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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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岩井テレサの秘密施設に外道の化け物の被害者の塊は収容された…拷問が出来ないのではなちゃんが尋問の助けに呼ばれた…俺と四郎とはなちゃんは酷い生き地獄にあっている人達を見た。

夕食を終わらせ、風呂を済ませた俺達は暖炉の間でコーヒーを飲みながらテレビでの情報収集を続けた、が、何か新しい情報が出てくる事は無かった。

疾走する凛の白馬にしがみつく俺とジンコの顔がテレビに映ってはいるが画像がかなりぶれて俺達の顔は良く判らないだろうと胸を撫で下ろした。

特にジンコは、ジンコの父親である検察官があの場所にいたのでテレビから顔がばれるのを怖がっていた。

ジンコの父親が嗅ぎつけたら真鈴のかか様並みの騒動になるかも知れないからだ。

夜も遅くなり、テレビからの情報収集もやめようかと俺達は思った。

圭子さんが立ち上がって手をパンパンと叩いた。


「皆、今日は大変だったけど、いつまでも落ち込んでいる暇は無いわよ。

 もうすぐ家やプールも出来上がるから引っ越しの準備もしないといけないしね。

 悪鬼の討伐だってやめる訳には行かないでしょ?

 さぁ、元気出そうよ!」

「…そうね…圭子さんの言う通りかも…。」


真鈴が圭子さんの呼びかけに答えた。


「それに結婚式も近いですぅ~!

 みんな忘れていませんか~!」


加奈が言い、おお!そう言えば!と皆が声を上げた。

11月中か12月初めには明石一家の家も喜朗おじと加奈の家も、そしてプールも温室型の屋根と壁付の冬でも入れるプールも完成するし、結婚式も家の完成に合わせて行うと決めてあるのだ。

極内内で招待すると言ってもリリーを始めとするスコルピオメンバーと岩井テレサ達や処理班、スコルピオ指揮官のノリッピーには挙式を執り行う司祭を頼んであるくらいだが、やはり多少は本格的にしようと言う事になっていてリリー、圭子さん、凛のウエディングドレスも作ってもらっているし、ブーケなども3つ手配が必要だし、挙式の二日前から喜朗おじと加奈で3組用のウェディングケーキの製作に取り掛かる事になっていて。

死霊屋敷で挙式を上げてから『ひだまり』までウェディングドライブと披露宴、そして再び死霊屋敷まで戻りプールサイドで2次会パーティーをすると言う段取りは組んであり、その準備は着々と進んでいた。


「そうだな、俺達の大切なセレモニーをあの外道に台無しにさせる訳には行かないぞ!」


喜朗おじがこぶしを上げて叫んだ。

そう、全くその通り!

ワイバーンの大事な行事をあの外道の化け物に水を差されてたまるか!

俺達は気を取り直して明石夫婦、四郎とリリー、クラと凛、3組の合同結婚式の準備の打ち合わせを始めた。


夜遅くにリリーから電話が来た。

明日の午前中からあの外道の化け物の尋問にはなちゃんを参加させて欲しいとの事だった。

物理的に法廷での被害者と繋がっているあの外道に拷問が危険であると言う判断から、人の心をかなり深いところまで見る事が出来るはなちゃんの出番と言う訳だ。


明日の朝、俺と四郎がはなちゃんを連れて岩井テレサの神奈川県小田原にあるあの山を丸ごとくり抜いてある秘密基地に向かう事になった。


ジンコと真鈴が、いや他の皆も行きたがったが、やはり大勢で押しかけてしかもあの被害者たちのオブジェも見なければならないかもと言う事に気が付いて二の足を踏んで、結局俺と四郎とはなちゃんと言う最小限の人数で向かう事になった。


薄曇りの空の下、四郎が運転したいと言うので俺ははなちゃんを抱いて助手席に座った。


「彩斗、やはり運転と言うのは経験がものを言うな。

 われももっともっと色々と、都会や高速などを走って経験を積まないとな。」

「そうだね四郎、ところで買いたい車決まったかい?」

「いや、まだだが、彩斗、新型ディフェンダーと言う車が来たらこのランドクルーザーは売ってしまうのか?」

「いや、下取りにした訳でも無いし、死霊屋敷はまだまだ車を停める所に困らないからね~。

 どうしようか考えている所だよ。」

「ならばこの車をわれにくれるとありがたいのだが。」

「ん?ああ、別に良いけど…四郎…それで良いの?」

「うむ、運転し慣れているしいざとなった時に頑丈だしな。

 われは気に入ってるのだ。」

「それなら良いよ。」

「彩斗、ありがとう。」


俺達はこの前クラの面会に来た山上の施設にやって来た。

岩井テレサとポールが出迎えに来て俺達はエレベーターで地下5階にある外道の化け物と未だに化け物と分離できない法廷の被害者たちの塊が収容されている施設に入った。

長い廊下の先に奴が収容されている部屋のドアが見える。


廊下を歩きながらポールが俺達に言った。


「明るい所であまり『あれ』をまじまじと見ない方が良いぞ。

 かなり気分を害するからな。」

「…あの被害者たちですか?」

「そうだ、既に死んでいる者達も、あの外道に無理やり口や顔の表情を動かされてな…生きている状態で取り込まれた被害者と区別がつき辛くなっている…まだ生きている被害者は私達を見ると助けを求めて来てな…悪夢のような状態なんだ。」

「…。」

「…。」

「一か八か外科的な処置であの外道から生きている被害者を個別に切り離す事が検討されているが…成功率は絶望的に低いそうだ。

 彼らに繋がっているあの消防ホースの様な太い血管を切断するとまず間違いなく被害者たちは即死するだろうと医師達が結論を出した。

 さらに厄介なのが麻酔をかける事が出来ないと言うか…全く麻酔が利かない。

 点滴も笑気ガスも何も効かないから…やるとしたら…麻酔無しだ。」

「…。」

「果たして何人がその苦痛に耐えられるか…。」


俺達がドアの前に立った。

ゆっくりとドアが開き、中央に仕切りがある分厚いガラス越しにあの外道の化け物の全ての脚を斬り落とされた芋虫のような体と化け物の尻から伸びた消防ホースの様なものが伸びている仕切りの反対側には法廷で取り込まれた被害者の塊があった。


塊の憔悴しきった顔を俯けていた女性の顔が動いて俺達を見ると悲鳴のような懇願を始めた。


「あああああ!助けてください!ここから出してください!

 お願い!この気持ち悪い物から私を!私を私を切り離して!私を!無理なら殺して!私を殺してください!お願いです!お願い!お願い!お願い~!」


この女性の声に気が付いた他の塊に取り込まれている生存者たちが口々に助けを、そして慈悲による死を願って叫び懇願した。

塊全体が泣き叫び懇願する被害者たちの体の動きで気味悪くうねる。

悪夢の光景だ…。


カーテンが引かれて彼ら彼女らの目から俺達は隠された。


「…何と惨い事じゃの…。」


辛うじて声を発する事が出来たのははなちゃんだけだった。

俺も四郎も顔を青ざめて沈黙するしか出来なかった。


外道の化け物と被害者の塊を収容する場所と繋がっている音声が途切れた。

本来は完全防音で今までは中の様子を知るために音声装置が繋がっていたのだろう。

音声を切ってもらって助かった。

俺達は気を取り直して芋虫状態で横たわっている外道の化け物の方を見た。

外道の化け物は俺達を見てニタニタとさもしい笑みを浮かべていた。

思わず踏みつぶしてやりたくなるような小憎らしい笑顔。

外道が何かを俺達に言ったが何も聞こえなかった。

ポールが何かを合図すると化け物側の音声が聞こえて来た。

外道の化け物の声の他に仕切り越しに被害者たちの懇願の嘆きの声が聞こえてくる。


「どうだ、俺のアートは歌うんだぜ~!

 ひゃひゃひゃ~!

 良い歌声だろう~!」


俺は嫌悪感を顔に出すと負けたような気をして平静な表情を保つように努力した。


ポールが椅子を持って来て、はなちゃんを抱いた俺と四郎、岩井テレサとポールが腰かけた。


「はなちゃん、私とテレサで尋問をするが、その間奴の心を探ってくれるかな?

 私達の質問に答えなくとも奴は心にヒントとなる物を思い浮かべるかも知れないからそれを読み取って欲しいのだ。

 だが、気を付けて欲しい。

 昨晩に心を読める3人のメンバーが奴の尋問に立ち会ったが…精神に異常をきたしてしまった。

 1人は完全に再起不能になった。

 …あまり奴の心の深淵を覗き込まないように。」

「判ったじゃの。

 わらわも気を入れて探ってみるじゃの。」

「よし、こちらの音声を奴と繋げてくれ。」


ポールが指示をすると俺達の部屋の音声が奴の部屋に聞こえるようだ。

俺が咳ばらいをすると奴が嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「ひゃひゃ!

 お話が出来るじゃねえかよ~!

 よし、俺様との謁見を許すぜ~!」


気味悪い笑顔を浮かべて奴は体を捩って俺達に近づこうとした。










続く



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