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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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裁判所で本性を現した外道に警察は歯が立つのだろうか…警察特殊部隊が突入した。

スマホを取ってスピーカーにするとリリーの心配そうな声が聞こえて来た。


「ちょっと!彩斗達!裁判の傍聴すると言ってたわね!

 テレビで彩斗とジンコが馬に乗って逃げるのを確認したけど、他の人達は大丈夫?」

「ああ、リリー大丈夫だ。

 あの馬は凛が変化したんだよ。

 俺たち全員大丈夫だ。」


スマホからリリーのホッとした吐息が聞こえた。


「そうなの、良かった!

 今警察から出動要請が来たのよ。

 悪鬼事案と言う事でね。

 私達が急行するけど、あなた達ワイバーンも参加する?

 あなた達で片を付けたいと思ったんだけどね。」


スマホからのリリーの言葉に俺たち全員が目を合わせて頷いた。


「もちろんだよリリー。

 言い方によっては俺達が招いた事態だよ。

 裁判所で大勢が殺されたんだ。

 今も中に沢山の人達が逃げ遅れているかも知れないんだ。

 俺達は逃げるので精いっぱいだったけど…あの人達を放っては置けないよ!」

「そう、判った。

 あなた達は規制線の中に入って。

 警察が応急の指揮所を作ったらしいからそこに出頭して。

 私達で話をつけておくわ。

 でも、私達が着くまで討伐しないでね。」

「判った、武器装備は全員持っているよ。

 警察の指揮所だね。

 これから向かうよ。」


俺達はスマホの通話を切った。


「くそ、やっぱりあの時殺しておくべきだったのか…。」


俺が言うと真鈴も悔しそうに唇を噛んだ。

あの外道をあの時に始末して置けば、裁判所で罪の無い人達が無残に殺されることも無かっただろう。


はなちゃんが手を上げて一喝した。


「彩斗!真鈴!考え違いじゃの!

 あの時殺しておればお前達が闇に引き込まれていたかも知れぬじゃの!

 あの時お前達は人間としてまっとうな判断を下したじゃの!

 こんな事態になるなど、1000年生きてきたわらわでも想像も出来ない事じゃの!

 今は、あの外道を始末する事と、まだ裁判所に取り残されている人達を助ける事を考えるじゃの!」


明石が俺の肩に手を置いた。


「彩斗、真鈴、はなちゃんの言う通りだ。

 あの時外道を殺していればお前たちの心に暗い影が残ったと思うぞ。」


四郎がエンジンを始動させながら言った。


「彩斗、真鈴、景行が言う通りだ。

 こんな事態は誰も想像できなかった。

 今はわれ達が出来る最良と思える事を為す事を考えろ。」


こうして俺達はハイエースとボルボ、ランドクルーザーに分乗して裁判所に向かった。

リリーから連絡が入っているのか俺達の車は易々と報道陣や見物人でごった返す規制線を通されて警官の誘導で裁判所の敷地内の駐車場を挟んだ建物に設けられた警察の指揮所に出向いた。


用心のため、俺達は車から降りて指揮所に入るまでテレビカメラなどに顔が割れないようにバラクラバをつけた。


指揮所に入りバラクラバを取って警察の身分証を見せると、所轄の警察本部の者らしい男が胡散臭げに俺達を見た。


「君らがその…例の特殊部隊の先陣か。」

「そうです、早速ですが中の状況を教えていただきたい。」

 

明石が尋ねると警察本部の男がに苦々し気に答えた。


「まて、君らの本隊が着くまで待ってくれよ。

 警察でも充分に事態を処理できることを教えてやる。

 こちらでも精鋭の部隊を持っているんだ。」


反感を隠す事も無く男が俺達に言った。

俺達は顔を見合わせた。


「やれやれ、少し待つか。」


明石がため息をついて俺達は建物の窓から裁判所を見た。

裁判所の敷地のフェンス沿いに警察のバスが次々に到着して前後の隙間をビッチり詰めて停まり始めた。

報道陣や見物人からの目隠しだろう。

裁判所の壁沿いに遅ればせながらジェラルミンの盾を持った機動隊が張り付き始めた。


電話を掛けている警官が先ほどの指揮官らしき男に言った。


「駄目です、電話には一切出ません。」

「くそ、中の状況はどうなってる。」

「今、先遣隊が裁判所に侵入しました。」

「よし、中の状況を掴めそうだな?」

「はい、彼らのカメラで…。」


その途端に裁判所から物凄い悲鳴が聞こえた。

俺達が見ると警官の先遣隊らしき男の身体が首に白い縄の様な物を巻き付けられて1階の窓を突き破って放り出された。

地面に転がった警官の身体は再び白い縄状の物に引っ張られて乱暴に裁判所に引きずり込まれた。


そして、警官の体、切り落とされた手や足が窓から放り出された。


「…。」

「どうなってる!

 中はどうなってるんだ!」


指揮官の男がヒステリックに叫んだ。


「…先遣隊が…全滅しました。」


指揮官に答えた警官の言葉に重苦しい空気が流れた。


俺ははなちゃんに小声で尋ねた。


「はなちゃん、中はどうなっているか判る?」


はなちゃんが俺達にだけ聞こえるように小声で答えた。


「今手足を切り落とされた警官はまだ…中で生きておるの…あの中の広い場所にかなり生きているものがおるが…皆、体を傷つけられておるの…あの外道が何か楽し気に…何かをしておるの…。」


はなちゃんの言葉を聞いて俺と真鈴がいたたまれなく、武器を構えて部屋を飛び出し裁判所に向かおうとして四郎達に引き留められた。


「彩斗、真鈴、今は動くな。」

「だって四郎…。」


俺も真鈴もあのログハウス風の小屋の地下で起きた事を見ていた。

あの外道はそれをあの裁判所の法廷で再現しているかも知れない。


俺達は悔し気に唇を噛んで裁判所を見つめた。


「付近の建物に狙撃班の配置が完了しました。」

「よし、突入準備だ!」


指揮官が窓に歩み寄り俺達を押しのけて双眼鏡を裁判所に向けた。

顔が真っ赤に紅潮している。


「君らの本隊が着くまでなど待っておれん!

 俺達の方で解決する!」


裁判所の入り口にジェラルミンの盾より少しはましなポリカーボネイト製の覗き窓付き防弾盾を構えた警察の特殊部隊が手に手にMP5サブマシンガンやショットガンを構えてひしめき合っていた。


「やれやれ、一歩間違えると大虐殺になるぞ…。」


明石が呆れて呟いたのをちらりとにらんだ指揮官がやけくそのような大声で命令を下した。


「人質の救出を最優先!犯人の射殺を許可する!

 日本警察の力を見せろ!突入せよ!」


特殊部隊が裁判所の中に吸い込まれていった。

そして中から射撃音が、まるで戦場のような射撃音が轟き渡った。

見物人たちから悲鳴が聞こえた。

テレビから生中継で近くの建物の屋上らしき所から裁判所を映した映像が流れた。


「突入しました!

 今、警察の特殊部隊が突入しました!

 凄い!物凄い射撃の音はここまで聞こえています!

 音が鳴りやみません!

 犯人が多数いて武装しているものと思われます!

 物凄い銃撃戦が裁判所の中で起きている模様です!」


テレビから現場リポーターの絶叫が流れた。

しかし、俺達は知っていた。

裁判所の中では突入した特殊部隊が一方的にあの外道の化け物に銃を撃ちまくっている事を、そして銃声がいっこうに収まらないと言う事は、あの化け物に対してダメージを与えていない事を。

やがて銃声が少なくなり、そして、止んだ。

静まり返った裁判所の中からは、微かに人間の苦悶の悲鳴と命乞いする叫びなどが聞こえて来た。

特殊部隊は誰一人裁判所から出て来なかった。


指揮官が双眼鏡を外して裁判所の方を見つめていた。

双眼鏡を持った手がプルプルと震えていた。


真鈴が怒って指揮官に詰め寄った。


「何ぐずぐずしてるのよ!

 あなた指揮官でしょ!

 中にまだ生きてる部下がいるわよ!

 助けに行きなさいよ!

 これを貸してあげるから中に入って部下や人質を助けに行きなさいよ!

 あんたみたいなろくに状況を知ろうとしない無能な奴が!

 チキショウ!」


真鈴は手に持ったオリジン12ショットガンを荒々しく指揮官に押し付けて怒鳴った。


指揮官の男は青ざめた顔で真鈴を見つめ、無言でテーブルに行き、どさりと腰を下ろすと両手で頭を抱えた。


「どうする?

 私達で行く?

 今ならまだ何人かの命は…」


真鈴が俺達に言ったその時にヘリコプターの爆音が聞こえて来た。

3機のヘリコプターが姿を現し、2機が降下してリリーのスコルピオの隊員たちを吐き出した。

2機のヘリコプターは上昇すると残る1機が駐車場に着陸してノリッピーとリリー、そして戦闘服姿のポール、そして仰々しい警視総監の制服を着た男とその取り巻きが降りて来て俺達の建物に走って来た。









続く





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