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第二十四話 魔王の正体

 レガトの魔力に拘束され、アッカド達やアケルナル達が焦る。動けない、破れない。それは魔力も能力もレガトという青年が自分達を上回る存在だという事になる。すでにドゥムジの他、海人族のラーンとエーギルが女剣士により斬り裂かれ重傷だ。


 こちらは戦いにまだ不慣れそうなヤメネとエメロという少女達を倒しただけだ。怪我を負ったが、こちらと違い完全に意識は失っていない。


 アッカドとアケルナルはレガトに対して二人がかりで掛かっていた。魔力が使えないので槍と剣。ただ、魔力頼りの攻撃ばかりしていたせいか、身体が言うことを聞かない。それに、レガトの剣技は二人を相手にしても余裕のようで三人いても勝てるかどうかだった。


 レガト達は、スーリヤとリモニカそれにメニーニとアナートと、魔力なしでの戦いでも技量や速さや力のあるものがいた。ハープやホープにリグも、元々は魔法を使えなかったので、魔力制限を苦にした様子はない。紋様持ちの英雄達は、自分達の絶対的な優位をこんな形で封じられると思っていなかったのが敗因だろう。


「冗談じゃない。俺がこんな形で負けるものか」


 吠えたのはアナートがはじめの方に相手をしていたアギラトだ。黒鰐の戦士だろうか。切り札の獣化でも使う気なのか対峙するハープを強引に弾き力を溜める仕草をする。

 でも無駄だった。レガトの魔力を超える魔力を放出するならともかく、キレて暴れようとも力量差は覆せない。


魔王(ぼく)からは逃げられない、なんてね」


 レガトの中で言ってみたかった異界人の書いた童話の言葉だ。昔はよくわからなかったけれど、今は魔王が異界の徒によってどう歪められたか知っている。


 罠に嵌めて蹴散らすつもりが強力な結界魔法により魔力を封じられ、力を発揮出来ないまま倒されてゆく。アギラトがアナートにより大斧で真っ二つにされた所で、アッカドは逃走を促す。とにかく結界から逃れれば、魔力の弱い連中から潰し、レガト達を数の優位で包み込めば勝てると考えたようだ。


「紋様には種類があるんだよ。母さんのように、魔法に対して適性を示すものが魔王紋というわけだけど······」


 一つでも魔王紋があれば、魔王となるようだ。決めたのが異界の教徒達だった。紋様持ちの中でも、魔王紋持ちは悪い魔王になるから殺せって教義を作って、攫ったり殺したりしていた。


 レーナやレガトに取っては迷惑な話しだった。結局の所、魔王紋様持ちは赤子の頃から魔力も潜在能力も高い。勇者を呼び出す素体としても有用だったんじゃないか、それがレガトの見解だ。


「あの娘と、この件について意見のすり合わせしたい所だよ。アケルナル、貴女はエリダヌス神の御霊を紋様と化した、この世界の魔王と言われる存在なのだろう」


「······さあね」


 悪意あるもの偽神(オリン)の最悪の嫌がらせ。かつて世界が崩壊しかけた時に、神々の多くは逃げ出した。エリダヌス神は神柱となって世界を支えた一人だと言われている。

 バアルトとアナートのおかげで、失われた神話をレガトは耳にすることが出来た。それに魂を欲する娘のおかげで、当時の様子を知り、真実に気付かされた。


「遊びは終わりにするよ」


 レガトとアケルナル、どっちが吐き出した言葉なのか、急速に戦場に魔法とは違う重たい圧力がかかる。

 戦い慣れた戦士達の殺気と死ぬ気。覚悟に呑まれたコノークが深傷を負い倒れる。アケルナルが自身が斬られるのも構わず突撃をかけたためだ。


「タンキ、ファウダーの所まで下がれ」


 乱戦の中でも、ファウダーにはリモニカ、先に傷を負ったヤメネとエメロが控えていた。リモニカはハーピルスの額を矢で貫き、ファウダーを守りながら仲間達のフォローに回る。


 アケルナルのやり方を見て、アッカドもハープ達を無視してシャリアーナに迫った。魔力も紋様も封じられているというのに強い。シャリアーナを守るリグの大剣を弾き、体当たりをかます。剣を弾かれバランスを崩したリグを無視してアッカドは槍で刺突を試みた。


 シャリアーナと対峙するゲシュナーが、彼女の動きを止めようと連携するのを冷静に対応する。抑えこまれた振りをして、槍の穂先が迫る瞬間にギリギリで力を抜き体勢を入れ替える。


 アッカドの槍は味方のゲシュナーを貫く。シャリアーナは動揺の隙を逃さずアッカドに一太刀浴びせた。


「連携は彼らの方が上だね」


 局所的な戦いや個人技はレガト達が勝っている。全体的な連携力はアッカド達の方が上手(うわて)だった。魔力が封じられた事で、戦い慣れていない形になったものの、やはりこの連中は強い。年季が違うなと、レガトは感心した。


「全員集れ」


 アッカドの負傷を見てアケルナルが死傷者を抱えながら、自分のもとに全員集めた。レガト達も負傷者のいるファウダーのもとに集まった。


 対峙する集団。レガトとファウダーのつくる結界がある以上、アケルナル達は逃げる事は出来ない。


「呪縛の効果が消えている。これは混沌の巫女の仕業か」


 アケルナルはようやくレガトの意図に気がついた。レガトの仲間達もそれは同じだ。紋様持ちとの差を埋めるために魔力を封じる他に、呪いの浄化の意図があった。


「|呪縛があると復活するし面倒だからさ。それに呪縛(それ)は枷にしかならない」


 力を引き出すためでもある呪縛は、召喚された勇者達のように、紋様もどきによる実力以上の能力が保証される。しかし、アケルナルやアッカド達のように元からの紋様持ちには、本来の力を弱めてしまうまさに枷にしかならない。


「気づいたんだろう、魔力を完封したわけじゃないって。浄化の力で呪縛が解けて、本来の実力で戦えるってさ」


「あぁ、ついさっきな。アッカドは失敗したが、それは皇女の研鑽の賜物。それにお前が未だ本気じゃないこともわかった」


 レガトとアケルナルの会話に、どちらの仲間達も戸惑う。死闘を繰り広げた相手が互いに本当の実力を出し切っていない事に、互いに驚愕していた。


「このままやり合うのなら、この地は焦土と化すだろう。それでもこちらは構わないが」


 とても守る側の言葉とは思えないけれど、敵を討つためならば、被害の度合いなど二の次だと考えるのが軍人だ。例外はあるものの、アケルナル達は典型的な軍人思考を植えつけられてきた。戦いを止めただけでも、自由な意思が介在しているのがわかった。


 ある意味、脅しでもある。自由になった感謝と立場の差違は別のものだと示唆しているようなものだった。


「人質を出してもらうよ。その蛙人の二人をね」


 ヘケトとラナの二人がビクッとした。自分の所の魔王よりも、新たな魔王の方がヤバそうなのを本能で感じ取ったようだ。


「対価はなんだ」


「もう与えた。傷は自分達で回復出来るだろうから」


 スーリヤに斬り裂かれたものや、リモニカに貫かれたものが死の淵から蘇った。


「いいだろう。我々は退く。ヘケト、ラナンキュラ、お前達は彼らとゆけ」


 アケルナルはあっさり承諾した。蛙人達はエッ、本当に? とびっくり顔をして呆けている。


「我々はこのまま高みの見物とさせてもらうとしよう」


 それはこの戦いに、アケルナル達が関わる気のないと言う宣言だ。結果としてローディス帝国が滅ぼうと、彼らは関知する気はないようだった。


 結界を展開しながらレガト達は街の外へ出て、ローディス帝国の帝都に向った。


「よし、これで無駄な戦いは避けられたね」


 だいぶ歩いて先に進んでからレガトが皆に聞こえるように言った。全員足が止まる。リモニカやスーリヤは呆れながら結果的には時間の省略出来たので無言だ。大きくため息をついたのはシャリアーナだ。レガトへの突っ込み待ちを期待され、レガトを叱る。


 新たに加わった蛙人のヘケトとラナンキュラは、ファウダーの側をトテトテ歩きながら、不思議そうに一行を見ている。人質にされたのがわかっているのかいないのか、すでに馴染んでいるようにも見える。


「あんなガチの戦闘集団の中に、よくずっといたよね」


 場違い感が凄い。ただ、それでも戦力としては優秀なので一緒に置かれてた感じだった。なにはともあれ大きな戦闘は避け、時間はだいぶ節約したと思う。


 重傷を負ったコノーク達は未熟さを嘆くばかりで、回復したばかりなのに次こそはと息まいていた。タンキに早々に離脱したヤメネやエメロも同様だ。ハープたちも、魔力抜きでの実力差を身を持って知ってか内心メラメラと滾っていた。


 レガトのほくそ笑む様子を見て、リモニカが誰にも聞こえないくらいの小声で呟いた。真の魔王はここにいるのに、と。

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