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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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ユキのすげえキスで俺の呼吸が止まった…そして披露宴…そして2次会…新婚初夜って何それ美味しいの?

逃げる俺の後ろから真鈴、ジンコ、加奈の叫び声が聞こえて来た。


「ああ!彩斗のやろー!逃げやがった!」

「皆!奴を捕まえるですぅ~!」

「くそー!ユキが身を張ってブーケをゲットしたのに!」


真鈴達が俺を追い、すぐに追いつかれ足にタックルを食らい、俺は取り押さえられて羽交い絞めされた。

後ろからブーケを高く掲げながらユキが、サ゛イト゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!と叫びながらよたよたと走ってくる。

関係無いお気楽なスコルピオの男性メンバー達がゲラゲラ笑いながら、スマホを向けながら俺達の騒ぎを見物している。


「彩斗、てめぇ!

 普通なら笑顔で抱き留めるもんだろうがよぉ!」

「だって怖かったんだもん!」

「それが恋人に言うセリフかぁ!このボケェ!」

「だって怖かったんだもん!」

「おこちゃまみたいな事ほざいてるですぅ!

 やっぱ未だに2回と4分の1野郎ですぅ!」

「だって!すげぇ怖かったんだもん!」


しかし、俺の横に立っていた喜朗おじだってユキを見て掛け金のお札を放り出してこええええよ!小便ちびっちまうよぉ!と叫びながら頭抱えて逃げたのだ。


「大人しくユキの腕に抱かれな!」

「ユキ!彩斗はまだまだおこちゃまでバカだけどまぁ、そこそこに良い奴だから逃がしちゃ駄目よ!」

「彩斗に婚約の誓いのキスをするですぅ!

 命全部吸い取るですぅ!」

「サ゛イト゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!

 チ゛ュ゛ー!チ゛ュ゛ー!チ゛ュ゛ー」


ユキが俺に抱きつき顔全体が呑み込まれるんじゃないかと思うようなキスをされた。

実際に鼻と口を封じられて呼吸が出来ない俺は必死にユキの腕を2回タップしたが、ユキは許してくれず、俺の肺の中の空気を全部吸い取る勢いだった。


酸欠で徐々に薄れゆく俺の意識の中で喜朗おじが、しまった!面白過ぎて最後まで見ちまったぁあああああ!準備の監督をせねばぁああああ!と叫びながら『ひだまり』に走って行った。

俺は気絶した。

樹海地下で戦死した小次郎が両手にスゲエ美女の肩を抱きながら俺に『彩斗の旦那、まだあんた程度にはこっちは早いですぜ~!』とへらへらと笑った。


気が付いた俺はマイクロバスの席に座らされ、横では髪の毛や化粧を直したが、まだ目にアオタンが付いているユキが幸せそうに俺の腕に腕を絡めていた。


「彩斗、気が付いたか?」


横に座っているはなちゃんが声を掛けた。


「今日はまだギャラリーが沢山いるからもう少しお人形のままでいなければならぬが、さっきは中々見応えがあって面白かったじゃの!」


ちきしょう、はなの奴はお気楽だな…。

マイクロバスが『ひだまり』に向かっている。

今日は駐車場スペースをかなり割いて臨時の席を設けてあるからなるべく車を出さず、マイクロバスでピストン輸送する事にしてあった。

マイクロバスが『ひだまり』に到着し、参列者がぞろぞろと降りると、また空のマイクロバスは死霊屋敷に戻っていった。

既に四郎達新郎新婦が席に着いている。


世間で行うような改まった披露宴で無く、ごくごく内輪でのカジュアルな披露宴でみんなで気楽に楽しみたいと四郎達の要望もあって、到着した参列者は既に酒を口につけて談笑を始めていた。

ビュッフェスタイルにして料理も次々と運ばれてきてテーブルに並んでいる。

大食らいの悪鬼の客が大勢いると言う事で特別に隣の中華料理店の大将にも頼んで大皿の中華料理も頼んであった。

大将や息子夫婦がこの度はおめでとうございますと笑顔で言いながら料理を運んで来ては四郎達と記念写真を撮ってまた料理を運んできてくれていた。

どうやら『ひだまり』開店からこの方、相乗効果で隣もかなり売り上げが上がったそうで格安で料理を作ってくれたようだった。

『ひだまり』は御近所ともうまくやって行けているようで安心した。


あのハロウィーン騒動の時、『ひだまり』の取材を諦めたテレビクルーのいくつかが大将の店をテレビで紹介したようで、元々味が良い中華料理店は順調に客を増やしているようだ。


参列者が全員到着した。


元々親族もおらず、関係者は全部気が知れた仲間内の四郎達の披露宴は初めに喜朗おじが開宴の挨拶と岩井テレサとポールレナードの音頭で乾杯、新郎新婦を代表して明石が挨拶、そして圭子さんとリリーの挨拶とコーラス隊の歌そしてウェディングケーキの入刀、頃合いを見てのお開きの挨拶位の簡素なプログラムだった。

皆、心置きなく宴を楽しんでくださいと言う趣向だ。

まぁ、俺達の真の姿を全く知らない圭子さんのママ友たちもかなり出席しているのであまり込み入った話が出来ないのでこうなったと言う所もあった。

ワイバーンやスコルピオのメンバーにはあまり詳しく組織の事をママ友たちに話さないように箱口令も敷いてあった。


全員が揃ったところで喜朗おじがグラスをスプーンで叩きながら立ち上がった。


「それでは皆様お揃いの様なので、披露宴を開催したいと思います。

 何か挨拶を、と考えましたが…皆さま結婚披露宴での長い挨拶を延々と聞いて魂が抜けそうな体験を散々されていると思いますので、ごく簡潔に私からご挨拶をさせていただきます。

 まずは披露宴の進行の紹介を。

 最初に私が挨拶をさせていただいた後で、岩井テレサ様、ポール・レナード様の音頭で乾杯を、そしてこの日の為に練習した新婦達も参加するコーラス隊が数曲歌わせていただきます。

 そして、ウェディングケーキの入刀の後は皆様はお時間が許す限り歓談いただき、お酒を飲み物を料理をスィーツを楽しんで新郎新婦を祝福して頂きたいと思います。

 それでは僭越ながら私から。

 え~…今回はこの祝いの席にご出席ありがとうございます!

 色々な苦難の末にここまで辿り着けて私達は幸せです!

 どうか、この幸せが、この慈愛に満ちた時間が末永く続きますように祈りを込めて。

 新郎新婦たちに幸運を!

 ワイバーンに幸運を!

 スコルピオに幸運を!

 そして皆様にも大いなる幸運が続きますように!」


会場が拍手に包まれた。

 

「続きまして乾杯の音頭を、岩井テレサ様とポール・レナード様にお願いします!

 みなさま、新しくグラスになみなみと飲み物を注いでください!」


皆のグラスにそれぞれの飲み物が注がれる中で岩井テレサとポールが前に立った。

岩井テレサがグラスを掲げて話し始めた。


「今日は誠に良い日和で心洗われる気分で結婚式に参加できました事を、素晴らしい思い出が出来た事を有難く思います。

 また、ブーケ、未婚女性にとって希望の象徴のブーケ争奪戦ではなかなか白熱した展開でした。

 次回、またこのような機会がある時は私もまた是非参加して…今度こそはブーケを獲得したいと思います!」


…うわぁ…やっぱり悔しいんだ悔しいんだ悔しいんだ…岩井テレサは今度はマジ本気でブーケを狙うんだろうな…。


「皆も次は頑張ってね!」


ブーケを取り損ねた女性たちが拳を突き上げて雄叫びを放った。


「それでは乾杯しますよ!

 新郎新婦と皆さまの大いなる幸運を願って…ポールも何か言って。」


ポールが見る者を、特に女性を蕩けさせるような笑顔で会場をゆっくり見回した。


「まさにしかり、そうであるように、と同意の意味で私はアーメンと言わせて頂きます。」

「ほほ、まさにその通りね!アーメン!

 それでは皆様!乾杯!」


会場中が乾杯と唱和してグラスを掲げ、乾杯をし、盛大な拍手が沸いた。

喜朗おじは新郎の席でガチガチに緊張して小刻みに震え、固まっている明石を見て、無表情でチッと小さく呟き明石の挨拶を飛ばし、圭子さん達のコーラスの紹介に変えた。


「それではケーキ入刀の前に新婦も参加するコーラス隊による素敵なコーラスをお楽しみください。」


圭子さんとリリーと凛が席を立って前に進み出た。

リリーが代表で話し始めた。


「皆様、今日は私達の結婚式にご参加いただき、誠にありがとうございます。

 今日、この日にこの宴を開ける事に感謝いたします。

 そして、私たちがこの席に辿り着くまでに幾人もの尊い犠牲を出してしまいました。

 彼ら彼女らの事をご存じも者も多いと思います。

 少し…しんみりとするかも知れませんが私達はずっと彼ら彼女らの魂と共にある事を、彼ら彼女らに対する感謝を忘れないために数曲、歌わせて頂きます。

 どうぞ、彼ら彼女らに思いをはせながら聞いていただくと嬉しいです。


そしてコーラス隊が立ち上がり、アカペラで歌い始めた。


「埴生の宿」「アメージンググレイス」そしてみちを看取った時にさととまりあが歌った「オンリーインスリープ」


歌声が『ひだまり』に流れた。

しんみりとしたが、平和で慈愛に満ちた空気が『ひだまり』に満ちた。

俺達は富士に樹海で戦死したあほ兄弟の片割れ小次郎や圭子さんを死ぬまで一歩も引かずに守った護衛の者達などに思いをはせながら、感謝の思いを胸に圭子さん達の美しい歌声に聞き惚れた。


隣の大将と息子夫婦も窓から店内を覗き込んで涙を流して聞いていた。

テラス席の者達が笑顔で大将達に椅子を勧め、そしてグラスを持たせてシャンパンを注いだ。


ふと見ると『ひだまり』に何回か来た事が有る老夫婦がテント席の外から中を見ていた。

今日が貸し切りだと言う事を忘れていたのか…俺は席を立って老夫婦をテント席の空いている席に案内して、どうぞ無料で食べ放題で飲み放題です。御一緒に祝って頂けると嬉しいです、と言うと老夫婦も隣に座っている参加者達も笑顔になった。

食事も飲み物も余るほど用意してある。

喜ぶ人が増えれば増える程、より大きな幸せになると俺は思った。

真鈴やジンコや加奈やユキも俺を笑顔で見て頷いた。

どうやら俺の思いに同意してくれたようだ。

その後、何組かの本日貸し切り営業を知らない客達を俺達は全部迎え入れて共に披露宴を祝った。


「皆さんご清聴感謝いたします。

 最後に、これはもう私達のテーマソングになりました。

 この歌の様に世界中のありとあらゆる人たちがそれ以外の存在も含めて、皆が共に前に進み、ひとつになり、素晴らしい世界を笑顔で迎えられるようにと祈りを込めて歌います。」


そしてリリー達は、初めて明石一家が死霊屋敷に遊びに来た時に司や忍達が歌った「ワールドインユニオン」を歌い始めた。


あの時の感動にまた、俺達は包まれた。

この時間が永遠に続けば良いのに…。


やがてコーラスが終わり、感動した皆が涙目で送る盛大な拍手に包まれた。


そして、3組の新郎新婦による喜朗おじ特製のウエディングケーキの入刀、脚立に昇った喜朗おじがケーキを切り分けて皆に配った。

給仕をしている小三郎が俺に話しかけた。


「ふぅ、彩斗さん、やっと俺達も料理にありつけますよ!

 ブーケの奪い合い、凄かったんですって?

 見たかったな~!」

「小三郎、残念だったね~!凄い見ものだったよ!

 誰かが動画を撮っていたからあとで見ると良いよ!」

「それは楽しみです!

 …ところであの…美々が…ブーケ獲得したって…本当ですか?」


小三郎が尋ねると俺の横の真鈴が悔しそうなため息をついて話した。


「そうよ小三郎、私も人間メンバー相手じゃ決して引けを取らないと思ってたんだけど…今日の美々の気迫は凄かったわね~!

 私も忍も首筋に手刀を叩き込まれて気絶したわ~!

 勿論ブーケも美々が持ってったしね~!」

「そそ…そうなんですか…」

「どうしたの小三郎?」


俺が尋ねると小三郎が周りを見回した後、俺の耳に口を寄せた。


「実は…今はまだ内緒にしてくださいよ…俺…美々と付き合い始めたんですよ…樹海地下の戦闘の後ですけど…。」

「…え?そうなんだ…。」

「さっき美々が俺に給料の3か月分じゃないと受けとらないからね~!って言われて…なんか凄い笑顔で…圧が凄かったんですよ…。」


なるほど…ここにも、『一生あんたは私の物宣言』される候補がいるのか…。

俺は思わず小三郎をきつくハグして耳元に『同士よ』と呟いた。


「ちょっと彩斗!あんたもっと飲みなさいよ~!

 飲みが足りないんじゃないの~!」


あの時からブーケを片時も話さないユキが満面の笑顔で俺にグラスを掲げた。

今までに見た事が無いほど酔っぱらっていた。


やれやれ…そして披露宴は予定していない客もかなり迎えて盛況だった。


そして数時間が過ぎ、やがてお開きの時間が来た。

圭子さんのママ友達は名残惜しそうに圭子さん達に挨拶をしてマイクロバスで家まで送り届けられた。

テント席の片隅のバスケットにかなりのお金が入っていた。

恐らく招待されずに来た客達が無料では申し訳無いのか、ご祝儀のつもりなのか置いて行ってくれたのだろう。

俺達は相談してこのお金に俺達もお金を足してどこかの困った人たちに寄付する事にした。

喜びは広げ、分け与えるべきだ。


俺達はぞろぞろと歩いて死霊屋敷に戻って来た。


「さぁ!今度はごく内輪で2次会よ~!

 遠慮なしに騒ぐわよ~!

 みんな準備は良いかな~!」


リリーが雄叫びを上げて皆が反応して叫ぶと、リリーや圭子さん、凛がウエディングドレスの腰のひもを引っ張ると長いスカートの裾が見事に落ちて、『ひだまり』の制服並みに短いスカートになり、皆がどよめき喝采を受けた。


「喜朗おじ!

 ディスコ!

 ディスコタイムいつ始めるの!」


なるほど、ディスコタイムの為に瞬時に踊りやすい短いスカートに変える工夫がしてあったのか。

圭子さんが叫ぶと喜朗おじがいそいそとズラを被りバンダナを締め、丸いサングラスを掛けてビールをひとケース抱えてガレージ地下に走った。

酔っぱらってプールに飛び込む者やまだ食べ足りないのかオードブルを掻きこむ者やディスコだぜ~!とガレージに走って行く者など、半端ない盛り上がりになって来た。


「彩斗!やっとわらわも遠慮なく喋れるし踊れるじゃの!今夜はオールナイトじゃの!」


今までの我慢が爆発したはなちゃんが白目を剥いた顔をかくかくさせて岩井テレサと手を取り合ってジルバのステップを始めた。


そう、間違い無く今夜はオールナイトだな…新婚初夜ってなにそれ美味しいの?という感じで新郎新婦たち全員が朝までやるぞ!みんなついて来い!と叫んで拳を突き上げていた。







続く


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