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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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俺達は凛の制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼の正体を掴んだ…四郎が討伐する事を拒否した…なるほど。

「四郎遅いわね~。」


病院の裏手で待機している真鈴のインターカムの声が聞こえた。

俺達のハイエースは病院から少し離れた駐車場の外れに停め、真鈴とジンコが待機しているボルボは病院の裏口の方に、明石と加奈がランドクルーザーで病院西側のコンビニの駐車場で待機していた。


ハイエースには俺と喜朗おじとはなちゃん、そしてクラと凛が四郎の帰りを待っている。


それぞれがインターカムを付けていて何かの事態に対応できるようにして待機していた。


「彩斗、わらわは今、四郎と繋がっているじゃの。

 四郎を通じて奴の言った病室が見えるじゃの。

 奴は精神を解放しておるの。

 警戒を解いておるぞ…今なら奴を読めるじゃの…むぅ~これは…なんか厄介かも知れぬ…。」


凛が尋ねた。


「はなちゃん、厄介って…何?」


クラがオリジンショットガンを持ち直して尋ねた。


「奴が意外と強いとか…?」


はなちゃんは顔を横に振った。


「いや…そう言う厄介では無いじゃの…まぁ…四郎が戻ったら聞けじゃの…。」


はなちゃんはそう言うと黙りこくった。

喜朗おじが運転席でタバコに火を点けた。


「なるほど、俺にも少し伝わって来るな…なるほど…別の意味で厄介かもな…。」

「喜朗おじ、厄介な事って何?」


俺が尋ねると喜朗おじが煙草の煙を吐いた。


「まぁ…四郎が戻るのを待て。」


インターコムから真鈴やジンコ、加奈の声が聞こえてきた。


「なによそれ~。」

「厄介って何が~?」

「なんか意味深な感じですぅ~。」


明石の声がインターカムに割り込んだ。


「みんな、俺にも少し見えて来たぞ。

 四郎の帰りを待とう。」


30分ほど経ってからカラスの四郎がハイエースに戻って来た。

四郎は黙って服の中に潜り込み人間の姿に戻ったが、俺達の質問に何も答えず、じっと何か考えていた。


「どうした四郎?」


喜朗おじが焦れて尋ねた。

四郎が煙草に火を点けて答えた。


「喜朗おじ、凛の制服一式で幾ら位なんだ?」

「お…金額か?

 まぁ、特注だから高いぞ、と言っても十数万円と言う所かな?」

「奴の討伐は止めにしようか、制服代はわれが払うぞ。」


四郎がいきなりとんでもない事を言い出した。

クラがびっくりして戸惑った声を上げた。


「そんな、四郎さん!

 なぜですか!

 奴は『ひだまり』に忍び込んで凛の制服を…盗んだんですよ!」

「そうだよ、四郎。

 ちゃんと説明しなきゃわかんない…あ!」


俺に振り向いた四郎の目が涙ぐんでいた。


「どうしても奴を討伐するとか、凛の制服を取り戻すと言うなら…彩斗達がやれ。

 われは参加せん。

 詳しくははなちゃんから聞いてくれ。

 はなちゃん、われを通して見て聞いただろう?」


四郎はそう言い残してハイエースから出て、缶コーヒーを飲みタバコを吸っていた。

俺達に背を向けて時々目を袖で擦っていたのは、泣いているのを見られたくないのだろう。


「はなちゃん…。」

「そうか…じゃあ、わらわが話すかの。」


はなちゃんが四郎に代わって話し始めた。

はなちゃんの声はインターカムを通じて全員に聞こえている。


まず、病院に入院しているのは凛の制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼の実の妹だそうだ。

兄1人妹1人で身寄りがない2人は養護施設で育ったそうだ。

兄は苦学をしてビジネススクールに通い、都内の大手のホテルのフロント業についた。

その真面目で誠実な仕事ぶりが評価されてかなりの高給を貰うようになり、妹を引き取って一緒に暮らすようになった。


妹が難しい病気を発病しその治療にかなり高額なお金が必要だったが兄は何とか自分の生活を切り詰めて支払いを続けることが出来ていた。

妹の病気の事も有ったが兄妹はその日その日を穏やかに慎ましく暮らしていた。

何年も入院している妹の治療費などは兄が務めていたホテルの福利厚生手当でかなり賄えたようだが、それでも兄は質素な生活を続けていた。


数年前のある晩。


ナイトシフトで働いていた兄は客室から隣の部屋がうるさいとのクレーム処理のため客室に向かった。

ドアを開けると白人の10歳くらいの男の子が牙を剥いて兄に襲い掛かり、兄の腕に噛みついた。

驚いた兄はその男の子を振り払おうとしたが男の子の力が思いのほか強く押し倒されて部屋に引きずり込まれた。

そして男の子は自分の腕を爪で切り裂き、その血を無理やり兄に飲ませたとの事だ。

兄はやっとの思いで男の子を突き飛ばして部屋を脱出しフロントに逃げ帰った。

兄の様子に驚いた同僚が何人かでその部屋に行ったが、もぬけの殻で誰もいなかったそうだ。


兄は子供に噛まれたと主張したが、腕の傷は既に跡形もなく消え去り、兄の疲れによる幻覚か寝ぼけたのだろうと言う事になった。

同僚たちも病気の妹を抱えて働いている兄の事は知っていた。


「奴はその時に悪鬼に…。」


インターカムからジンコの声が漏れた。


その日の仕事空け、兄は自分の体に異変が起きている事に気が付いた。

だが、自分が化け物になってしまった事を知られてはならない。

ホテルをくびになってしまうのを恐れた兄は必死に自分に起きた事を隠し続けたが、ある日、ふとしたはずみで悪鬼顔になった所を同僚に見られてしまい、兄はその日のうちに逃げるようにホテルを辞めざるを得なかった。


「なるほど、それで今は工場か何かの作業服を…。」


喜朗が言うとはなちゃんが手を上げた。


「そうじゃの、ロクな所には就職できないが少しでも給料が高い所をと、奴は工場の夜間の仕事を選んだんじゃの。

 だがしかし、300円の花束を買って夕食を諦めると言う事は…かなり切り詰めたぎりぎりの生活をしておる様じゃの。」

「妹の治療費の為か…大食らいの悪鬼には辛いだろうな…。」


喜朗おじが呟いた。


「生活を極限まで切り詰めた奴は常に常に物凄く腹を空かせておるじゃの。

 工場に行く途中で道に落ちていたパンを、誰かの食べかけのパンを拾って食べたじゃの。

 その自分の境遇の惨めさに泣きながらな…でも、腹が空いて我慢が出来なかったじゃの…。」

「…。」


俺達は凛の制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼の意外過ぎる境遇に押し黙った。


「あのままホテルで働き続ける事が出来ればそれほど辛い事は無かったと思うじゃの。」

「…でも、はなちゃん、奴は何故、『ひだまり』に忍び込んで凛の制服をそれにそんなに腹が空いていたら食材でも漁ったと思うけど。」

「クラ、奴は食材に手を付けてはおらんな。

 目的は凛の制服一式だけだったんだろうな…。」

「喜朗おじ、何で奴は凛の制服なんて。」


はなちゃんが手を上げた。


「彩斗、それはな…妹への誕生日プレゼントじゃの。」

「え…。」

「奴の妹は体もろくに動かせずやせ細り時々意識が混濁するじゃの。

 妹の唯一の楽しみは小さなテレビだけじゃの。」

「…。」

「あの妹はの、『陽だまり』で加奈達がサルヤンキーを退治したニュースを見たじゃの。

 可愛らしい制服姿で今の妹ではとても無理な、見事な身のこなしであのサルヤンキーを退治した姿に夢中になったじゃの…そして、その事をつい奴に漏らしたじゃの…私もあんな制服を着て見たいと、きっと…私でもきっと可愛いと思うとな…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「そしてな、奴は『ひだまり』の場所を突き止め、一番妹の体形に似た凛の制服をな…妹に着せてやりたいと思ってな…腹が減っていただろうに食い物には眼もくれずに制服だけを…今日はあの妹の誕生日じゃの。

 妹はあの、凛の制服を凄く喜んでおったじゃの。」


はなちゃんの説明を聞いて俺達はため息をついた。

成る程…四郎は泣くだろう。

俺も少し目頭が熱くなった。

他のワイバーンメンバーも同じ気持ちじゃないだろうか。


「討伐を辞めて引き上げるですか~?」


加奈のか細い声がインターカムから流れて来た。


「…いや、駄目です!

 やっぱり盗みは駄目ですよ!

 けじめは必要です!」


クラがそう言ってなぜかハイエースに置いてあるコンビニ袋を掴んでハイエースから出た。

俺達は慌ててクラの後を追った。

オリジンショットガンは持っていない物のクラの戦闘服にはSIGだの大振りなナイフだの物騒なものは装備されている。


「ちょっとクラ!

 私、制服はしょうがないよ!

 諦めるから、待ってよ!」


凛が慌ててクラの後を追ったがクラは構わずに病院に歩いて行った。


ボルボやランドクルーザーで待機しているメンバーも異変に気が付いて車から出て病院に向かっているようだ。


クラはどんどん歩いて行き、俺達も慌ててその後を追い、そして駐輪場で奴とばったりと出くわした。

奴はびっくりした顔でクラを見つめ、そしてクラの後ろの凛の顔を見て身を翻して逃げようとした。

だが、奴の退路は真鈴や凛、加奈や明石に遮られていた。

流石にここでSIGを抜く訳には行かないが、メンバーは両手を広げて奴が逃げ出せないように通路を塞いだ。


「おい、お前、凛の、この子の制服を盗んだだろう!」


クラが叫ぶと奴は観念したのか膝を折った。


「…すみません…本当にすみません…。」


奴は蚊の鳴くような声で謝った。

やはり正面切っての戦いには不向きな悪鬼のようだった。

クラが奴に歩み寄った。

クラは何をするつもりなのか…奴の境遇を知ったけれどやはり許せないのか…自分の妻の制服を盗まれたのだから…俺達は複雑な思いでクラを見た。


「クラ…私はもう…。」

「凛は今は黙ってろ!」


そしてクラはじっと首を垂れている奴を見下ろした。


しばし緊張した時間が流れた。


そして、財布を出して1万円札を引き抜いて奴の手を取り、握らせた。


「凛は俺の妻だ。

 凛の匂いが付いた制服を妹に着せるな、これでクリーニングに出してからまた妹にわたせ。

 いいか、これはクリーニング代だぞ!

 あの制服はお前にやるけど、ちゃんとクリーニングに出せ!」


奴は暫く事態が掴めない顔でクラを凛を、そして俺達を見た。

そしてクラは俺達の食糧が入ったコンビニ袋を奴の膝に置いた。


「それと、これを食え!

 今日は俺達の考えるより仕事が早く済んだからな!

 もう必要ない!

 いいか!勘違いするなよ!

 お前に恵んだんじゃないぞ!

 食べ物を無駄にしないためにだ!

 今の地球はな!

 食べ物が大変なんだよ!

 食べ物は無駄に出来ないんだよ!

 以上!全部残さずに食え!

 制服は絶対にクリーニングに出せよ!

 これで本当に以上!」


そこまで言うとクラは踵を返してハイエースに向かって歩き出した。

凛がクラに駆け寄ってその手を握り指を絡ませて共に歩いた。


奴は立ち上がり、クラと凛の後ろ姿に深々と頭を下げていた。

じっと頭を下げている奴の顔からは涙が零れ落ちていた。

ハイエースに乗り込む時、喜朗おじがクラの背中をバン!と叩いて、男を上げたなクラ!

と言った。

だが、俺達は少々複雑な気分で死霊屋敷に帰った。


「やれやれ、あの兄妹の苦難は続くのだろうけどな…幾ら夜勤でも派遣の工場勤務では妹の治療費もおぼつかんだろうな…。」


四郎が遠くを見る目つきで呟いた。


「悪鬼がゆえにひとところにずっといる訳には行かんからな…。」


喜朗おじも呟いた。


「岩井テレサの施設…少し…いや、かなり遠いけど紹介してみようかな?」


俺は言うと四郎達は呟いた。


「うん、あそこなら悪鬼である事を隠さずに済むからな…ただ、妹の病院からは随分遠くなるけどな…。

 奴は妹から遠く離れるのは嫌がるだろうな…。」


四郎はそう言って煙草に火を点けた。


死霊屋敷に濃いグリーンのジャガーが停まっていた。

さととまりあが来ているのだろう。


暖炉の間ではさととまりあが圭子さんとお茶を飲んでいた。


「あら、お帰り~!

 さととまりあとね、披露宴で何を歌うか相談しているのよ~!

 ほほ!今回はコーラス隊が充実してるからね~!」


さとが微笑みながら俺達に言った。


「2次会でディスコパーティーするんですって?

 ほほ!私達も参加して良い?」

「勿論!是非参加して盛り上げてください!」


俺が答えるとさととまりあの笑顔がはじけた。


「あなたたち、討伐は済んだの?」


圭子さんが尋ねて明石は複雑な顔をした。


「うん、圭子、後で話すよ。

 ちょっとなんと言うか厄介でね…俺達にもお茶をくれるかな?」

「判ったわ。

 誰か手伝って~。」


ジンコと加奈が圭子さんとキッチンに行き、俺達は座ってさととまりあと話し始めた。

さととまりあはやはり、バブルの頃、ディスコに良く出入りしたようで、マハラジャのお立ち台であの大仰なセンスを振ってたとの事だった。


「最近私達も忙しくてね~たまにはストレス発散も必要だと思うわ。」

「そうそう、みちが楽しちゃったから人手が足りなくてね。

 誰か高給で雇うとしてもあの家は、死霊さんがいっぱいいるでしょ?

 私達も悪鬼だからなかなか人間では務まらないのよ~。」


さととまりあの言葉に俺達は顔を見合わせた。


「あの~さとさん、まりあさん、それって男でも良いですか?

 男でも高給で雇っていただけますか?

 悪鬼なので、さとさんもまりあさんも気を遣わないで済むと思いますけど…。」


さとが微笑んだ。


「そうね~何かと力仕事をする時もあるから男の人の方が良いかもね。

 それで悪鬼なら私達も気兼ねしないでいられるから安心よ~。

 こう見えても私達かなりお金が入って来るから、世間よりずっと高給でもお願いしたいわね~。」

「以前は○○ホテルのフロントをしていて評判は良かったみたいですけど…。」


俺は言うとまりあが嬌声を上げた。


「きゃ~!

 それは理想的かもね!

 彩斗さん達の紹介ならぜひお願いしたいわ!

 お給料弾むわよ~!」


 ああ、つながった!

 

俺は、そして四郎達も凄く嬉しく思った。


そして翌日、俺達は夜勤明けの奴のアパートに押しかけ、半ば強引に練馬のさととまりあの所に連れて行き、即採用が決まった。

さととまりあは奴にホテル勤務の時以上の高額の給与額を提示して、更に奴の近所の駐車場を借りてジャガーで通勤して良いとまで言ってくれた。

勿論駐車場代やジャガーのガソリン代はさととまりあが負担すると言ってくれた。


奴は今までさんざんに苦労したのだろう。

ずっと涙が止まらずに俺達に感謝し続けた。


都合の良い偶然…別にあっても良いじゃんか。

お尻の穴が小さい事は言わないもんだよ。


明石に言わせると、野暮、と言う物さ。


野暮いいなさんな。








続く


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