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第十五話 あっけない幕切れ

「ボクが最強なんだ。この国の王も、ボクを呼んだやつもブッ殺してやったのに······お前なんかに負けるか!」


 さらっとこいつ、白状したなと僕は思った。すでに指導者達はいないのと、こいつらが暴れるせいで、王都も混乱している。何より、僕には勝てない予感を抱いていて、攫った子供たちを盾にしようと考えついたのだろう。

 怯える子供たち。いつだって大人の都合で振り回され酷い目に合うのは子供だ――――――――なんて言うつもりはないよ。


 アリルさんから聞いてもっと酷い目に合いながら亡くなった子供達を知っている。仲間のオルティナ、ガリア、マーシャの三人だって、今でこそ仲良し三姉妹なんて呼んでいる。でも実験体として集められたり、犠式の犠牲にされたりと、酷い目に合いながら運良くアリルさんに助けられた子供達だった。

 犠牲になった子供達を糧にして、この国は成り立っていた事を考えると、子供だからって助けなきゃ、なんて思うはずがないよ。まして助ける役のはずの、勇者達が子供達を人質にしているのだから。


「······」


 はいはい、わかりましたよ。リモニカだけじゃなく、ハープやホープにスーリヤまで視線を向けるのは止めてって。


「人質を取るなら手加減はしないよ。モブ勇者君達には退場してもらおう」


「な、何を。人質なんか取らなくてもお前なんか殺してやる!」


 僕の挑発に乗り、名も知らない三紋のボク勇者と、人質を盾に魔法で攻撃しようとしたニ紋の勇者がキレた。

 思いつきで行動し、怒らせると前後の言動に一貫性もなくなる。


 異界の勇者の紋様は、染みと呼び方を改めてもらいたいと思う。魔力がちょっと高いだけで、魔法が何なのか理解せず固定化された概念で使用している節が見えた。


 ノーラ達が善戦しているのは、威力があるだけの魔力の塊を逸らすだけで防ぐことがわかったからだろうね。


「ムカつくやつめ。極大魔法をぶち込んでやる!」


 敵味方関係なく、魔力ゴリ押しの魔法を、三下、いや三紋ボク勇者が放つ。前の戦いで自爆した連中といい、こいつといい、異界の勇者って堪え性が無さすぎじゃないかと思った。


 とりあえず、このボクには聞きたいことがあるので、アルプ直伝の拘束魔法で縛り上げた。後の勇者達は、ボク勇者の魔法に巻き込まれ全員瀕死か亡くなった。

 人質の子供達六人はリモニカが既に保護し、ファウダーの結界に守られていた。


「さて、もう魔力がないだろう? 大人しく質問に答えれば、元の世界に戻してやるぞ」


 悪しきものが築いた召喚の魔法儀式の欠陥は、あえて思考に問題のあるものを選んで呼ぶのが良くわかった。

 そもそも根本の術式のつくりが、破滅衝動を持つものを選ぶ。だから制御なんて出来るわけない。制御したいのなら一から魔術式を組み直すしかないのに、おかしなヤツらを呼んでから制御しようとして狂うわけだね。


「か、帰れるの······か?」


「質問に答えてもらってからだ。サーラズの王宮に魔物はいたか?」


 僕の質問にブルブルと首を振る。帰れると聞いて、やけになる必要がなくなったのだろう。


「王宮に勇者達以外の魔法使いはいたか?」


 この質問にボク勇者はうなずく。


「どうして、そいつは殺さなかったんだ?」


「そいつが、お前は強い。あんな奴らの言いなりになどならなくてもやっていけるだろうと言われたんだ」


 魔法使いと聞いたのは、フードでも被って姿を隠していたように思ったからだ。


「そいつがどこへ行ったか、わかるか?」


 勇者は首を振る。あいつで間違いないだろう。力は失っているようだけど、誑かすことは得意だからだ。

 つまり、悪しきもの偽神(オリン)がもう戻って来たのだ。いや、隣の大陸から追いやられた残滓とここの残滓との融合と言うべきか。始末に負えない輩はよくいるが、これほどタチの悪い悪神は他にいない。


 情報は聞き出せた。追い詰められた偽神(オリン)の行く先は、隣の大陸ローディス帝国だろう。三紋の勇者を呼んだのは、単なる陽動と嫌がらせだろう。よほどロブルタで強くやり込められたのに違いない。母さんがもの凄く可愛がっているだけはあるよね。


 約束通りにする必要はないけれど、僕は勇者達の身体を、母さんから預かった魔本の中に放り込んでいく。生きてようが死んでようが構わない。

 この魔本はドヴェルクの少女に作らせた特製の魔道具らしく、迷い込んだり呼び出されたりした異界のものたちを裁き送り返す部屋に繋がっているらしい。

 細かい説明は後でするとして、リモニカ達にも手伝ってもらい全員放り込み終えた。


「ねぇ、レガト。本に入るとどうなるの?」


 なんか少女の悲鳴が聞こえたんだけど、とスーリヤが不安そうに訊ねる。


「魂を抜かれ無力化されて、業に応じた呪いを素の魂に刻まれて還すんだってさ」


 回りくどいと思うけれど、彼らだって、呼ばれた時点では被害者だ。混乱したり、絶望したりするのは許せないのはある。ガウツおじいちゃんのように生きる人の方が稀で、大抵の異界人は自分勝手に暴れるものが多いとわかった。


「魔法陣を解析して、そもそもの召喚人がそうした連中を呼ぶようになっていたのが確定したからね。それならそれを踏まえて送り返すべきだと決めたのさ」


 非常に単純な裁きだ。こちらで悪行を重ね、理不尽に人を害した数だけ、元の世界で苦しい人生を重ねさせる。まさに生き地獄だ。呪印により、他の世界に逃げ出すことは許されない。何百年何千年かかろうと、きっちり奪った分を反省させるのだとか。魂の経験値の報酬は呻き声の主の少女へ届く。


「アナート達の事を思えば、安い代償だよ」


 偽神(オリン)を滅ぼさない限り、地獄のような魂の循環は続くだろう。偽神(オリン)に限らず、あちらの世界が偽りの神を語るのを止めない限り、世界は荒れ果てやがて枯れると思われた。

 偽神(オリン)を見ればわかるよね。偽りとは言え力を得たのに結局はその力の使い所は、個人的な復讐であり救いはなかったのだから。



「よし、王宮で戦費の回収をした後、隣の大陸にいる仲間の所へ合流しよう」


「火事場泥棒って言われないの」


 真面目で冒険者に慣れていないノーラが首を傾げた。


「損害賠償をいただくだけだよね。どのみち勇者達が勝てば荒らされただろうから」


 ハープがレガトにかわりもっともらしく答えた。付き合いが長いだけある発言だ。


「建物を壊さないだけマシかな。ここの勇者達は、人々を追い出して街を利用する算段だったみたいだからね」


 クランの懐事情を知るリモニカも賛同する。レガトの一番の目的がまさか金策の為だったとはノーラ達にはわからないだろう。被害者じゃないとは言い切れないので、 ノーラ達もそういうものかと納得した。


「偽神どうこう言っていた人の行動じゃないわよね」


 スーリヤが呆れたように呟いたけれど彼女自身も金食い虫の一人だと自覚があるので文句を言えなかった。


 レガト達も節度は保つ。民家には手を出さず、貴族の館からも魔法関連の武具や装飾品などのみ回収する。再び争いになった時に持たれていては面倒なものを中心に押収したのだ。高価な調度品や装飾品はそのままにした。子供たちなど生きている被害者もいるし、盗賊とはまた違うからだ。

 悪ノリだったんだとノーラに怒られたけれど、レガトが涙を流しかねない思いで金貨の入った箱を戻したのは見ていなかったようだ。


 王宮の宝物庫や貴賓室などは逆に全て回収した。帝国の内乱での賠償金がろくに払われておらず、今回も皇帝殺害により、どれだけ被害が出るのかわからない。先に損害賠償をいただくことは問題なかった。


「それにしても酷い有り様ね」


 血なまぐさい臭いと、傷み始め腐敗臭と排世物の臭いが混じる。豪華で立派な宮殿はどこも血に汚れ悪臭が漂っていた。


「子供達をどこかの領主館に置いて来て正解だよ」


 子供達は貴族の子供で、みんな女の子だった。ボク勇者は子供なので、別の勇者のよからぬ趣味で生かされていたのだろう。気持ち悪いけれど、彼女がそれをどう裁き送り返すのか見てみたい気もした。


「食料もあるし、惨状を見れば子供達を咎めるものはいないだろう」


 どうしたいかは子供達に判断させた。子供達は残るつもりだった。待っていても彼らの親が戻ってくる保証はないのも理解していた。

 勇者達が暴れたおかげで本物の盗賊は逃げ出しただろう。あとは街の人間が暴徒化しようが彼らの勝手だ。


「もらうものは貰ったし、行くとしようか」


 レガトが妙に出発を急ぐ。戦いは終わって、そこまで慌てなくてもあつらには先に援軍もいると言うのに。


「もたもたしてると、シャリアーナに捕まりそうだからね。彼女には悪いけれど、帝国とサーラズ王国の事を任せようと思う」


 サーラズ王家は異界の教徒達の傀儡だ。サーロンド侯爵などが好き勝手にやれたのもその為だったのだ。

 本来の主と、支配階級の者や戦力が唐突にいなくなれば、サーラズにも内乱が起きるだろう。


「あっ、それで資金は残したのか」


 ノーラがレガト達の意図に気づいた。強力過ぎる魔法道具は回収したけれど通常武器は残した。王宮以外のお金を残したのは、頼らせるためだ。地勢的に、アミュラの新規航路は物資の取り引きを行い安い。インベンクト帝国側からだと、サーロンド侯爵のみが領地を接していて、敵対している。


「他国へ頼るにしても、インベンクト帝国よりも、アミュラのいるロブルタ王国へ目が行くはずだ」


 レガトは地勢的に武力を誇るサーロンド侯爵が覇権を取りに動くと見ている。


「あんなやつに王座をつかせたくない、でも戦闘能力をあまり残すと後々面倒。調整が難しいんだよ」


 異界の強者という切り札を、サーロンド侯爵は抱えている分有利だ。しかし今回の件で、この機会に異教徒の勢力を排除したいものの方が多いはずだ。なにせ首魁は去ったのだから。


「はぁ〜、相変わらずレガトやレーナさんて先の事を考えて動くよね」


 ホープが降参とばかり手を上げた。


「そうでもないよ。そうなるように無理やり方向づけを行っているわけだからね」


 そのためにシャリアーナを残しておきたいのだけど、彼女は女帝になどなりたくないと乗り込んで来そうだった。

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