第十三話 囮の勇者と別動隊
「ホープ、君はノーラ達のフォローしながら壁の連中の排除を頼むよ」
あちらの動きを見て、僕も指示を出す。ノーラ達には勇者の相手はまだ荷が重い。ホープにつけて、防塞壁の敵の一掃を任せる。
「ハープはスーリヤとリモニカとで異界の勇者を任せる。僕とファウダーとアナートはあの三名をやる」
因縁を考えて、アナートには【真の勇者たち】 を討つ機会が欲しそうだったので、こちらに加えた。
アナートを見てギョッとして凄く驚いていたけれど、彼女が封印されてから時が経っているので知り合いではないよね。
ファウダーはファウダーで本国にすらいなかった【紋様】 持ちの勇者達がここにいる事で、偽神がとことん他者を信用してない事を知った。隣の大陸にも異界の勇者達がいたようだけれど、戦力的にはファウダーの元にいたものと変わらない。
「気をつけて、レガト。あの勇者一人だけで私の魔力より桁違いにあるから」
ファウダーの狼狽える姿は珍しい。まあ彼女の場合は、僕や母さんやユグドール、バアルトに次ぐ魔力の持ち主だ。ヒルテもいるけれどあの娘は気まぐれ過ぎて安定しないからね。
それに魔力で言うなら、アナートもファウダーに匹敵する力がある。たぶん潜在能力を解放したのならあの【真の勇者たち】 と変わらないんじゃないかな。
「そうか、封印されていたのは【真の勇者】 の素養を持つものでもあるわけか」
封印に関して、僕はようやく腑に落ちた。異教徒達には、アナートやバアルト達を封印して利用するつもりもあっただろう。ただ実際は並の勇者達だけでは太刀打ち出来なかっただけの話しだ。
この世界を生きる強力な守り手達を封印するために、偽神達は仕方なく手を組んだ。まるで自分達が正しく、バアルト達が悪いように見立てて。
彼らの布教により真実は捻じ曲げられ、異を唱えるものは抹殺されていった。ファウダーのいた異教徒の本拠地でもあるパゲディアン大陸や、邪神の影響の強い黒の大陸の半分は信徒達により歴史そのものも塗り替えられて、民は洗脳され続け真実を失っていたようにみえる。
ムーリア大陸やエルヴィオン大陸だって、染まりきろうとしていた。幸いフィルナス世界は広すぎて、たかだか四大陸だけで、世界の概念を変えるまでに至らなかった。
この世界は広い。ダンジョンまで入れると無限の可能性を秘めている。僕達が奪いに戻って来た連中を相手取り、頑張らなくても異教徒達が支配域を広め続ける前に広大な世界の一つとして取り込まれ埋もれゆくのだろう。
それでも僕は戦う。今まで自分の役割なんて考えてなかった。特別な力は、ただのおまけ。この世界に生まれ出たものとして楽しめればいいと思っていた。
「レガト、笑ってるの」
「あぁ、そうだね。どっちが真実なんて、この世界では問題なかったんだと改めて知ったのさ」
どっちの立場にされようが、やる事は同じだ。この世界に生まれ根差すものとして、討ち滅ぼすだけ。彼らが【真の勇者】を名乗るのならば、この世界を生きるものとして【世界の守護者】とでも名乗る。
聖なる弓から放たれた強力な弓矢の攻撃が、僕を襲う。やれやれ、名もなき【真の勇者】達は名乗る余裕すらないのか。持て囃され過ぎて、誰もが自分達を知っていると本気で思っていそうだね。
「僕はレガト。【星竜の翼】のリーダーだ」
弓矢の攻撃はファウダーの結界を破り僕の額を正確に穿つ。しかし矢は既に灰と化し、僕に傷一つ与える事はなかった。僕とは別な意味でニヤつく男は一瞬顔を曇らせたがすぐに聖弓による乱射で僕以外の仲間達を狙った。
正しく、嫌な判断だよね。でも、それを予測していたリモニカが、仲間を狙う矢を全て撃ち落としていた。
「なっ······」
初めて【真の勇者】達側から声が漏れる。残念だったね。リモニカはそういう事が出来る娘なんだ。他の異界の勇者を牽制中だろうと、ね。
「いくぞ」
先頭の槍を持つ男が僕に向って来た。聖弓の男はファウダーを、もう一人の大剣使いの男がアナートを相手に動く。あちらはあちらで仲間達の支援を考えていたのだろう。
「戦力差の分析が随分と悲観的だね」
槍の男に対して、僕も槍で相手取る。得物を合わされてカチンと来たのか、少し力むが良い槍さばきだった。
でも、サンドラさんには劣るかな。槍に関しては、母さんよりサンドラさんの方が腕は上だった。母娘のように仲が良いのに、武芸に関しては母さんもサンドラさんも頑固だったからね。
「舐めるなよ」
槍の男の攻撃に魔力が加わり、槍を突き出す時に疾風の刃が僕を襲う。躱せば、速さと威力が増した事による真空波が後方の仲間達を襲う事になるだろう。
聖弓使いといい、聖なる槍のこの男といい戦い方が厭らしい。自分達がされたら嫌な事を率先して行う事で、戦力差を埋める意図もありそうだ。
「フッ、やはり通じぬか」
風の刃だけではなく、アナートと戦う大剣使いの切り裂く大剣の余波は地を這い、聖弓使いは相変わらず矢を八方へ飛ばしていた。その悉くがリモニカ、ハープ、ホープにより潰される。
「やはら、あの戦乱の時に強行してでも潰すべきだったな」
インベンクド帝国の内乱時にサーラズは侵攻を考えた。あの時の事を言っているのだろう。
「何名か攻め寄せていたと思うけど」
だいたい冒険者達に紛れて、躍動して来て今さらな話しだ。ラグーンでも、インベキアでも彼らは暗躍していた。
「あれは先代の勇者の仲間だ。俺たちは全軍をあげて強襲すればロドスからインベキアまで落とせた」
あの時、確かに力押しされると局所的には僕らは勝てたとしても。厳しかったと思う。
「ようやく神もろとも滅んだと思ったらこの有り様だ。封印は解かれ、供給も途絶えてせっかく築いた橋頭堡まで失いかけてやがる」
槍を交わしながら、なんだかぼやく勇者。殺意は変わらず篭もっているので、死ぬ前に独白したいのだろう。
「わからないか。だとすると、初めて【神謀】に勝ったのか」
乗せておいて吐かせるために、僕も全力に見せて乗っかる。ファウダーに記憶を覗かせる前に自爆とかやらかしそうなんだよね、この勇者達。
「俺たちは全員足止めだよ。今頃別動隊の仲間達が手薄な帝国へ向けて動いている」
凄く嬉しそうだ。相手を出し抜いてやったぜって時の笑顔は、こんな感じなのかっていう見本になりそうだ。
「動いているのは俺たちと同じ【紋様】持ちだ。たかが金級の冒険者では歯が立つまい」
なるほど。【真の勇者】は全部で四人いたわけか。率いているのは探索者らしい。戦闘能力ではこの三人より落ちるものの、潜入や暗殺は得意なようだ。
「ラグーンやロドスそれにインベキアなど、西側ばかり固めたようだな。だが遠いからといって、新帝都の防備を放置したのは、あまりにも疎か。慧眼を過信し、油断したようだな」
シャリアーナやラクトス達が危ないと思ったけれど、【真の勇者】の別動隊は、新帝都テンベクトへ向かい皇帝暗殺を行ったようだ。
「語り出したって事は、魔法かなにかで情報が届いたんだな」
せっかくなのでカマをかけてみた。
「ふふふ、その通りだ。帝都に潜む同志達の手引により、ベネルクト皇帝は先程死んだよ」
勝ち誇るように笑いながら槍を振るう男。額にある【紋様】は、遠く離れた仲間の様子を逐一知る事が出来る感知系の能力が高いようだ。僕らの襲撃にタイミングを合わせたのも、紋様のおかげか。
それにしても、ベネルクト皇帝が亡くなったのは残念だ。異教徒の中で唯一と言っていいくらい洗脳に毒されていない気さくな良い方だったのに。
アリルさんとの強烈な出会いの賜物なのかもしれない。そのために結局は若くして生命を落とす事になった。
槍を振るう男はわざと大きな声で周りに聞かせていた。皇帝崩御の会話は、離れた所のリモニカ達まで聞こえたようだ。近くで戦うファウダーやアナートは元から関係性が薄いので動揺はない。
その後の話しが途絶えたのは、手引した異教徒達諸共、【真の勇者】達が討たれたのだろう。得意気な槍を振るう勇者には悪いけれど、異教徒達同士の争いでどっちが勝とうが関係ないんだよね。
むしろ皇帝を守る必要のあるのはそっちだろうに。皇帝を殺害したら、最終的には異教徒達が困るだけなので、それで僕も意味がわからないから混乱してしまったよ。どうしてそうなったのか、新参の【真の勇者】達に逆に聞きたいくらいだ。
皇帝という旗頭を失っては、東部諸侯や元中央貴族達も混乱するだろう。【真の勇者】達は結局の所はただの駒か。おそらく偽神の滅びを知ったサーラズの主が偽神の為に最後の滅びを敢行したのだ。
「勝手に自滅して消えてくれるのが一番なんだよね。まあ、いいや」
情報はもう充分だ。あとはファウダーのいなくなった後の教祖、指導者とも言うべき者の情報がわかればいい。でも予想通りというか勝てないとわかると【真の勇者】達が魔力を一身に集め出した。お喋りも時間稼ぎのためだったね。
「ファウダー、アナート」
二人を近くに呼び、ファウダーには結界を展開させる。リモニカやホープ達も集合し、自分達を覆う魔力結界を強化した。
名も知らない異界のしてと勇者達が魔力暴走の渦に巻き込まれ消えてゆく。最初の攻撃も、魔力溜まりをあえて作り出す罠だったのかもしれない。
◇
「みんな無事か」
廃墟と化した街。防塞壁が跡形もなく吹き飛び、溶岩の渦まで魔力暴走で熱は冷めて固まていた。
ファウダーの結界に、レガトの魔力を上乗せしたので全員平気なはずだった。
「自爆するって聞いてなかったみたいね。ぼく達の結界に潜りこもうとしてきたよ」
ホープやノーラ達は防塞壁の上で乱戦になっていた。傷は受けたけれど軽傷だ。ノーラなどは、五人程の強者の相手に、一人で捌いていた。
ホープがレガトの声に応じ、いち早く皆を集めた。そこに居合わせたもの達が紛れこんだのだろう。
異界の者達の範囲結界と違い、個人に掛かっているので、近寄った所で結界の恩恵は得られないのだ。
ハープとスーリヤは全体を見るリモニカをカバーしながら異界の勇者を屠っていた。スーリヤとリモニカのどちらも自由にさせると味方の被害が大きいのがわかり、こちらも固まってくれた。
「ワタシはおかげでいい腕鳴らし出来たわヨ」
リモニカのフォローが入るおかげでアナートとファウダーは【真の勇者】達が相手でも善戦していた。大剣の勇者に対して、大斧を扱うアナート、聖弓を扱う勇者に対して、錫杖で守るファウダー。武芸は不利だったが、聖なる弓矢を撃つ際に、リモニカが妨害するためファウダーのカウンターの魔法が間に合う。
アナートは単純に力量差だけで上回っていた。技術も魔力も【真の勇者】より上だったのだけど、封印で弱っていたため互角まで落ちてしまったのだ。
「それよりもだ、皇帝にならないと混乱が収まらなくなりそうだよね。どのみちシャリアーナには激怒されることになりそうだよ」
先を思い嘆くレガト。仲間達は、えっ、嘆くのそっち? と、思わずにはいられなかった。




