第二十話 進軍する巨牛の軍団
冒険者パーティーを率いていた女商人リエラは涙目になりながら撤退を指示していた。【神謀の竜喚師】の契約した召喚人によるパーティは強力だったのだが、ローディス帝国は巨人の秘薬を持ち出し、二十M程の巨大化牛人の大群と、二十五Mはある兇暴なる天牛の群れ、二十M級の黒魔の原牛の群れ、十Mもあるタウロスデーモンの集団が一斉に襲い掛かって来た。
それぞれ戦って勝てない相手ではないものの数が多すぎて、捌けない。特に牛系の魔物はタフだ。兇暴なる天牛に跨がるタウロスデーモンにより魔法の強化を得て、回復まで行うとなると、さすがの金級冒険者集団でも犠牲を覚悟の討伐になる。
「ぐぬぬ、あんなの魔物の群れの大暴走より厄介じゃない」
リエラは全員を上空へと逃がし、悔しそうに歯噛みする。飛べない相手で助かったものの、怒りを発した猛牛の群れは、北東へ向かって走り続けた。
「いいのかい。あれ、放っておくとドワーフ共の国へ行くぞ」
冒険者パーティーの副リーダーを務めるティフェネトが、巨大な砂埃と地響きを残して遠ざかる狂牛の群れを指で差した。
「ドラーグ洞窟王国でしょ。あれらが穴蔵に入り込めるわけないから放置で良いと言いたいところだけれど、万一ロブルタ方面に向かうとまずい」
「変態」と冠せられていても、商人としても冒険者としても金級のリエラは、優秀な頭脳を持つ。今更ローディス帝国がドワーフ達に興味を持つはずがなく、彼らの潜む砦を潰したあとはロブルタ方向に流れて行く可能性は高かった。
「操っているタウロスデーモンは、帝国の召喚術師が使役しているはず。まず先にタウロスデーモンを潰すわ」
リエラはそう言って真っ先に上空から、巨大な猛牛達の群れの頭を抑えにかかる。レーナから貰い受けた空飛ぶ戦艦は巨大な牛人達より移動は早い。
「アウドーラ、グロン、貴方達は船を頼むわ。他は皆上空から突撃、行くよ!」
どこぞの戦いの時と同様に、冒険者達が獲物を捉えると、上空からそのまま降下した。リエラを始め、バアルト、ティフェネトといった冒険者達は頭は間違いなく良いのだが、即断即決の脳筋で当たって砕ける性質を持つ。彼女達の召喚主として登録をしているカルジアでは制御不能だ。彼らのが言うことを聞くのはレーナ、そして真の主たるレガトだけだ。
冒険者パーティーのリーダーを務めているけれど、リエラの命令も無視するのだが、こうした無謀な作戦には躊躇わずに聞いてくれるのだった。
猛牛達は、上空に逃げた冒険者達を無視して突進し続ける。リエラは、巨人の秘薬は効果は一日程度と見ていた。召喚術師が化け物級だとしてもタウロスデーモンを複数呼び出して、操り続けるのは骨が折れるものだ。
「あっちが時間を稼ぐつもりなら、こっちも時間を稼がせてもらう。タウロスデーモンを始末したら、獲物狩りは各自に任せる」
通常よりでかいし魔力も豊富なタウロスデーモン達でも、上空から速度を活かした落下攻撃は防ぐのが難しかったようだ。リエラにバアルト、ティフェネトが続き、ダラクやスパーデスによりタウロスデーモンは次々に屠られてゆく。巨大な牛人達は止まらないものの、巨大な魔牛達は制御が止まり足が鈍った。
「レガトに良い土産なるね。牛人は無視して、魔牛は全部狩る。競争よ」
リエラの言葉で冒険者達が目の色を変えた。それぞれ五十頭ずついると思われる魔牛が、同属のライバル相手に興奮して同士討ちを始め、巨大な牛人も交えて酷い乱戦になった。精神異常をもたらしたのはバアルトとダラクの魔法だ。一度、タウロスデーモンから命令を受けていたせいでデカくても魔法が効きやすかったようだ。
勝つことは出来た。けれど巨大な牛人達は抑えきれず、ドワーフは国境の丘の鳥で町を壊された。命令が予め仕組まれていたのか、巨大な牛人達はドワーフ達の国に攻め込む事なくロブルタ方面に向かって走り出し、薬の効果が消えた。
「魔牛は魔法の効きが良いだけあって、持続しているみたいね」
仕方なく、リエラは時間をかけて魔牛討伐に動く。町を潰されたドワーフ達は邪魔になるのでアウドーラに一時的に戦艦で回収させた。
「グロンはレガトに伝言を。援軍が欲しいと伝えて」
次にまた同じ攻撃をされた時に、リエラは今の戦力では厳しいと判断した。レーナに頼るのは気が引けるけれど、手遅れになるよりいいだろうと考えたことだ。それに罰せられたとしても、リエラに取っては御褒美なので何も問題はなかった。
レガトからの伝声魔法の連絡が入り、援軍はレーナやアリルそれにカルジアが来るようだった。その他に、【龍帝の旗】 の銀級冒険者「影使い」 召喚剣士ミュリオに、同じく銀級冒険者「癒やしの弓」 ティティルがメンバーに加わっている。【龍帝】 クランリーダーのゼルアスから、金級へ上がるために腕を磨いて来るように言われたとの言葉だった。しかし、それは建前で脅されたのだとわかっていた。
「ちょうど良いからドワーフの国へ行きましょう。彼らもかつて偽神に踊らされ、同胞を滅ぼすのに加担してしまった悔いがあるはずだからね」
レガトのいない所では、相変わらずレーナは自分勝手に話しを進めて、ドワーフ達を連れて行ってしまう。戦闘の疲れを癒やす間もなく、リエラ達は素材の回収を急ぐ。巨大な魔牛の素材回収に時間がかかる。慣れている彼女達でこれだ。リエラは嫌だったけれどレーナに時間が欲しいと泣きついた。
レーナは仕方なく戻ってきた。そして倒した魔牛を、次々に収納へと丸ごと仕舞ってゆく。全部回収が終わると、リエラもその収納の中へと放りこまれた。移動している間に解体を済ませておけと、リエラの脳内にレーナの声が届いた。
「あの······私一人でこれ全部?」
ただでさえ巨大な魔牛だ。それが合わせて百体以上ある。
「その中は時間気にしなくて良いわ。だから時間は好きに使っていいわよ」
はぁぁ、さすがは鬼畜王のレーナ様。私が大事過ぎて、駕籠の中に入れて愛でる来なのね。リエラの妄想は止まらない。そうやって自分を壊して浸っていないと、時の檻にいるのは危険なのだ。
「忘却······まじで忘れられたら死んじゃうからね?」
レーナへ向けて伝心を飛ばしたものの連絡はなかった。通り名が通り名なのでリエラは不安だった。作業の大半は魔法を使って、猛然した速さで終わらせた。急がないとレーナは素で忘れると思うからだ。
時の檻はそういう仕組みのものでもある。多分、バアルト達の囚われていたダンジョンがそれに当たる。同じダンジョンでも、ダンジョンを作るものによって違いがあるようで、そういう場所では時計が役に立たない。
リエラは何とか忘れ去られる前に、レーナに自分の事を思い出してもらい、魔法牛の解体作業場から脱出することが出来た。
「とりあえずおかわりが来るだろうから、それまでドワーフの所で待つわよ」
ローディス帝国はリエラ達冒険者パーティーが手強いと見て、とことん時間を稼ぐために、手札を用いたゴリ押しを進めてきた。
ただ、同じ化け物でも【不死者殺しの剣聖】 は格が違う。英雄級冒険者アリルの前に立ちはだかる巨大な牛人全てが、一刀両断に斬り裂かれたのだった。
そして【双炎の魔女】 レーナも同様に、魔力操作で巨大な牛人自身の魔力を操り、巨人の秘薬の効果を吸い出し無効化していた。
助っ人として無理やり仲間に組み込まれ連れて来られた、ミュリオにティティルは、何も出来ずにカルジアとアワアワするしかなかった。
閑話的な形で、ローディス帝国の皇室、ロブルタ王国の女王と錬金生師達、冒険者パーティーとレーナ達の様子を物語の中に加えてあります。




