パーティー翌日、二日酔いの人間メンバーを含めて俺達は凛の制服泥棒の追跡を始める…犬の明石の声が聞きたい…。
「キッチンに軽い朝食が用意してあるぞ、
食えるなら食えよ~。」
トイレでゲロを吐いている俺に四郎が声を掛けた。
俺がダイニングに行くと、真鈴やジンコ、加奈、クラの人間メンバーがげっそりした顔でもそもそと牛乳を飲み、ホットドッグを食べ、その横で四郎、凛や明石夫婦、喜朗おじ、司と忍がニコニコしながら朝食を食べていた。
はなちゃんは明け方までディスコパーティーに付き合ったのか、椅子に座り白目を剥いて寝ていた。
真鈴がげっそりした顔で牛乳を飲んで四郎達を見た。
「う~、今朝は本当の悪鬼が羨ましいわ~!
悪鬼って二日酔いとは無縁なんでしょ~!
それに、私、後半の記憶が飛んじゃってよく覚えていないけど目が覚めたらなぜかビールでびしょびしょでさ~。
一体何があったんだろう?」
俺はしっかり覚えている。
かなり酔っぱらったジンコと加奈と凛が戦い半ばで力尽きた真鈴の亡骸にビールを掛けて弔いをしていた。
ジンコ達が真鈴の言葉に頷いた。
ジンコがホットドッグを少し齧って顔をしかめて言った。
「そうそう、何で真鈴はビールでびしゃびしゃだったんだろうね~?
あと、クラもなんか悲惨な事が有ったんじゃないの?
クラは何でなのかズボンを降ろしてお尻をペロンと出した状態で気を付けの姿勢でうつ伏せに床に寝てたしね~!
そんでクラのお尻を枕に凛がすやすや寝てたし~!」
ジンコの言葉を聞いてクラと凛が顔を赤らめて俯いた。
どうやらジンコは真鈴にビールをバシャバシャかけた事を覚えていないらしい。
俺もうつ伏せクラの丸出しのお尻を凛が枕にすやすやと言う状態を見ている。
クラと凛の間の事は夫婦なので口出しする気はしないけど、いつも凛はむき出しにしたクラのお尻を枕にして寝ているのだろうか…。
「とにかく今日はやる事は一つだけだ、凛の制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼を見つけなければな。」
明石が食事を平らげてコーヒーを旨そうに飲みながら言った。
「判った景行、でも、どうやって凛の制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼を見つけるの?」
「彩斗、簡単な事だ。 俺が変化して凛の制服の匂いを追いながら制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼を追うさ。
俺が犬に変化した時はその気になれば犬の8倍以上鼻が利くからな。
そして奴が車に乗ったかどうかで匂いが途切れたらはなちゃんに周囲を探ってもらい大体の方向を教えてもらってまた凛の制服泥棒の巧妙に気配を消せて鼻が利く変態でしかも悪鬼を追うさ。」
「なるほど、良いアイディアだけどかなり歩きそうね~。」
真鈴が言うと明石が頷いた。
「そうだな、犬に変化した俺1人が歩いていると何かと騒ぎになる恐れがあるし、野犬だと通報する奴もいるかも知れないから俺に首輪とリードを付けて一緒に歩く者が必要だ。
それと、俺のすぐ近くに車も待機して付いて来てほしいんだよ。
万が一、何かのはずみで人間の姿に戻った時に素っ裸の男が首輪とリードを付けてそのリードを持っている人間が居たら…そんなの見たらヤバいだろ?」
ジンコが深く頷いた。
「成る程確かに…なんか変態的なプレイと思われるわねきっと…絶対にわいせつ物陳列罪に該当すると思うし。
仮に私が一緒に歩いていてそんな状況になって警官が来たとして私が警視の身分証を見せてもその場で絶対に収まらない物ね~。」
確かにその通りだろう。
「そう言う訳だジンコ。
だからできればハイエースで俺達から付かず離れずでついてきて欲しいんだ。
あれの荷室なら外から見えないしな。」
そう言って明石は大きな首輪とリードをテーブルに置いた。
「さて、飯を食い終わったら出掛けようぜ。
お前らもう少し体調を元に戻せよ。
嗅覚を最大限にした俺の近くでゲロでも吐かれたらたまらんからな。
気絶してしまうかも知れん。
ただでさえ犬に変化して鼻を利かせた状態で道路を歩くと情報量が多すぎて頭が追いつかんのだ。
犬は良く平気だと思うよ。」
なるほど、犬に変化できると言ってもいろいろ苦労をする物だと俺は感心した。
「それとな、犬に変化した俺は言葉を話さないぞ。
犬が喋ったのを聞かれたら騒ぎになるしな、それに…。」
「それになに?」
「…あのな、声帯が細くなるのかどうか判らんがその…犬に変化した時の俺の声はな…何と言うか…可愛いすぎるんだよ…凄くな…。」
圭子さんが飲んでいる牛乳を吹き出した。
「ああ!そうそう!思い出した!
大きい狼の時でも景行の声が少し高くなってたけど、犬の姿の時はね~!きゃはははは!
景行を知ってる人が聞いたら可愛らしすぎて面白いわよ~!
あれを聞いたら絶対にお腹抱えて笑うわね~!」
ジンコが目をキラキラさせながら圭子さんに尋ねた。
「ええ~!圭子さんどんな声なの?
私も聞きたいわ~!」
それは是非聞いて見たい!真鈴も加奈も凛もクラも、勿論俺も目をキラキラさせながら圭子さんの答えを待った。
「そうね~、何と言うか、タラちゃんとイクラちゃんの声を足して2で割ってヘリウムガスを吸ったような…ともかく可愛すぎる声なのよね~!
お腹を抱えて笑っちゃうくらいにね!」
「よせよ圭子、それ以上言わんでくれ。
という訳で彩斗達、よろしく頼むよ。」
俺も真鈴もジンコも凛も加奈もクラも何とかして犬の明石の声を聞こうと心に決めた。
やがて司と忍が学校に行く時間となり、それじゃ行って来ま~す!ウッ!ハッ!ウッ!ハッ!ジン、ジン、ジンギスカ~ン!と歌いながら出て行った。
あの曲をかなり気に入ったらしい。
それにしても明石一家も喜朗おじと加奈も新居が出来たのに、クラと凛だって『ひだまり』から軽トラックに乗って来て可能な限りいつもここに集まって食事をするな~と俺はちょっと不思議に思ったが、やはり全員集まって食事をすると楽しいよね~!と納得した。
何だろうか?
大家族の温もりと言うのか…。
まぁ、俺達ワイバーンは家族みたいな物になってるしな。
俺達は念のために武器装備一式を乗せたハイエースとボルボとランドクルーザーに分乗して、留守番を任された圭子さんが見送りで手を振る中、死霊屋敷を出発した。
追跡中に悪鬼討伐用の物々しい戦闘服とブーツ姿になる訳にも行かないので一応ごく普通の服を着た。
だが、SIGとナイフなどの最小限の武装は身につけている。
「とにかくこいつは最優先で見つけ出して討伐するか、なんとかしないとな…。」
四郎がランドクルーザーのハンドルを握りながら言った。
確かにその通りだ。
凛の制服一式が盗まれたのも重大な事だが、それ以上にあの晩2階に悪鬼の気配などに鋭いリリーが居たにも拘らず、易々と『ひだまり』に侵入して物を盗み出すなど、世間に本当の姿を知られてはならない俺達にとって極めて重大な脅威なのだ。
今日明日とお休みの『ひだまり』に到着した俺達は明石に首輪をつけた。
明石が人間に戻った時に首を絞めないように人間の状態で首輪をつけておかないとならない。
俺達は順番に明石のリードを持って、はなちゃんが入ったバッグを肩にかけて無線機のヘッドセットを付けて一緒に歩いて明石が匂いを追うと言う事になった。
最初は真鈴がリードを持つことになった。
子供殺しの外道の犯行現場に工事の人間を誘導した時の黒犬に明石は変化した。
「景行、準備は良い?
凛の匂いを付けた布がここに有るよ。
これを鼻に当てれば良いの?」
「そ…ワン!」
「そう、判った。
それで一応この布も持っている方が良いのかな?」
「う…ワン!ワン!」
「景行、おしっことかしたくなったらどうするの?
勿論私じゃなくてあなたがね。
見たりしたら失礼なのかしら?」
「ワン!ワン!」
「あ、それと犬の散歩の時のうんちの後始末のセットとかいらない?
どうなの?答えてよ景行。」
「ワン!ワンワン!」
「景行~ワンワンじゃ判らないわ~。」
明石がじれったそうに吠えた後で前足で地面に文字を書いた。
ミルナ イラヌ
あの、圭子さんが笑い転げたと言う、明石の可愛らしすぎると言う言葉を聞けると思った俺達は少しがっかりした。
実は真鈴も同じようで何とか明石に返事をさせようと会話を誘導させたが、明石はその辺りを勘づいているのか、ワン!と犬の声でしか応えなかった。
真鈴は爪を噛んで小さく舌打ちをして小声で呟いた。
「ち、犬の癖に頭が良いわ…。」
まぁ、確かに中身は明石なのだからな、真鈴の言葉を聞いて明石犬が鼻に皺を寄せて小さく唸った。
それはともかく、凛の匂いを嗅いだ明石犬が暫く『ひだまり』の近所をうろうろした後で道路を歩き始めた。
俺達は真鈴と明石犬が見えなくなるぎりぎりまで待ってから車を発進させた。
続く




