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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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俺はさととまりあからレクチャーを受けるが…本当に大丈夫なんだろうか?…。

「じ、じゃあ、俺はこれからどうすれば良いんですか!」

「まぁまぁ、落ち着いて彩斗さん。」

「絶望的と言う訳でも無いわ。

 これから私達が言う事をよく頭に止めて気を付けて過ごせば大丈夫よ。」


さととまりあが微笑んだが、俺は健康診断で何か深刻な病気でも見つかったような気分になった。


さとがそんな俺をじっと見てため息を付いた。


「う~ん、ちょっと難しいかも知れないけどね、彩斗さん。

 そういう風にすぐにドキドキしちゃわないように気を付けてね。」

「彩斗さん、さとが言う通りよ。」


さととまりあが俺に落ち着くようにと手振りをした。


「彩斗さん、物事に動じない人って落ち着いている印象があるでしょ?

 それは一言で言うと心拍数とか呼吸の仕方と言えば判りやすいかもね。

 何かあった時は落ち着くように深呼吸するのが良いわよ。

 その呼吸法を覚える事ね。」

「…深呼吸…ですか?…。

 その…呼吸法…。」


まりあが微笑んだ。


「深呼吸一つでも中々バカに出来ないのよ。

 人はね、落ち着きが無くなって息が荒くなるんじゃないのよ。

 息が荒くなって落ち着きが無くなるのよ。

 私の様にやって見せて。

 鼻から吸って…止めて…ゆっくり口から、そう、ゆっくり口から吐き出して…。

 そうよ、その感じよ。」


俺はまりあの言うように呼吸してみた。

さとも俺達に呼吸を合わせて行った。


「そうよ彩斗さん、何かとんでもないものを見たり、信じられないような存在から話しかけられたりしたらまず呼吸を整えるように気を付けるのよ。

 呼吸に気を付けるだけでかなり違ってくるわ。

 目の前にとんでもない存在がいて矢継ぎ早に彩斗さんに質問をして慌てさせたりするかもしれないけどね、それは彩斗さんが呼吸を整えて対処されるのが嫌だから妨害してくるだけの事よ。

 そう言う存在は脅すだけで何にもできないから彩斗さんは気にしないで自分の呼吸に集中する事ね。」


俺達3人でしばしゆっくり呼吸をした。

ほんの少しだけど落ち着いた気分になって来た。


「そうよ彩斗さん、この呼吸法は基本中の基本だからね。

 何かあった時は無意識にこの呼吸法が出来るようになるまで練習して。

 これが自分を守る第1に手段ね。」

「え、じゃあ第2の手段とかも有るんですか?」

「もちろんあるわよ、安心して。

 でもこれらの事は心構えと言うところかしら?

 私たちがやり方考え方を伝えても彩斗さんがそれを実行しないと意味が無いのよ。」

「…教えてください。

 今俺が倒れるわけには行きませんから。」


さととまりあが微笑んだ。


「そうね、あなたがワイバーンの要の位置に立っているわ。

 第2の方法はね少し意外に思えるかも知れないけど…寛容でいる事よ。」


俺はさとの口から意外な言葉を聞いて面食らった。


「寛容…優しいとか許すの…寛容ですよね?」


まりあが微笑んだ。


「そう、その通りよ彩斗さん。

 寛容さを心に持つことは非常に大事な事なの。

 あなたは空よりも広く海よりも深い寛容さを心に持たなければならないわ。」


さとが続けて言う。


「彩斗さん、あなたは他の人や悪鬼の思念を読み取れる時がある。

 読み取れると言うか流れ込むイメージだと思うけどね。

 そう言ういわば表面の、表層の意識を見る分にはまだ大丈夫なの。

 もっとも気持ち悪い時も有るけどね、でも、帰れないほどの物では無いわ。

 何故彩斗さんに寛容な精神が必要かと言うとね、あなたはその内に他の人のとても深い所、深層意識と言う物を見てしまう事が起こり得るからなの。」

「…深層意識…ですか…。」

「そうよ、一度見てみると判ると思うけどね…。」


さとがそこまで言ってから、おえっ!とした顔になり目をぐるぐる回し、まりあと顔を見合わせた。

まりあも、うげっ!と顔をしかめた。


「彩斗さん、ごく普通の人でもね。

 犯罪を犯しそうな人だけじゃなくてごく善良な人でもね、その本人でさえ意識していない心の奥底にはね、それはそれはグロテスクで禍々しい光景が広がっている事が時々あるのよ。

 私が最初のそれを見た時は暫く人間不信になったわ。

 他人と触れ合う事が恐ろしくて恐ろしくて…。」

「そうね、あの時まりあはグロッキーになっていたわね…私の深層心理を見てしまって…。」

「私はみちやさとを深く信頼していたからとてもショックだったわ。

 でも、人間に心には意識するとしないと関わらずにとても深い闇がねとても底が見えない深淵が心のどこかにあるのよ。

 彩斗さんも何かの拍子で信頼する人や仲が良い人の心の深淵を覗いてしまうかも知れない。

 その時に怒りや嫌悪の気持ちを抑えるための寛容な精神を持ち続けなきゃいけないのよ。」

「…。」

「良い?彩斗さん。

 怒りや嫌悪や憎しみの感情って危険な爆発物のような物なのよ。

 いったん爆発させると辺り構わず敵味方構わず傷つけるのよ、あなた自身さえもよ。

 だから、どんなに受け入れがたいものでも理解し、許し、受け入れる気持ちが必要なのよ。」

「…。」

「それはね、実は非常なエネルギーが必要なのよ。

 憎んだり怒ったりするよりもずっとずっと大きなエネルギーが必要なの。

 でも、その寛容な、大きな寛容な気持ちが無いとあなたも相手も共に壊れてしまうのよ。

 ガラスの瓶をぶつけ合うようにねお互いに割れてしまうわ。

 …でも、そう言うレベルに達するのはとても難しいわ。

 私やまりあでも未だ充分に達していない。

 ともかく彩斗さんは、これから身近な人の思いもよらない姿を見てしまうかも知れないけれど、それはその人の考えてもいない心の奥底にひっそりといる存在だから、決して動じないで寛容な気持ちで受け入れてね。

 怒りや嫌悪感で跳ね返すよりも寛容な気持ちで受け止めて受け入れて欲しいのよ。」

「…はい、判りました。

 寛容な気持ちですね…やれるかどうか判りませんけれど、頑張って見ます。」


さととまりあが微笑んだ。


「そうね、まずは他人の心の奥底を、深淵を覗き込んだ時の場合は気を付けてね。

 …そしてね…今の彩斗君のレベルではなかなか起きないとは思うけれど、他人の心の深淵を覗くより危険な事が有るの。」

「そうね、其れには気を付けないといけないわ。」


さととまりあが真剣な顔になって俺を見つめた。


「さとさん、まりあさん、それって…何ですか?」


さととまりあは顔を見合わせた後、俺を見つめた。


「それはね、彩斗さん…自分の心の…自分自身の魂の深淵を覗いてしまう事よ。」










続く



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