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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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俺はユキに全てを話す事に決めて、その事を四郎達に告げた…四郎達は俺を信頼してくれていた。

俺はユキに肩を抱かれて頭を撫でられながら、テラス席から見える海を見ていた。


押し寄せてきた感情の波が徐々に引いて行った。


「ユキ、ちょっと顔を洗ってくるよ。

 戻ってきたら説明するけど、ちょっと良い?」

「うん、待ってるよ。

 このコーヒーとお菓子美味しそうね。

 先に頂きながら待ってる。」


俺は立ち上がり、トイレに行き、顔を洗った。

英人から返してもらったジャケットには少し汚れが付いていて何日も風呂に入っていなかった英人の体臭が少しだけ臭った。

だが、そんな事は些細な問題で全然後悔していない。

洗濯すれば全然問題無い事だ。


俺はスマホを取り出して四郎に電話を掛けた。

直ぐに四郎が出た。


「よう、彩斗。

 ドライブデートを楽しんでいるか?

 今晩の夕食はどうする?」

「四郎、少し困った事が有ってね…。」

「なんだ、悪鬼を見つけたか?

 ユキちゃんがいるから軽はずみに攻撃するな。

 今どこに居るんだ。

 彩斗達は大丈夫なのか?」

「…うん、悪鬼がらみの事だけど。

 俺もユキも大丈夫。

 今安全だよ。

 今…岩井テレサの施設に居るんだ。」

「…。」


俺は一つ深呼吸した。


「四郎、そこに誰かいる?」

「彩斗、景行と圭子さんがいるぞ。

 スピーカーモードにするから少し待て。」


四郎がスマホを操作して景行と圭子さんに彩斗が聞かせたい事があるそうだ、と言っているのが聞こえた。


「彩斗、良いぞ。

 われも景行も圭子さんも聞いているぞ。

 話せ。」


俺は悪鬼となった子供とそれを庇う父親が警官達に職務質問で取り囲まれている所に出くわした所から岩井テレサの施設に面倒を見てもらった事を話した。

その場にユキがいてやり取りを全て見てしまった事も。

そして、俺の影の姿を知ってしまったユキにこれから秘密を明かして説明する事を告げた。

スマホの向こう側は少し沈黙した。

やがて四郎が話しかけた。


「彩斗、それは止むを得んな。

 今われ達で話したが、彩斗に任せる事にしたぞ。

 ユキちゃんは彩斗の恋人だからいつかばれる時は来るかも知れんと思っていたが、良い機会かも知れんしな。

 他のメンバーにも経緯を話しておくから心配するな。」


明石が話しかけて来た。


「ワイバーンリーダーはお前だ。

 お前が判断して最良の事をしろ。

 俺たちはお前に従うぞ。

 もしもユキちゃんが納得して無さそうならここへ連れて来い。

 俺達も一緒に話すぞ。

 大丈夫だ。」


そして圭子さん。


「彩斗、連れておいでよ。

 みんな包み隠さず話した方が良いね。

 大丈夫だよ。

 彩斗の恋人でしょ?私はきっと判ってくれると信用してるよ。

 頑張って説明してあげて。」


四郎達の言葉を聞いてまた俺は泣きそうになった。

こんな情けない俺を四郎達はリーダーと認めて信頼してくれている。


「みんなありがとう!

 おれ、頑張って説明するよ。」


スマホを切ろうとした時に圭子さんの声が聞こえた。


「あ、彩斗、ユキちゃんにどこまで話すの?」

「え…それは勿論ワイバーンの事とか…。

「あ~違うわよ!

 そんな事じゃないわよ!

 あなたが32歳になってるのに今まであれが2回と4分の1野郎だとか罵られて道を歩いているとよく皆から靴や使用済みティッシュを丸めたのを投げつけられたりとか、真鈴のブーツの中に鼻を突っ込んで匂いを嗅いで自分のあそこいじって喜んでいたり、鯨女顔面鷲掴みキス拒否られ事件で物凄い力で顔面を鷲掴みにされて数日間ひょっとこみたいな顔になって元に戻らなかったりとか、おでことあそことお尻に変な落書きされてお尻の穴に花火を突っ込まれて火を点けられて泣き叫びながらおしっこ漏らしながら校庭駆け回り騒動で最後はうんこをジェット噴射の様にして花火をお尻から吹き飛ばして校舎を危うく全焼させそうになってケツ花火ジェット噴射うんこ野郎と言われたりとか…。」

「そういう事は一切言わない。」


俺はぴしゃりと言ってスマホを切った。

恐ろしい…圭子さんの記憶が変質していて、俺が何か物凄く恥ずかしい事を体験したように覚えられている事にショックを受けた。

これは圭子さんだけでなく真鈴やジンコや加奈もそうなのかも知れない…それどころか凛さえも少しは一連の事を知っているかも…恐ろしい…。

俺はさっきとは別の感情が襲い掛かって来そうになって久しぶりに思考暴走を起しそうになり、慌てて思念を遮断した。


「ユキ、お待たせ。」


俺はテラス席に腰を下ろした。


「ユキ、包み隠さず全部話すよ。

 これから話す事、とても信じられないと思うけど、真実の事なんだ。

 どうか最後まで話を聞いて欲しい。」


ユキは黙って頷いてくれた。

俺は四郎が入った棺をアルゼンチンの修道院から買い取り、四郎を復活させようとしたところから順番に話し出した。

真鈴を四郎復活の生贄にしようとしたところは省き、『ひだまり』に巣くううスケベヲタク死霊軍団の事も省いて、今までの経緯を全て話した。

ユキはじっと黙って俺の話を聞いてくれた。


もちろん2回と4分の1野郎とか真鈴のブーツの臭い嗅ぎ事件とか鯨女顔面鷲掴みキス拒否られ事件とかケツ花火事件などの惨劇は話さなかった。


当たり前でしょう。


…あ!当たり前だよ!

君達が俺だったら話すと思うか?

話す訳無いじゃんよ!

話してたまるかぁ!


話は終わり、ユキはじっと俺の顔を見つめていた。

ユキはそっと俺の顔の傷に手を伸ばし、そっと撫でた。


「彩斗、私の知らない所で…大変な事をしていたんだね…。」


海からの浜風が通り過ぎた。


「私、彩斗の話を信じるよ。」

「ありがとうユキ…俺達の事…怖くない?…。」


ユキは微笑んだ。


「ううん、彩斗や四郎達は私達の知らない所で私達の世界を命懸けで守ってくれてたんでしょ?

 大丈夫、怖くないよ。

 私は彩斗と恋人になれて良かったと思う。

 彩斗の事、友達とか家族に胸を張って紹介できるよ。

 彩斗は素晴らしい人なんだって…もちろん彩斗が話してくれたことは絶対に言わないけどね。」


俺は力が抜けた。

ユキの言葉に偽りは無い事を感じた。

俺はこの話をユキが受け入れてくれるか心配で無意識に緊張していたのかも知れない。

俺の顔を撫でるユキの手を握った。

そしてユキの手に優しくキスをした。

ユキはまた微笑んでくれた。


「ありがとう、ユキ。

 お腹が空いたよ。

 カフェテリアに行こうか?

 ここの料理は『ひだまり』に負けないくらい美味しいんだ。」

「そうね、食べてみたいわ。

 あ、あと、私、『ひだまり』にもまだ行った事が無いのよ。

 行って見たいわ。

 彩斗、今度連れてって。」

「うん。」


俺はユキと手を繋いでカフェテリアに向かった。

お昼の時間が過ぎたカフェテリアは空いていた。

窓際の席でポールがバカでかいステーキにかぶりついていた。

ポールは俺とユキを見ると笑顔で手を上げた。


「よう、彩斗。

 お手柄だぞ!」


ポールは立ち上がりナプキンで口を拭きながら俺に歩いてきた。


「ポールさん、こんにちは。」

「水臭い挨拶だぞ彩斗。」


ポールは手を上げて俺にハイタッチをせがんだ。

俺がハイタッチをするとポールは微笑んだ。


「あの家族の事は心配するな。

 私もケアに参加するぞ。

 『連隊』は他に行くところがあるが、部下に任せて私はもう暫く日本に残るよ。

 まだ四郎とも落ち着いて話していないからな。

 おや?こちらのレディは彩斗の友達かね?」


俺はユキにポールを紹介した。

ユキは顔を上気させながら自己紹介した。

やはりポールのオーラに圧倒されているようだ。


「ユキさん、初めまして。

 そうか、彩斗の恋人さんか、ポール・レナードです。

 お会いできて光栄です。」


ポールは腰を折ってユキの手を取り手の甲に口を寄せたが触れずにキスをする仕草をした。

正当な貴族の洗練された作法で全然嫌味や嫌らしさを感じなかった。

ユキへの、そして俺へのリスペクトを感じた。

流石に歳古りたポールは一味違う。


「私は食事の続きなので失礼するよ。

 彩斗、今日のステーキはいつもより絶品だぞ。

 お勧めだな。」


ポールはウィンクをしてテーブルに戻った。


「…凄い人ね。

 かっこ良いわぁ…あの人が四郎のお師匠さんなの?」


ユキはポールの後ろ姿を見て呟いた。


「ユキ、そうだよ。

 彼は俺が今まで見た中で最強の悪鬼なんだ。

 彼はサーベル1本で裁判所のバカでかい化け物をほんの数秒で行動不能にしたんだよ。

 彼は800年以上生きているよ。」

「ふわぁ…凄いね。」








続く



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