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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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はなちゃんの帰還。

割れて砕け散ったガラスの向こうのブースでは救護班がなだれ込んできてオブジェに取り込まれている生存者たちの収容に取り掛かっていた。

生存者たちは戒めから解かれたが未だ苦痛があるのか苦悶の表情を受かべて弱々しく身を捩っていた。

しかし、命の危険は去ったようだった。


圭子さんは体を震わせてみちの白い灰を見つめている。


「うわぁああああ!

 ごめんなさい!ごめんなさい!

 私はなんてことを!

 そんなつもりじゃ!そんなつもりじゃ!

 ああああああ!

 私はなんてことをお願いしたんだろう!

 みちさん!ごめんなさい!」


圭子さんは泣き叫びながらみちの白い灰に駆け寄り手をついて涙を流した。

さととまりあがそっと圭子さんの肩に手を当てて立たせるとその体をそっと抱きしめた。


「圭子さん、だいじょうぶ。

 私達はいつでもその覚悟はあるのよ。」

「みちは喜ばしい最期を迎えたわ。

 それに…これが最後ではないのよ。

 まだまだ…続いて行くわ。

 泣かないで。」


さととまりあは微笑みながら圭子さんの涙を指で拭いてやった。

俺達は、岩井テレサも、ポールも、四郎も、圧倒されてその場に立ち尽くした。


「そうよ圭子さん泣かないで。」


みちの声が聞こえて来た。

見ると、微かな柔らかい光に包まれたみちがおぼろげながらの姿で微笑んで立っていた。


「こうなるかも知れない事は最初から判っていたのよ。

 さととまりあにも言ってあるの。

 私の灰は海に流すように頼んであるわ。

 世界と繋がれるようにね。」


圭子さんがじっとみちを見つめていた。


みちは微笑んだ。


「さと、まりあ、後はお願いね。

 この世での最後に、共に歌いましょう。

 私が好きだったあの歌を、一緒に。

 また、さととまりあに会う時までの思い出に。」


さととまりあが頷いた。


みちとさととまりあは静かに歌い始めた。

その静かでいて優しい歌声にオブジェの戒めから解き放たれたが苦悶の表情で唸っている生存者たちの顔も苦痛が癒されるのか表情が和らいでいった。


Only in sleep I see their faces,

眠りの中でだけ あの子たちの顔が見える


Children I played with when I was a child,

小さいころいっしょに遊んだ子どもたち


Louise comes back with her brown hair braided,

ルイーズは茶色い編髪を垂らして もどってくる


Annie with ringlets warm and wild.

アニーは赤い巻き毛を乱しながら




Only in sleep Time is forgotten—

眠りの中でだけ 時のうつろいは忘れられる


What may have come to them, who can know?

あの子たちがどうなってしまったか 誰も知らない


Yet we played last night as long ago,

だけれど ゆうべは昔のようにみんなで遊んだ


And the dollhouse stood at the turn of the stair.

階段の踊り場にドールハウスが建っていた


The years had not sharpened their smooth round faces,

なめらかな丸い顔は 何年経っても尖らない


I met their eyes and found them mild—

じっと目をみると やさしい瞳だった


Do they, too, dream of me, I wonder,

あの子たちも わたしの夢を見ているの?


And for them am I too a child?

やっぱり子どものわたしが 出てくるのかしら?


am I a child?

やっぱり子どものわたしが?


am I a child?

やっぱり子どものわたしが?


歌が終わるとみちの姿は静かに消えて行った。

天に昇ったのか、それともこの世界のどこかへ向かったのか…。


俺達はみちの灰を見つめていた。

圭子さんは両手の指を絡ませて祈りを捧げ、岩井テレサも涙を流しながら祈りを捧げ、ポールは胸に手を当てて敬意を表し、俺と四郎は深く深く頭を下げた。


さとが俺達に言った。


「さあ、みちとのお別れは済みました。

 この曲はもっと大勢で歌う曲なんだけど…よく練馬の屋敷で死霊さんたちと歌いました。

 それでもみちも充分に満足したようでした。

 立ち会ってくれてありがとう。

 あなた達、はなちゃんはもう起きていると思うわ。

 会いに行ってあげて…あ、すみませんみちの灰を海に流してやりたいのですけど…。」


俺たちは口々にお礼を言い、岩井テレサが最大級の敬意を持ってみちの灰を回収すると伝えた。

そして、さととまりあには無制限に援助をすると伝え、何か困る事が有ればすぐに連絡をするように言い、俺も感謝を伝えて何かあった時はワイバーンが直ぐに駆け付けると約束すると、さととまりあがかえって恐縮した。



俺達は岩井テレサが手配した作業員が丁寧至極にみちの灰を回収して美しい容器に入れるのを見つめた。

そして、地下通路を使ってさととまりあを哨戒船に乗せて海でみちの灰を散灰する手配をつけた。


そして俺達ははなちゃんがいる部屋に赴いた。


はなちゃんは身を起して俺達を出迎えた。


「はなちゃん!」


俺と四郎と圭子さんは口々に叫び、代わる代わるにはなちゃんを抱き上げて頬ずりをした。


「やれやれ、あのままあそこにいても良いとさえ思ったじゃの。

 しかし、そんなにわらわは気を失っていたかの?

 ほんの一瞬に思えたじゃの。」


はなちゃんは気楽な調子で言った。

岩井テレサがはなちゃんに尋ねた。


「はなちゃん、私達にも断片的にだけど見えたの。

 でも、断片的過ぎて良く判らなかったわ。

 あなたが見た事を教えてくれる?」


はなちゃんが首を傾げた。


「はて、わらわも何から話せば良いのか…一つ言える事はあの場所は…あの空間は…なんじゃの?

 とても不思議な子供に…男なのか女なのか…子供なのかさえ…あそこは時間や距離の概念が全くないような…わらわが見た事は話すのじゃが…とても長い話で要領を得ないかも知れぬじゃの。」










続く


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