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第十六話 皇帝の座より大事なもの

 レガト達はサーラズの西のエルベキアのエンヘル港町で、シャリアーナに捕捉された。勘の良い彼女は、レガトの嘘をとっくに見破り取り引きを行い、身代わりを置いて来たのだ。


「あんまりあの娘に頼ると、カルジアみたいに塞ぎ込むぞ」


 あえて何をしたのかは怖いので追及しない。シャリアーナは、なんだかやたらと(やつ)れたように見える。皇女、いや皇帝になるかもしれない瀬戸際、その大事な時期に帝国を放り捨てる神経が凄いとレガトは思った。

 アリルさんも、皇帝のプロポーズを断り続けていたけれど、もし受け入れていたらどうなっていたか、流石にレガトも読めない。


「あのふてぶてしい娘が塞ぎ込むような神経なら、とっくにロブルタの土になっているわよ」


 レガトもそれは否定出来そうにない。文句を言いながらも、シャリアーナだって彼女の事を気に入ったのがわかったからだ。


 レガト達は、高台からエンヘルの港を一望出来る【大潮の護り亭】 という宿屋に泊まっている。船を出せば宿より快適で安全で安上がりなのだが、レガトとノーラがごねた。


「ノーラはわかるけれど、レガトはまだ冒険者云々に浸りたいわけ?」


 シャリアーナにはわかるまい、そうレガトは冒険者と宿屋について熱弁を振るう。仲間同士引っ込んでばかりでは、中々世間の風にあたる事が出来ない。

 あまり広くはない宿屋の食堂で、はしゃぐ若手のパーティーの姿を見なければ、情報を持つ大人の方から絡んで来てくれる。

 この地域の情報に疎いレガト達にして見れば、ただで情報を得られるまたとない機会だった。


「それで、この有り様なのね」


 シャリアーナ達がやって来た時には、【大潮の護り亭】に常駐している鋼級冒険者達が気を失って倒れていた。


「ちゃんと実力を合わせてコノークとタンキに拳を交えて(話合って)もらったんだよ」


 二人共衛兵見習いだったので、冒険者の階級も、まだ銅のままだ。自分達より遥かに強い仲間といたために、実力をよく分かっていなかったのだ。


「そっちのは、情報だけ聞き出してファウダーがやったのね」


 シャリアーナが、咎めるようにリモニカを見た。こういう時に止める役はリモニカしかいないからだ。


「お料理を受け取りに行ってたから」


 リモニカもほんの少し席を離れただけの間に絡む輩が来ると思っていなかった。


「なら仕方ないわね。有益な情報はあったの?」


 シャリアーナも諦めたようだ。怪我人がないのと、先に絡んだのは冒険者達だと判断し、リグに頼んで食堂の隅へ片付けさせた。


「ローディス帝国から、高額報酬の傭兵募集がかけられている。敵の黒幕、それに悪しきものが入り込んで、ドワーフ王国やロブルタと戦争になっているようだ」


「それは帝国も乗っ取られていると見ていいのね」


「いや建国以前から支配をしていた可能性が高いよ。そうだろう、アナート」


 レガトに声を掛けられた大柄な女性? はシャリアーナに向けて丁寧な挨拶をした。


「ワタシはバアルトの姉のアナートよ。よろしくね、皇女サマ」


 ニコッと微笑むアナートに対してシャリアーナは怪訝そうな表情をした。


「シャリアーナさま?」


 レガトにはわかった。バアルトといい、ティフェネトといいこの囚われの王族達は変態(まともじゃない)。ただシャリアーナは勇敢にも手を差し出し握手を交わした。


「ごめんなさいね。見た目が魔獣のように見えたけれど、確かにバアルトの姉ね。目元とか、構えが似てるもの」


 シャリアーナは失礼な言い方をあえてしながらも、受け入れ歓迎することを態度で示した。


「他の仲間を紹介してやってくれ」


 レガトは少し引き気味の従者達へ聞こえるように言う。シャリアーナはアナートの手を取り、固まるリグに近寄る。


「大きい騎士がリグに、隣の魔法使いがイルミア。それと大荷物でぐったりしてるのが鍛冶師のメニーニよ」


 アナートの体格は大男のリグと同じくらいだ。しかし、軽装なのに肉の厚みはアナートが上で、リグは気持ち悪さを感じるよりショックだったようだ。脳筋(リグ)らしく、がっしり握手を交わし、一瞬の力比べを始める。

 普通にむさくてうっとおしいのでシャリアーナがすぐに止めさせた。勝敗は付かなかったが、お互いにいいライバルを見つけたという顔だった。


「この娘は何で草臥れてるのかしらネ」


 イルミアとは普通に握手を交わしたあとはメニーニの番だったが、大荷物を抱えるようにして寝ていた。


「なんか対抗心を燃やしてたのよ。自分の器械像を組み上げるって言って、ずっと寝てなかったのよ」


 大荷物は手製の器械像のための素材やら道具やららしい。自分の手持ちの収納に入らず、レガトに預けるために意地で運んで来たという。


 錬金術ではなく、ゼロから部品(パーツ)を組み上げるとか、この娘も天才鍛冶師だな、とみんなが思った。


「アナート、ちょうどいい。メニーニを寝室へ運んでやってくれるか。ヤメネとエメロも一緒に行って先に休むんだ」


「でもノーラ様がまだ」


「話しは私が聞いておくよ。今日は休め」


 ノーラは領主の娘であり、小パーティーのリーダーでもある。せっかく宿を取ったのだからしっかり休めと、年下の少女達を労った。


「コノーク、タンキ。君等も先に休め」


 王都の戦いからここまでも、ずっと気を張っていたので休ませようと思っていた所だ。ノーラはレガトの目線でそれを察した。シャリアーナ達が来たので、無理をする必要なかった。


「ノーラ、貴女も休んでいいのよ」


 憧れのシャリアーナからそう言われて、ノーラがショックを受けた。


「リーダーですから」


 ノーラは気を張って答えた。シャリアーナは頭を撫でかけ、そこで止めた。気丈に振る舞って子供扱いされると、傷つくこともあるものだ。まして彼女はシャリアーナに憧れている。彼女自身、剣聖アリルに憧れているからわかる。可愛いと褒められるより、認められてこそ嬉しいのだと。


 レガトは貴族出身の二人のやりとりを観察し、ほっこりした気持ちで見る。リモニカも同じ気持ちのようで優しい眼差しを向ける。スーリヤはニヤッと笑っている。アリルへの想いに対して、スーリヤとシャリアーナはライバルだからだ。まだ続いてたんだ、とハープがボソッと呟き呆れていた。


「全員座ろうか」


 レガトが声をかけ、大テーブルに集まって座る。普段は拠点や船の会議室ばかりなので、こうした宿屋の食堂での会議は久しぶりだった。


「レガト、話し進まなくなるよ」


 ホープに注意を受けて、レガトはコホンと咳をする。こういうのは形が大事なんだと、小芝居を続けるので、皆は諦めた。


「冒険者の依頼を受けて、僕らはこのまま、他の冒険者の傭兵と一緒に南からローディス帝国の都を目指そうと思う」


 レガトは持って来たローディスの帝都までの簡単な地図を、テーブルの上に広げた。


「募集人数は上限なし。応募期限が三日後、出発が集まった後の二日後だ」


 エンヘル港町の冒険者はそんなに多くないので、募集は一回で充分なはずだ。他所から冒険者や傭兵団がやって来るようなら、その時はまた募集をかけるにしても、次がいつになるのかわからない。


「この募集に参加するのは決まりだ。ただ移動手段は帝国が用意する馬車だと思う。冒険者相手に豪華で立派な馬車を用意するわけないから、僕らには正直厳しい」


 レガト達は偽装した馬車を用意する事になった。【星竜の翼】 のパーティーメンバーを少し入れ替えて、チームを三つ作る。


「僕、シャリアーナ、ノーラがリーダーとなる。馬車の中にはこの魔本の部屋を設置して、交代で休むことにする」


 魔本は例の錬金術師が作ったものをレガトが作り直した。手のひらサイズのアクセサリーのような本になった。登録者のみ利用可能なのは同じだ。


「馬車を守るパーティーが一つ、完全休養のパーティーが一つ、もう一つは馬車内で交代制で休む感じだね」


 昔から交代制で休む冒険をしてきたのでハープが皆よりはやく説明してくれた。


「昼も夜もそれで行く事になる。帝都までは、およそ三十日は掛かるから街での休養は二交替で長めに休めるように調整するよ」


 傭兵団として組み込まれるようなら断って、単独で向かう事にする。おそらく行動は共にさせて、各自見張りを出すなら文句は出ないはずだとレガトは読んでいた。


「あいつらや、レーナさん達はどうするの?」


「母さん達は、リエラ達とドワーフの援護に向かったよ。ロブルタとの戦線はロブルタの英雄王女が例の娘と向かう」


 魔物の大群や大国の大軍を相手に連戦連勝の英雄がロブルタという国にいるのは計算外だが助かる話だった。あちらにはアミュラ達もついているので任せても問題はない。


「これで三方からローディスへ向かう形になる。敵もさぞかし困るだろうね」


 拡げ過ぎた戦線が仇となる。ヒルテを飛ばして、夜魔の国にも応援を頼みたい所だけど、あの種族は気まぐれなので難しいだろう。だいたいヒルテが素直に夜魔の国に行かない可能性の方が高いのだ。


「それについては新しく出来たバスティラ王国の吸血鬼族が本国へ向かい、夜魔の国側から陽動を仕掛けるはずよ」


 ロブルタ側の人物とシャリアーナは打ち合わせを行っていたので、宛にはしないで頭の隅に入れておくように提案した。


「メニーニには簡易工房でアナート達の装備を作ってもらおう」


 働き過ぎる鍛冶師については、しっかり休ませた後はパーティーに入れず自由にさせる事にした。みんなメニーニが寝食を忘れて夢中になる性格なのを知っているので賛成してくれた。


「さてと、後はそこで耳だけ起きて話しを盗み聞こうとしていた者たちの処分だけど、どうしようか」


 若い鋼級の冒険者達は、食堂の隅にまとめられたまま冷や汗を流していた。いつの間にかスーリヤと呼ばれた少女が剣を構えて立っていたからだ。

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