イヤフォンと世界の音
昼休みのざわざわと五月蝿い教室。
僕はこの時間が苦手だ。どうも落ち着けない。笑い声。ひそひそ話。他人の視線。
どうせ見られていない。頭ではわかってる。でもどうしようもなく不安になる。
笑われてるのかな。陰口言われてるのかな。変に見られてるのかな。
そう思うと呼吸がおかしくなる。苦しい。
箸が進まない。だんだん怖くなる。
僕はポケットから乱暴にイヤフォンを取り出して、耳に急いで付けた。そしてお気に入りの音楽をかけた。
周りの音が消えた気がして、自分の音だけが聞こえてくることに安心した。耳を塞げば嫌なことから守られている気がするのだ。
教室は嫌だ。学校が嫌だ。みんな怖く見えるからひとりがいい。
『じゃあ俺が消してあげる』
不意にそう聞こえた気がした。
『俺が全員を───』
何かが、僕の中の何かいる。
でも確認するより先に僕は気を失った。
『おい起きろ』
何かが話しかけてくる。
『俺はお前の別人格だ』
(別人格・・・?)
『俺はお前の不安から生まれた人格だ』
(・・・は?)
『俺がお前の為に心を閉ざす必要のない世界にした』
(何を言ってるんだ?)
『いいから、見てみろ』
目を開くとそこは見慣れた教室だった。
でもそこには誰もいなかった。時間を確認すると、昼休み。教室だけじゃない、廊下も誰もいない。
「・・・は?どうして」
『人と関わりたくないっていうお前の願いを叶えてやったんだよ』
「そんなこと、頼んでない!」
声が反響した。何の音もしない。誰の声もしない。夕日に照らされた真っ赤な世界が広がっている。
『でもお前は心の底で望んでた。周りが怖い。1人がいいって。何も考えたくない。何もしたくないってな、だから叶えた』
僕は学校から走り出て、人を探した。
でも誰もいない。
違う、僕が望んだのはこういうことじゃない。
誰かに認められたかった。でも認めてくれる人がいなくて、怖くて、だから1人になった。1人の方が気が楽だった。
「全部お前が消したのか?」
震える声でもう1人の僕に聞いた。
『ああ、そうだ。全員殺した』
赤く見えていたものは全て人間の血だった。