結婚式前日、俺達は幸せな気分で準備に取り掛かる…ブーケトスで波乱の予感が…。
午後にノリッピーがスコルピオの男性メンバー何人かを連れてトラックでやって来た。
「いやぁ、遅くなっちゃったけどね!
明日祭壇にやはりキリスト像とマリア像を置きたいと思ってね!
そしてさ、やっぱり式にはね一応本物のオルガンで演奏をしたいと思って調子が良い物を持って来たよ!
いくら何でもパイプオルガンはむりだけど、これなら充分良い音が出るよ!あまり場所をとらないから何とか暖炉の間の片隅に置けると思ってね!」
ノリッピが俺達に言うとスコルピオメンバーがマリアが磔後のキリストを抱く木彫りのピエタ象を祭壇に置いた。
2メートル程の高さのピエタ象が祭壇奥に置かれた。
聖母マリアが慈悲深い目でその手に抱いた磔後のキリストを見下ろす像だった。
その見事な木彫りの象の、伏し目でキリストを見下ろすマリアの優しい顔に俺達は見入った。
司と忍もまりあの優しい顔にじっと見とれていた。
「いやあ、十字架に磔になったイエスの物にするか迷ったけどね、やはりここは慈悲をテーマに彫られたピエタ象が結婚式にはちょうど良いと思ってね!」
そして、オルガンが運び込まれて祭壇横の壁に沿って置かれた。
「新婦入場までの間を持たせるのにやっぱり必要だよね~!
ちょっと軽く演奏して少し調子を確認させてもらえるかな?」
スコルピオメンバーの男性が指をぺきぺき鳴らしながら座るとオルガンを演奏し始めた。
なるほど、祭壇も仕上がったし、この見事で穏やかなオルガン演奏はまるでこの暖炉の間が小さいが立派な教会のように思えて来た。
そしてノリッピーがダイニングで俺達と式次第の確認をした。
まず、ベストマン。
これは新郎の付き添いで指輪を渡す役目で、明石には喜朗おじ、四郎にはポール、クラには俺が付き添う事になっている。
次にメイドオブオナー。
これは新婦の付き添いで指輪交換の時に、新婦のブーケや手袋を預かったりする役目で、圭子さんには真鈴、リリーにはジンコ、凛には加奈がそれぞれ付き添う事になっている。
俺達は式の手順を改めて見直してベストマンやメイドオブオナーの手順に間違いが無いかお互いに確認した。
明日の早朝には大きなオープンカーが3台屋敷に到着して俺達に見送られながら四郎達3組の新郎新婦は披露宴会場の『ひだまり』に向かう事になっている。
式が終わり次第速攻で『ひだまり』に向かい披露宴の準備の管理をする喜朗おじは悔しがり、俺達に何度も新郎新婦が出発する時を撮影しておいてくれと頼んだ。
ノリッピー達は去り、入れ替わりに四郎が花を頼んでいた久保さんと言う女性が店長ともう一人に男性店員が乗ったの花屋のトラックでやって来て暖炉の間や死霊屋敷の玄関の飾りつけを始めた。
店長と男性店員がブラボー!ブラボー!と叫びながら花を飾り付け、その出来栄えをカメラで撮っていた。
華やかな花で飾り付けられた死霊屋敷に嫌が応に俺達は盛り上がった。
前を通るたびにちらちらと飾りつけの花を見て笑顔になった。
そして久保さんが花嫁用のブーケを持ってダイニングにやって来た。
目ざとくブーケを見つけた真鈴やジンコがブーケに吸い寄せられるようにダイニングにやって来た。
それはそれは見事な出来なブーケだった。
「このブーケは式後に飾りを取ってそのまま花瓶に差す事が出来ますよ。
花達もかなり命を長らえる事が出来ます。」
久保さんが胸を張って言った。
四郎が俺達に言ったようにかなり花に愛情を注ぐ人のようだ。
久保さんの説明を聞きながら真鈴とジンコはじっとブーケを見つめていた。
心なしか目が血走っている気がする。
久保さんが四郎達にお礼を言われながら帰って行った後も真鈴とジンコがブーケから目を離さずに時々ひそひそと話していた。
「あの…真鈴…ジンコ…さっきから何を話してるの?」
俺が尋ねると真鈴とジンコが血走った眼を俺に向けて少し怖かった。
「彩斗、結婚式に参加する未婚の女性のね、最大のイベントって何だか判る?」
真鈴が押し殺した声で言った。
「…え?…何だろう?…2人ともそんなに睨まないでよ…判らないよ…。」
真鈴とジンコが口をそろえて叫んだ。
「ブーケトスよ!」
……ああ…成る程…。
ジンコが鬼気迫る顔で説明した。
「良い?彩斗。
結婚式の花嫁からのブーケトスはね、未婚女性にとっては節分でお菓子撒いたりとか何か祝い事でお金や餅を撒いたりするのを拾う事の何倍も重要な事なのよ!
地方の祭りでも何かを奪い合って男達が血みどろの戦いを繰り広げるでしょ!
あれと変わらないわ!
日本でもブーケトスの奪い合いで何人も怪我人や死者が出たり、海外ではブーケトスを巡って未婚女性たちが銃を撃ち合って物凄い銃撃戦になって戒厳令が発せられるほどの騒ぎになる事も決して珍しくないのよ!」
…ホンマかいな…。
しかし俺はギラギラと血走った真鈴とジンコに怖くて反論が出来なかった。
ジンコが続ける。
「今回は幸いな事に3組の結婚で獲物のブーケが3つあるわ。
でもね、スコルピオの女性メンバーとかもきっとブーケを狙って、あれやこれや何か卑怯極まりない悪辣な手段を考えているかも知れないのよ!
現にこの前ナナツ―にブーケの事を話したらちょっと鬼気迫る顔になったもんね!間違い無いわ!あいつら絶対に何か企んでいるのよ!
今回私達は加奈と私と真鈴で共同戦線を張って何とかブーケ奪取の作戦を立てたけどね。
明日は、きっと今までで最大の激烈な戦いになるわよ!
最強の敵、スコルピオの女性メンバー相手にね!」
ジンコはそう言い捨てて真鈴と何やら話しながらダイニングを出て行った。
明日、ブーケを巡って血を血で洗うような事態が起きない事を祈りつつ、俺は又、見事な出来のブーケを見つめた。
暖炉の間で式次第を読みながら何かぶつぶつ呟いて式の予行練習をしている圭子さんに真鈴とジンコと加奈がブーケ奪取の戦いをスコルピオの女性メンバーギャングと繰り広げるかも知れないと言うと圭子さんはほほほほっ!と高らかに笑った。
「何よ彩斗!
それ、面白そうじゃないの!
じゃあ、明日はリリーや凛と話してなるべく空高くにブーケトスをするようにするわね!
哀れな未婚の女性たちの激烈な戦いを私も見たいわ~!」
…なるほど…既婚女性の余裕と言う奴か…まだ未婚の女性達に幸せのおこぼれをくれてやろうかい!という感じ…俺は女性の怖い一面を垣間見た気がした。
ユキがブーケトスの騒動に巻き込まれて怪我をするか死ぬか心配になった。
鐘楼の鐘が鳴った。
何だろうと屋根裏に昇ると司と忍が友達を連れて来て、はしゃぎながらひもを引っ張って鐘を鳴らしていた。
やれやれ、無邪気なもんだな、と俺は苦笑いをして1階に降りて行った。
暫く鐘が鳴り、俺は明日の結婚式の事を考え、ただの付き添いの俺でも気分が高揚した。
そう、ワイバーンは更にファミリーとしての絆が深まる日だ。
その後俺は大量の酒の配達に来た酒屋さんの応対をして酒をキッチンに運んだり、入りきらない分を喜朗おじと加奈の家に運んだり、どの酒がどこにあるかメモをして冷蔵庫の扉に貼ったりと忙しかった。
明石や四郎達も忙しく立ち歩きながらみんなが笑顔になっていた。
こんな幸せが永遠に続けば良いのにと、いつ誰が殺されるか判らない危険極まりない事をしている俺達だが、そう思ってしまう。
四郎達と暖炉の間に、祭壇まで新郎新婦の出入りする道を開けて椅子を並べ、もしも座り切れないほどの人が来た場合の為にプールに続く通路にも椅子を並べた。
厚手のビニールで風よけを張り巡らせたので参列者が寒さで震える事も無いだろう。
天気予報を見ると明日は珍しく温かく、少し遅れてきた小春日よりになると言う事だ。
天までが俺達の結婚式を祝福してくれているようで、まだ時折鳴る鐘の音を聞きながら俺は空を見上げて感謝の祈りをした。
何に祈っているのか自分でも判らないが、とにかく感謝したかった。
感謝できる自分が嬉しかった。
四郎達が来客用の駐車スペースを作るために草を刈って地面を平らにならしているのを見ながら、前乗りで泊まりに来るユキを迎えに行った。
続く




