞の間に囲える形になるのか」


 本来敵が来るとするならば軍隊や魔物の集団を想定するものなので、包囲網を敷く前に、各街や村で戦端は開かれていただろう。レガト達が略奪し、帝都民は皆殺しにするような者なら、防衛線はもっと前に敷かれていたのかもしれない。


「うまいこと、彼らが伝えてくれたようね」


 シャリアーナも同じ見立てをして、戦闘の準備をする。呑気に見えるけれど、すでにファウダーを中心に円陣を組んでいた。個々に結界を張るのとは別に、円形の全体防護膜を展開するためだ。


「アナート、ヘケトとラナをノーラ達と一緒に守ってくれ」


「いいわヨ。ノーラ、貴女はファウダーの前を、ヘケトとラナはファウダーの後ろにいなさいな。後の子は左右に付きなさいネ」


 レガトに頼まれ、アナートはファウダーを囲う小さな円陣をつくり、彼らの背につく。


「ハープ、スーリヤは左手側を、ホープとメニーは右手側の支援を任せる。正面はシャリアーナとリグ、君たちに頼むよ」


 魔法使いのイルミアと弓を使うリモニカを遊撃に回す。レガトは一番後ろにつく。囲まれることが前提条件の中で、前進するとなるとアナートやレガトの位置は難しくなる。


「攻撃がなかったかわりに、情報は漏れているだろうから、各自結界をあてにし過ぎないように」


 黒い鎧に身を纏った騎士隊が、レガト達の円陣へと殺到する。飛び道具はない。魔法で最大強化を施して、無理やり陣形をぶち破るつもりなのだ。


「いや、違うな。これは味方ごと撃ち込むつもりだ」


 自爆に近いかもしれない。ファウダーの強力な結界を破るために、半端な魔法は効かないと情報が伝わったのだろう。呪いの騎士達を人柱の指標にして魔法陣が展開される。


「人質ごとやる気のようネ」


 アケルナル達が裏切ったと、命令者は判断したのだろう。裏切りもの同士、信頼関係は始めからなかったとも言えた。


 押し寄せる黒き呪いの騎士達を倒しても死んだまま貼り付くようについてくる。結界を呪詛で穢し尽くすまで止まらず、破れた穴に騎士ごと撃ち抜くように、魔法が放たれた。塞がれても騎士の呪詛が飛び散り結界を弱める。


「いやな攻撃ね。倒しても攻撃の手段に使われるなんて」


 戦闘馬ごと吹っ飛ばすメニーニの戦いならば問題ないように見えた。それでも死んだ馬や騎士が結界へ吸い付くように寄ってくるのだ。浄化と呪詛の戦いになって、さすがにファウダーも苛立ちを隠せない。


「スーリヤ、聖炎を纏わせて僕にくれ」


 騎士達の唸り声で騒がしいけれど、侵入を防ぐ円形防護結界の中は声が通る。スーリヤは目前の敵を屠るとレガトへ炎を放つ。


「ファウダー、結界に魔法耐性と聖炎を加える。君は浄化に力を注いでくれ」


 特攻をかける力押しに対して、レガトはあえてそれを許して、ぶつけさせる。騎士達は結界に触れた瞬間に浄化を強化された炎に巻かれて、呪いの力から解放された。


 意識を取り戻し混乱する騎士達と、特攻して来る騎士達が交差し、ローディス帝国軍は大混乱になってゆく。

 呪詛による結界のほつれを魔法の狙撃で撃ち込んでいた魔導隊もどうしていいかわからない様子だ。正気を取り戻した邪魔な騎士達を排除するかのように、同士討ちを始めた。


「めちゃくちゃになってるけど、これで抜けられそうね」


 リグと共に敵を斬り伏せていたシャリアーナが、敵部隊の乱れと、追加の部隊のない事を確認した。



「何なのだ、あいつらは。三万の呪騎兵を投入し、結界を破ったというのに」


 レガト達を包囲するのは、ローディス帝国の第一皇子ウシルス率いる三万の軍だ。神官ヌビアスの邪法により、呪いの騎士となり、戦いは優勢に進んだはずだった。

 こんなにも早く冒険者パーティーの一行が迫っていようとは思っていなかった。指揮官として南方を任された以上、帝都に入られてはウシルスの失態となる。街や村を通させたのも、そんな所まで入りこまれたウシルスの責任となる。


「我が方に被害の出ないように、拓けた土地にまで誘い出したはいいが······」


 皇子の脳内では既に作戦で、あえて彼らを死地にまで泳がせた事に切り替わっていた。無駄な消耗を避け、確実に敵を圧殺するしかない。

 このままでは皇太子の座につき、軍を率いて速攻ロブルタ方面へ向かった勇猛果敢な弟に比べてグズで無能と判断され兼ねないからだ。


 ウシルスが運が良いのは、レガト達をこの地で補足出来た事、アケルナルから情報を得られたことだろう。守備隊のアッカドやアケルナル達がもっと奮戦していれば、焦る事なく始末出来たと彼は思っていた。

 本来なら罰するべきだったが、人質の娘達がいる事を聞きウシルスは彼女らを一緒に始末する事で罰としようと考えたのだ。


 レガト達の推測とは少しズレた。レガト達側の思考と、ウシルスの行動がたまたま噛み合ったようだ。また、ウシルスの運の良さは、ロブルタに向かった皇太子セティウスの軍が肩透かしにあったことだろう。

 捕えるべき対象を見失ったばかりか、帝都に侵入を許すことになるのだが、あくまで勝って生きて戻れた時の話しだった。

 


 


 

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