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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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外道の尋問を始めた…はなちゃんは…深く入り込み過ぎた。

「惨めに体を捩るな、哀れな奴め。

 謁見じゃない、尋問だ。

 これからお前に質問するから正直に答える事だな。」


ポールが外道に言った。


「なんだよ~楽しいおしゃべりタイムじゃないのかよ~!

 しかし俺は腹が減ったぜ。

 俺が腹が減るとこのアートも苦しい思いをするぜ~!

 ひゃひゃひゃ!」


外道の顔が醜く歪み笑みを漏らしているようだ。


「昨日も尋ねたと思うがお前を別物にしたのは誰だ?」


外道がごろりと体を転がして俺達に背を向けた。


「なんだよ、昨日と同じ質問かよ。

 答える訳ねえじゃんか~!

 また俺の心を覗いてみろよ~!

 どうせ泡吹いて倒れると思うけどね~!

 ひゃひゃひゃ!」


岩井テレサが無表情で尋ねた。


「あまり強がり言ってもここでは通用しないわよ。

 素直に答える方があなたの身の為ね。」

「ひゃひゃ!

 俺の身の為じゃねえだろ?

 俺のアートの心配してるんじゃねえの~?」


ポールがはなちゃんを見た。


「はなちゃん、まぁ、こんな感じだ。」

「判ったじゃの。

 ちぃと探ってみるじゃの。」

「はなちゃん、気を付けてね。

 奴の心の深淵はとても深いわよ。」

「判ったじゃのテレサ。

 気を付ける事にしようじゃの。」


はなちゃんが外道の化け物に顔を向けた。


「…奴が悪鬼と化したのは…拘置所に入ってからじゃの…なんじゃろか?

 蜘蛛が奴の部屋に入っているの。」

「そう、そこまでは昨日私達のメンバーも探ったわ。

 あの外道は蜘蛛とおしゃべりをしたみたいね。

 おしゃべりの内容までを探ろうとしたけど…。」

「ふん、確かに…じゃの。」


はなちゃんが黙ってまた外道の化け物に顔を向けた。


「蜘蛛が奴を煽てての、奴は選ばれた逸材と言ったじゃの…あの樹海地下の創始者と名乗る…いや…もっと大きな存在…あの創始者と名乗った奴は…奴も操られていたようじゃの…蜘蛛が奴の心に幻影と言うか…なんじゃろか…。」


「創始者と名乗るアホウの後ろにまだいるのか…。」


俺は四郎に囁いた。

四郎が黙って頷いた。


「あの創始者の後ろに…あれは…子供じゃの…どこかの窓越しに美しい子供が…ぴぎゃぁああああ!」


はなちゃんが俺の腕で白目を剥いて痙攣した。


「どうしたはなちゃん!」

「はなちゃん無理するな!」

「はなちゃん!

 戻ってあまり探らなくても…う!うううう!」


テレサが頭を抱えて身を捩った。


「だだ!大丈夫じゃの!

 もう少し!もう少し!

 ううううう!

 オリーブ…オリーブの…なんじゃの?」

「はなちゃん!戻れ!

 それ以上は!」

「もう少し!もう少し!

 なんじゃ!どっちなんじゃの!

 お前はいったいどっち!…ぴぎゃぁああああああああ!」


はなちゃんが再度悲鳴を上げ、岩井テレサが床に崩れ落ちた。


「テレサ!いかん中止だ!

 私にも何か凄い何かが!

 中止!中止!

 遮断しろ!」


テレサに手を掛けたポールも顔を歪ませて叫んだ。


「子供が!子供がぁ!

 空に!なんじゃこれはぁ!ぴぎいいいいいい!」


ガラス窓の先に黒いシャッターが下りて来た。


「ひゃはははは!

 耐えられねえだろ!

 耐えられねえだろ~!

 俺も初め…。」


外道とつなげている音声が切れてシャッターが完全に降りた。

その途端にガラス窓に亀裂が走った。

壁にも天井にも床にもあちこちに亀裂が走っている。

はなちゃんが苦し紛れに念を放射したのかあるいは…。

はなちゃんは今まで見た事も無いほど激しく痙攣し白目を剥いた。


「はなちゃん!

 はなちゃん!」

「皆ここから出ろ!

 早く!」


頭を抱えたポールが叫び、岩井テレサに手を貸してドアに向かった。

俺もはなちゃんを抱えて立ち上がりドアに向かおうとして四郎を見た。

四郎も白目を剥いて泡を吹いていた。


「四郎!大丈夫か!あ!ああああああ!

 うわぁああああ!」


俺の頭に物凄い耳鳴りが走って激しい頭痛が走った。

口から涎が流れ出る程の、今まで感じた事がないほどの痛みが走った。

頭の中に何本もの虫歯があり、下手で無慈悲な歯医者が容赦なく歯を削る様な鋭い痛みに悶絶しそうになった。

ドアが開き、ポールは岩井テレサを外で待機している職員に預け、四郎の身体を抱えて俺とはなちゃんも抱えてドアに走り、廊下に出た。

ドアを閉めてからポールも頭を抱えて崩れ落ちた。

頭の痛みは徐々に過ぎ去って行き、岩井テレサも苦しげなが顔ながらも正気を取り戻したようだ。

四郎はまだ気絶しているが呼吸は落ち着いている。


「くそ!

 なんだこれは!」


いつも冷静沈着なポールでさえ額に汗が流れ苦しそうに手で拭った。


「はなちゃんはかなり深く踏み込んだようだがそれが奴を刺激したのか…。」


俺は腕の中のはなちゃんを見た。

激しい痙攣は収まったが白目を剥いたままピクリとも動かなかった。


「はなちゃん?

 はなちゃん?」


俺は抱いたはなちゃんを揺さぶったがはなちゃんの反応は無かった。


「彩斗、ここを移動しよう!

 はなちゃんは…まだその依り代に憑いている!

 離れてはいないが…。

 ここから離れるんだ!」


俺が何とかはなちゃんを抱いたまま壁に手をついて立ち上がったのを確認するとポールが岩井テレサに手を貸して気絶している四郎の襟首をつかんで廊下を引きずって行った。

職員たちが走って来てストレッチャーに四郎を乗せ、俺達は別の、控室の様な部屋に向かった。


部屋に入り俺は椅子にどさりと腰を下ろした。

職員たちがはなちゃんの体を丁寧に抱き上げてソファに横たえた。

ポールはまだ辛そうな顔をしながらもポケットから煙草を取り出して火を点けた。

そして椅子の背に身をゆだねて上を向いて煙を吐き出した。


「私は800年以上生きて来て色々な物を見たが…こんなのは…久しぶりだな…。」


ポールは口の中に苦い物があるように顔を歪めて呟いて俺に尋ねた。


「彩斗は大丈夫か?」

「ええ、なんとか…。」


ストレッチャーに横たわる四郎が目を開けた。


「おお…酷い目に遭った…なんなんだあれは…。」

「四郎、どうやら無事のようだな。

 感受性が鋭い者ほど衝撃が強かったようだ…しかしはなちゃんが…。」


ポールがはなちゃんが寝かされているソファに屈み込み、はなちゃんの顔を覗き込んだ。

岩井テレサはテーブルに突っ伏して荒い息を吐いていた。


「…ポールさん…はなちゃんはいったい…。」

「はなちゃんは昨日の者達よりも深く入り込めた。

 私にも昨日の尋問より鮮明な新しいビジョンを感じたが…はなちゃんに反応が無い…この依り代にいるのは間違いないのだが…。」

「そんな…。」


ソファに横たわっているはなちゃんが依り代にしているビクスドールは白目を剥いたまま微動だにしなかった。


はなちゃんは俺達ワイバーンの守護神のような存在だ。

時折幼い少女のような面を見せるが、実は非常に頼りになる存在だ。

もしも…もしも俺達がはなちゃんを失うような事になったら…。


俺と四郎はソファに屈みこみ、じっと動かないはなちゃんを見つめた。

はなちゃんはいったい何を見たのか奴の深淵と言う奴のどこまで深く入り込んだのか…俺ははなちゃんの手をそっと握った。

勿論体温など感じないありふれた人形の手だ。

しかし、俺は改めて体温を感じないはなちゃんの手の感触にぞっとした。


はなちゃん…。







続く



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