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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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ポールは外道の化け物を生け捕りにすると言った…そんなこと出来るの?

スコルピオの隊員たちが俺達がいる建物を守る様に囲んで並び、慌ただしい足取りで警視総監やリリー達が入って来た。


部屋にいた警官達が立ち上がり不動の姿勢を取り敬礼をした。

指揮官の男ものろのろと立ち上がり敬礼をした。


「ご苦労!

 今後この事案の指揮権はこちらがたに移る!」


警視総監が宣言した。

指揮官の男は青ざめた顔でまたのろのろと椅子に腰を下ろした。


ノリッピーが警官達に歩み寄り色々と指示を出している横をリリーとポールが俺達の所に歩いてきた。


「彩斗!

 ヘリの中で状況は逐一聞いているわ!

 私達の出番よ!」

「リリー、早く何とかしないと!

 それに…ポールさんが何で?」


真鈴がリリーに尋ねた。

リリーに代わってポールが前に出て話し始めた。


「今回の状況を考えてな。

 私もここに来たのだが…君達には残念な知らせになるかも知れないな。」

「ポール様、残念な知らせとは…なんですか?」


四郎が尋ねるとポールは窓から裁判所を見ながら俺達を部屋の外れに連れて行き、小声で話し始めた。


「今回、奴を討伐、いや殺さない。」

「え…。」

「え…。」

「え…。」

「え…。」

「え…。」

「奴は生け捕りにする。

 どうしても背後関係を、奴の後ろに居る者の情報を掴まなければならないのだ。」

「で、でも生け捕りって…。」


真鈴が呟くとポールが答えた。


「そのために私が来たのだ。

 あいつを生け捕りにしてここから連れ出して情報を聞き出さなければならないのだ。

 どんな手段を使ってもだ。

 奴は生きていることを後悔するような目に遭うかも知れないが、情報をすべて吐き出すまで死ぬような、楽になる事は許さん。

 勿論その後は奴の今までの所業をその体と魂で償ってもらうがな。」


俺達は複雑な気分で沈黙した。

リリーが俺達の顔を見回した。


「あなた達が奴をぶち殺したい気持ちは判るけどね。

 今回は事情が違うのよ。

 ポールと私とあなた達であそこに乗り込むけど、ポールの指示に従ってね。」

「…。」

「…。」

「…。」

「指示に従う自信が無い場合は突入メンバーから外れてもらうしか無いわね。」


俺達はお互いの顔を見合わせた。

やがて四郎が頷き、そして残るメンバーが俺の顔を見て頷いた。


「ワイバーンは全員指示に従うよ。

 難しい状況そうだからね。」


俺が答えるとポールとリリーが頷いた。


「よし、済まないが今回は私の指示に従ってくれ。

 君達はなるべく手を出さないで欲しい。

 もしも自己防衛のための反撃でも奴を殺す事は許されないぞ。」


ポールが言い、ノリッピーに顔を向けるとノリッピーが俺達の所にやって来た。


「申し訳ないがかなり特殊な事案なんだ。

 手を貸してくれ。

 ン?ジンコは足を怪我しているな?」

「はい、法廷から逃げる時に足を挫いてしまって…。」


俺が答えるとノリッピーは残念そうな顔になった。


「申し訳ないがジンコは突入メンバーから外れてもらうしか無いな。」

「はい…。」


ジンコが悔しそうに唇を噛んで答えた。


「済まんが我慢してくれ。

 それとはなちゃん、はなちゃんはジンコとここに待機してくれるかい?

 奴が裁判所から出てくる事は現在の状況では最悪なんだ。

 私の横にいて指示を出したら裁判所の建物全体を見えない壁で覆って奴を閉じ込めて欲しいのだが…。」

「それは構わんがわらわの力は奴の強さ次第じゃがあまり長く閉じ込められんじゃの。」

「それは大丈夫、緊急の場合にしばらく奴を閉じ込められれば大丈夫だ。」

「わかったじゃの。」


俺達はジンコとはなちゃんを残して、ポールとリリーと共に突入する事になった。


「奴は樹海地下の蜘蛛の化け物の様に酸は叶かない様だけど、糸は出すようです気を付けて。

「それで奴は樹海地下の蜘蛛の化け物より数段大きいよ。

 脚も10本ある。」

「奴はまだ体の制御がうまく出来ないようで攻撃してくる脚同士が空中衝突する時が有るけど、動きはかなり速いです。」


法廷で奴を見た俺とジンコと凛が奴の特徴を話した。


「判った、昔に似た様な奴を討伐した事が有る。

 私とリリーが先鋒だ。

 君達は私達の後ろに展開して支援してくれ。

 奴への攻撃は足だけにするように頼むよ。

 決して殺すな。

 危険を感じたら避難してくれ。」


ポールが自信満々の笑顔を浮かべた。

ポールの実力を知らない俺達は少し不安を感じた。


俺達は裁判所入り口まで移動した。

重武装をした俺達と違ってポールはサーベル一本だけを持っていた。

岩井テレサが金貨やポールの日記等と共に要求した、あの六芒星の印が付いたサーベルだった。


「よし、入るぞ。

 君達はあくまでも支援だからな。」


ポールはそう言うと立ち上がり、まるで散歩の様に無警戒に歩きながら裁判所に入っていった。

その後を俺達は腰をかがめて周囲を警戒しながらついて行った。


裁判所の中は酷い状況だった。

あちこちに弾痕があり、壁や天井はあの化け物の脚が壊した跡があり、あちこちに血しぶきが付いていた。

しかし…死体が一つも無かった。

切断された手足も頭も胴体などの死体の欠片も、突入した特殊部隊の武器や装備さえなかった。

床を観察すると血の跡が引きずって行った血の跡が法廷に向かって伸びていた。

俺はあのログハウス風の小屋の地下の醜悪極まりないオブジェを思い出してとても嫌な予感がした。


静まり返った裁判所をポールは血の跡を見ながら歩いて行った。

体中から脱力をしてまるでリラックスして散歩するように法廷に向かって歩いて行く。

サーベルさえ抜いていない。


「四郎、ポールさんは大丈夫?」


俺は周囲にオリジン12ショットガンの銃口を向けながら小声で四郎に尋ねた。


「ポール様はわれが足元にも及ばない強さだ。

 そして、われが棺に中に居た160年の間も戦い続けているからな。」


そう答えて四郎は他のメンバー達と相互に援護しながら、周囲を警戒しながら進んでいった。

法廷が近づいて来ると、中から人間の呻き声や弱々しく許しを求める声や殺してくれと願う声が聞こえて来た。

そして、あの外道の鼻歌が…。


ポールが法廷の入り口に立った。


「ひょほほほほ~!

 来やがった来やがった~パーツが足りなくてまってたよ~!」


法廷から外道の声が聞こえて来た。

俺達はポールの後ろをついて行きながら壁に空いた穴から法定の中を覗き込んだ。


あの外道の化け物は…法廷の裁判官席を中心に…あのログハウス風の小屋の地下のオブジェをもっと大規模に再現していた…。

今回は…死体だけでなく、まだ生きている人間さえも…尻から白い糸を吐き出しながらそれを器用に脚の先で死体や死にかけた人間の身体や、切断された腕や足や頭、特殊部隊が持っていた武器などを巻きつけながらあの醜悪極まりないオブジェを作っていた。

俺達は、リリーでさえ嫌悪の声を口から漏らして固まってしまった。

真鈴ががくがくと震えている。

真鈴が構えたオリジン12ショットガンの銃口が激しく上下に揺れていた。

俺も真鈴同様に震えていた。


「君達は手を出すな。」


ポールが俺達に声を掛けて、法廷に一歩踏み込んだ。


「これが君の心の形か…なるほど自我が肥大した惨め極まりない奴のようだな。」


ポールは馬鹿にしたような口ぶりで外道の化け物に言った。


「なんだよ!なんだよお前!俺のアートが判らないのかよ!

 下民が!アートなんだよ!これが最高のアートなんだよ!

 アートが判らない下民は死ねぇえええええ!」


外道の化け物の脚が数本ポールに延びて行くがポールがリラックスした態勢で動かなかった。


「危ない!」


誰かが叫んだ瞬間にポールの姿が消えた。

そして化け物の脚が数本切り落とされて化け物は体のバランスを失って胴体が床についた。

残りの脚も根元から斬り飛ばされて法廷を転がった。

数舜間遅れてから外道の化け物が悲鳴を上げた。


「ぎゃぁああああ!

 痛い痛い!いてえよぉおおおお!」


化け物は俺の動体視力で捉えられないポールによって7本の脚を根元から斬り飛ばされて残った3本の脚で胴体を持ち上げようともがいた瞬間に残りの3本も胴体から斬り飛ばされた。


蜘蛛の化け物は今や手足が無い芋虫のような姿になり、痛みに悲鳴を上げながら法廷の床をのたうち回っていた。


ポールがその頭付近に姿を現してサーベルの柄で外道の頭をしたたかにぶん殴った。

外道は悶絶して黙った。


「リリー!救護班と回収班を早く!

 急げ!

 まだ生きている人間が沢山この中に居るぞ!」


ポールは醜悪なオブジェを指差して叫んだ。





  



続く




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