第十七話 飴の出どころは当人の懐
気づかれて冷や汗を流しながら震える冒険者達。スーリヤの威圧感に怯える小動物のようになっている。
冒険者達は、年齢的にはレガト達とさほど変わらない。でもわかる。潜ってきた戦闘経験の強度の差が違い過ぎるからだ。
コノーク達が勝てたのも、駐屯地で魔物を相手にし続けた基礎経験があるためだ。今回の遠征も、アナートのいたダンジョンやサーラズまでの戦いなど、自分より圧倒的に強い相手と戦い続けている。
「こうして見るとスーリヤも化け物なんだな」
ノーラが呑気に言う。その程度の認識で済まされるのだから、ノーラも成長が著しいのだとレガトは感じた。
「こ、殺さないで」
男五人、女三人の計八人の二つのパーティー。全員鋼級だ。コノークやヤメネ達と実力を確かめるのに、ちょうど良かったんだよね。
「話しを聞かれた以上、生かして帰すわけにはいかない」
脅すようにレガトが声を放つ。同じ宿だし帰れないでしょ、というシャリアーナの声は無視する。リモニカが気を利かせてシッってシャリアーナの口を抑えてくれた。
留守番役にして、帝国のゴタゴタを押し付けようとしたのが、相当腹ただしかったようだ。シャリアーナは皇女であり、現在インベンクト帝国で、ただ一人の後継者なのは間違いないのだけど。
「報酬もかなり良いから、君たちもローディス帝国の傭兵募集に参加するのだろう?」
シャリアーナはリモニカに任せて、レガトは冒険者達に問う。自分達と変わらぬ年齢の男が、会議をしていたパーティー達のリーダーなのは知っている。正直に言って、名前を聞いても今までピンと来なかった。しかし皇女シャリアーナは、国を一つ隔てたこの地にもその名を轟かせていた。
「ほ、本物だ」
シャリアーナの纏う上衣には、インベンクト皇帝家の紋章が鮮やかに刺繍されている。皇女にまでなった彼女が所属する冒険者クランが、目の前の青年が築いたという【星竜の翼】だ。剣聖アリルすら傘下に置く冒険者達のリーダーには到底見えない。
「ひ、一つお伺いしてもよろしいですか」
冒険者の一人がレガトに声をかける。レガトは勇気ある女性に黙って頷く。
「シャリアーナ様がここに来たという事は、インベンクト帝国は、ローディス帝国とロブルタ王国の戦いに介入するというわけなのですね」
レガト達と変わらぬ年齢で鋼級になっているだけある。
「いずれ知れるだろうから言っておくよ。帝国もサーラズも指導者が不在で大混乱に陥る。」
レガトは断言した。そんな大変になりそうな状況なのに、シャリアーナ皇女がこんな所にいては説得力に欠けるわけだが、情報収集を得意としていそうなパーティーなので真相はすぐにわかるはずだ。
「帝国は介入しない。サーラズも同様にだ。シャリアーナ皇女個人は別だと思って貰えればいい」
このタイミングを謀っていたとなると、やはり偽神は悪知恵が働くと思わざるを得ない。サーラズが勝っても敗れてもローディス帝国側に介入出来ない状況になっている。皇帝暗殺が失敗なら、帝国にサーラズを攻めさせたはずだ。
「ローディスの帝都に、いくつもの大陸を混乱に陥れた元凶が逃げ込んでいる。僕らはそれを討つために来たんだよ」
帝国側に潜入さえ果たせれば、問題ない。冒険者達に協力してもらいたいのは、個別行動を許される戦力と見られたいためだ。
「稼ぐ機会だと思ってもらえればいい。むしろ、貰うもの貰って、街まで戻って来ることをお薦めするよ」
戦わずに戻る理由なんてレガト達が裏切ったでも、喧嘩別れでもなんでもいい。おそらく言い訳しなくても、すぐに戦力確保したい報告が届いているはずだから。
「そういうわけで、これはある意味強制だ。確認したいだろうけれど、こちらの作戦を邪魔されても困るからね」
吹聴して回られたところで、所詮は冒険者で傭兵。旗色を見て雇い主を変えるなんて日常的な光景だ。
「わ、わかりました。我々【エンヘルの風】と【エンヘルの刃】はクラン【星竜の翼】の同盟に参戦します」
分かってらっしゃる、レガトは思わず喜んだ。ラクベクト辺境伯から、ガウツおじいちゃんの話しを聞く中で、時々冒険者同盟の話しと活躍ぶりを聞いていた。ラグーンにも敵がクラン同士で同盟を組んでいたので辺境伯でさえ排除に苦労していた。
レガトとしては、他のギルドパーティーと合同作戦を行うだけでワクワクしていた。それだけで満足だったのに、思わぬ所に良い人材が集まっていたので確保に走ったのだった。
「ファウダー」
レガトがそう言うと、まだ混乱している冒険者達にファウダーの魔法がかかる。
「ローディス帝国との国境を超えるまで秘密は守ってもらう。余計な事は喋らないように」
いかにも闇の術師といった格好のファウダーが魔法をかけたので、冒険者達は恐怖した。強い魔力に身を包まれたのがわかったからだろう。彼女が掛けた魔法は魔法防御を高め、状態異常を軽減する結界魔法だ。レガトの言葉を聞いて、彼らがどう思ったのかはあえて聞かず、二つのパーティーは休むように指示され部屋へ戻っていった。
「脅しが過ぎると逃げ出すかもよ」
冒険者達が部屋へ戻るのを見て、剣を収めたスーリヤが忠告をした。
「喧嘩を売るくらい度胸と腕に自身があるんだ。僕なら逃げるより、売り込むさ」
コノーク達には悪いけれど、クランのメンバーがそのくらいの技量でも入れているのなら、そう思考してもおかしくない。流石にスーリヤに勝てるとは思わないだろうけれど。
「レガトってたまに楽天的に考えるよね」
楽天的なハープに楽天的と言われて少し動揺したレガトだったが、クランからギルド設立に向けての冒険者確保は急務だった。シャリアーナが嫌がっても、皇帝が亡くなった以上は権力的な地位が上がるのは間違いない。
東部と西部の対立を考えると、今後のために人をもっと集めておきたいのだ。
ローディス帝国の件が片付いたらスカウトのために外征を組んでも良いかもしれない。
「その時は私も行くからね。置いていこうなんて考えるようなら、レガトを私の夫に据える宣言してやるからね」
シャリアーナは本気だ。実行能力が無駄に高いので、どんなに反対されても強行しそうだ。
「その時は状況を見て必ず相談すると約束するよ」
シャリアーナがニコッと微笑んだ。レガトに限らず、仲間達に勝手な配慮をされないように、言質を取ったのだ。スーリヤなどシャリアーナの強かさを褒めていた。
「冗談はともかく、ローディスの件が片付いたら帝国をまとめるのが先だぞ」
「わかったわよ」
レガトもシャリアーナも互いに釘を差す。
「なら今日は休め。リモニカ、イルミア、シャリアーナを頼むよ。スーリヤとファウダーは女子部屋の警戒をよろしく」
夕御飯も食べたので、後は自由にさせた。シャリアーナとノーラの警護役は交代で行わせる。
「ハープとホープは冒険者達に差し入れを頼むよ。彼らたまたま食堂に来たら僕らに出くわしただけだからね」
「そうだよね。喧嘩売ったのが悪いけれど、先にこの宿屋を利用していたのはあの人達だもん」
おかげで実力は測れたので良しとしたいとレガトは自分を褒める。お腹を空かせた冒険者達は、わざわざ食事を運んで来てくれたハープとホープに感謝し、感動していたそうだ。意味合いは違うけれど、スーリヤの忠告がなかったら忘れる所だったよ。厳しくあたったあとは優しくするのは基本だからだ。
傭兵募集の応募は合同パーティーという強みもあり、簡単に合格出来た。報酬は仕度金が先に渡され、到着先の帝都のギルドで追加で支払われる。【大潮の護り亭】で強引に組み込んだパーティーには、帝国領に完全に入国した時点で、到着した際に支払われる報酬を払う事になっていた。進むも戻るのも後は彼らの判断しだいだ。
皇女シャリアーナに剣聖アリルや、ロブルタの英雄王女が参戦する戦場に興味は持ったようだったけれど、生命あっての物種と、賢明な彼らは帝国領で報酬を受け取ると早々にエンヘル港町へ帰って行った。




