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第二話 クラン再編、ついて回る金欠病

 ラクベクト辺境伯の領地はインベンクド帝国の北西部、グローデン山脈の麓にある。領都ラグーンを中心に、今や北方の交易路を開拓した山の中の商業都市となっていた。


 帝国へ注ぐ三つの大河の源流と、辺境伯が独自に友好を結んだノルデン王国とケルテ国との交易、三大河のノルディス川を利用した都市国家群との交易、商業的な価値を数え上げればキリがない。


 全てがトールドの砦町の、商業ギルドのギルドマスターである女商人リエラの、精力的な活動によるものだと言われている。

 そして【星竜の翼】というラグーンの新興クランが、彼女の活躍の支えになっていたとも。


 クランの盟主であるレガトという人物が、少年時代にパーティーを結成し、クランを作り上げて帝国の動乱に関わり、救いをもたらした数々の話しは意外と知られていない。


 メンバーの活躍の華々しさに隠れて地味で目立たないのもあるが、当の本人が人目を避けている風でもあった。彼の方針は徹底している。


 その最たるものが英雄級と認められた【不死者殺しの剣聖】アリルであり、インベンクド帝国皇女シャリアーナだろう。


 シャリアーナの躍進ぶりは帝国西部ではとくに有名だ。公女時代にレガトのパーティーに加わり、新ダンジョンを発見した逸話はすでに帝国中に知れ渡っているくらいだ。シャリアーナはアリルと並び、生ける伝説の一人に数えられている。


 女商人リエラも今後はその名を世に知らしめる事になる。さらに【双炎の魔女】 レーナや、【神謀の竜喚師】カルジアなど秘めた能力と階級が釣りあっていないメンバーまで抱えていた。


 そうした仲間たちを集めまとめ上げているのが、二十歳になったレガトという人間なわけだが、いまは雷のようにやかましい皇女の来襲に頭をかかえていた。



「アミュラが引き抜かれたって、どういうことよレガト。説明して頂戴」


 偉くなってもこの娘は変わらないなと思った。シャリアーナは皇女になっても、偉ぶらない。むしろ、いつも公務を投げ出して来てベネーレ様に怒られている。たぶん今日もアミュラの話しを聞いて飛び出して来たはずだ。


 無責任と言われると思うが、シャリアーナの場合は別だ。旧都インベキアの領主になり、最初の演説で仲間の危機や要請があれば一冒険者として駆けつける事を明言したからだ。


 さらに、仲間とインベキアの民のどちらも危機が訪れたのなら、迷わず仲間を取るとも。そんなふざけた領主を許せないと思うならば、旧都を出ていって構わないと断言したのだ。


 旧都インベキアの民はこれを喝采して受け入れた。なんというか魅力(カリスマ)ってこういう人を言うんだとわかったよ。迷わず見捨てるって断言してるのに喜ぶとか僕にはわからない思考だった。


 まあ元はと言えば、資金欲しさに彼女を旧都に押し付けた、僕に怒っていたせいもある。少し言い訳をさせてもらうと、シャリアーナは成り上がりを望んでいた。


 皇女になった事や旧都インベキアを得たことで、父親のロズベクト公爵や兄ラクト辺境伯を超える身分になって喜ぶと思ったんだよ。


 実際はめちゃくちゃキレて泣かれた。皇女として、偽神(オリン)のような末路を歩みたくないと。


「たまにレガトが鈍いから、アミュラに愛想を尽かされるのよ」


 それは自覚している。アミュラはリエラに対抗意識を燃やしていた。ちょっと思考がおかしい女性だけどリエラは商人としても外交官としても優秀だからね。


「アミュラの気持ちは気づいていたからこそ、僕にも止められないんだよ」


 命令すれば、アミュラは素直に戻って来る。今もなお【星竜の翼】 に籍を置いているのも、今後を考えてくれているからだと思う。


「自分に足りないものを、アミュラ自身が良くわかってのことさ。問題は彼女の抜けた穴が大きいことなんだよね」


 理知的なシャリアーナでさえ、この激情っぷりだ。夜通し駆けてペガサス君が泣いていたので、サトヤが懸命に介抱している。心当たりを母さんに伝えて、連れて来てもらうしかないかな。


「そんなのわかってるわよ。いったい誰がどこでどうやって、口数の少ないアミュラの心を揺り動かしたか知りたいのよ」


 さすがというか、シャリアーナは別の危機感を覚えてやって来てくれたのだ。魅了的なものを含めて警戒している。


「それについては母さんが詳しい。アイツラも関わっているからややこしいんだよ」


 アイツラとは僕らがカルジア一派と呼ぶ召喚された者たちの事だ。一応主人はカルジアのはずなんだけど、ほぼ主をそっちのけで行動している困った連中だ。


 悪意あるものの残滓と、繋がりのある敵をあぶり出し、叩くように伝えてある。母さんが最終的に監督していたはずだったのに、入ってくる報告がおかしくなった所でアミュラの件になった。


 僕の声が聞こえたのか、クランの執務室に母さんが入って来た。書類仕事は何もシャリアーナだけじゃない。っていうかアミュラが抜けたせいでミラさんとヒルテだけで仕事が回せず、僕の所へ大量の書類が舞い込んだのだ。


「人材を増やそうと思って育てていたのよ。そうしたら案外たくましく育っちゃったわ」


 無計画な隙を突かれたと、諦観の目で笑う母さん。連絡を聞いていたのにも関わらず、シャリアーナも頭が痛そうに額に手をやる。なんかごめんよと、僕が謝る羽目になる。母さんがミスしたというよりも、その娘が有能過ぎるのかもしれない。


 なんせ容赦ない母さんの過酷な要求にも耐えて、アミュラが動いたくらいだからね。商人として、器を磨くならココって感じたのかもしれない。長い付き合いだから、僕だってそれくらいわかるよ。


「あぁ、例の娘。リエラの話だと、見込み薄いって聞いたけど」


 シャリアーナも話しは聞いて知っていた。その娘は、母さんが僕のお嫁さん候補と実際に子供が出来たらどうなるか作戦で生み出した娘だ。


「力は皆無、基本魔力はカルジアの半分以下。その辺りの魔法使いより少しマシ程度なのは間違いないわよ」


 女商人リエラの見立ては正しい。ただ頭脳というか、精神性は別だ。あの娘は僕とカルジアの因子を受け継ぎ母さんが宝石人(ジェリド)の魂と融合させた生命融合体だ。


「ねぇ、なんで宝石人(ジェリド)なの?」


 シャリアーナが我にかえり僕を見る。僕が母さんに目をやると、すでに姿を消していた。母さん、逃げたね。


宝石人(ジェリド)って、噂と違っていわゆるダンジョンにいる宝魔ってやつよね」


 倒すとお宝を吐き出すと言う魔物。実際は偽物だったり、ガラクタだったりで冒険者泣かせのたちの悪い魔族だ。性質上お宝好きで、魔晶石化や鉱石化も得意。シャリアーナの目がスゥッと細まる。


「金でも造らせようと思ったんでしょ。それで成果はあったの」


 言わなくてもバレバレだね。正確には希少な鉱石が創れるのが大きい。


「アミュラを引き抜くくらいだ。あるわけないというか、ウチより酷い」


 金を生み出す魔物の方が良かったかもしれない。


「何と言ってよいかわからないけど、気の毒な娘ね」


 宝魔の宿命というのか、宝石人(ジェリド)が生存数が少ないのは、惹かれやすいのと、奪われやすいからだ。宝を欲する人の本能を刺激するのかもしれない。カルジアの因子なら尚更だ。


「君のような破天荒な王族の娘がいるようだ。仲間に恵まれているから、苦しいのは今のうちだけさ」


「どうかしら。能力に拠らない才能はあるようだけど、レガトの金運のなさは異常よ」


 痛いところをズバッと突いてきた。クランも大きくなり、ラクベクト辺境伯の新たな街ガウートだって、人が集まり交易による収益は上がり続けている。


 観光名所で休養地であるトロールの駐屯地も、防備が整い訪れる貴族や豪商の数も上がっていた。


 なのに僕の懐事情は寂しい。ユグドールの宝を母さんがこっそり回してくれるので、資金は捻出出来ているけれど、財産なんてあっという間に底をつくものだ。


 僕の因子より、シャリアーナの方が良かったかもしれない。僕と同じ事を考えたのか、母さんが戻って来た。手には空の瓶の容器がある。


「良いところに帰って来てくれたわよね。さあ、これに貴女の成分をいただくわよ」


 母さんがおかしな事を言い出した。成分てなんだ?


「レガト、シャリアーナはわたしが説得しておくわ。変態(リエラ)から要請が届いたから、あなたは援軍の人員を決めておいて頂戴」


 なにやらシャリアーナが、僕に助けを求める声がした気がするけれど気のせいだろう。


 それよりリエラ達が向かっているローディス帝国の動きが気になる。黒の大陸への派遣を考える仕事が増えて、僕はげんなりする。金欠に人手不足に僕は頭を悩ませた。

 


 ガウートの街は古代遺跡のある【ラグーンの熱帯林】を避けるように水路と街道を繋げたグローデン山脈の中腹にある街だ。水路には水馬(ケルピー)を利用した水上馬車が人気になっていて、ラグーンからガウートを経由し、北方のノルデン王国入口まで行ける。


 アミュラから、【星竜の翼】 に向けて、水運を利用したユートピア船計画の概要が送られて来た。インベンクド帝国の旧都インベキアから、ノルデン王国とケルテ国の間を流れるノルグス川を通り外洋へでて、バスティラ王国の聖都エドラまで至るというものだった。


 収益を考えると、【星竜の翼】 としても船だけに便乗したい案だとレガトは了承する。商業ギルドマスターの目玉になる事業を、仲間として支援してやりたい気持ちがあったようだ。


「エディン、エネリーはグリフォン兄弟のグランとグレンに水馬(ケルピー)部隊を連れて、湯覧船計画の支援と、警護を任せるよ」


 北の大陸、エルフの国から仲間に加わった兄妹にアミュラの補佐を任せる事にした。オルティナ、ガリア、マーシャのアリル親衛隊も、引き続き母さんが見守っているロブルタ王国の予備戦力に残した。


 三人にはアミュラの補佐官として、クランの支部も任せる事になる。偽神(オリン)は滅ぼしたものの、長い間に巣食っていた残滓は広範囲に渡り侵食していたのがわかった。


 手間はかかるけれど、一つずつ潰してゆくしかない。レガトが母の失敗を責めないのは、人手不足を現地育ちの英傑に任せる案には彼自身も賛成して頼んだからだ。


 問題は、悪しきもの達に荒らされ荒廃した地域の復興と、そのための資金や食糧だった。アミュラがそうした差配が得意なだけに、引き抜きが痛いのだがレガトはいい機会だと差配を行う。


 いつまでも嘆いてばかりもいられないので、レガトはクランの人材の再編に着手する。まずはアミュラが抜けて、仕事量の増したミラとヒルテの為に事務関連職の増員を行う。


 そこでまずはラグーンの薬師ニーシャに声をかけた。ラグーンの店は薬師ギルドの弟子たちに任せて、会計の補佐に来てもらうためだ。


 実質はミラがガウートの冒険者ギルドのマスターになる。経験豊富なニーシャは精神的にも薬師としても助けになるだろう。


 またエルフの国の騎士だった、エメルダもエルフ兄妹の補佐の為にクラン入りをしてもらった。警護はゴブリンスターク達にも出来るが、指揮官としてエメルダがいると心強いものがあった。


 ラグーンへ来たので、レガトはラクベクト辺境伯の邸に向かい挨拶をする。辺境伯は執務室で仕事中だった。


「新たな水運利用計画の話しは聞いたぞ。ラグーンを経由してくれて、こちらも助かる」


 辺境伯であるラクトは交易だけでなく、観光でも稼げるとあってすぐに開発案を作って動いてくれた。


「アミュラの案にもう一つロドスを加えたいんですよ。ただ人手が足りないもので」


 レガトはアミュラのユートピア船計画なるものに、ロドスを加えて巡回させるつもりでいた。


「それは助かるな。定期船の巡回路として組み込めば交易船を加えた船団に出来るな」


 ロドスを通す事で南の内海とも繫りを保てる。ラクトはさっそくロズベクト公爵に計画書を送る約束をした。


「水運が発展すると、ロモロス馬車組合の収益が落ちますよね。人員の確保は、馬車組合から優先して欲しいのですよね」


 内陸の輸送にはロモロス馬車組合がまだまだ必要なのだ。収益の落ちる分は水運業を兼務し、馬車組合で培った知識を活かしてもらいたいというのがレガトの考えだった。


「ロドス方面の管理責任者として、皇女、皇妹の護衛につくソーマの母のソロンさんを立ててもらいたいんですよ」


 冒険者になり立ての頃にソロンから教わった数々の心構えは、レガトの胸に強く印象として残っていた。馬車の護衛任務もそろそろ厳しいだろうから、事務管理に回ってもらいたかった。


「それもこちらで手配しておこう」


 人材不足は発展を続けるラグーンも同じなので、信用があって使える人材は遊ばせない方針だ。


「あとラクトスをガウートの領主に据えて北方の管理責任者に、ノーラ様をこの湯郷理想郷(ユートピア)船の水運業の全体責任者として【星竜の翼】 に下さい」


 シャリアーナには伝えてある。同年代なのに自分が叔母でラクトスが甥という事で、最初はぎくしゃくしていた。脳筋騎士(リグ)と仲良く護衛任務について回り、貴族としても立派になっていた。


 昔のボンボン気質もすっかりなくなって、爵位持ちの領主となってもうまくやってくれるとレガトは告げた。


「ラクトスには男爵位を与える。いずれ【トロールの駐屯地】 を領地に加えて子爵位に上げるつもりだ」


 この話しは遠征から戻って来た時にシャリアーナを交えて相談していたので問題なかった。駐屯地もガウートもラクトス自身が実際に開拓に関わっている。


「だが、ノーラはやらん」


 珍しく辺境伯が興奮し、レガトの要求を拒否した。レガトが嫁に下さいと言ったみたいになって、親馬鹿な心を刺激したせいだ。


 この有能で知性的なラクベクト辺境伯の唯一の欠点が、愛娘だと知りレガトは絶句してしまった。

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