多摩山中での張り込み…俺は明石からユキの本心を聞いた…ユキを大事にしよう、ユキを愛そう、俺は心に誓った…そして生きると言う事は…。
多摩山中、質が悪い悪鬼5人組が連続殺人を犯す犯行場所の近くの山道沿いの無人駐車場にレガシーを停めた俺達はもう一度悪鬼が現れた際の手順を明石と確認する事にした。
はなちゃんは後部席で新しく真鈴が買ってくれたスマホでゲームをしていた。
「いいか、彩斗。
相手は5匹だしお前は人間だ。
もし奴らがやって来ても討伐に参加しようとは思うなよ。
はなちゃんによればあの5匹はそこそこ強いらしいから俺1人でも手こずるかも知れんのだしな。
今日、奴らが現れても殺人を食い止めることが最優先だ。
俺が飛び込んで暴れる間にお前は被害者を連れてここまで逃げて来い。
そして被害者を乗せたら俺に構わず車を出してさっき下見した道の駅まで突っ走れ。
はなちゃん、その時はこの車を守ってくれよ。」
明石がここまで行って後席のはなちゃんに声を掛けた。
「任せとけじゃの!」
はなちゃんはスマホの画面から目を話さずに答えた。
「で?景行はどうするの?」
俺が尋ねると明石がニヤリとした。
「暴れるだけ暴れたら俺もトンズラするよ。
なあに、犬に変化したらさっきの道の駅まで大した距離じゃない。
頑張って走れば数十分で着くさ。
車の中に俺の着替えも入れてあるからな。
彩斗、その間にお前が被害者から話を聞いてどこまで知っているのか訊きだせ。
その時にはなちゃんが被害者が本当の事を言っているか探ってくれる。
もしも、かなり悪鬼の存在を知っているなら岩井テレサに連絡して収容して貰えば良いさ。」
「うん、判ったよ。」
俺はそう答えながらも、いつもながら明石はよく考えて段取りを整えているなと、感心した。
明石は窓を少し開け、シートの背もたれを少し倒して煙草に火を点けた。
「ところで彩斗、お前、最近ユキちゃんと会っているのか?」
いきなり明石がプライベートな事を聞いてきた。
「え?いや、最近は忙しくてあんまり会っていないよ。
それにメールもあまりね…ユキは悪鬼を討伐してる時にメールして邪魔になったりしたらいけないからって…俺も忙しくてあまりメールしてないしね。」
明石はため息交じりにタバコの煙を吐き出した。
「彩斗、ユキちゃんは良く出来た女の子じゃないか。
お前、しっかりケアしろよ。
ユキちゃんを逃すと絶対に後悔するぞ。
ユキちゃんはお前の事が大好きなのはユキちゃんの心を読んでわかっているがな…しかし、ユキちゃんは心のどこかで不安も感じているぞ。」
「え…それは確かにそうだよ思うよ。
だって俺は危険な悪鬼の討伐を…。」
明石は苦笑いを浮かべた。
「やれやれ、お前はあの回数を数えるのを止めて随分成長したと思って感心してたがな…女性に関してはまだまだひよっこだな~!」
「…え?だって景行、心配するとしたらその辺りの事じゃ…。」
「ユキちゃんはな…女性ならではの心配をしているんだ。
お前、この前ユキちゃんを死霊屋敷に連れて来ただろう?」
「うん。」
「そしてな、『ひだまり』にも連れて行っただろう?」
「うん。」
「そして…喜朗おじの小遣い稼ぎで…まぁ、喜朗おじがお前の心を読んで気を利かせてくれたんだと思うが…お前…『ひだまり』の制服を借りただろう?
そしてユキちゃんに制服を着せて…いひひひ。」
明石は卑猥な笑みを浮かべた。
うう、確かに…。
「彩斗はあの晩は凄かったじゃの!
わらわは彩斗がエッチをやり過ぎて朝には冷たくなっているかもと心配したじゃの!」
後部席ではなちゃんがスマホのゲームから目を離さずに言った。
「あ…でも、ユキもあの制服を着てみたいわぁ~!って…。」
「まぁ、そりゃあそうだろうぜ!
あの筋金入りのヲタクの喜朗おじが精魂込めてデザインした制服だからな!
ハロウィーンの時を見ただろう?
かなりエロに全振りしたデザインなのに、女性客、それも結構歳が行った女性のお客にも好評だったじゃないか。
ユキちゃんがあの制服を着たいと言う気持ちもわかるぞ。
だから彩斗が部屋であの制服を出した時も大して躊躇わずに着て見せただろう?」
「うん、顔を赤らめさせながらも来てくれたよ。」
「そして興奮が頂点に達した彩斗が超エロ戦士サイトマンになってユキちゃんを押し倒したんだろう?」
「…そ、その通りだよ…でも、ユキだって激しく燃えたし…俺達何回も何回も…。」
「その通りだったな。
彩斗のイメージが駄々洩れになって、あの晩、俺と圭子も燃え上がってしまったがな…。」
「でも景行、どこのそんな…俺が危ない事をしていると言う事以外にどんな不安が…。」
「やれやれ、おこちゃま彩斗だな~!」
「彩斗はまだまだおこちゃまじゃの!」
「…。」
「あの晩な、ユキちゃんの意識も俺の頭に少し流れ込んで来たんだ。」
「え?」
後部席ではなちゃんが言った。
「そうじゃの!
ユキは彩斗にもったいない位、いじらしい女子じゃの!」
「…景行、ユキはなんて…。」
明石が煙草を消して新しく火を点けた。
つられて俺もエコーを取り出して火を点けた。
「あの時にユキちゃんはな、確かにかなり興奮しながらもな…彩斗にな…彩斗!私、彩斗について行く!私だけを見て!私だけを愛して!とな…他の奇麗な子に目を奪われないで!私を見て!私を離さないで!と、心の中で叫んでいたぞ。」
「…。」
「ところで彩斗、加奈達を見てどう思う?」
「え…そりゃあ物凄く強くて俺の後ろを安心して任せられる大事な存在だと思うよ、真鈴やジンコだって凛だってリリー達だって…。」
「バカだなお前は。
外見の事を言ってるんだよ。」
俺の顔が少し赤くなったと思う。
「そりゃあ、みんなそれぞれ綺麗だと…。」
「そうだろう?
440年以上生きて来た俺から見ても、加奈達はかなり別嬪で可愛い女の子ぞろいだよ。
リリーなんてもう、180年は生きているのに見た目は23歳の奇麗な盛りだしな。
俺たちの周りはな、もう出来過ぎたフィクションの世界の様にそれぞれ別嬪で心も見た目も可愛い愛すべき女性に囲まれているんだよ。
この世界を作った神に感謝!という所だな。
つまりだな…ユキちゃんは…まあ、俺が見てもユキちゃんは可愛いレディだと思うぞ。
しかし、ユキちゃんが彩斗の身の周りの女性達を見たらどう思う?」
「…。」
「余程自分の外見に自惚れている女性以外は…かなり焦ると思うぞ…。
自分の彼氏が奇麗な女の子に囲まれている事実にな。
嫉妬深い女でなくとも心配になるさ。」
「…。」
「だから、彩斗が提案したコスプレプレイも受け入れたんだよ。
勿論あの制服を着て見たいとも思っただろうけどな…それよりはユキちゃんはな、愛する男を自分に引き留めようとな、ずっと自分を愛してくれるようにとな…あの晩、普段ユキちゃんがあまりしないような淫らな事もしてくれただろう?
俺はユキちゃんは淫らな女なんかじゃなくて、いじらしい可愛く善良な女の子だと思うぞ…だからな…。」
「…だから…だから?
景行、教えてよ。
教えてください!」
俺は明石に頭を下げて頼んだ。
ユキがそこまで思って俺に合わせてくれていた事に改めて気が付き、俺を愛してくれている事に気が付いて、何故か泣きそうになった。
俺はユキを幸せにしてあげたいとユキを愛していると心の底から思った。
「どうやら判ってくれたようだな、彩斗。
なに、簡単な事だ。
こまめに時間を作ってユキちゃんに会ってやれ、お前の気持ちを常にユキちゃんに伝えろ。
変な焼餅焼いたりやたらに束縛したりとサルみたいなことをするんじゃないぞ。
ユキちゃんはあの海岸でお前に付いて行くと言ったそうだな。
それはただ物理的に言ったんじゃないぞ。
お前の影の姿を垣間見たユキちゃんが、普通の人間では到底体験しない世界の住人のお前を見たユキちゃんがな、それでもお前について行くと言う意味で言ったんだ。
あの言葉はな、ユキちゃんの重い覚悟の言葉なんだ。」
「…。」
「まあ、お前ではあの時のユキちゃんの覚悟など判らなかったかも知れないし、ユキちゃんが言った言葉の重みなど判らんと思う。
これは仕方ないがな。
お前がユキちゃんを連れて来た時にユキちゃんの覚悟が判ったから、俺も圭子も四郎も喜朗おじや凛だってはなちゃんだって、人間の心が読めるメンバー全員がユキちゃんを歓迎して迎え入れたんだ。
勿論加奈やジンコや真鈴やクラだって、ユキちゃんの覚悟はお前より知っていたと思うぞ。
ワイバーン全員がユキちゃんを気持ちよく受け入れた。
今やユキちゃんは俺達にも大事な人なんだ。
だから彩斗、ユキちゃんを泣かせるな。」
俺は人から愛されることがこんなに凄い事だと実感した事が今までの人生で一度も無かった。
母親や父親からの愛情だって実は凄いと思うが、それは親子だから当たり前だと心のどこかで思っていた。
ユキがこれだけ俺を愛してくれている事を明石に言われて初めて気が付いた。
「彩斗、ユキちゃんは今、必死でお前について行こうとしている。
けどな、違うぞ。
お前とユキちゃんが共に手を取ってな、共に進んでゆくんだ。
お前達の人生をな。
どちらが先を行くと言う事では無い。
共に進んでゆくんだ。」
そこまで言うと、明石は自分が言った事の照れ隠しなのか、ああ!言い慣れない事を言ったから腹が減ったぞ!と言いながら圭子さんが作ってくれた夜食を取り出してかぶりついた。
俺も夜食を手に取って食べた。
明日はユキに会いに行こうと思った。
ユキに会って想いを伝えて優しくしようと心から思った。
「景行…ありがとう。
俺にとっては景行と圭子さんは理想の夫婦だよ。
これからも見習わせてください。」
俺が頭を下げると明石は慌てた。
「おいおいよせよ。
それに彩斗、俺達だって色々将来の心配が有るんだぜ。」
「え?それって命の危険って事?」
「まあ、それも有るけどな…実は圭子も悪鬼になって年をとらなくなっただろう?
司や忍はな、人間だから年をとって行く…いつかは見た目は俺達より年寄りになるんだ…そして司と忍の老いは止められない…俺と圭子は…ずっと今のままだ…。
まあ、そういう事もふと圭子と二人で考える事も有るよ。
後は…他人の目だな…圭子が人間でいた時は、俺達の事を知らない人間には圭子が歳とった後で若い男を旦那にしたと言い訳できるが…今は二人とも悪鬼だからな…。
彩斗、不老不死ってな…意外と厄介なんだよ…こればっかりはな…。」
はなちゃんがスマホでゲームをしながらため息をついた。
「やれやれ、人間も悪鬼も色々と大変じゃの。」
…俺にとって理想の夫婦に見える明石と圭子さんも重い、深刻にも見える問題を抱えている事を知った。
不老不死の厄介な一面なんて…その時俺は岩井テレサがよぼよぼに年老いたひ孫を乗せた車椅子を押していた事を思い出した。
そして、岩井テレサの秘書の女性は…岩井テレサと大して年齢が違わなく見える女性は、そのひ孫の孫なのだ。
岩井テレサの子孫は悪鬼にならない限りつぎつぎと成長し、老いて、岩井テレサの、自分の年齢を追い抜いて死んでゆく…。
人の人生は短い。
物凄く短いけれど、いざ、ほぼ永遠の人生を手に入れたら…。
人間って…悪鬼って…。
生きるって…。
続く




