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第十四話 サーラズの首魁

 レガト達がサーラズの王都サランへ向かうと、駆けて来る人の波が見えた。全員警戒態勢を取り、逃げて来た人々の様子を伺う。


「王都の人々だよね。何かあったのかな」


 ハープが、大盾を構えながら呟く。人々は臨戦態勢のレガト達を見て、怯えて進路を変えている。口々に勇者が狂った、本性をあらわしたと叫んでいた。そしてこちらを見て、ヒィッこっちにも勇者がいた――――――――そう叫んでいた。


 王都で何かあったのは確実で、異界の強者か勇者がまだ残って暴れているようだった。


「人数を考えても、切り札的な連中が王都に残っているのはおかしくない。ただ、いまこのタイミングで自国の民を殺めるのは······」


 レガトの推測に仲間たちも同意する。強者や勇者達との防塞壁での戦いは、異界の者たちによる自爆で終わった。情報を取るものがいたのだろう。勝てないから最終手段に訴えたのにも関わらず、生き延びていたのを知って焦ったのだ。


「なりふり構わず、守るべき民を虐げるあたりは、異教徒達そのものだね」


 それがレガトの感じたことだった。可哀想な人々の中には、過去の事など知らないものばかりだろう。自国の領主の何人かが、隣国との戦いに赴いたとして、報復されるのは理解しても、味方に斬りつけられる意味などわかりようがないから尚更だ。


 きっとアナートや、ここにはいないバアルト達は、こうした光景を見たのだと思う。少しは話してくれたけれど、全員過ぎた事を今更話した所で、失ったものは取り返せないから黙ってしまう。


「まあ、いつか話してもらうよ。その前に掃除を済ませようじゃないか」


 レガトは申し訳なさそうな表情のアナートの背をポンポンと軽く叩く。見た目はアレだけど、繊細なのは数日過ごした中でよくわかった。


 サランの都はかなり古びた城壁に囲まれていた。城壁といっても、せいぜい三M程度。その場で跳躍し手が届くくらいの高さなので、攻め込まれては簡単に落ちると思えた。


 所々劣化した上塗りが剥がれ、雑草が生えている。魔力が枯渇していても、雑草が生えるくらいの大地の力は残されているようだった。


「ファウダーのいた本拠地のようだね」


 レガトはパゲディアン大陸に、初めて訪れた時の事を思い出す。あの時は見せかけの草木が気味悪かった覚えがある。魔力が枯渇して、土地の力も失ってゆく寸前の地域。あの時よりはマシな感じたけど、魔力が急速に動いている気がした。


「大掛かりな魔法陣を使用してる」


 ファウダーが魔力の流れから警告を発した。自分達の強化の為ではなく、魔法陣へ魔力と贄を捧げるための虐殺だったようだ。胸糞悪いけれど、レガト達は冷静さを保つ。

 すでに魔法陣が完成し儀式と召喚は終わったのがわかった。膨大な魔力の敵が誕生したのもわかった。


 ハープとホープを先頭にレガト達はサーラズの王都へと侵入する。防塞壁のあった街では激しい抵抗があったのに、王都サランでは人々が既に死ぬか逃げ出した後で、中心部まで誘いこまれているように感じられた。


「ノーラ、コノーク達と固まれ。ファウダー、突如、不意討ちが来るかもしれない。慣れてない五人とアナートを頼むよ」


 付け焼刃の勇者達と違い、最後まで残っているような真の勇者達なら、転移など使う可能性は高い。

 守っているつもりで、死角から不意討ちをする事は充分考えられた。


「ワタシは大丈夫ヨ」


 アナートが不満そうだ。でも、まだ本調子でない以上は、仲間を宛にしてくれと言うと素直に従ってくれた。レガトはバチッとウインクされて寒気がしたが、頑張って堪えた。


 ハープ達は魔力感知や、物理的な空気の流れや大地の振動を、感覚としてとらえることは出来る。気を抜いている所は別として、臨戦態勢の状態なら問題なかった。


「レガト、背中」


 リモニカがいち早く気づき、レガトへ向けて矢を放つ。レガトも斬りかかる幻が現れる前にリモニカの射線から外れ空間を切り払っていた。

 切り裂かれた敵が何故、とばかり呻く。レガトの剣の刃とリモニカの矢を受け、既に瀕死だった。


「全員構えて」


 転移組と、透明化により近づくものとで、急な乱戦となった。サーラズに残る勇者は全て紋様持ちのようだ。


「二つの紋様持ちがいるな」


 それは【双炎の魔女】レーナと同等の魔力を持つかもしれない相手だった。


「三つあるのがいるよ」


 嫌な報告が、ホープから飛ぶ。おそらくたった今、呼び出された勇者なのだろう。装備は先にこの世界に訪れた者たちより劣るものの、魔力は比べものにならない。


「ファウダー、援護する。全開で守れ」


 強力な炎の魔法がファウダー達を包む。前戦の勇者達より、洗練されている上に強力だ。きっちりファウダーを中心にノーラ達を炎の檻の中へと閉じ込め、地面には焦がした痕跡すら残していなかった。


「レガト、ファウダー達が······」


 スーリヤが慌てて炎の檻を切り裂くものの、魔法による修復が早く、炎の勢いが増すだけだった。


「あひゃひゃひゃ、残念でした。お仲間さんは仲良く黒焦げ。食べても美味しくないよ〜」


 なんだかちっさい子供が楽しそうにスーリヤを煽った。その両腕と額に紋様が浮かぶ。三紋の勇者。表すのは破壊。


「スーリヤ、他のを斬れ。こいつは僕がやる」


「わかったわ。任せるわよ」


 レガトが請け負うとスーリヤは別の勇者と戦う。ファウダー達はレガトが既に魔力結界で、炎の無効化をしているのに気づいたようだ。

 あとのフォローはリモニカとホープに頼み、スーリヤは慣れたハープと炎の檻を無理やり壊して出てきたアナートと組んで真の勇者達に挑んだ。


「ふぅん、偉そうなやつだな。このボクの力がわからないなら死ねよ〜」


 レガトの構える剣に向けて、三紋の勇者は青白く輝く炎の刃を放つ。魔力結界をも破る高熱の刃。斬られた事も気づかせない高速の刃によって、斬られ燃え盛る炎で死に至るはずだった。


 レガトは二つの紋様持ちについては、すぐに見切りをつけた。やはり同じ紋様持ちでも、こちらの世界の紋様と、異界の勇者たちでは意味合いが違うようだ。

 異界の勇者たちの紋様は、魔力の段階が飛躍的に上がり、魔法の威力が上がるだけ。魔法そのものは無詠唱だろうが、何だろうが呪文を唱えて魔法とする形、枠組は変わらない。

 高火力であるこの青白く輝く炎の刃も、綺麗に三段階の魔力を上乗せされただけのものだった。


「見込み違いだね」


 レガトの発する言葉の意味はわからなくても、自分の放った魔法があまりにもあっさり消滅され、三紋の勇者が怒りを発した。


「余裕ぶって、ムカつくし。殺してやるよ。おい、出せ」


 そっちは余裕なくなって、小馬鹿にした喋りも出来なくなったね、レガトは心の中でそう言ってやった。


 三紋の勇者の切り札は幼い子供たちのようだ。


「ほら、逆らうとこいつら殺しちゃうよ〜。大人しく武器を捨てろ。命令だぞ」


 勇者は炎の檻から無事に出てきたファウダー達を見て焦り、脅迫めいた言葉を発した。スーリヤ達は構わず数十人の勇者たちと斬り結んでいるので、こちらの話しなどまったく聞こえていない。


「あのさ、なんでそれが人質になると思うんだ?」


 レガトは一応真意を問いただす。聞こえていたのはレガトだけで、ファウダー達もきょとんとしていたからだ。


「お前達はこいつら王都の人間を助けに来たんだろうが」


「誰がそんな寝言を言ったんだ? 僕らはむしろ敵だぞ? 助けるのはお前たちの方だろうが」


 どういう呼び出され方をしたのかわからないが、解放しに来たものだとして、それを防ごうとする側に違和感を感じない時点で相容れない輩だとわかった。






 

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