第十一話 召喚契約発動と情報封鎖
レガト達はナルジク川上流の名もなきダンジョンを後にした。入り口の封印は戻し、ダンジョン入り口の痕跡も完全に隠しておいた。ここはもうレガト達以外は訪れる事がないダンジョンになる。
異教徒達も化け物を封印し、ここだけは実験でも使うまいと決めての事だろうから、資料にも記憶にも残されていないはずだ。
アナートとは見かけはアレだけども、この系統独特の圧の高い迫り方はして来なかった。むしろ、見かけや喋り方で損をしている気までしてきた。
「あら、なんか強制的に召喚契約が結ばれたワ」
ダンジョンから出た瞬間に、カルジアの召喚契約が発動したようだ。この場にいないカルジアが泣き崩れていないといいが、多分無理だろう。
「恐ろしい魔力ネ。バアルト達がなつくわけだワ」
勝手に契約された事は問題ないらしい。ひとまずサイズの合うものがないのでありあわせの装備で身を固めてもらう。旅装はメニーニがリグ用に作った大きいサイズの服やフードのついたマントがあったので支給した。
武器は誰も使っていない大斧だ。軽装なのでせめて大盾にさせようとしたのだが、大盾は背中に背負うそうだ。
「今更だけど、【星竜の翼】へようこそ、アナート」
レガトはガシッとアナートと握手をした。これは絶対やっておきたい儀式なのだ。仲間達も怖がらず、握手を交す。
「このままサラスナへ行ってみて、装備を見繕うとしよう。サーラズの情報も調べたいからね」
ナルジク川沿いを降って行けば歩いて一日でサラスナの街へと辿り着く。ペガサスや戦挺ならもっと早いけれど、レガト達はゆっくりと歩いてサラスナへ向かった。
「ナルジク川の対岸に巨人がいるんでしょ。アナート達の頃から巨人はいたの?」
アナートに慣れて来たので先頭は変わらずハープ、それにスーリヤ、その後ろをアナートに入らせた。
「そうね、あの頃からいるワ。巨人族とは言っても人族と変わらないわヨ」
ハープの質問にも軽く答える。巨人族は人化の魔法と巨人化の魔法を得意とする種族だ。普段の生活は五M程の通常状態で暮らしている。巨人化すると三倍から五倍程の大きさになると言われていて、竜族でさえ一対一で勝つのは難しい強さだと言われていた。
「うちは食糧が豊富だったから取引をしていたのヨ。だから案外平和だったわネ」
巨人族の中には鍛冶職を担うヘカトン族や、一つ目の戦闘集団ギガンデスなど、いくつかの部族がいた。
「もし、アスターが巨人の一族と結ばれたのなら、あの娘に似た容姿で巨大になるのかしらネ」
話し好きなアナートは恐ろしい姿を想像させた。
「いっておくけど、アスターは可愛らしい娘ヨ。その娘みたいに」
アスタルトの姿は、スーリヤのような少しキツい感じの美少女らしい。そして極度の姉好き兄好きらしい。
「ティフェネトとも喧嘩はしょっちゅうだったわヨ」
好きなものにはべったり張り付くらしく、なかなかの構ってちゃんだったようだ。アミュラなら血を受け継ぐアストリア王女の情報をくれそうだから、調べてみるとよさそうだ。
長々とお喋りをしているうちに日暮れとなり、サラスナへと到着する。ノーラ達の疲労を考え、宿に泊まるつもりでいた。しかし、波止場は壊れ、街の方は明かりが見えない。嫌な予感がするが、レガト達はメニーニの新開発した迷彩上衣を全員被る。姿形の幻惑に、消音、魔力の気配まで希薄にする優れものだ。
サラスナの街は滅ぼされていた。以前ベルク商会の店や、会長宅が燃やされた事はあった。その後の事は知らないものの、サラスナの定期船は最近まで動いていたはずだった。
「襲撃されたのは最近だね。サーラズがいよいよきな臭くなったってことだ」
街の人達はどうなったのだろうか。波止場の様子を見る限り、おそらく皆殺しにされた可能性は高い。
「会長宅の跡地はずっと昔に燃やされたままだ。火は使えないが、そこで休息を取ろう」
この状況下でも休まないわけにはいかない。ノーラ達だけでなく、アナートもまだ身体が慣れていないので無理はさせられなかった。
「見張りは三段階に分けよう。スーリヤ、僕、リモニカで組を分ける」
レガトも敵対したわけじゃない。しかしサラスナを滅ぼした相手が、自分達を見逃すと思えなかった。冒険者達が帝国からロズク村へ向かった情報は知ろうと思えばわかる。
何か企んでいたとして、この機会に外部の者にサラスナの現状を吹聴されるのは嫌だと思う。口止め料をくれれば考えなくもないけれど、手荒な連中なら口封じを選ぶに決まっていた。
ローディス帝国の混乱も含め、いよいよサーラズに潜む悪しきものの残骸の始末が出来るかもしれない。
明け方、ナルジク川からの追跡者がやって来た。ヘルハウンドの群れ十体を率いた冒険者らしき者が八名、武装が明らかに高級な者が二名いた。冒険者はギルドで雇われたのだろう。
アナートの囚われていたあのダンジョンが時間や場所を狂わせていた為、追手も混乱し見失って慌てたようだった。
「休息が取れただけマシかな。ノーラ達はヘルハウンドを頼む倍の数だけどやれるね」
「うん。任せておいて」
迷彩上衣のおかげで匂いは消せないけれど、まだ目視での確認はされていない。いまのうちに布陣を済ませ、迎撃の準備を行う。
「ハープはスーリヤとあの二名を、ホープはファウダーとアナートと一緒に冒険者達を頼む。リモニカは皆のカバーをよろしく」
「レガトはどうするのさ」
「僕は指示を出している、隠れたやつを討つよ」
異界の強者とでもいうのか、高級そうな装備の者達は全部で五人いた。二名は追跡者の指揮と、囮を兼ねているのだろう。だから隠れている三人は、この姿を見せている連中より強いといえた。
「一人で大丈夫?」
リモニカが心配する。昔は金級冒険者を止める為に無茶をして生命を落としたものだ。レーナの魔法がなければレガトはここにいなかった。
「昔と違って、力は出せるからね」
リモニカにはそれだけで伝わる。サーロンド候爵の領都サロンにあれだけの人員がいるとなると、サーラズ全体の侵略準備は完了目前と見ていいとレガトは想定した。
襲い掛かるヘルハウンドをタンキとエメロが盾を使って止め、コノークとヤメネが槍で突き刺す。ノーラは四人の連携の隙を付くヘルハウンドを狙って斬る。倒す事より捌く事を念頭に、うまく連携を取ることが出来ていた。
ヘルハウンドをけしかけた冒険者達は敵と見なして攻撃を行う。アナートの大斧の一振りで、鋼級冒険者三名の首が飛んだ。ホープとファウダーは驚愕する冒険者の不意をついて、銀級冒険者を魔法でそれぞれ打ち倒す。残りの銀級と鋼級二名の冒険者は、リモニカの弓矢と、ハープとスーリヤが通り抜けがてら倒していた。
異界の強者二名は後退して仲間と合流しようとしたが、背後に隠れていた三人はレガトによって既に息がなかった。
「話すか、死ぬか選ぼうか」
残る二名に向って、レガトはにっこりと微笑んだ。三名の金級以上の異界の強者が瞬殺された事実に、生き残りの二名が崩れる。実際はリモニカの援護でレガトの相手は二名で済んだ。自分達より早く冒険者達を片付けた仲間達に、ノーラやコノークも驚いていた。
「帝国から来る冒険者達は始末するように、命令があっただけだ」
ロズク村へ行ってくれるのは、サーラズにとっても都合よく始末出来るので承諾が早かったようだ。ついでにサラスナについても聞いておく。
「サラスナがあると外部に情報が流れる。目障りな連中ごと始末する予定だったが、大きな商船団が試運転だと言ってやって来て、街の人間を攫っていった後だった」
何だろう、心当たりがあるぞとレガトは思った。サラスナに残ったのは異教徒の息のかかった者達ばかりだ。計画を漏らされては困るから、街ごと始末されたはずだと、二人の強者は語った。
「あとは君等の処分だが······」
レガトがそれだけ告げると、後ろからファウダーが意識と記憶を強制的に奪った。異教の巫女だったので、呪いの解呪もお手の物だった。
「この二人と死んだ仲間はあまり大した記憶ない」
ファウダーは記憶のチェックを済ませると元に戻した。この無表情な少女は、サラッと凄い事をやってのける。
「わかった、ありがとうファウダー」
頭を撫でるとファウダーは喜ぶ。感情を表に出すのが苦手なので、分かりづらいけれど、レガトは目の輝きで判断出来るようになった。
ファウダーの引き出した情報では「誰が、どこで、何をやるか」 は、わからなかった。ただ情報封鎖を行っているのは確かな事だ。彼らは帝国や南の海洋同盟などからやってくる者達の始末をするように命じられていたからだ。




