披露宴も終わり、内輪の2次会に突入した…チークタイム、俺はユキに「俺達は誰にも殺されない。」と約束した。
披露宴の時はガチガチに緊張しまくっていて挨拶などさせたら絶対に嚙みまくりドモリまくり、そして沈黙してしまうと危惧した喜朗おじの機転によって新郎代表挨拶を免れた明石は先ほどとは打って変わって弾けまくりはしゃぎまくり、俺の手にグラスを押し付けて笑顔で酒をどぼどぼと注いでいる。
「あれ、景行、悪鬼ってあんまり酔わないんじゃないの?」
「ふふふ、彩斗、酔いが醒める数分の内にまた酒を飲めばそこそこ酔えるんだよ~!
昨日の晩から披露宴の挨拶をどうしようかスゲエ困っていたからな、喜朗おじのおかげで助かったよ!
あ!喜朗おじがディスコパーティー始めるそうだぜ!
彩斗も行くんだろう?」
「うん、今ユキが真鈴達とトイレで吐いてるからそれが済んだら行くよ。」
「待ってるぜ!
うひゃひゃひゃ!」
明石が瓶から酒をぐびぐび飲みながらガレージへ歩いて行った。
誰かがガレージ地下の扉を開けるたびに往年のディスコナンバーが流れて来た。
俺も聞いた事が有る「ダンシングクィーン」だとか勿論「ジンギスカン」や「スカイハイ」、「ガット・トゥ・ビー・リアル」など、新しい曲が掛かるたびに歓声が沸いた。
恐らくガレージ地下は物凄い盛り上がりなんだろう。
時々踊りつかれたものが暖炉の間やプールサイドでまったりと休憩し、会話を楽しみ、オードブルで栄養を補給して、グラスに酒を注いでアルコールを補給してはまた、ガレージに踊りに行ってるようだった。
トイレで盛大に吐いたユキと真鈴とジンコがプールサイドでコーラを飲み、タバコを吸って体調を整えていた。
「あれ?加奈は?」
俺が尋ねると真鈴が呆れたようなため息をついて答えた。
「加奈は凛たちとディスコ真っ最中よ。
悪鬼の凛はともかく、人間の加奈がね~私達と大して変わらない位飲んでいたのに全然平気なのよね~!」
「まぁ、夜はまだこれからだから私達は体調を整えてディスコに突入するわよ!」
「それにしてもこういう時に二日酔いに無縁な悪鬼が羨ましいわ~!」
ジンコがガッツポーズをしたあとで拳で自分のこめかみを叩いた。
それは俺達ワイバーン内でのハンドシグナルで『損害度外視で全面突撃をかます』という、物騒なシグナルだ。
まぁ、二日酔いに無縁なのは羨ましいが、悪鬼が酔いのテンションを持続するには人間の何倍もの酒を連続して飲み続けなければならないのは、それはそれで大変だろうなと思った。
俺はもう少し酔いを醒ましてからユキ達と合流しようと思い、キッチンでコーヒーを淹れてタバコを吸った。
ズラを外した喜朗おじが汗を拭きながらキッチンに入って来て俺が淹れたコーヒーを飲んだ。
「よう、彩斗、盛り上がってるか?
後20分くらいで第1回めのチークタイムを始めるぞ。
ユキちゃんを確保しとけよ。」
「うん、判ったよ喜朗おじ、サンキュー、今は…。」
「ああ、今はクラにディスクを回してもらってるよ、クラは中々筋が良いぜ。」
喜朗おじが親指を立ててにやりとしてキッチンから出て行った。
入れ替わりにはなちゃんを抱いた岩井テレサとリリーと四郎がやって来た。
「おお、彩斗、ちと、チークタイムが始まる前に少し話があるのだ。」
「なに?四郎?」
俺が尋ねると岩井テレサが代わりに話し始めた。
「彩斗君、どうやらあなた達が追っている多摩の殺人悪鬼のグループ、はなちゃんから聞いたけど、何か地下深くに正体不明で大きい存在が居るんですって?」
「ええ、そうなんです。
なんかすごく大きい物が地下を回遊しているようで、その目的や正体はまだ判らないんですが…。」
岩井テレサがため息をついた。
「はぁ~、水臭いわね~!
私達は同盟チームでしょ?
うちからもスコルピオを出すわよ。
その正体不明な存在と多摩の殺人悪鬼のグループには一緒に当たりましょうよ。」
「え、そうして頂けるとこちらも助かります、本当に、よろしくお願いします。」
岩井テレサの申し出は本当にありがたかった。
「じゃ、後日早いうちにスコルピオと共同作戦会議をしましょうよ。」
リリーがそう言ってウィンクした。
「さて、これで厄介な奴を始末すれば…われは暫くリリーと旅に出るぞ!」
四郎が言った。
暫く旅…なんの事を言っているか始めは判らなかったが、どうやら新婚旅行の事を言っているらしい。
そうか…新婚旅行と言うものがあったねぇ~。
今回、多摩山中の悪鬼の件を片付けたら、明石夫婦、四郎夫婦、クラ夫婦で交代で10日間ほど休みをもらって新婚旅行に出かけたいとの事で、俺は喜んで賛成した。
俺はプールサイドでまだ少しへばり気味のユキの所に行った。
「ユキ、調子はどう?
踊れそう?」
「彩斗、もう少し時間を頂戴よ。
ああ、夜風が気持ち良いわ~。」
「そうか…もう少しでチークタイムが始まると喜朗おじが教えてくれたんだけど…。」
ユキは急に立ち上がりビシ!と背筋を伸ばして俺の手を握るとガレージのディスコに歩き始めた。
さっきは口と鼻を塞がれて危うく窒息死しそうになったけどやはり俺にとってユキはこの世で一番かわいい女性だ。
ディスコでは喜朗おじが新しいLP版を幾つか用意して、そしてミラーボールの回転が弱まり照明が少し暗くなり、ホイットニー・ヒューストンの「アイハブナッシング」が流れて来た。
俺はユキの手を取ってガレージ中央に進み出て、他のカップル達とまったりとチークを踊った。
いつもは殺意溢れる銃弾が飛び交うこの場所で愛する女性と手を取り合ってチークを踊る事になるとは思わなかった。
ユキは俺の胸に頭を持たせてゆっくりと踊った。
そして、「オールアトワンス」などのバラードが流れて俺達はチークを踊り、互いに身を委ねた。
「ねえ…彩斗…。」
ユキがかすれた小声で言った。
「何?ユキ?」
「…こんな時にこんな事…言いたくないけど…こんな幸せな時にこんな事は…でも…約束して…。」
「…。」
「誰も殺されないって…彩斗も当然だけど…仲間の誰も殺されないって…私に…お願い…私…怖いの…。」
そう言ってユキは俺の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らした。
ホイットニー・ヒューストンが突然だったと歌っていた。
ユキは死なないと言わずに殺されないと言った。
俺達のやっている事の厳しさを知らなければ言わない言葉だった。
俺はユキを凄く不憫に思って泣きたくなった。
この一見平和極まりない日本で、恋人がいつ得体の知れない悪鬼に、化け物に殺されるかも知れないなんて事をしている…。
俺はユキの顎を上げ、ユキの瞳を覗き込んだ。
「ユキ、誰も殺されない。
誰も死なないし誰も欠けない。
約束するよ。絶対に。
俺達は絶対に誰にも殺されない。」
その言葉に実は空しい響きがある事を俺は知り尽くしていた。
だが、この時に俺はユキに約束するしか無かった。
そして俺が言った言葉が本当に実現すると俺自身が、俺自身が放った言葉にしがみ付いた。
ユキは何とか笑顔を浮かべてくれた。
そして俺達は体力の限界に来て倒れて眠りだす多数の犠牲者を出しながらも何とかオールナイトで遊び通した。
第9部 深淵編 終了
次回
第10部 予兆編
第9部 深淵編終了です。
お付き合いくださった皆さん、誠にありがとうございます。
次回 予兆編をお待ち下さい。
どうも、ありがとう。




