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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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あの外道の怪物がやらかした事は…俺達の想像を遥かに…超えていた…俺達は嘔吐した。

ポールの戦いぶりに度肝を抜かれて固まっていた俺達だったが、ポールが俺達に叫んで我に返り行動に移った。

リリーがインカムでノリッピーに化け物を生かしたまま行動不能にした事と救護班と回収班の要請をする間に俺達は法廷に鎮座する小山の様な醜悪なオブジェにとりついた。


外道の化け物が吐いた白い蜘蛛の糸のような物は既に硬化が始まっている。

そして複雑に組み合わされた人間の体、その中には切断された人体の部分も死んだ人間の身体も、そしてまだ息があり弱々しく呻いている人間達もいた。


俺達は何とか硬化して来ている蜘蛛の糸を引き剥がしてまだ生きている人間を助け出そうとしたが、思いのほか頑丈で、人間メンバーは勿論、悪鬼である四郎達でも引き剥がす事が出来なかった。


「これは…蜘蛛の糸を刃物で切り取るしか無いぞ。」


明石がそう言いながら胸に仕込んだナイフを引き抜いた。

その時じっと悶絶している外道の化け物を観察しているポールが叫んだ。

脚を斬り飛ばされた外道の傷は再生しつつあり出血が止まりつつあった。

新しい脚を再生する事は無いようだ。


「よせ!

 その蜘蛛の糸を切ってはならん!」


ポールの言葉に動きを止めた俺達はオブジェに歩いて来るポールを見た。


「ポール様、でも急がないと生きている人達を…。」


四郎が戸惑った声で言った。


「君達、これはかなり深刻な状況かも知れん。

 私の想像の遥か先を行ってる…ナイフを貸してくれるかな?」


明石がナイフを差し出し、ポールはナイフをそっと蜘蛛の糸に当てて力を入れずに横に引いた。

蜘蛛の糸についた切り傷からうっすらと出血した。


「え…。」


俺達は糸の切り傷から出血して、徐々に出血が治まるのを見た。


「…これは…われたちの傷が治る様な…。」


四郎が呻くように言った。


「その通りだマイケル、いや、四郎。

 あの化け物の尻を見ろ。」


ポールがナイフで化け物の尻を差した。

悶絶している化け物の胴体、尻から太い消防ホースの様なものが醜悪なオブジェの方に繋がっている。


ポールはオブジェに近寄り、オブジェに組み込まれている切断されている腕に手を当てた。


いつでも冷静で穏やかな表情のポールの顔が強張ったような気がした。


「…この腕は…生きている…暖かくて血が通っている…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…この糸もだ、この醜く作り上げられたすべてのパーツ、生きている人間も死体にも…この戒めに使われている蜘蛛の糸も、全てがあいつの尻から伸びている動脈の様なものと繋がっている…。

 容易に切断したり無理に引き剥がすと大出血を起こすぞ…。」


俺達は小山の様なオブジェを見上げた。

生きている者も死んでいる者も切断された人体のパーツ全てに血が通って…あの化け物から流れる血が通っている…。


凛が屈みこみ、バラクラバをむしり取って嘔吐した。

そして真鈴も、クラも、俺も耐え切れずにバラクラバをむしり取って盛大に嘔吐した。

あの、心も体も醜い外道の化け物に殺され壊され或いは生きたままこの醜悪なオブジェに取り込まれ、外道の血が通っている。

この醜悪なオブジェは蜘蛛の糸も含めて一つの生き物と化していた。


加奈が涙を流しながらポールに叫んだ。


「ポールさん!

 何とかできないんですか!

 何とか助けられないんですかぁ!

 こんなの酷い!

 酷すぎますぅ!」


四郎達悪鬼メンバーも強張った青ざめた顔でオブジェを見つめていた。

ポールは俺達を見て無念そうな顔をした。


「残念だが…私達には手に負えない…。

 処理班と救護班が何とか外科手術的な処置を行ってこの被害者たちを奴から分離できるかどうか…。」


「この…このドチキショウがぁ!」


真鈴がぶるぶる震える手でオリジン12ショットガンを床に横たわる外道の化け物に向けた。


「よせ、真鈴。

 下手をしたら他の生存者も皆死ぬぞ。」


ポールが言うと真鈴はぶるぶると震えるオリジン12ショットガンの銃口を下げて俯くと悔しそうに唇を噛んだ。

法廷にスコルピオのメンバーと処理班や救護班が入って来た。


「さあ、もう私達の出番はないよ…。

 指揮所に引き上げるよ。」


リリーが抑揚を失った声で言い、俺達は救護班と何やら話し込むポールを置いてのろのろと指揮所に戻った。

俺は嘔吐した口を拭い、まだぶるぶると震える手でショットガンを握りしめていた。


「ほら、顔が割れるからバラクラバを被って。

 きっと生中継のテレビカメラが狙っているよ。」


リリーに言われて俺達はバラクラバを被りなおして指揮所に戻った。

指揮所ではジンコがはなちゃんを抱いて椅子に座り裁判所を見ていた。


「彩斗!

 皆大丈夫だった?」


ジンコが俺達に振り返った。


「ジンコ、なぜバラクラバを…。」


真鈴がジンコに問いかけた途端にジンコが人差し指を口に当てて真鈴の言葉を封じた。

そして部屋の一角に親指を向けた。

部屋の隅ではあの殺戮を逃げ延びた検察官たちが警官達と何か深刻そうな事を話し込んでいた。

その中にはジンコの父親も混じっていた。


俺達は事情を察してジンコのそばにより小声で話した。


「ジンコのパパにばれてはヤバいよね…。」

「うん、それで法廷の中はどうなったの?

 リリーからあの外道を生け捕りにして回収班と救護班を呼んだのは聞いているけど…。」


リリーが小声でジンコに言った。


「ジンコ、ここでは詳しい事は話せないわ。

 後で彩斗達から聞いて。」


そしてリリーが俺達に顔を向けた。


「彩斗達は引き上げて良いわ。

 もう私達が出来る事は無いみたい…あの…被害者たちがどうなるのか判り次第教えるわ…。

 …おつかれさま。

 …本当に…おつかれさま…。」


俺達は重い足取りで車に向かい、死霊屋敷に戻った。

車中で真鈴がジンコに法廷での出来事を教えた。

その途中、真鈴は急いで車を停めてくれるように言い、車が止まった途端に車を飛び出して嘔吐した。

俺も口の中に苦い物が込み上げて吐きそうになった。

あの醜悪なオブジェに取り込まれた人達は今…。


死霊屋敷に戻っても俺達は重苦しく沈黙したままでテレビを見つめ、法廷での出来事の情報収集をした。

複数の正体不明のテロリストが裁判所に侵入して騒ぎを起こしたと、俺とジンコを乗せて裁判所の窓を突き破って逃走した、凛が変化した白馬については証拠物件として運ばれてきた馬だと説明されていた。

騒ぎで檻が壊れて裁判所内を暴走した馬に機転を利かせた2人の人間が馬に飛び乗り脱出したと非常に苦しい説明があった。

そして、馬の後を追って飛び出してきた外道の化け物の脚は、なんとやはり証拠物件の怪物の形の風船、丈夫なゴムで作られた怪物の形の風船が何かの拍子で空気を送り込む装置が暴走して窓を突き破って飛び出したと説明していた。

圭子さんと加奈の銃撃は窓を突き破った時にガラスか窓枠で亀裂が入って空気が漏れたとの説明だった。

そして警察の特殊部隊が突入してテロリストは全員射殺したが、特殊部隊にもかなりの被害が出た事を伝えていたが、警官や民間人の具体的な死者、怪我人などの数はいまだ不明との事だった。

コンテナを積んだ大型トラックが裁判所の入り口に後ろを付けて左右も上もブルーシートで厳重に目隠しをしてから何か巨大な物が運び込まれる映像が流れたがそれが何かは警察からの発表は無かった。


「これ…テレビが言ってる事…全部信じる人っているの?」


真鈴が呟いた。

誰もそれに答える事が出来なかった。


リリーから連絡が入り、なんとかあのオブジェを最小限の出血で壁から引き剥がす事に成功して外道の化け物と繋がったまま、神奈川の施設に運ばれ、生きている人間を何とか分離する手術をすると言う事だと教えてもらった。

意識を取り戻した外道の化け物が、『俺のアートは生きているんだぁ!』とほざいていたとリリーが苦々しい声で教えてくれた。

 

流石に俺達は今日はトレーニングを中止にした。

そして夕食。

誰も…悪鬼メンバーでさえ食欲が無い様でもそもそと沈黙したまま長い時間をかけて食事を続けた。








続く

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