ブーケ争奪戦の決着はついた…まぁ、ね…女性ってさ…怖いね…。
四郎達新郎新婦が抜刀され高く掲げられたサーベルのアーチを潜り抜けると再びポールの号令が響き、居並ぶスコルピオ隊員たちは今一度サーベルを高く掲げ真上に持って行くとその握りを口元に寄せ刀礼をするとポールと共にサーベルを鞘に納めた。
圭子さんのママ友たちはその迫力があり凛々しい様子に蕩けてため息をついていた。
ユキもサーベルアーチを見ながら俺の手をぎゅっと握って顔を赤くしてため息をついた。
「ひゃぁ…あれ…凄くかっこ良いね…彩斗…。」
ユキがため息交じりに囁いた。
もしも俺とユキが結婚式を挙げるとしたら絶対にサーベルアーチをしたがるだろうな、やれやれ…。
まぁ、男の俺でもあの凛々しく迫力ある儀式にドキドキしたものな…。
四郎達はオープンカーに向かい、そしていよいよオープンカーに乗り込んでブーケトスと言う所で、ピー!という笛の音が響いた。
何事かと見ると、何と先ほどの司祭服から2019年ラグビーワールドカップ東京大会に使用された審判の公式ユニフォームを着たノリッピーがやはり2人の審判のユニフォームを着た助手を連れて出て来た。
…いったいどこからあんなものを手に入れたのだろうか…俺はノリッピーを恐ろしい子だと思った。
ノリッピーがもう一度高らかに笛を吹いて注目を集めてから話し始めた。
ノリッピーの後ろでは2人の助手がライン引きを使って一本の白い線を引いていた。
「やれやれ!
先ほど私が空よりも広く海よりも深い愛情と誰隔てない慈愛が大事と説教させて頂いたが、花嫁のブーケを狙って不穏で熾烈な争いが起こるのではないかとの情報を手に入れました!」
ノリッピーが笑顔で皆を見回したが、加奈達もスコルピオの女性メンバー達も少し居心地悪そうに顔を俯け、身を捩った。
ノリッピーが再び言った。
「まぁ、未婚女性がブーケトスに情熱を感じる事は私も理解します。
ただ、ブーケ争奪戦がルール無用の血を血で洗う熾烈な戦いになり、神聖な婚姻の日を汚す事は許されません!
そこで最小限ですがルールを設ける事とします!
私の後ろに引かれたエンドラインをブーケを持った状態で突破した者をブーケ獲得者とします!
エンドラインを越えての争奪は禁止とします!
また、己の体以外の武器の使用は禁止!
身に隠した武器は今助手が箱を持って廻るので提出するように!
首などへのタックルなど生命の危険に直結する行為は禁止!
締め技、関節技は5秒以内!相手がタップを2回した場合は速やかに技を解く事!
審判がレッドカードを出した場合、対象選手は以後の披露宴、2次会パーティーへの参加は禁止します!
そしてブーケ争奪戦を行った後は一切の遺恨を残さない事!
なお!スポンサーの『おはようからお休みまで、いつもあなたに最高のお花をお届けします!大町生花、駅前ロータリー本店』のご厚意により、ブーケ獲得者3名については獲得者の結婚式の時、今回の様な最高のブーケを特別に半額で製作するとの事です!」
選手たちは拳を上げてどよめいた。
ますますブーケ争奪に力がこもるだろう。
呆れた事にさととまりあ、岩井テレサまでもが柔軟体操をしたり首や関節を動かしてボキボキ言わせながらやる気満々でフィールドに入っていった。
やや複雑な表情の榊に言わせると岩井テレサは今は配偶者が亡くなっているので参加資格は充分あるとの事だった。
そして、ノリッピーの助手が持っていた木箱は小型ナイフやメイス、メリケンサックや小型ピストル迄物騒な物でいっぱいになった。
勿論真鈴達がストッキングなどに隠していた投げナイフなども木箱に入っていた。
さととまりあもメリケンサックとダガーナイフを、岩井テレサは毒針を発射する小型消音ピストルを服に忍ばせていた、
一見平和極まりない結婚式の集まりだが、どこかの誰かがちょっかいを出したらとんでもない騒ぎになるだろう…まぁ、俺も腰に小雀ナイフとポケットにブラックジャック、足首に投げナイフとディリンジャーピストルを仕込んではいるが。
「それでは花嫁はブーケトスの所定の位置へ、ブーケトス争奪戦参加者は所定のエリアに入ってください!
フォーメーションの確認後は私がもう一度ホイッスルを鳴らし、花嫁がブーケをその手から離すまで一歩も動いてはいけません!
選手たちは所定の位置に!」
やがて選手?達はエリア?フィールド?に入り、ひしめき合い互いに体を押し合いへし合いながら有利な場所を占めようとつばぜり合いが始まった。
やや(見かけの)歳がいっているさととまりあや、岩井テレサが発情した猫の様な恐ろしい唸り声をあげ、最年少で参加している司と忍などとも有利な場所をとろうと熾烈な威嚇合いしていた。
徐々に見物している俺達にも緊張感が高まり、それぞれが応援する選手に声援を送っていた。
選手の中を歩き回っていたノリッピーがホイッスルを吹き、選手の動きを止めた。
あとは圭子さん達がブーケをトスして、ブーケがその手を離れるまでは動けない。
ノリッピーと助手は選手たちの配置を確認してからエリアから出た。
そしてノリッピーは圭子さん達に視線を送り、圭子さん達がいつでもブーケトスできる体制を確認し、そしてホイッスルを口に持って行った。
その時、真鈴達とスコルピオ女性メンバーや、さととまりあ、岩井テレサ、司と忍の思念がごちゃごちゃと俺の頭に流れ込んで来た。
「チキショウ、やっぱり奴らは6人がかりでナナツーと美々をリフトする気だよ。
タワーを作ってリフトするつもりだね…タワーのガードまでいるよ。」
「大丈夫真鈴、私達にも飛び道具が有るわ…ワイバーンがブーケ2つ獲得すれば私達の勝ちだよ。」
「リリーのブーケは絶対確保だとしてもう一つは確保したいねぇ…スコルピオの底力を…リフトするタワーに誰も近づけちゃ駄目よ…。」
「なんだか…わくわく!」
「あの子達はどうやら人海戦術で高さを稼ごうとしているね…さと、私達ならあの人間タワーを駆け上ってそこからジャンプすれば…。」
「ああもう、いっその事私の立場を利用してあいつらに場所を空けさせようかしら…でもそんな事をしたら岩井テレサの名が地に落ちるわ…ちきしょう、さっきからアメフトのヘルメットを被ったガキが邪魔だね…どさくさに紛れて蹴飛ばして前に進もうかしら…。」
「武器の使用は駄目だとノリッピーが言ったけど自分に体を使った打撃技が禁止とは言っていないからナナツーと美々のタワーの下を支える奴らに蹴りとかぶち込んでタワーを崩せば…。」
「なんか皆凄い殺気ね…でも私もブーケを欲しいわ…そしたら彩斗と…。」
「凄くドキドキ!」
「そうよジンコ、真鈴がタワーを崩した瞬間に私達の飛び道具を…。」
「ほほほ!お嬢さんたち、200年以上生きてきた私とさとの事を見くびるんじゃないわよ~!」
「ドキドキ!」
「ワクワク!ちょっとヘルメット重い~!」
参加者の様々な思念が飛び交い俺の頭が破裂しそうになっている。
しかし…女性って…女性って…怖いなぁ~!
俺のそんな気持ちも知らずに喜朗おじやポールやスコルピオの男性メンバー達がニコニコして声援を送りながら誰がブーケを獲得するか賭けが始まり皆の手を千円札や5千円札が飛び交い胴元のポールと喜朗おじに手に集まった。
そして、遂にノリッピーのホイッスルが鳴り、笑顔の圭子さん、リリー、凛、3人の花嫁が手に持ったブーケが一塊に空高く、空高くに放り上げられた。
それから…何というか…大混乱だった…今思い出しても良く思い出せない部分があるが…ともかく熾烈なブーケ争奪戦が起きた。
選手たちは空を見上げ、リフトの頂点となるナナツーと美々がブーケの落下点真下を見極めて移動してその外周をタワー要員、そして更に外周にガード要因がフォーメーションを組んで移動していた。
その外側では何とかタワーの建設を阻止しようと真鈴とジンコとユキが斬り込んでいったが中々ガードに阻まれて陣形を崩せない。
加奈はその争いに加わらずなぜか司と忍の服を掴んでじっと上を見上げていた。
ナナツーと美々が落下点を見極めたのか、上を見上げたままリフト!と叫ぶと周りのタワー要員が彼女達の身体を掴んで高く持ち上げた。
人間の体でかなり高いタワーが出来上がったと同時に、さととまりあ、そして岩井テレサが猫のように手足を使って人間タワーを駆け上った。
観衆は驚きどよめいた。
途中、さとが、そして岩井テレサがタワー要員からの蹴りや肘撃ちを腹に食らってゲフッ!と声を漏らして落下してゆき、残ったまりあがタワーの頂点にいて両手を広げてブーケを待ち構えるナナツーと美々の肩を踏み台にしてさらに高く跳びあがった。
その時驚いたのは、まりあのさらに高く、司と忍がブーケめがけて飛んで行った。
加奈がどりゃぁああああ!と気合いをいれて渾身の力を込めて司と忍をブーケめがけて投げ上げたのだった。
空を飛んで行く司と忍を見て圭子さんがひぇええええ!と悲鳴を上げたが、リリーが大丈夫あの高さなら誰かがきっと無傷で受け止めるからと安心させた。
司と忍は見事にまりあを出し抜いて一つずつブーケを掴んだ。
出し抜かれたまりあは、ちくしょう~!と叫びながら落ちて行き、2つのブーケを取られて残り1つのやや離れたブーケに手を伸ばしたナナツーと美々を支えきれずタワーがかしぎ、更に真鈴の渾身の飛び蹴りが止めを刺したブーケ争奪の為に愚かな女性たちが築き上げたバベルの塔は神の怒りに触れ、崩れ落ちた。
ブーケを抱えて落下する司と忍を回収するために加奈とジンコと真鈴とユキが走ったが、生き残ったスコルピオの女性メンバーの迎撃に会い、腹に蹴りを食らったジンコとユキがゲフゥ!と声を漏らしてうずくまった。
そして、ブーケを持った司を見事にキャッチした加奈が司を脇に抱えてスコルピオ女性メンバーや復活した岩井テレサやさとのディフェンスを突破しながらエンドラインに向かって進んだ。
その間、間一髪でブーケを持った忍がスコルピオの美々に空中でキャッチされ真鈴と派手な争奪戦に陥り美々と真鈴、そしてブーケを手から離さない忍が地面に倒れて三つ巴で組んず解れずの戦いを繰り広げた。
その間、奇跡的に誰の手も触れず地に落ちたブーケに飢えた女性たちが群がった。
そのあまりにも混沌とした見るに堪えない光景には流石にノリッピーが介入して、あまりにも酷いモール状態でブーケが中々外に出ない事から急遽スクラムを組んでブーケの争いを再開させたりした。
いやもう…物凄い騒ぎに…いや、ここだけの話、非常に見ごたえがあるブーケ争奪戦だった。
これはもう世界大会でも開いて良いのではないかというレベルだった。
そして、見事にブーケを掴んだ司を抱えてエンドラインに飛び込んだ加奈が、また、真鈴と忍との戦いを制した美々がブーケを高々と掲げてエンドラインを通過した。
首筋に手刀を叩き込まれて気絶した真鈴と忍の亡骸が折り重なって横たわっていた。
残り1つ、あまりにも多くの女性が群がったブーケ争奪戦は再びもみ合う人の塊となったままエンドラインを通過した。
ノリッピーがホイッスルを鳴らし塊の動きを止めた。
そしてゆっくりと塊をほぐしていった。
ユキが…髪の毛を振り乱し、化粧も崩れ、鼻血を流して歯をむき出した物すごい形相でブーケを両手で握りしめているのを確認してノリッピーが長々とホイッスルを吹いた。
これでノーサイド、結局、ワイバーンが2つ、スコルピオが1つ、岩井テレサ達無所属連合がゼロという結果となった。
人の塊がほぐされて、ユキはやっと塊から足を引き抜いた。
その時邪魔な人の身体をユキは勝ち誇った顔をして蹴飛ばしていた。
きっとあの人の塊の中では物凄い争奪戦が繰り広げられていたのだろう。
ユキが俺を見た。
そして、ブーケを高く上げて俺の名前を叫びながら走って来た。
俺は両手を広げて笑顔でユキを抱きとめようと、初めは思った。
初めは……。
…ユキの服はあちこちが破れ、ユキの髪の毛は酷く乱れ、化粧が無残に崩れ、右目にアオタンが出来て、鼻血を流し、歯を食いしばりながらも歯を剥き出しにして、目がどこかの世界に行ってしまったような感じになって奇妙な微笑みを浮かべて…それは…正直に言って…凄く怖かった。
「ザイトォオオオオオオオオ!
イッジョウ~!
イッジョウアンタヲ~!
ニガザナイバァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~!」
と俺には聞こえた…ひゃぁあああああ!怖い怖い怖い!怖いよ~!
俺は恐怖のあまり鼻水を出して泣きながら悲鳴を上げて踵を返して全力疾走で恐怖の鬼婆ぁと化したユキから逃げた。
続く




