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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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俺はさととまりあに相談に行く…なんか…今の俺の状態は危険らしい…。

翌朝、トレーニングと朝食を済ませた俺に四郎と明石と圭子さんと喜朗おじが近寄り、練馬のさととまりあの所に行って来いと言った。


「え?でも、書類仕事とか、そろそろ家も完成するし…。」


明石が真剣な顔で言った。


「彩斗、はなちゃんから聞いたぞ、お前、やっぱりさととまりあの所に行って話でも聞いて来る方が良いな。」

「…。」

「俺も昔、結構見た事が有るがな、念動だとか思念を読んだり思念を発したりと言う精神的な力を持った人間や悪鬼はちょっとした切っ掛けで闇落ちして戻れなくなったりして生きたまま廃人になってしまうケースが有るんだ。

 ただでさえ精神的な重圧で自殺する者が多いんだぞ。

 精神的な重荷は目に見えないから余計にどこまで耐えられるのか周りからも自分自身でも限界が判らんものだ。

 その辺りは、さととまりあは経験豊富だと思うからな。

 彩斗、仕事は俺たちでやっておくから心配せずに行ってこい。」


明石の言葉に、心配そうに俺を見つめている四郎や圭子さんや喜朗おじが頷いた。


「じ、じゃあ、お言葉に甘えて…。」


俺は月末に向けての決済や経費の項目計算などを圭子さんに任せて練馬のさととまりあの所に出かけた。


10月の下旬、さわやかな秋晴れでいささか涼しくなっては来ていたが、まだ寒いと言う程ではない。

後何週間で道路沿いの並木たちも色着くだろう。

車を運転しながら俺はスライディングルーフを開けた、ちょっと涼しすぎるけれど気持ちの良い風が流れ込んでくる。

俺はその風を浴びて思わずため息をついた。

そう言えば、特に大した用事がないのは久しぶりだし、今日は完成間近の工事の現場を見なくとも、書類仕事をしなくとも、討伐予定の悪鬼を見張る事もしなくて良いのだ。


一瞬、俺はこのままユキの部屋に行き、強引にドライブに誘ってしまおうかと考えてしまった。


それくらいの解放感を感じながら俺は手土産のお菓子を買って練馬のさととまりあの家に行った。


さととまりあが玄関で笑顔で出迎えてくれた。


「早かったわね彩斗さん。

 普通は困った事が起きて切羽詰まってから相談に来る人が殆どだけど…。」

「ええ、あの、仲間に早く相談に行く様に言われたんです。」

「彩斗さんは良い仲間を持っているようね。

 私達も困ってからの相談よりは事前の対策の方が話しやすいわ。」


俺は応接間に通された。

部屋の隅のテーブルには、みちとさととまりあが庭の花の前で笑っている写真が飾ってあった。


「みちさんはどうされたんですか?

 ご無事に天にのぼられたのか…。」


さととまりあがお茶とお菓子を出しながら微笑んだ。


「彼女は…みちはまだ天に昇らなかったわね…ナザレのイエスを探しに行ったのかも…それとも世界の行きたかった観光地を回っているかもね。」


さととまりあが微笑んだ。


「あの時ははなちゃんを助けるためとはいえ…僕らの考えが浅かったです。

 改めてお詫びをさせてください、すみませんでした。」


俺が頭を下げるとさともまりあも微笑みを浮かべた。


「良いのよ彩斗さん。

 あの時もみちは人の心の深くに潜ったけど…。

 そうね、ああいう状態は凄く無防備になるのよ。」


とさと。


「口の中に異物が入ると思わず吐き出すでしょ?

 その原理と同じ、人の心の奥深くに入り込むにはその人の心と同化しないと吐き出されてしまうのよ。

 他人の心に同化したその状態だと少しの衝撃や刺激が命取りになる場合もあるわ。」


とまりあが言った。

俺は出された紅茶を一口飲んだ。


「つまり人の心と接触するって思っているよりも危険な事だと…。」


さとが俺を見つめて答えた。


「彩斗さん、心と心が触れ合うってね、殴り合ったり蹴り合ったりの物理的な接触以上にダメージを与える事が有るのよ。

 実際に影響が強いと物理的なダメージさえ生まれてしまうのよ。」


そう言ってさとが袖をめくって左腕を俺に見せた。

そこには紫色のみみずばれが手首からジグザグに肘まで伸びていた。


「2週間前に厄介な自殺志願の人を招いてね。

 何とかなだめすかして死への願望を和らげてセッションが出来る態勢に持ち込めたんだけど、最初の時に拒否反応が酷くてやられてしまったのよ。

 私達悪鬼でも暫く痣が消えないわ。

 それくらい凄まじい物理的影響も生み出してしまうのよ。

 思念だと侮れないわ。

 ごく普通の人でさえ条件さえ合えば頑丈な家をバラバラにしたり車が跡形も無く吹き飛ぶような現象を起こすことだって出来るのよ。」


さとが言う通りだ。

はなちゃんだって思念で20キロトンの爆薬に相当、戦術核兵器に相当する爆発を起こせるのだから、そして思念には本人が作り出さない限り限度が無いと言う事だ。


まりあが微笑んで俺に言った。


「彩斗さん、それくらい人の心に入り込むことは大変な事なのよ。

 まぁ、でも今は彩斗さんは人の思念が流れ込む程度だから余程歪んだ変節者じゃないと大丈夫だと思うわ。」


しかし、俺はあの子供殺しの外道のオブジェを見せられて闇に引きずり込まれそうになっている。


「彩斗さん、せっかく来ていただいたけれど、具体的に私達が何に気を付けるべきかどうかと言うのは難しいの、ごめんなさい。

 でも、気構えのような事は話せると思うわ。

 こういう事に用心するようにって感じになるけれど…。」


さとがそう言って申し訳なさそうな顔をした。


「いいえ、気構え的な事を教えて頂けるだけでもすごく助かります。

 ぜひお願いします。」

「判ったわ。

 まずね私とまりあは、みちとともに200年以上色々と人間の心に触れて心の奥深くに入り込むことをしてきたんだけどね。

 自ずとその人の心の形と言うか思念の強さと言うか判るようになったのよ。

 そして、彩斗さん、あなたの心…と言うか思念…魂なのかな?

 私達にはいまだにそれが何なのか判らないけれど、あなたのそれは非常に強くなっているのよ。

 何が切っ掛けか良く判らないけど…けれども。強くなると同時に敏感に過敏になり過ぎている事に気を付けて。

 ほんの少しの刺激を受けてもあなたの心が全停止するほどになるかも知れないと言う事よ。」


さとにいささか衝撃的な事を言われて俺は驚いた。


「…えええ!

 それ、危ないんじゃないですか?」


さととまりあが顔を見合わせた末にまりあが俺に答えた。


「う~ん、なんて言うんだろうか…過敏と言うのは言い過ぎなのかな…要するにあなたの心の持つなんて言うか…攻撃力の様なものが非常に強くなっているけどあなたの心の防御力はごく普通の人レベルだと言う事かしら?」


まりあが首を傾げた。

さとが残りの説明を引い注いだ。


「え~と…彩斗さん、戦車ってあるじゃない?」

「…はい。」

「戦車って凄い大砲とね、装甲版ていう鉄の板を車体に張り付けてるでしょ?」

「ええ。」

「つまりあなたは凄い大砲を乗せてはいるけど、装甲版を全然貼り付けていない状態だと言えば良いのかしら?」

「え~と…それって防御力ゼロって事ですか?」

「いや、防御力ゼロじゃなくて防御力はごく普通の人間だけど桁違いに凄い大砲を手に入れたと言う事かな?

 そしてその大砲を撃つとその反動や射撃音で剥き出しの自分自身が傷つくかも知れないと言う訳。

 …やっぱり防御力ゼロかしら…いや、攻撃すると自分が傷つくからそれ以下かな…。」


…つまり俺は精神的に凄い攻撃力を持っているがそれを使うと俺自身の防御力が普通の人並みだから俺自身も傷つくと…。


「今日じっくりあなたを見てなんとなく判ったけど、今の時点で彩斗君のその強い精神力を吐き出すとその反動であなた自身が廃人になるかも知れないわね。」


…それは…非常に困るのだが…。


言いにくそうにまりあが言った。


「それにね、彩斗さん、あなたの普通の人並みに無防備な状態で人の心の奥底を覗くとね、ほぼ間違い無く深淵に引きずり込まれるから要注意よ。

 鍛錬無くして彩斗さんの力を使うのは非常に危険よ。

 本来は物凄い鍛錬を重ねた末に精神的にもとても強靭になった人が手に入る様なものなのよ、あなたの心のそれはね。

 あなたにそれを使えと言うのは生まれて直ぐの首も座っていない赤ちゃんにとても大きいピストルを撃たせるくらい危険よ。」


…ガビーン…なんか凄く深刻な方向に話が行っていて怖い。









続く

 

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